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鬼人族のメンバーの恋
【巳編】捻れた好き*10*
しおりを挟む(・・・・っ、保健室に連れて行かねーと!!!)
倒れた巳園を抱き上げて、すぐに保健室に連れて行った。
周りの悲鳴も知ったことじゃない。
(第一、文句を言っているのは、ほぼ俺の外面に騙されているやつらばかりだ。気にする価値すらない。)
とりあえず、養護教諭曰く、頭を打っただけだから異常はないということなので、安心して戻った。その時に、「お姫様だっこをよくできるな・・・」と、呆れた遼河から指摘を受けたが、その時はそんなことまで気が回らなかった。
巳園の親友である来音と一戦交えたものの、荷物を無事に巳園のいる保健室に置くことができた。ついでに、上履きも体育館靴と入れ替えておく。
当の巳園本人は未だに眠っていた。
まだ幼さが残る寝顔。
寝息が漏れる唇や頬や腕のぷにぷに感。
胸は・・・さすがに見ないようにした。
(なんというか・・・触りたいけれど、ダメだよなぁ、さすがに。)
名残惜しいが、先生もいることから長居するのは得策ではない。
なんとか理性を総動員して、保健室を出る。玄関に向かうと、遼河が待っていてくれていた。
「巳園は大丈夫なのか?」
「ああ、少し寝れば大丈夫だとさ」
「そりゃよかった。さすがに、俺のボールが当たった時はやべぇと・・・ひぃぃいいい、お、怒るなよ、うわっ、悪い、悪かったから、頼む・・・ぎゃああああああ!!」
・・・遼河にはしっかりとお仕置きしてやった。
しばらくは、見ているだけでいいと考えていたのに、同居していると、欲がでるものなのか。
家で着替えてから、アジトへ行こうと部屋を出ると、巳園の部屋から音が聞こえた。
(なんか、何かを蹴っている音が・・・布団かなにかか?)
隙間が空いていたのでそっと開けてみると、何故かベッドに寝そべって枕を抱えている巳園が見えた。何故か足をバタバタと動かしているし、一体何か考え事でもしていたのだろうか。男の性か、太ももが美味しそうに見えたが、すぐに思考を切り替えた。
(太ももが・・・って、俺はおっさんかよ。というか、・・・金魚みたいだな。)
「・・・・・ありえない」
・・・という呟きを聞いて、思わず声が出てしまった。声に出してしまった以上、部屋に入るしかなかったが、当の巳園は何故かいきなり、ベッドの上で正座になっていた。
「なーにがありえないって?というか・・・・何バカみたいに足を動かしてんの、お前は」
話を逸らされたのか、質問の返事は返ってこなかった。
それどころか、「・・・あの、なんでここに?」と聞かれる始末。
・・・ベッドの上で、枕を抱えての上目遣いはかなり強力だから止めて欲しい。
理性を必死に集めに集めた結果、ため息をついて落ち着くことが出来たが、出かけると言うと、巳園の顔が一気に曇った。しょんぼりと尻尾を下げた犬のように落ち込んでいる。
(おいおい、見捨てられた犬みたいな顔をするなよ・・・。)
素直に寂しいとか一緒に食べたいとかそういうのも遠慮して言えないのだろう。それなのに、目だけは必死に自分の気持ちを訴えてきている。
「底抜けのバカ・・・ちょっと待ってろ」
思わず悪態をついてしまったが、何とか必死に取り繕った。さすがにここまでシュンとしている巳園をほっとくことができず、夕飯に付き合うことにした。
話すきっかけを作れない俺に対して、話しかけてくる巳園に(内心で)感謝しつつ、会話に付き合う。
「いやいや、私のことを嫌っているのは解りますけど、せめて対外的に友好的な姿勢をですね・・・」
(・・・嫌うどころか、めっちゃくちゃ好きなんだが。そうか、巳園からしたらそう見えるのか。)
冷静に自分の行動を考えてみると・・・確かに巳園の言う通りだ。
友好的な姿勢ではなかったかもしれない。
(えーと、これ、どのタイミングで言うべきか・・・?)
そんなことを考えていたら、あっという間に夕飯の片づけの時間になった。遠慮する巳園を押しのけて、自分の分は自分で洗った。
夕飯を終えて、出かけようとした時になんとか訂正することができたが・・・あまりの恥ずかしさに逃げてしまった。果たして伝わっているかどうかが心配ではあった。
「あのな・・・なんか、誤解してるみたいだから言っとくけど・・・別にお前のことが嫌いな訳じゃない」
・・・次の日の巳園の反応からして、伝わっていないことは明白だった。良いのか悪いのか。
複雑な思いを吐き出すべく、遼河に八つ当たりしておいた。
「俺に八つ当たりばっかりしてるといつか天罰が下るぞっ!!!!!!!」
遼河の戯言ざれごとは華麗にスルーした。そんなこんなで、当たり障りのない関係と日々が続いたある日。アジトで、副総長❘虎矢とらやさんや、他の幹部達と一緒におしゃべりしていたら、マスターが部屋に顔を出してきた。
「おーい、虎矢、巳園奈津ちゃんっていう子がお前を呼んでいるぞ。なんか弁当箱かなんかだと・・・」
まさか出てくるとは思わなかった名前に思わず、飲んでいたブツを吐いた。黄色い炭酸と泡まみれになったままだったが、そんなことを気にする余裕はなかった。
「はぁああっ、な、なななな、なんで、巳園が?!」
「なんで・・・って、俺に会いに来たんだろう?」
けろりとした顔でいう虎矢さんを見て、真っ青になった。
(え、なんで?弁当箱・・・いつの間にそんな関係に?え、でもそんな気配はなかったはず。)
気付けば、俺は暴走していたらしい。
我に返った時には、泣いている巳園が目の前に立っていた。
「はいはい、そこまでー!ヘビ、ちゃんと奈津ちゃんを見なよ。・・・・泣いているじゃないか、強く言いすぎだよ」
「・・・っ・・・・・・あ・・・・」
「大丈夫?怖かったねー、よしよし」
「せん、ぱい・・・うっ・・・うう・・・」
(・・・・・あ・・・・・・・・・)
ヤバいと思った時はもう遅かった。彼女は俺に怯えて近寄りもしない。虎矢さんの胸に顔を埋めて泣いているのが見えた。おい、まて、なんで他の男の胸に・・・・と思ったが、原因が俺なだけに何も言えないし、言える立場じゃない。
(でも、でも・・・・っ・・・・!!!)
嫉妬と後悔で頭がいっぱいになっていた時に、虎矢さんからの説明が耳に入ってきた。正直全部は頭に入っていなかったが、今の巳園に何かを言える状態ではないということだけは解った。
結局、巳園は混乱したまま出て行ってしまった。
後に残ったのは気まずさと後悔。
混乱した頭の中で、幹部仲間や虎矢さんの言葉が耳に残った。
「・・・ヘビぃ、副総長が悪ふざけしたのは確かにダメだと思う。だが、泣かせるほど詰め寄ったお前もダメなんじゃないか」
「なんか、機嫌取りぐらいはしておけよ。このままじゃ、これから挽回するのは厳しいと思うな」
「嫌われてもしーらねぇっと。さすがに俺でも無理だわ」
(機嫌取り機嫌取り嫌われる嫌われる機嫌とらないと・・・・・!!!!!!)
遼河の一言がトドメになった。アジトで集会を終えた後、ダッシュでいつものバイト先へ寄った。
レジのカウンターでは、田城さんが目を丸くして立っていた。
「あれ・・・錦蛇君?今日はシフトに入ってない日ですよ?」
「今日は、客として買い物に来ました」
テザートコーナーにあったプリンを一種類ずつかごに入れて、レジに向かった。レジで相手をしてくれた田城さんが驚くぐらいたくさん入っていた。
「わー、いつものプリンちゃんが見たら驚きますね」
袋に入れてくれる田城さんを見て、ふと聞いてみたくなった。田城さんは俺が入っている暴走族の総長の彼女ということもあり、俺が暴走族と知っている数少ない人間の一人だ。それもあって、信頼できると踏んで、思い切って聞いてみた。
「田城さん。気になっている女の子を嫉妬で泣かしてしまったけれど、あっちは俺の好意に気づいていません。そういう時ってどう謝ったらいいんですかね?」
「・・・つまり、貴方が嫉妬していたことを彼女は知らないわけですよね。だとしたら、それは完全なるエゴです。理由をいわなくてもいいので、さっさと謝ったほうが得策だと思いますよ」
「・・・エゴですか」
「相手に解らないのに、自分勝手な思いをぶつけることは良くないですよ?どうしてもぶつけたいのなら、自分の気持ちをはっきりと伝えた上で、言うべきでしょう」
「田城さん・・・やっぱり、あの登良野の親友ですね。抉り方が半端ない・・・!!」
(甘く見ていた・・・そりゃそうか、あの登良野を御することができる唯一の人間だし、何より、❘龍野《たつの》さんの彼女・・・。)
「・・・ねぇ、ヘビくぅーん?」
「ひっ!!!!な、な・・・・・た、龍野サン・・・・?」
後ろに嫌なオーラを感じ、肩を叩かれた俺は恐る恐る振り返る。やはりというか、なんというか、そこには般若顔の龍野さんが立っていた。
「10000歩譲って、袋を渡されたのは理解する。でもね、何~故、そこでずっと握りしめたままなの~?なんで、俺の許可もなしで、香帆に触れてんの?あ、解った。お前、死にたいわけね~?俺のお仕置きを受けたいってことだよね~?俺でさえ、なかなか触れられない香帆のチョーあったかい温もりを感じた対価はすっっごく高くつくよ?」
(ひぃいいいいい、しまった!!! 袋を貰う途中で聞いたもんだから、固まった状態に・・・・!!)
弁解する間もなく、俺は首根っこを引きずられてコンビニを出た。田城さんはおろおろしていたが、そこはやはり龍野さん。うまく口八丁手八丁で誤魔化していた。
(大丈夫、健全に口頭で説教するよと言っているが、絶対にこの人のことだ、それだけで終わるはずがないい!!)
・・・この後のことは思いだしたくもない。口にも出したくもないお仕置きを受けてボロボロ状態。なんとか無事に家にたどり着けたことを心の底から喜びたい。
家についてすぐに、巳園の部屋に行って、プリンを差し出した。
巳園は解りやすく、プリンを見て目を輝かせていた。・・・この時ばかりは彼女の単純さに感謝したぐらいだ。
(あれか、『目は口程に物を言う』って・・・本当にあるんだな。マジでキラキラさせてるし。)
巳園の顔は泣いた後だからか、目も腫れ、頬も少しカサカサしているし、涙の跡のせいか赤くなっている。声もちょっとガラガラした声だ。
申し訳なさと罪悪感が一気に襲ってきた。
思わず手が伸びてしまった。巳園が少しビクッとしていたが、そんなことを気にする余裕はどっかに消えてしまっていた。
・・・・・頬を撫でるだけのつもりが、ちょっと涙を舐めたりキスしたりしてしまったのは、ご愛嬌・・・ということにしておく。
自分でもなんでしたのかさっぱりわからない。
後から部屋に戻って一気に恥ずかしくなってしまったのは秘密だ。
(あーでも、役得かもしれない・・・どさくさに紛れてできたし。)
次の日の朝、巳園から改めてお礼となんか・・・皮肉・・・みたいなことを言われた。
「えっと、昨日はプリンをありがとうございました。でも、あまり他人にその、あんなことはしないほうがいいですよ。私は嫌がらせとすぐにわかりましたけれど、変な目で見られるので気を付けた方がイイですよ!」
遼河に愚痴ったら、何故か遠い目をされてしまった。
「巳園のやつ、ほんとこんな奴に好かれてかわいそうに」
「それってどういう意味だよ」
べつにぃいいと深―いため息をついた遼河をぶっ叩いた俺は悪くない・・・多分。
そんなこんなありつつも、久々に家族そろって夕飯を食べていた時、巳園からとんでも発言が。
「あ、あの、お母さん、お父さん、明日遊びに行くよ。ちょっと、いつもより遅くなるから夕飯いらないね」
(あー。また来音と一緒に遊ぶつもりか・・・・・。)
呑気にそんなことを考えつつ、食べていたら次の瞬間に聞こえた言葉に思わず固まった。
「えっと・・・言えないです。あの、ごめんなさい」
巳園の言い方に、思い当たったのか、母さんがニヤニヤしだした。そして、義父の方も、複雑そうな表情で唸っている。
「そうか、奈津もそんな年頃なのか・・・」
「うふふ、青春よねぇ・・・・・」
(え。それって・・・あれか、まさか・・・・・・・・・・・)
まったく記憶にないが、巳園が消えた後も、母さんからビンタを食らうまでずっと固まっていたらしい。
人間、想像を超えると何も考えられなくなるんだな・・・・恐るべし。
気になってしまい、よく眠れなかった。
朝早くからリビングで不貞腐れていたその時、巳園が降りてきた。
(おいおい・・・完全なるデートじゃねえか。肩のあいたトップスに、ちょっと短めのスカート・・・ネイルに化粧まで・・・)
ばたんと玄関の扉が閉まったのを見計らって、ダッシュで二階に行き、目立たない服に着替える。
「え、ちょっと、どこへいくのよ、翔!」
「気にすんな、ちょっくら、出かけるだけだ!!」
母さんの小言も無視して、玄関の扉を勢いよく叩いた。
(ただし、巳園の後を追う形になるがな!)
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