上 下
16 / 262
第一章 少女たちの願い(前編)

図書館は素晴らしい

しおりを挟む
 一週間ほど経ち、結衣は近所の図書館に癒しを求めに来ていた。

「あー、生き返るぅ……」

 そこは――天国パラダイスだった。

 もう一度言おう。天国パラダイスだった。
 広くて落ち着いた館内、様々な本、朝早いからかガランとしているいい静けさ。

 ここはさしずめ楽園エデンか、はたまた理想郷ユートピアか――
 結衣は内心テンションが上がっていた。
 暑さで頭がやられたのか、いつもの結衣の面影はない。
 だが、ここで大声を出すほどイカれてはいない。

 常識をわきまえ、節度ある行動を心がける。
 それがゆ――

「アホか」

 ――“い”と紡ごうとした口は何者かに遮られ、何かを投げつけられた。

「えー? いいじゃないですかぁ。結衣様の気持ちを代弁しただけだと言うのにぃ~」
「……私別に頭良くないけどさ、そこまでアホじゃないから……」

 ――そう、これまで喋っていたのはガーネット。魔法のステッキだ。
 そのガーネットに、結衣は半ば強引に魔法少女にされてしまい、そこから付き纏われている。

 ……心底鬱陶しいと結衣は思っている。
 高らかな笑い声も、語尾を伸ばす口調も、何もかも一言で片付いてしまう。
 そう――“ウザイ”のだ。

 ため息を吐きながら現実逃避しかけた結衣の目に、一冊の本が入る。

「これは――」

 と、手に取った本は魔法使いの話が書かれているような題名と表紙だった。

「『魔法使いの願い事』?」
「あー、その本は私の一部ですよぉ」
「は? え? どういうこと??」

 確かにこのアホステッキは最初は本の姿をしていた。
 だが、一部とは――?
 そう問う結衣の視線に、アホステッキは諦めたように零した。

「いつか、結衣様にはお話しなくてはと思っていたのですよ……」

 いつになく真剣な様子で、前置きを語ったステッキ。

 だが――突如轟音が鳴り響き、その続きは聞けなかった。
 図書館――いや、図書館の周辺をも震わせる轟音に、思わず結衣は耳を塞ぐ。
 耳を劈くような不快な音。
 何が起こっているのかさえ掴めないこれは――

「な、なに……これ、敵襲――!?」
「そう……みたい、ですねっ…………嗚呼、うるさいっ……!」

 ガーネットの耳――……まあ、耳などないが余程ダメージを受けたのか、机の上に倒れ込んでしまった。

「ガ、ガーネットっ!」
「あらあらぁ、こんなので倒れてしまったの? うふふ、だらしないわねぇ」

 ガーネットの元へ慌てて駆け寄ろうとすると――
 眼前から何の脈絡もなく現れた人影から、薄気味悪い笑い声が響いた。

 その笑い声の主を、なんとも言えない表情で見やる。
 結衣と同じ瞳の色を持つ髪に、黄色に光る瞳を揺らす――結衣と同い歳ぐらいの少女の姿があった。

「まー、それも当然よね。“強い魔力を持つもの”ほどこの音は何処までも響くんだから」

 ――な、何を言って……
 そう声を出したいのに声が出てこない。
 膝が笑っているのが分かる。足に力が入らない。

 これは――恐怖?
 ……ダメだ。そんな事悠長に考えている場合ではない。
 結衣は首を振り、再度敵に向き直った。
 敵は、そんな結衣の様子に驚いたように目を見開く。

「……恐怖感や威圧感を煽って行動不能にしたいと思っていたのだけど……あなたは案外しぶといのね」

 真菜の時とは違った敵意がおくられる。このままでは危険かもしれない。
 即座にそう判断した結衣は、未だに突っ伏しているガーネットを手に取り変身した。
 だが――

「遅いわね」

 敵のいる方角から――ではなく、結衣の背後から飛んできた“ソレ”は――

 ――結衣の身体を、易々と貫通した。

 何が起きたのか理解できなかった結衣は、そのまま意識を手放してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...