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第一章 少女たちの願い(後編)

忍者との戦い

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「んー? かかってこないの? なら――」

 そう言うと、結衣の視界から姿を消し――

「そぉれっ!」

 そう言ったと同時、黒髪の少女が増える。
 その増えた少女たちは、結衣と夏音を囲む。
 冷や汗が、結衣の背筋を伝う。

「これは、まさか――」
「……分身の術、ですにゃ……?」

 結衣が言おうとしたことを、夏音が言った。
 ……そう、これは『分身の術』。
 黒髪の少女はまるで、“忍者”のようだった。
 そんな忍者は、蒼輝サファイアのような瞳をこちらに向けながら言う。

「ははっ。驚いた? もし驚いてくれたなら嬉しいよ」

 声は笑っているのに、顔が笑っていない。
 口はかろうじて、少し上にあがっているのがわかる程度だ。

 それが複数。控えめに言ってゾッとする。

「夏音ちゃん!」
「――え?」

 結衣は夏音を引き連れ、真上に飛んだ。
 包囲は、前後左右のみ。
 なら……うえに逃げるだけだ。

「え、え? 結衣おねーさん? これからどうするんですにゃ??」

 だが、逃げるだけでは何も解決しない。
 だから、こうする。

「まずはあの分身たちを何とかする!」
「……で、ですが……どうやって――?」

 黒髪少女の分身を見ながら言い放った結衣に。
 ガーネットが不安そうに尋ねる。

「決まってる! ――全力攻撃!」
「「なっ――!」」

 結衣が言い放った言葉に、ガーネットと夏音が揃って驚く。
 だけど、それに構ってられない。

 分身たちはそれぞれ“手裏剣”を手に持って、こちらの隙を伺っているのだから。

「全力全開!! ――大砲バング!」

 そう叫ぶと、黒髪少女の分身たちを目掛けて魔力砲が打ち出される。
 打ち出された魔力砲は、大きな音を伴って分身たちをかき消した。

 砂埃が宙を舞い、公園の中を駆け巡る。

「な、何してるんですにゃ! し、死んじゃったら――」
「大丈夫。あの人は死んでないよ」

 夏音がオロオロと狼狽えるが、結衣は毅然と言い放つ。
 そして、砂埃が止むとそこには、誰一人いなかった。

「え? ど、どういう――よ、よく分からないにゃ……!」

 夏音が疑問に喘ぐ。
 それもそのはずだ。何せ夏音は――

 ――あの分身たちの中に“本物”がいると、思い込んでいるのだから。

「あー……やっぱり気づいてたぁ……?」

 いつの間にそこにいたのか。
 少し離れた場所にあるブランコに乗っている黒髪少女が、困ったように笑う。

「だって“忍者”なんでしょ? だから絶対、あの中にはいないって思ったの」

 だからこその全力攻撃だった。
 ……うん、まあ、魔力砲を放っても死ぬことはないんだけども。

 何はともあれ、そこに居ないとわかっていたからこそ、結衣は全力で繰り出したのだ。

「ふーん……頭の回転がいいんだ……」

 黒髪少女は、声のトーンを落として呟いた。
 そして一転。獰猛な笑みを浮かべて叫ぶ。

「じゃあ、スピード勝負だね!」
「――にゃ……っ?」

 黒髪少女は叫んだ後、唐突に消えた。
 そしてソレは、夏音の背後から現れた。
 そして――

「ぎにゃ……!」

 何が起こったのか判らず、結衣は目を見開く。
 夏音は既に結衣の隣から姿を消し――いや、結衣の眼前に倒れている。

「か、夏音ちゃん……っ!」

 結衣は自分の目を疑った。
 …これは、何かの間違いだ、と。

 夏音の体には傷が無数についていて、血のような液体も見られる。
 こんなにも無惨なものは見たことがなく、結衣はその場に力なくへたり込んだ。

「……い、や……」

 今までだって、流血は経験してきた。
 だけど、今回は少し違う。

「夏音ちゃんが……夏音ちゃんが……!」
「結衣様、落ち着いてください!」
「こんなの落ち着いてられないよ! なんで……なんでこんな……!」

 ガーネットが結衣を宥めるように言うが、結衣はそれどころではない。
 結衣は黒髪少女のことが、完全に頭から抜け落ちていた。
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