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第一章 少女たちの願い(前編)
運命が廻り出す
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――チュドーン!
「あー、もう! また負けたぁ!」
「ふっふっふ。このゲームを熟知しているあたしに敗北の文字はな――」
「はーい。お茶とお菓子持ってきたから自由に食べてね~」
せーちゃんたちは、またリビングに来ていた。
そして、緋依と一緒にテレビゲームをしている。
『Mii』という人気のあるゲームで対戦をしていたのだが、やり込んだゲームだからか、ずっと勝ちっぱなしである。
そろそろ手を抜こうかと考えたが。
――ゲームに関しては手を抜きたくない!
という自分でもよく分からない意地があった。
なので、せーちゃんはゲームを切り替えることにする。
「よし、次は『マリコ』で協力プレイしましょ!」
「えー……『マリコ』って対戦の方が面白くないですかぁ?」
――こ、こいつ……!
せーちゃんがせっかく気を使って協力しようと言ったのに。
「ふふふ、いいじゃない。望むところよ!」
……そして。
「ああああ! 負けたああああ!?」
コテンパンに負けた。
『Mii』よりプレイ回数が少ないとはいえ、せーちゃんがゲームで負けるなんて!
金にものを言わせて買いまくり、暇さえあればやりまくっていたのに。
「緋依さん……『マリコ』やり込んでるの……?」
そうじゃなきゃ、自分が負けるなんて納得出来ない!
闘争心や嫉妬心を剥き出しにしているせーちゃんに気付いていないのか、緋依は毅然と言い放つ。
「あはは……私の親がそういうの買ってくれると思います?」
乾いた笑みを浮かべた緋依に、せーちゃんは声を出せなくなった。
そうだ。噂や、結衣から聞いたことがある。
緋依は……
「……っ!」
胸が、何者かに力強く掴まれたような息苦しさを覚える。
空気が重くなったのを感じる。
シーンという音だけが響く静寂の中、緋依がおもむろに口を開いた。
「……ちょうどいいや。少し、お話があります」
いつもとは違う、真面目な表情を浮かべる緋依。
せーちゃんは、その緋依の態度の違いに面食らった。
「な、なに?」
「私の親のこと……せーちゃんはある程度知ってますよね?」
「え……ええ、そうだけど……」
せーちゃんは緋依の真剣な様子に、どういう態度を取ればいいのかわからずに狼狽える。
だが、それを極力表に出さないよう努める。
「……せーちゃん。ここ最近、何か変わったことありませんでしたか?」
「――はい?」
突然切り替わった話題についていけず、せーちゃんは間抜けな声を出した。
顔も少しおかしくなっていたかもしれない。
だが、緋依さんはこちらを見ることなく続ける。
「私はありました。……親のことで」
「……えっ……と、それは酷くなった……ってこと?」
あれより酷い仕打ちはあるのだろうか。
せーちゃんは内心そう思いながら訊いた。
だが、緋依はふるふると首を横に振る。
「違うんです。逆なんです」
「……ん? え? どういうこと?」
せーちゃんの間抜けな問いかけに、緋依はやっとせーちゃんに向き直って言った。
「私の両親は……冷たさこそ続くものの、私の部屋を漁って散らかしたり、ご飯と言えないご飯を出したりすることはなくなりました」
「え……? よ、よかったじゃない。いい方に変わっているなら……」
せーちゃんの言葉が気に食わなかったのか、はたまたトンチンカンな応えに機嫌を損ねたのか。
緋依は、酷く悲しそうな顔をしている。
「せーちゃん……本当に分かりませんか?」
「な、なにが……?」
せーちゃんの問いに一拍置いて、緋依は答える。
「私の両親が変わったのは、結衣ちゃんに会ってからです」
そう言って、緋依は首を傾げた。
「違いますね。正確には、結衣ちゃんが魔法少女になってから……かもですね」
「え、ちょっ……どういうことなの?」
いい加減頭が混乱してきた。
せーちゃんはキャパオーバーになり、頭から煙が噴き出している。
だけど、緋依はまたもせーちゃんの頭を混乱させるようなことを言い放った。
「私の親が変わったのは最近。結衣ちゃんが魔法少女にさせられたのも最近です」
と言うと、緋依は目を伏せる。
「これが――偶然だと思いますか?」
そしてまた目を開けると、その瞳には疑惑があった。
――ここから運命が大きく廻り出す。
そのことに、せーちゃんは気付くことができなかった。
「あー、もう! また負けたぁ!」
「ふっふっふ。このゲームを熟知しているあたしに敗北の文字はな――」
「はーい。お茶とお菓子持ってきたから自由に食べてね~」
せーちゃんたちは、またリビングに来ていた。
そして、緋依と一緒にテレビゲームをしている。
『Mii』という人気のあるゲームで対戦をしていたのだが、やり込んだゲームだからか、ずっと勝ちっぱなしである。
そろそろ手を抜こうかと考えたが。
――ゲームに関しては手を抜きたくない!
という自分でもよく分からない意地があった。
なので、せーちゃんはゲームを切り替えることにする。
「よし、次は『マリコ』で協力プレイしましょ!」
「えー……『マリコ』って対戦の方が面白くないですかぁ?」
――こ、こいつ……!
せーちゃんがせっかく気を使って協力しようと言ったのに。
「ふふふ、いいじゃない。望むところよ!」
……そして。
「ああああ! 負けたああああ!?」
コテンパンに負けた。
『Mii』よりプレイ回数が少ないとはいえ、せーちゃんがゲームで負けるなんて!
金にものを言わせて買いまくり、暇さえあればやりまくっていたのに。
「緋依さん……『マリコ』やり込んでるの……?」
そうじゃなきゃ、自分が負けるなんて納得出来ない!
闘争心や嫉妬心を剥き出しにしているせーちゃんに気付いていないのか、緋依は毅然と言い放つ。
「あはは……私の親がそういうの買ってくれると思います?」
乾いた笑みを浮かべた緋依に、せーちゃんは声を出せなくなった。
そうだ。噂や、結衣から聞いたことがある。
緋依は……
「……っ!」
胸が、何者かに力強く掴まれたような息苦しさを覚える。
空気が重くなったのを感じる。
シーンという音だけが響く静寂の中、緋依がおもむろに口を開いた。
「……ちょうどいいや。少し、お話があります」
いつもとは違う、真面目な表情を浮かべる緋依。
せーちゃんは、その緋依の態度の違いに面食らった。
「な、なに?」
「私の親のこと……せーちゃんはある程度知ってますよね?」
「え……ええ、そうだけど……」
せーちゃんは緋依の真剣な様子に、どういう態度を取ればいいのかわからずに狼狽える。
だが、それを極力表に出さないよう努める。
「……せーちゃん。ここ最近、何か変わったことありませんでしたか?」
「――はい?」
突然切り替わった話題についていけず、せーちゃんは間抜けな声を出した。
顔も少しおかしくなっていたかもしれない。
だが、緋依さんはこちらを見ることなく続ける。
「私はありました。……親のことで」
「……えっ……と、それは酷くなった……ってこと?」
あれより酷い仕打ちはあるのだろうか。
せーちゃんは内心そう思いながら訊いた。
だが、緋依はふるふると首を横に振る。
「違うんです。逆なんです」
「……ん? え? どういうこと?」
せーちゃんの間抜けな問いかけに、緋依はやっとせーちゃんに向き直って言った。
「私の両親は……冷たさこそ続くものの、私の部屋を漁って散らかしたり、ご飯と言えないご飯を出したりすることはなくなりました」
「え……? よ、よかったじゃない。いい方に変わっているなら……」
せーちゃんの言葉が気に食わなかったのか、はたまたトンチンカンな応えに機嫌を損ねたのか。
緋依は、酷く悲しそうな顔をしている。
「せーちゃん……本当に分かりませんか?」
「な、なにが……?」
せーちゃんの問いに一拍置いて、緋依は答える。
「私の両親が変わったのは、結衣ちゃんに会ってからです」
そう言って、緋依は首を傾げた。
「違いますね。正確には、結衣ちゃんが魔法少女になってから……かもですね」
「え、ちょっ……どういうことなの?」
いい加減頭が混乱してきた。
せーちゃんはキャパオーバーになり、頭から煙が噴き出している。
だけど、緋依はまたもせーちゃんの頭を混乱させるようなことを言い放った。
「私の親が変わったのは最近。結衣ちゃんが魔法少女にさせられたのも最近です」
と言うと、緋依は目を伏せる。
「これが――偶然だと思いますか?」
そしてまた目を開けると、その瞳には疑惑があった。
――ここから運命が大きく廻り出す。
そのことに、せーちゃんは気付くことができなかった。
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