香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

文字の大きさ
上 下
39 / 58
鬼人族のメンバーの恋

【巳編】捻れた好き*1*

しおりを挟む
巳園みその 奈津なつ。高校2年生、成績は中の上で、顔も平均的。

そんな私だが、半年前に父が再婚した関係で、同じ年の義理の兄ができた。
 新しく母となった女性とは割とすぐに打ち解けることが出来てほっとしていた。・・・問題は、その義理の兄の方。

 「奈津、おはよう」
 「おはよう、朱莉あかり

 学校に着くと、親友が話しかけてきてくれた。

 「いやぁ、今日も凄かった。今でも、隣のクラスで未だに女子がキャーキャー騒いでいるのが聞こえてるし」
 「・・・・あっちは有名だから」
 「さすが、天下の錦蛇にしきだかける様ってか」

 私の義理の兄となった錦蛇にしきだかけるは、同学年どころか、学校の中じゃ、名前を知らない者はいないほど有名だ。(まぁ、3年の鬼人族のみんなの人気には及ばないらしいけれど。)
成績は常に1位か2位。
スポーツ万能で体育祭のリレーは常に上位。
先生たちの覚えもめでたい優等生。
かと思えば、生徒会に入るタイプでもないと謙遜しているし、友達付き合いもフレンドリーで厭味がない。でもって、喧嘩も強いらしく、暴走族のリーダーとも仲がいいという噂もある。
とにかく超がつく人気者で、他校にもうわさが広がるほど有名。
そんな義理の兄は、学校では『錦蛇』の姓を名乗ったまま、過ごしている。

 「・・・・・そうだね」
 「うーん、正直、今でも信じられないんだけれど、あんたが言うんなら相当な猫かぶりだよね、あれ」

 親友が肩を竦めたのを見ながら、奈津は思いだしていた。彼との初対面の時のことを。

 (あれは・・・再婚を前に、初めて家族全員で夕食会に行こうってなった時だっけ。)

 「あ、錦蛇君・・・」
 「・・・ちっ・・・義理の妹になるのってお前だったのかよ」
 「ちょっと!! ごめんね、奈津ちゃん。あなたね、妹が出来るって楽しみにしていたのに、どうしていきなりそんなことを言うのよ?」
 「・・・母さん、巳園さん、やっぱり昼間に言ったこと、撤回する。再婚は構わないって言ったけれど、こいつが妹になるっつーんなら、条件を付け足す」

 (いきなり、お前とかこいつ呼ばわりされた上に、私を前にして条件を付け足すとか・・・そこまで嫌われているのって、相当だよね。何か、知らないうちにやっちゃったんだろうか。)

ぼんやりとしながらも、義兄が付け足した条件に対して、頷いたことだけは覚えている。

 「学校では絶対にこの子と兄妹になるってことは伏せておいて。もちろん、学校では名字も変えない。お前も絶対に学校ではしゃべるなよ。俺は・・・・お前と兄妹の関係になるのはまっぴらごめんだから」

 (・・・あの状態でよく家に来る親友にだけは話していいかと口に出せたもんだなぁ、私。)

 「はぁ。ま、そいつの口が堅いならいいぜ」

ということで、朱莉(あかり)にだけは話したのだが、この通り義兄の外面が良いため、あまり信じてもらえていない。
奈津は家に帰った後も、必死に思いだそうとしたが、どう考えても嫌われる理由が思い当たらない。
そもそも、あっちが有名だから名前を知っているとはいえ、余り話すような仲でもないし、ファンでもないので、追っかけてもすらない。結論、手の打ちようがない。
そのため、お手上げ状態。同居して半年経った今でも、奈津に対して冷たい態度が続いている。

 (何かしたのなら謝りようはあるんだけれど、あっちは話しかけてくんなってカンジだし・・・お母さんが必死に謝ってくれる分居た堪れない。)

チャイムが鳴ったので、我に返り、自分の席に座った。朱莉はまた後でねーと手を振ってくれた。 昼休みになって、弁当をと思い、鞄を開けた奈津だったが、真っ青になっていた。

 「どうしたの、奈津?」
 「・・・弁当を忘れた・・・売店に行かないと」
 「ありゃ、いってらっしゃい」

しょうがないから売店に行くと、財布を持って立ち上がった時、いきなり教室で悲鳴が上がった。
 朱莉と2人でドアの方を見ると、翔が笑顔で立っていた。しかも、奈津の弁当が入った袋を持っていて。それを見た奈津が固まったのは言うまでもない。

 「巳園さんの弁当でしょ?廊下に落ちていたよ?」

そう言われて、近寄らないわけにはいかず。しぶしぶと近寄り、弁当を受け取ったその時、翔が耳元で囁いてきた。

 「忘れ物するとか、小学生かよ。言っとくが、二度目はねぇからな」

 耳元から離れた時の翔の笑顔と対照的な冷たい声に、奈津はぞわりと身を竦ませた。そのせいで声が裏返ってしまったが、気にしたら終わりだと瞬時に判断した。

 「・・・アリガトウゴザイマス」
 「どういたしまして。それだけだから、じゃあね」


 (・・・だから、ほっんとうに何をしたの・・・・私ば!!!)


 周りに注目されながら席に戻るのも辛い。のろのろと椅子に座るとすぐに机に頭を伏せた。
この一瞬でライフポイントがゼロになった感が強い。

 「・・・めっちゃすごいオーラだね。見てみなよ、クラスの女子に注目されているじゃん」
 「朱莉、言わないで、お願いだから・・・」
 「あんな人が奈津を嫌うって、相当なことしたんじゃないの?」
 「でも、本当に身に覚えがないんだってば」

 弁当を食べながらも、朱莉とひそひそと会話をしていたが、やっぱり思い当たることがなく、やけ食いするしかなかった。




 (第一、あんな有名な人に何かやってたらとっくに思い出しているよ・・・・!!!)




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...