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鬼人族のメンバーの恋
【巳編】捻れた好き*11*
しおりを挟む待ち合わせをしている場所についたのか、巳園が立ち止まった。少ししてから、動き始めたのは、待合人と出会ったからだろ。手を振っているのが見える。
目を凝らしてみてみれば、巳園と、来音と・・・見知らぬ男に・・・・何故か、遼河までいた。
遼河は必死に来音に何かを訴えている様子だったが、ここからは遠くて聞こえない。
(というか、あの来音が見知らぬ男と手繋ぎしてるっつーことは、巳園は遼河とペアってことになるよな?)
しばらく後をつけていると、見えた先は水族館。
つまり、ここが4人の遊び場というわけだ。決してデートであるはずがない。そうだ、第一、巳園は彼氏はいないはず。だからって、遼河と遊んでいいっていうわけじゃないけれどな!!
ギリッと噛み締めた上で、スマホを取り出した。
「もーし、もし、遼河?」
「ひぃいい、やっぱりかよ・・・っつーか、まさかと思うけれど・・・後つけてきている?」
「・・・巳園に触れてみろ、死ぬ方が良かったという目に遭わせてやるから。お前さ、間違っても、巳園に惚れるなよ?っつーか、なんでお前が巳園とデートすることになってる訳?しかも、俺に内緒とはいい度胸してるじゃないか」
「いや、だから・・・落ち着け?その、あれだよ、何もしねぇっつーの、マジで。え、それはちょっと来音がさ・・・」
途中で、遼河の声が途切れた。それに訝しく思っていると、天敵である来音の声が聞こえてきた。
(・・・っ・・・なんで、コイツが出てくる!!)
「いい、猿渡、あんたが為すことはただ一つ。奈津のボディカードよ。ちゃんと手を繋いでね。この子、ふらふらとあっちこっちいくから、見失わないように。それから、もしもし・・・あんた、聞こえてるんでしょ。こそこそとみっともないからね?ショックを受けるぐらいなら最初から邪険にしなきゃよかったのよ、バーカ!」
(・・・マジでムカつく・・・っ!!なんで、こいつが巳園の親友なんだよ!)
震えている俺をよそに、来音は会話を打ち切った。もの言わぬスマホを握りしめ、俺はたった一言あらんばかりの怒りを込めて呟いた。
「来音のやつ・・・・あんにゃろう・・・・!!!」
しばらく立ち尽くしていたが、こうしても仕方がないと我に返った。すぐに受付の方へチケットを買いに行き、4人を追って、中へと入った。
怪しく思われないように、帽子を深く被って、魚を見るふりをしながら探していたら、巳園の姿が見えた。・・・・・何故か、遼河の手を引っ張っているが。
(・・・俺でさえ、手繋ぎしたことないっつーのに!!!!)
即座にスマホを取り出して、電話を掛ける。相手など、言うまでもない、俺の大事な巳園の隣にいる虫・・・もとい、一応の友人(親友から降格してやりたい。)に対してだ。
「・・・遼河ぁああああああ?」
「いやいや、マジで不可抗力だから!」
必死になんとか取り繕うとしているヤツの焦りなどバレバレだ。その後も、何度も同じようなことが繰り返された。さすがにストレスがたまりまくったので、遼河をトイレに呼び出した。
「よう、遼河。元親友に対し、なんたるつれなさ」
「・・・皮肉はよせ。そして、いつから元になった?」
「たった今、だ。いつも以上におしゃれしている巳園の姿を間近で目にしただけでも万死に値する。だが、友という関係による温情を持ってガマンしてやってるんだ。感謝しろ」
「いた、いたったた・・・!おまえなぁ、そう言いながら、俺の足を踏むのを止めろよ。第一、デートしたかったら誘えばいいだろうが、このヘタレがっ・・・・あ、その、いや・・・」
「よくぞ、そこまではっきりと言ったからには覚悟はできてるってことでいいな?」
(一応の)親友に対してたっぷりとお仕置きをした後、見逃した俺って優しいと思う。
巳園が遼河を心配してか手を差し出そうとしたが・・・俺の言いつけを守ってか、離れだした。
(よしよし、さすが、お前はできるヤツだと解っていた。そのままの距離をキープだ!!)
・・・一方、内心で自分をみじめにも思ってもいたが、考えないようにしていた。こんなことを考える時点で、来音の思惑にハマっているようなもんだと自分でも解っている。
それでも・・・
(ここまで追っかけてるくせに、告白できないとか、ますます自分が嫌になってきた・・・。)
不本意この上ないが、俺は自分をよく解っているつもりだ。イルカショーを見ている巳園を眺めながら、自問自答していた。
(そもそも、巳園に告白してもフラれるイメージしか浮かばない。だって、アイツ、どう見ても、俺に群がってくる女子と違うじゃねぇか。)
喉が渇いたので、イルカショーを抜け出して、自動販売機を探した。見つけたと思ったのと同時に、一番顔を見たくなかったやつとばったり出会ってしまった。
「げっ」
「・・・あら、奇遇ね」
「と、いうか、今の状況は君の計画通りなのかな?」
「何のことだか、さっぱりわかりませーーん。私は、天下の錦蛇みたいに頭良くないもーん」
目のまえで、じらじらしい微笑みを見せる来音。隣の男の方も来音を見てため息をついていることからして、どうやら、彼女の本性を知っている人間のようだ。コレは完全に彼氏で確定だろう。違う意味で安心したが、来音に関してはこれっぽちも安心できない。
小銭を自動販売機に入れ、欲しい飲み物のボタンを押す。その間にも会話は続いていた。
「・・・よりによって、遼河を選ぶとはね」
「あんたにとっては一番効果的だと思わない?」
微笑みを崩すどころか、パワーアップさせた来音に負けじと、微笑み返した。だが、精一杯の皮肉は忘れない。
「来音、巳園が、お前の本性を知ったらどう思うんだろうね?」
「・・・・・・むっかつく。なんで、奈津の傍にいるのがあんたなのよ」
「それはこっちのセリフだ」
取り出し口からジュースを取った後はどちらともなく、お互いにすれ違った。
(・・・前々から思っていたが、つくづくウマが合わないヤツ。マジで、巳園のことがなきゃ、関わることすらなかっただろうに。)
どう考えても、水と油の関係でしか相成れないことを改めて確認できただけでも良しとしよう。
ペットボトルを持って、イルカショーへ戻る。まだイルカに夢中になっている巳園をみると、癒される。さっきの女と出会ったことで冷えた心も、今では温かい。
(・・・・・ん、やっぱ、巳園は癒し系っつーの、あれだな。見ているだけで和む。)
イルカショーがようやく終わり、あちこちから拍手が聞こえた。イルカではなく巳園に集中していた身としては、どうでも良かった。立ち上がったその時、巳園が遼河と一緒に動き始めるのが見えた。
これまた、後をついていくと、レストランに入っていくのが見えた。昼ご飯を食べるのだろうと踏み、自分は近くのフードコードで適当にポテトやらたこ焼きやらを買った。
(・・・今更だけれど、俺1人なんだよな・・・・・どうせなら、巳園と周れたらいいのに。)
やけ食いで、フランクルトも買って食べる。
こういうところは高めの値段になっているが、今の俺には知ったことではなかった。
(ふう・・あれ、出てきた。っつーか、こんどはどこへ。)
しばらくあちこちを見ることにしたのか、4人の歩くスピードが落ちている。今度は4人での行動なので、細かく見張る必要もない。自分も余裕ができたのか、ペンギンやジンベイザメに見入って楽しむことができた。
少しした後、土産コーナーが見えたので、入ってみたら、4人組も入ってくるのが見えた。巳園も何か買うのだろうと、じっと眺めていると、ジンベイザメのぬいぐるみを手に取りだした。嬉しそうに顔を緩めて、ぬいぐるみに頬ずりしている。
(・・・・ぬいぐるみのお蔭か、それとも、あの子の行動のお蔭か。いずれにせよキュンとくる。)
見惚れていると、巳園の顔に皺が寄った。どうやら、値段を見て諦めたらしい。ぬいぐるみを元に戻して、お菓子の方を見に行っている。さっきまでの巳園の笑顔が気になって、ぬいぐるみの値段を確認して見た。
「・・・ああ、なるほどね。巳園にはちょっと高かったかもな。」
だが、バイトで稼いでいる俺からすれば、買えないことはないという金額だ。少し財布を睨みつけた後、ぬいぐるみを掴んでレジへ向かった。(もちろん、巳園にばれないようにこっそりと動いた。)
ぬいぐるみを買った後、ふと気づいた。このデカいぬいぐるみを持ったままではもう尾行できないと。
(・・・・あーしまった。いや、でも、時間的にここまでが限界だろうな。)
冷静になってみれば、このままストーカーを続けても空しいだけだと気づく。人間諦めが肝心だと、割り切って、帰ることにした。
・・・ぬいぐるみを抱えた俺を迎えた母親は目を丸くしていた。
「・・・翔、あんたいつからぬいぐるみ好きになっちゃったの?」
「違う、巳園に土産だよ」
「あら、でも・・・奈津ちゃんも水族館のはず・・・まさか、ついていったんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなわけないじゃん」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・そうね、そういうことにしておくわ」
しばらく無言のにらみ合いが続いた後、母さんが折れてくれた。・・・見逃されたとみるべきなんだろう。気まずい雰囲気から逃げるために階段を駆け上がった。巳園の部屋に入り、ベッドへぬいぐるみを放り投げた。
(・・・よくよく考えたら、直接渡せるものでもないし、このまま黙っておいた方が無難か。母さんのように聞いてこられても困るし。)
改めて、思う。一度突っ走ると冷静になれないのは、俺の悪い癖だと。いい加減直さないと、また巳園を泣かしかねない。事実、過去に泣かしてしまった前例を作ってしまった身としては、あまり強くでれない。
(そう言う意味では、来音の方が有利なんだろうが・・・・あいつにはできるならバレたくねぇな。)
・・・少なくとも、アイツならぬいぐるみの出所にすぐ気づくだろう。そして、きっと大笑いするに決まっている。
「あ、いかん、想像しただけで眩暈がしてきた」
何故か、高笑いする来音の声が聞こえてくる。幻聴だと解っていても、脳が拒否してしまうのはこれいかに。
「涙ぐましく、イルカを愛でているどっかの誰かさんには負けますわ・・・うふふふふ」
・・・次の日、俺の予想を見事にぶち当てた来音は俺に盛大な皮肉をプレゼントしてくれた。
(ウルセェよ、巳園が俺のために選んでくれたストラップを愛でて何が悪いっ!!)
内心で苛立ちながらも、俺達はずっと笑い続けた。
「あははは」
「うふふふ」
近くで、「もう勘弁してくれ・・・」という遼河の声が聞こえたが、そこだけは、来音と2人そろってスルーしておいた。なんだかんだいって、この時はまだ余裕があった。巳園に彼氏がいないということも要因の一つだった。
だが、・・・巳園が一人暮らしする予定だと聞いたとたん、その余裕は、霧の如く消え失せた。
そして・・・巳園と向かい合っている今に至る。
一応、遼河に付き添ってもらったのは、自分が万が一暴走した時のストッパー役のためだ。
(何しろ、泣かした前科があるからな・・・・・)
アジトでの暴走を思いだし、遠い目になりつつも、巳園にコンビニでバイトしていることを伝えた。やっぱり、気づいていなかったらしい巳園は思いっきり驚いていた。
「え、もしかして、バイト先って・・・・こ、コンビニぃいいっ!?・・・あ、それで、私が気づいていなかったから怒ったってこと・・・?」
「少し、違う・・・ああ、もう・・・黙って聞けよ」
(・・・本当に、なんで伝わらないんだろうな。いや、俺の性格のせいもあるだろうが、彼女のスルースキルが高いことも関係しているんじゃないか?)
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