香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*7*

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奈津は、イミフと言いたげな表情で、目の前で対峙している2人を眺めていた。

「はははははは、その節はどうも」とお辞儀したのは、錦蛇 翔。言わずと知れた奈津の義兄である。
そして、「いえいえ。こちらはすっごく、楽しませてもらったから問題ないわよ」と返したのは、奈津の親友の、来音 朱莉。

あんたらはあれか、ハブとマングースかっていうぐらいのケンカ腰を見せているが、奈津は2人が対峙している理由にまさかの自分が関係あるとはこれっぽちも気づいていない。

隣を見ると、猿渡君が胃を抑えてうずくまっていた。よほど胃が痛いらしい。

(そういえば、昨日休みだったっけ。)

もし、この時に、猿渡が奈津の思考を読めていたら、「いや、胃痛は目の前の2人のせいだ!」と叫んでいたに違いない・・・哀れ、猿渡さるわたり遼河りょうが

「うう・・・・やっぱり、こうなるのかよ」
「昨日、休んだんでしょ?大丈夫なの?」
「ああ、休んだけれど、結局アジトで捕まったから意味がなかった・・・というか、巳園はコレを見て、何とも思わないのか?」
「うーん、朱莉はともかく、錦蛇君は、家でもあんな感じだよ」
「嘘だろ!!!」
「いや、ほんとに。私の前では、こんな風に不機嫌です」

奈津が指さした先には、確かに不機嫌な顔を見せている翔が。
一度立ち上がった猿渡は頭を抱えて、再び蹲った。

「そりゃそうか。くそ、面倒なやつだな・・・」

(・・・・どうしたんだろう?)

奈津の呑気な様子を余所に、朱莉と翔は相変わらず睨み合ったままだった。

「そういえば、ぽっちでぬいぐるみをお買いになったとか」
「何のことかさっぱりわからないなぁ、その厭味ったらしい様子だと、さぞ、彼氏さんも苦労されてることだろうね?」
「あら、彼はとっても優しい人よ。どっかの誰かさんと違って素直ですし」
「あははは、面白いこというね」
「涙ぐましく、イルカを愛でているどっかの誰かさんには負けますわ・・・うふふふふ」
「あははは」
「うふふふ」

・・・・退屈になった奈津は、というと、完全にスルーし、弁当を広げていた。本当に、たまたま、この理科室で弁当を食べていたら、男2人がいきなり入ってきたのだ。だが、唖然としていたことから、2人は、奈津達がここにいるとは知らなかったのだろう。
そして、何故か、冒頭のように、朱莉と翔がにらみ合う形になったというわけである。

「・・・巳園、お前すげーな。あの2人を前に弁当とか」
「だって、時間は無限じゃないもん」
「まぁ、そうだけれどよ・・・」
「猿渡君も、さっさと弁当を食べた方がいいと思うよ?ほら、一緒に座ろう?」
「う・・・弁当は食べるけれど、ちょっと離れて食べるわ・・・さすがに昨日の今日で死にたくない」

思いっきり首を横に振られてしまった。
怯えるように、少し離れた席へと座って、弁当を広げ出した彼に対し、奈津は、首を傾げたが、目の前のご飯優先とばかりに、弁当に手を付けだした。ちなみに、弁当は彼女の手作りである。

「・・・もう面倒だわ。さっさと消えて」
「そうさせてもらうよ・・・というか、何をのんきに食べているんだ、遼河」
「だってよう・・・」
「・・・・・解った、俺もここで食べる・・・どけ」

奈津と、遼河の間に陣取った翔は、パンの袋を開けて食べ始めた。ちなみに、朱莉は一番端で奈津の右隣だ。

「あら、奈津は弁当なのに」
「いちいちうるさいよ、来音。俺の勝手だろう」

不貞腐れながら食べ続けている翔に対し、奈津は思いついたように口を開いた。

(そうだ・・・いい機会だから、妹としてできるアピールをしておかないといけないかも。弁当作りとかいいチャンスだよね?)

「じゃあ、私が作りま・・・」
「いらねぇよ!」
「・・・ですよね。失礼しました」
「あ・・・いや、その」
「いいんです。考えてみれば口を出し過ぎました。ごめんなさい」

ものの見事に即答で拒否されてしまった。しょうがないとばかりに引き下がった奈津は、弁当箱を片付けだした。そのため、男子2人がボソリボソリと会話していたことにも気づいていない。

「あ、ああ・・・」
「翔、さすがの俺もお前がバカに見えてきた」
「・・・・うるさい」

しかし、一部始終を見ていた朱莉は笑いをこらえるように顔を背けている。奈津に見られたら、色々聞かれそうなので、何が何でも、声は出さない。しかし、ニヤリと翔の方を見ながら、奈津へのフォローはしっかりしておいた。

「私はいくらでも欲しいわよ。特に、奈津が作る豚肉のアスパラ巻きは絶品だもんね」
「ありがとう、朱莉。朱莉の作る卵焼きも美味しいよ」

当の奈津は朱莉の方を向いていたため、翔が苦々しい表情をしていたのに気づかなかったが、朱莉からみれば、解りやすく嫉妬しているのがバレバレだった。

「これだから、来音は・・・!!」
「いや、今回ばかりは、お前が悪い。なんで、せっかくのチャンスを不意にするんだよ」
「いや、だって・・・」

(何をぼそぼそ喋ってるのかなぁ・・・チャンスとかなんとか・・・。)

話も気になるが、それ以上に気になるのは、男子2人がここに来た理由だ。
奈津はこっそりと、朱莉に対して聞いたのだが、当の朱莉は平然と、男子2人に聞いている。

「朱莉、あの2人どうしてここに来たんだろう?」
「そういえばそうね。ちょっと、どうしてここに来たの?」
「あー、4限目が理科だったんだけれど、ノートを忘れたのに気づいて、取りに来たの。ついでに、弁当もここで済まそうって話になったから、翔も一緒に来た」
「ああ・・・・納得。私らは大抵ここで食べてるからね」
「ふーん。」
「私が、科学研究部っつーこともあるんだけれどね。どうよ、羨ましいなら、取引次第では入れてやらん事もないわ」

朱莉が、ふふーんと楽しそうにカギを持って、翔に対し、おもいっきり挑発していた。
奈津はというと、彼がこんな安い挑発にのる理由もないから、効果はないだろう・・と考えていたので、我関せずとばかりに、食後のプリンに手を付けだした。

(錦蛇君のことだから、スルーするよね、きっと。)

しかし、奈津の予想に反して、翔はその挑発にのってしまった。

「うぜぇ・・・で、その取引っつーか条件は?」

(えええええ?なんで、のっちゃうのぉお?なんか、朱莉の顔からして嫌な予感がするんですけど!)

それに対し、朱莉は、反応を解っていたかのようにあっさりと答えた。

「簡単なことよ。丁度、奈津が悩んでいることがあるんだって、あんたら、相談に乗ってやんなさい」
「え、ええっ、私?」
「・・・おい、巳園が一番驚いてるんだが?」
「奈津ね、新しいお兄さんが出来たんだって。でもすっごく嫌われていてねー」
「・・・で?」

ここまでくれば、奈津にも、朱莉が言おうとしていることが解った。慌てて、朱莉の口を塞ごうとするが、時遅し。奈津が慌てるのを見て余計に気になったのか、翔は朱莉の方を睨みつけた。朱莉というと、、嫌がる奈津を押しのけて、翔の目の前であっさりと暴露している。

「もしかしてソレ言うのっ!?ちょ、ちょっと・・・迷惑だからやめてぇえええ!!」
「だから、1人暮らしするつもりなんだってさ」
「はぁああっ?」
「え・・・・・・?」
「言っちゃったよ・・・・うわぁ・・・よりによって、本人にばらすとか・・・・」

奈津は思わず頭を抱えた。よりによって一番知られたくなかった人物にバレてしまった。
そこにポンと何故か肩を叩かれた感触がした。嫌な予感を感じた奈津が、恐る恐る振り返ると、いい笑顔をみせた翔が立っていた。ただし、後ろからただ漏れな負のオーラは隠せてなかったが。



「・・・どういうことか、説明してくれるよね、巳園さん?」




(ぎゃああああ、怒っている理由がわかんないぃ・・・この人は、私がいない方が都合よいはずなのにぃいいい!!!!)



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