香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*15*

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翔は朝からげっそりとしていた。奈津がちらちらとこちらと母を見比べてきているのには気づいている。だが、母の手前では何も言えないし、言えるはずがない。

それもそのはず、昨日ばれてしまったのだ、全部。

「で、説明をしてもらいましょうか、翔?」
「か、母さん・・・う、うしろにスタンドが!?」
「何を言っているのかしらね、このバカ息子は。大体、あの水族館の時から怪しいとは感じていたけれど・・・」
「な、なんだよ」

そろりそろりと逃げようとしたけれど、その前に般若になった母さんの前で固まってしまい、動けなくなった。
うちの母さんはこうなったら手に負えない。きっと義父でさえも勝てないだろう。いや、その前に俺、その父さんに殺されるかもしれん。母さんの横に立っているけれど、どう考えても笑顔の割に目が笑ってないっつーあたりがコワイ・・・。

ということで、俺は二人から尋問を受け、最終的には奈津が好きだということを告白させられた。

実の親に。
義理とは言え、父さんにも!!それも、奈津の父親である人にっ!!

「・・・なるほどね。だから、うちの奈津に対して冷たかったのか」
「もう、相変わらず子どもなんだから・・・それが通用するのは小学生までよ?大体、そんな状態で奈津ちゃんに好かれるとでも?」
「う」
「そもそも、喫茶店でキスした?アホなの、あなた。デリカシーのかけらもないわ。そりゃ、奈津ちゃんが逃げて当然よ」
「ちょ、ちょっと待てよ、なんでそれを!!」

なぜか詳しく知っている母親に驚愕。
父さんも固まってしまった。ギギギと音を立ててこちらに鋭い眼光を向けてくるのは気のせい・・・だと思いたい。

「そ、その、キスというのは、どういうことだね・・・?」
「いや、その・・・・母さん、なんでそれを!」
「以前に猿渡君や朱莉ちゃんと連絡先を交換したのよ♪二人ともいい子よねぇ」
「・・・・・母さん、最初から・・・気づいていたんじゃ?」
「失礼ねー。水族館の時までは詮索するつもりはなかったわよう」
「それよりもだね、翔君。うちの奈津にしたことを全部吐いてもらおうか」

ぷんぷんと怒っている母さんには悪いが、この時俺は、この母さんより強い人間がいることを実感した。父さんのスタンドはこの時、間違いなく、母さんを超えていて。
…この日本の…いや、世界レベルで最強だと思う。(ちなみに、母さんは助けてくれなかった。)

そして、精神的に疲れ果てる状態で、朝食を食べている今にいたる。この状態で朝ご飯をがっつり食べる気にはなれないので、さっさと逃げるように玄関へ向かった。

「クラブあるから先に行く。奈津はどうする?」
「ふぁ?!」

リビングを出る前に、奈津に声をかけると、驚いた様子が目に入った。そんなに意外だったかと思いつつも、再度聞くと、迷うように首を縦に振ってきた。これはいいのか悪いのか。

(うーん、でも、奈津と一緒に学校に行けるからよしとしよう。)

少し玄関で待って、奈津が靴を履くのを確認してから外に出た。後ろからとことことついてくる奈津を確認して、歩く。正直、女の子に合わせたことがないから、どういう距離でいけばいいかわからん。
とりあえず、奈津と並んで歩くことにした。

「あ、あの・・・先に行ってもいいですよ?」
「却下。俺が楽しくない」
「えっと・・・せめて、せめて学校の門まで!」

ひぃいいと真っ青になる奈津に思わず目を丸くする。そして、ふと思い返してみれば、奈津は学校ではあまり俺に近寄ろうとはしない。そう考えると、奈津が俺との話をあっさりと受け入れたことにも納得がいく。

もしかしなくとも・・・


「学校で何かばれたら困ることでもあるから、再婚の話を言わないっつー俺の提案に同意した?」
「うっ。」
「学校へ着くまではその話で楽しめそうだな?」

顔に出やすいおかげで尋問・・・・ゴホン、話し合いが楽でよい。
奈津の手を無理やり、握って歩き出すと、奈津が必死に指を外そうと顔を真っ赤にさせていた。うん、あいにく握力は強いほうなんだ。

「うっぎゅうううう、は、離してくださぃいい!!」
「奈津がしゃべってくれたらね」
「いやですよ、そんな恥ずかしいこと言えるわけないでしょうっ!!」
「・・・・・俺のことがっていうわけじゃないよね。これでも俺イケメンの自覚あるし」
「たいした自信ですね」
「・・・ま、奈津の前じゃあ、そんな自信も吹っ飛んだけどね、もちろんあの日にな」
「何か言いました?」
「いんや、何も」

きょとんとしている奈津の前じゃ平気なふりをしたが、実は喫茶店での返しはかなりショックだった。

(マジで、あの時のうぬぼれていた俺を殴りたい。今なら、タイムマシンに乗って対策を練りなおせる自信あるのに。)

なんだかんだで、奈津にはストレートに言うほうがよほど伝わりやすい。

学校が近づくにつれて、奈津の抵抗はさらに激しくなった。ぜぇぜぇと息をする奈津を最初こそは微笑ましくみていたが、ここまで抵抗されるとやはり気になる。

「ほんと、何を気にしてるんだか・・・」

門が見えてきた頃、生徒たちがちらほら見えてくる。中には俺の同級生や奈津の知り合いもいるのだろう、こちらを見てくる生徒も何人かいる。奈津はその視線が気になるのか、うつむきがちになっている。
と、その時、ひときわ高い声が聞こえた。

「おはよう、錦蛇君!!」
「おはよう、相馬さん」

同じグラスの委員長だ。ころっとトーンを変えて優等生パターンになる俺も大概だが、この相馬さんも大概すごい。視線があからさまにこっち目当てってわかるぐらいビンビン伝わってくる。

「ところで・・・そちらは?」
「わ、私のことはお気になさらずに!たまたまそこで・・・あっただけですのでぇええ!!」


いきなり声をあげて手を振り払ってあっという間に消えてしまった彼女にポカーンとしてしまった。相馬もびっくりしてたようだが、自分よりは先に覚醒していた。

「ああ・・・びっくりしたわ。そうよね、考えてみれば錦蛇君が彼女にするほどの子ではないものね」
「・・・それはどういう意味かな、相馬さん?」

自分でも驚くほど冷たい声が出た。びくっとおびえだした相馬に対して、にじり寄った。

「ね、教えてもらえるかな、どういうこと?さっきのセリフは。巳園さんが俺に釣り合わないって?彼女にするほどの子ではないと?」
「だ、だって・・・平凡だし・・・化粧っ気もないし・・・ど、どうしたの、まさ、まさか、あの子のことを?」
「相馬。それ以上、奈津のことをバカにするな」

固まった委員長を差し置いてさっさと教室に入った。さっきまで奈津と繋いでいた手が冷たくなった気がする。手の隙間におさまっていた温かいぬくもりの感触がまだ残っていて、寂しさを感じるのは気のせいじゃない。
さっきの委員長の言葉を思い出してまたむっとした。
イライラを抑えながら、教室に入ると猿渡が手をあげて挨拶をしてくるのが見えた。

「よ、翔。昨日はどうだったよ?」
「とりあえず、お前が敵だとよくわかった」
「なぜそうなった!!」
「母さんに余計な情報を流すな」
「あ、ばれたかテヘペロ☆」

バシッと鞄でたたくと、小気味よい音と悲鳴が聞こえた。それに満足して席に座ると、廊下を走る音が聞こえた。ばぁんと勢いよく、ドアが開いたと思ったら、委員長が怒りの形相でこっちをにらみつけてきた。

「・・・思い出したわ、さっきの子、巳園奈津よね。あの子は中学校の時もアイドルの子にひっついていたのよ!?それなのに、次は錦蛇君目当てってわけ?信じられない、あんな子のどこがいいのよ!?」

教室に響き渡った委員長の金切り声を聞いたその時ようやく、俺は気づいた。

奈津が恐れていたのは、俺じゃなく・・・・・
俺の周りにいる奴ら・・・
それも、こういう委員長のような奴らだったんだと。


(そういうことか、だからかよ。朝も手つなぎを見られたくなかったから、外そうとしていたのか!!!)





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