80 / 262
第一章 少女たちの願い(後編)
引きこもっていると……
しおりを挟む
『――明日は各地で大雨になりそうです。外出は控えめに……』
☆ ☆ ☆
確かに、大雨が降った。
「まさか本当に当たるとは……」
天気予報なんて外れることもあるのに。
結衣は土砂降りの雨を呆然と見つめながら、そんなことを考えていた。
今日はせーちゃんが用事があると言っていたが、この雨じゃ家から一歩も出られない。
傘もカッパも信用出来ないほど、雨が大量だからだ。
お父さんは仕事だし、お母さんは小学校時代からの友達との集まりだとかで出かけている。
今日は土曜日なので、学校もない。真菜にも会えない。
「久しぶりに一人になったなー……」
だからと言って、何もすることがない。
……暇だ。
ベッドの上で、本を読んでゴロゴロ寝転がりながら思った。
「おや、おばあさんがいますねぇ」
ニヤニヤと、どこからともなく現れたガーネットがからかうように言う。
訂正、一人ではなかった。
「むー、おばあさんじゃないもん!」
「そうですかぁ? 全然子供らしさが感じられなかったので、おばあさんかと思いましたぁ」
確かに、朝からベッドでゴロゴロしているのは子供っぽくないだろう。
だが、だからと言って年が離れすぎではないだろうか。
結衣はガーネットを無視し、窓の外を見る。
だが、結衣の眼には雨が映るばかりだ。
「何か楽しいことないかなー……」
ポツリと呟くが、何かを期待しているわけではない。
そう呟いた時に、それが本当に起こったら嬉しいけど……と思った程度だ。
もちろん、そんな都合のいい展開が訪れるはずもな――
「ふむ……では、楽しいことをしましょうかぁ!」
――グルンッ!
結衣はガーネットに向き直り、暗いからとつけていた電気より輝いた瞳でガーネットを見た。
「楽しいことあるの!?」
「うおう……結衣様、すごく食いつきますねぇ……」
珍しく、ガーネットが引くほどだったらしい。
それはともかく、楽しいことが出来るならなんだっていい。
早く楽しいことがしたい。
そんな結衣の内心を察してか、ガーネットが楽しそうに言う。
「ではぁ! とっておきの楽しいこと、しましょうかぁ!」
「う、うんっ!」
結衣の胸は高鳴っている。
ワクワクドキドキしすぎて、体も少し暖かくなった。
そうして、ガーネットは厳かな雰囲気を醸し出して、口を開く。
「――魔法の使い方を、研究しましょーう!」
それを聞いた途端、スゥ……と結衣の眼から光が消え、再びベッドの上で寝転がった。
「ええっ!? 結衣様!? なんでもうやる気ないんですか!?」
本気でわかっていないらしいガーネットは、結衣の上を忙しなく飛び回っている。
その行動を見ていると、結衣はガーネットと初めて会った時のことを思い出す。
胡散臭くて、現実逃避をするしか出来ないような……よく分からない感情が溢れ出す。
この状況も、まさしくそんな感じだ。
何もかも捨てて無になろう。そう決めた時だった。
「だからぁ! なんで結衣様はいつも私の話を聞いてくれないんですかぁ!?」
ガーネットが、結衣の顔面スレスレまでステッキの頭の部分を近付けて叫んだ。
色々言いたいことはあるが、とりあえず結衣はガーネットを手で退けて、のそりと起き上がる。
「だってガーネットの言ってることってよくわかんないし、胡散臭いし……」
いちいち説明するのも面倒臭い。
何故、ガーネットはわかってくれないのだろうか。
「心外ですねぇ! 私のどこが胡散臭いんですかぁ」
「どこもかしこも」
「即答!?」
いちいち声を張り上げるガーネットに、正直五月蝿いと感じた。
だが、結衣の表情にそれが出ることがなかったのか、あるいは気づかなかったのか。
ガーネットは不思議そうにふよふよ浮いていた。
「結衣様ぁ……雨のせいで気持ちがどんよりするのも分かりますがぁ、ゴロゴロしてると――太りますよぉ?」
「今すぐ動きます! そうね、動かなきゃ!」
ガーネットのその一言によって、結衣の体はベッドから飛び起きた。
“太る”という単語は、女の子にとって最も敵視するものの一つだ。
☆ ☆ ☆
確かに、大雨が降った。
「まさか本当に当たるとは……」
天気予報なんて外れることもあるのに。
結衣は土砂降りの雨を呆然と見つめながら、そんなことを考えていた。
今日はせーちゃんが用事があると言っていたが、この雨じゃ家から一歩も出られない。
傘もカッパも信用出来ないほど、雨が大量だからだ。
お父さんは仕事だし、お母さんは小学校時代からの友達との集まりだとかで出かけている。
今日は土曜日なので、学校もない。真菜にも会えない。
「久しぶりに一人になったなー……」
だからと言って、何もすることがない。
……暇だ。
ベッドの上で、本を読んでゴロゴロ寝転がりながら思った。
「おや、おばあさんがいますねぇ」
ニヤニヤと、どこからともなく現れたガーネットがからかうように言う。
訂正、一人ではなかった。
「むー、おばあさんじゃないもん!」
「そうですかぁ? 全然子供らしさが感じられなかったので、おばあさんかと思いましたぁ」
確かに、朝からベッドでゴロゴロしているのは子供っぽくないだろう。
だが、だからと言って年が離れすぎではないだろうか。
結衣はガーネットを無視し、窓の外を見る。
だが、結衣の眼には雨が映るばかりだ。
「何か楽しいことないかなー……」
ポツリと呟くが、何かを期待しているわけではない。
そう呟いた時に、それが本当に起こったら嬉しいけど……と思った程度だ。
もちろん、そんな都合のいい展開が訪れるはずもな――
「ふむ……では、楽しいことをしましょうかぁ!」
――グルンッ!
結衣はガーネットに向き直り、暗いからとつけていた電気より輝いた瞳でガーネットを見た。
「楽しいことあるの!?」
「うおう……結衣様、すごく食いつきますねぇ……」
珍しく、ガーネットが引くほどだったらしい。
それはともかく、楽しいことが出来るならなんだっていい。
早く楽しいことがしたい。
そんな結衣の内心を察してか、ガーネットが楽しそうに言う。
「ではぁ! とっておきの楽しいこと、しましょうかぁ!」
「う、うんっ!」
結衣の胸は高鳴っている。
ワクワクドキドキしすぎて、体も少し暖かくなった。
そうして、ガーネットは厳かな雰囲気を醸し出して、口を開く。
「――魔法の使い方を、研究しましょーう!」
それを聞いた途端、スゥ……と結衣の眼から光が消え、再びベッドの上で寝転がった。
「ええっ!? 結衣様!? なんでもうやる気ないんですか!?」
本気でわかっていないらしいガーネットは、結衣の上を忙しなく飛び回っている。
その行動を見ていると、結衣はガーネットと初めて会った時のことを思い出す。
胡散臭くて、現実逃避をするしか出来ないような……よく分からない感情が溢れ出す。
この状況も、まさしくそんな感じだ。
何もかも捨てて無になろう。そう決めた時だった。
「だからぁ! なんで結衣様はいつも私の話を聞いてくれないんですかぁ!?」
ガーネットが、結衣の顔面スレスレまでステッキの頭の部分を近付けて叫んだ。
色々言いたいことはあるが、とりあえず結衣はガーネットを手で退けて、のそりと起き上がる。
「だってガーネットの言ってることってよくわかんないし、胡散臭いし……」
いちいち説明するのも面倒臭い。
何故、ガーネットはわかってくれないのだろうか。
「心外ですねぇ! 私のどこが胡散臭いんですかぁ」
「どこもかしこも」
「即答!?」
いちいち声を張り上げるガーネットに、正直五月蝿いと感じた。
だが、結衣の表情にそれが出ることがなかったのか、あるいは気づかなかったのか。
ガーネットは不思議そうにふよふよ浮いていた。
「結衣様ぁ……雨のせいで気持ちがどんよりするのも分かりますがぁ、ゴロゴロしてると――太りますよぉ?」
「今すぐ動きます! そうね、動かなきゃ!」
ガーネットのその一言によって、結衣の体はベッドから飛び起きた。
“太る”という単語は、女の子にとって最も敵視するものの一つだ。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません
ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」
目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。
この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。
だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。
だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。
そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。
人気ランキング2位に載っていました。
hotランキング1位に載っていました。
ありがとうございます。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる