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第一章 少女たちの願い(後編)

願えばなんだって出来るんだ!

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「夏音ちゃんは、あの美波っていう人と知り合いなんですか?」

 場所は変わり、夏音たちは遊具が全くない簡素な公園に来ていた。
 歴史が染み付いた椅子に座り、夏音は色々考えている。

 あの後、黒髪の少女は帰り、嫌な予感だけが残った。
 そんな場所に居られるわけがなく、余計なことを考えなくてもいいような所で話すことにしたのだ。

「あー……知り合いっていうか、学校が同じなんですにゃ」
「へぇ……そう……いえば、夏音ちゃん……何年……生?」
「三年生ですにゃ」
「二個……下か……緋依、さん……は……?」
「六年ですけど……って、今更すぎませんか?」

 何とも緊張感のないメンツだが、それが却って夏音を安心させた。
 あのピエロのような少女は、正直本心が分からなくて気味が悪いからだ。

 あの眼には熱も本心も宿っていない。
 機械的で無機質で、何事にも興味がないと語っているあの眼が……怖いのだ。

 いつかあの人の気まぐれ一つで、この世界が滅ぼされてしまうような錯覚に陥る。
 けど、あの人ならやりかねない。
 だってあの人は――

「必……殺! ほっぺ……ぷにぷにっ……!」
「ぎゃはー!? 何するんですにゃ!」

 ドシリアスに引きこもっていた夏音は、ほっぺに当たった謎の感触によって、現実に引き戻された。
 驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになる。
 そして――

「あ……また出ちゃったにゃああ……」

 頭には狐耳、腰からは尻尾が現れている。
 こちらが意図していないにも関わらず、平気で顔を出す夏音の力。

 せーちゃんに言われてからというもの、夏音は自分なりに特訓をして頑張ってきたのだが。

「ううぅ……」

 夏音は呻いた。そして、その場に崩れ落ちる。

「え……? 私、何か……変なこと……した……?」
「もー、夏音ちゃん泣いてるじゃないですか~」

 ――泣いてなんかないですにゃ!
 とツッコミを入れたいところだが、今の夏音にはそれが出来そうになかった。

「えっと……なんか、ごめん……ね?」

 真菜の謝る声が聞こえ、夏音はむくりと起き上がる。

「大丈夫ですにゃ……」

 光のない瞳で夏音が答えた。
 そうしたら、真菜は一層オロオロしている。
 だが、緋依が何かを考え込むような顔をして。

「ねぇ、夏音ちゃんが悩んでいるのって……その力のことですか?」

 夏音の狐耳を指さして訊いた。

「……そうですにゃ。自分が使いたくない時にまで出てきて……正直、嫌ですにゃ……」
「そっか……」

 夏音は涙目で濡れた声を出し、忌々しい力を拒むように言う。
 だが、緋依は思いもよらないことを言い放った。

「なら、“願えば”いいんじゃないでしょうか?」
「……ふぇ?」
「だから、願えばいいんですよ! “願い”を糧に力が強くなるんだから、願えばいいんです!」

 ――そうでしょ? と、確認するように緋依が言うと、真菜もこくりと頷く。

「そう……だよ! 夏音……ちゃんが、したいって……願えば……なんだって、出来る……よ……!」

 夏音を元気づけるようにぐっと力を入れて力強く言い放つ。
 二人の言葉を聞いて、夏音は眼を丸くした。

 ――そういう考え方も、あったのか。
 と、夏音は薄く笑った。

「願えばそれでいい……ですかにゃ。なるほど」

 確かにそれなら、出来そうな気がする。

 いつの間にか引っ込んでいた夏音の力に、夏音だけが気付かずに笑った。
 なんという灯台もと暗しなのだろう。

 なんという間抜けなのだろう。

「にゃははっ! 夏音は間抜けですにゃ」

 願えばなんだって出来る。

「そうでしょう……? ――結衣おねーさん」

 夏音はそうやって、誰にも聞こえないようにポツリと零した。
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