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17)まだまだ謎は続く

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ディアは久々に里帰りに来ていた。スピカに提案してから二週間ぐらいかかったけどなんとか来れたことにほっとする。当然、スピカも一緒だ。

「再びここに来ることになるとはな」

アメジスを背にしたスピカはため息をついたものの、ディアが元気ならいいとばかりに後を追いかけた。あちこちで手を振るディアの様子から見ても民に愛されていることがわかる。ほどなくして城についた時、迎えてくれたのは以前会ったディアの姉であるアテナとフレイアだった。

「来たわね、スピカ!」
「はぁ、すまないな、コレがうるさくて」
「姉様、うるさいって言わないでよ!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐフレイアを押しのけて2人を応接間へ誘導するアテナはさすがの貫禄だった。今回の里帰りにあたり、ディアはアテナに協力を依頼していたらしく、スムーズにディアの父親でもある王と対面することができた。(以前は私服だったが、今は謁見を求めたこともあり、王様として登場していた)

「おお、久しぶりだな、スピカ君」
「ご健勝でなによりです」

堅苦しい挨拶は抜きにしてと対面した王はディアの方に振り返った。

「アテナを通じてそなたの手紙は受け取った。本当に良いのだな?」
「はい、お願いします」
「ディア、俺は何かさっぱりなんだが、一体何を調べようとしているんだ?」

確かDNA・・・・・だったか?

ディアはスピカの疑問に強く頷いた。

「詳しい説明は省きますが、DNAっていうのは『デオキシリボ核酸』というもので、DNAが持つ情報次第で、髪や目の色などの外見的な特徴、病気のなりやすさといった身体的な特徴がきまるんですね。で、その中には子孫に受け継がれている特徴もあってそれが遺伝子と呼ばれているものです。言い換えれば、DNAの型を鑑定することで親子の関係を調べることもできるんですよ」

ディアの言い方にスピカは眉をひそめた。

「・・・・・誰と誰の関係を調べると言うんだ?」
「スピカ様と王妃様のDNA型鑑定を行います」

思わずアメジスと顔を見合わせた俺は悪くないと思う。ほおの内側を擦った綿棒で確認ができるというが、あっちの方はどうやるんだと聞いたら、すでに採取済だという。

「どうやって手に入れたんだ?」
「どうやってって、寝ている時に忍び込んで・・・・・・・」

けろっというディアに周りがあきれ果てたのはいうまでもない。当然ながらなぜそんなことをしらべたがるのかと気にならないはずがない。事実、スピカが赤ん坊の時に一度行っているのだ。それをなぜもう一度調べようとするのかと直球で聞いたところ、ディアは真顔になった。

「――多分違う結果がでると思っています」
「ふむ。お前がそう断言するということはすでに仮説を考えているということだな」

王である父親は眉を顰めるも、ディアの言い分を否定しようとしない。フレイアもアテナも顔を見合わせたが、最終的にはディアの意思が尊重された。
1日待てば結果が出るということでスピカはそのまま泊ることにした。もちろん、その夜もディアは散々泣かされるはめになるのだが。

「ううー腰が痛い」
「しかし、鑑定があっさりしていてびっくりするぜ」

再び全員が集まることになったのだが、何故かディアの父親の顔色が悪い。スピカが結果を記した紙を受け取ったところ、よく似ているが、親子の確率は低いという事実がかかれていた。

「は?」―

驚いているスピカの横で見ていたディアは思った通りだと驚きもしなかった。それをみた王である父親は唸った。

「やっぱり」
「だがな、ディア……かつて鑑定した時は間違いなく一致していた。いったいこの違いはどう説明すればいいのだ」
「父様、その鑑定の時に王妃様は目の前で採取を行いましたか?」
「・・・・・いや、あらかじめ行ったと、王が持ってきていた」
「父上が?」
「そうだ」
「――では、国王も知っていたということになりますね」
「だから、一体何を」
「恐らくその時に提出したのは本当の母親のものでしょう」

スピカがはっとする。確かにそうでないと説明がつかない。つまり、あの両親は解っていた上で偽証したということになる。

「だが、何故・・・・・」
「2つ考えられます。一つは、再婚の決めてになるから。もう一つは恐らく、スピカ様の身を守るためではないかと」
「つまり、スピカ様の母親に何らかの秘密があると?」

ディアは強く頷いた。

「スピカ様。正妃様は死因不明でしかも死体が見つかっていないんですよね」
「ああ」
「それは恐らく、私たちのように貴族に狙われていたと考えることはできませんか?」

実際、王妃様はパーティーの時におっしゃっていた。

『ディア、そなたに一つ忠告ぞ。 ここではスピカ以外誰一人として信じてはならぬ。さもなくば我が姉のように消えるであろうよ』

それは言い換えれば、王妃の姉である正妃は消された可能性があるということ。

「・・・・・ディア、その言い方だと、まるで俺の母親がーーー」
「ええ、多分あなたの本当の母親は正妃にあたる前王妃の方だと思います。そうでなければ、辻褄が合いませんから」
「ならば、何故、王妃はスピカ様を狙われたのですか? 姉の子であるならなおさらおかしい」

納得がいかないとアメジスが叫ぶが、それについてもディアは答えることができた。

「恐らく、親子でないことの不自然さを隠すためではないでしょうか」

(実際、親子ではないし、それにあの他人事でいながらもそうでない立ち位置はきっと・・・・・)

「そうか、似ているが親子ではないというのはそういうことか」

納得いったのだろう、王は再び鑑定の結果を確認した後、部下に向き直って指示を出した。

「念のため、今回提出された王妃のものと、昔王妃が提出したものを比べてみなさい」
「かしこまりました」
「少しまつがいい。恐らく10分もしないうちにわかるだろう」

しばらくして部下が戻ってきて提出してきたものを机に並べてみる。

「・・・・・別人だけれど、よく似ていますね」
「見る限り、姉妹という可能性が高いな。いや、さらに言えば、双子の可能性さえありうる」
「―――!」
「スピカ様、その辺りは聞いてないですか?」
「確かに姉妹であることは聞いていたが、双子かどうかは知らないな。考えてみれば、正妃の写真は一度も見たことがない」
「前王妃の死を不審に思った王はスピカ様を育てる時に危険が及ぶと思ったのかもしれません」
「そこに姉の死を不審に思った今の王妃が協力を申し出た可能性もあり得ますわね」
「だけれど、親子を演じるには無理があると思った王妃は逆にスピカ様を狙うことで、その不自然さを消したと。なおかつ、自分が殺すのだからとスピカ様を狙おうとする敵を牽制したということもありえなくはないですね」

アテナやフレイアが言えば、アメジスもなるほど頷いている。いろいろパンクはしているものの、確かに親子ではないと考えれば、あの人の態度にも納得がいく。

「確かに他人事ごとのように言っていた人だからな、親子でなければ納得だ」
「実際は、多分叔母と甥という関係に当てはまるかなと思います。当然のように国王も知っていた可能性はかなり高いかと」
「―――帰ったら親子ケンカやらかすかな」

遠い目で呟いたスピカにディアは深く頷いた後、結果が出た紙をそのままスピカに押し付けた。

「――とりあえず、証拠として持って行ってください」
「ディア、その言い方だとお前、残るみたいだが?」
「検査を終えるまでは残ります」
「は?」
「少し私も調べたいことがあるので」

何のためにと聞いたスピカにディアは真っすぐ視線を合わせて答えた。


「私とスピカ様の未来のために必要なことを調べたいんです」


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