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日々の変化と時の流れ
しおりを挟む「最近、二人」
「寂しいですよね」
「・・・でも、夜会う」
「まあ、そうなんですけれども・・・そういえば、虎矢さんはどうしたんですか」
「隆・・・お仕置き中。教室・・・いる」
最近、八尋も虎矢も受験の関係で、忙しくて、学校では、なかなか会えない日が続いている。
香帆は素直に寂しいと口にするが、虎矢と同棲している莉里としては複雑な思いだ。しかも、つい最近、トラブルもあった。それについて、莉里は怒っていたが、それを知らない香帆は目を丸くした。
「喧嘩でもしました?」
「喧嘩・・・・違う。隆、弁当箱落とした・・・族長のせい」
「そうなんですか?」
「それ別にいい。次、族長シメる。でも、女の子泣かす、良くない」
「どういうことですか?」
「その子、ヘビの妹。隆、ヘビに内緒でアジトに来た。ヘビ怒る、妹泣いた・・・隆のせい」
「ヘビ・・って、錦蛇君のことですよね?なんで、怒ったんでしょうか」
「知らない。でも、泣かすの、ダメ・・・ギチギチにシメた。2人とも」
「ああ、それで、朝に、錦蛇君が頭を下げていたんですね」
今日の朝、何故か、錦蛇君が床に正座しており、莉里が冷たい目で錦蛇君を見降ろすというカオスな状況を見たのだ。
香帆が来たことで莉里が機嫌をよくしたことで、終わりを迎えたが、錦蛇君はいたたまれなかったのではないかと察せられる。ちなみに、このことで、香帆最強説がさらに有力になったことはいうまでもない。
「とにかく、色々ある・・・たまにが丁度よい」
「そうなんですか・・・・・でも、毎日会えるのは羨ましいです」
「そう?でも、帰り、実家?」
「多分、来るとは思いますけど・・・そうだ、スーパーに行かないといけませんね」
莉里に返事を返しながら、香帆は弁当を食べ終えた。黙って頷いた莉里のほっぺはリスのように膨らんでいた。その日の放課後、香帆はスーパーに寄ってから、実家に寄った。実家にお客様が来ることが増えたのだが、その客が 、香帆に関わりのある人物であるため、香帆が料理を担当している。
「大丈夫ですか?味づけ、どうでしょうか?」
「いやぁ、お義父さんと呼んでくれてもよいのに、香帆ちゃんは真面目だなぁ。もちろん、美味しいよ」
「え、えっと・・・(どう返せばいいのか解らない!!)、こちらのサラダもどうぞ」
「はいよ。ああ、美味しいねぇ。いや、ほんと、いいお嫁さんになるよ、そう思わないかな、真帆君」
「ははは、まだ嫁にやるつもりはないですよ、まだね!」
「はっははっ、八尋のことだから、卒業後の可能性は高いと思うけれどなぁ」
そう言いながら、香帆が作った夕飯を食べているのは、龍野八郎。
八尋の父親である。何度か会ったことがあるが、何故かここ数日、一緒に食べる様になっていた・・・しかも、何故か田城家で。なかなか帰ってこない志帆は、ともかくも、冴帆と真帆、そして香帆と八郎の4人で食べることが増えている。だが、こうやって、真帆と八郎が、表面上にこやかでも、裏で火花を散らす勢いで会話をしていることに気づいていたのは、冴帆のみ。
当の香帆は、これっぽちも気づいていなかった。
「香帆ちゃん、大物になるわぁ・・・」
「何故そんなんに怖がっているんですか、冴帆お兄ちゃん?」
「なんでもないわよ・・・というか、何故、龍野さんが来るようになったのかしら?」
「さぁ、真帆お兄ちゃんが呼んだらしいんですけど」
「確かに1回誘ったけれどね、まさか味をしめてやってくるとは思わなかったよ。さすがに息子が息子なら親も親かな」
「はっはっ、お土産も持参しているし、夕飯の材料費もちゃんと払っているだろう?いやぁ、八尋が頑張ってるからね、親としても、色々と根回しをやっておかねばと思ってなぁ。おっ、香帆ちゃん、このドレッシングは手作りかい?」
「あ、はい。とはいっても、志帆お兄ちゃんにレシピをもらって作ったものですが・・・」
どうやらサラダにかかっているドレッシングが気にいったようで、美味といいながら頬張っている様子はやはり、八尋によく似ていた。
ともあれ、そんな風に、保護者同士の交流が深まりつつあった頃、チャイムが鳴る音が聞こえた。恐らく八尋だろうと見当をつけていた香帆は迎えに行こうとするが、冴帆の方が早かった。
数秒後、玄関でぎゃあああと悲鳴が聞こえたが、真帆も八郎もどうでもイイとばかりに放置している。
香帆はまたかと、眉間に皺を寄せたが、沙帆が、八尋の悲鳴ぐらいで止まるわけがなく。
「ひぃいやあああだだだ、ぎゃふーーーーっ!!やめてくださぁいぃ、冴帆さん!!」
「ひどーいっ、私の抱擁が受け入られないというのねっ!?」
「いやいや、どう考えても嫌がらせデショーーーー!!香帆、香帆ぉ、たすけてぇえええ!!」
これまた、いつものパターンだと思いながら、香帆は玄関に走って行った。しばらくして、冴帆という背後霊をつけた八尋がげっそりとした様子でリビングに入ってきた。
「お邪魔します・・・いっつもスミマセン、真帆さん」
「いらっしゃい。まぁ、別にいいんだけれどね・・・冴帆・・・離れなさい」
最後の方が冷たい言い方になっていることに気づいた冴帆は即座に離れた。最初から離れろ・・・と思わなくもないが、この家では真帆が最強の主である。八尋はこれ以上突っ込みたくないとばかりに、父親の隣の椅子に座った。
「親父、食べすぎじゃね?」
「いいじゃないか、美味いぞ?」
「・・・ほんと、ゴメン。親父と揃ってまさか世話になるとは思ってなかった」
「私は別に大丈夫ですよ。でも、自動車学校が近所で良かったですよね」
「ありがたかったけれど、さすがに自動車学校と受験の並行はきっつぃ・・・!!」
八尋はここ最近、自動車学校にも通っている。どうせなら取れる時に取っとこうという訳で始めた。そして、その自動車学校が終わった後は、真帆から指導を受けるために、田城家へ寄っている。その関係で、八尋の父親である八郎と真帆が知り合うことになったというわけだ。
八尋が食べ始めた時、話題は大学入試のことが中心となっていた。
「そういえば、八尋ちゃん、大学入試は大丈夫そう?真帆にも指導を受けているんでしょう?」
「うーん、合格圏内とは言われたけれど・・・本命はギリギリっぽい感じ・・・・?」
「そういいながら、80%はできているじゃないか」
「でも、安定はしていませんよ」
「まぁ、真帆が指導してるなら、問題はなさそうだけれどねぇ、油断だけはするんじゃないわよ」
「うっ・・・気をつけます」
冴帆の指摘に、危機感を感じたのだろう、眉間に皺を寄せた八尋に、香帆は苦笑いするしかなかった。というのも、真帆はかなり厳しいことで有名だ。恐らく、八尋が気づかないだけでハイレベルな問題を出しているに違いない。それを80%こなせるというのだから、多分入試も大丈夫だろうと思っていた。特に、八尋は前期を受ける。後期と違って教科数が少なく、小論文が中心となる。その辺を考えての対策もきっとされているはずだ。
と、その時、八郎が香帆に対して質問を投げた。大学入試繋がりで思いだしたのだろう。
「そういえば、香帆ちゃんは、もう行きたい大学を決めたのかい?」
「あ、はい。歴史の勉強の傍ら、学芸員の資格が取れるところへ行こうかと思っています」
「ああ、博物館の」
頷くと、八郎は納得した様子で何度も頷いている。色々と迷ったが、香帆もようやく進路に対して本腰を入れ出した。八尋の受験が終わり次第、香帆も真帆からの指導を受けるつもりでいる。唸っている八尋に対して、真帆がしれっと纏めた。
「まぁ、医学部は入ってからが勝負というだろう。6年制の上に、国家試験を受けねばならんのだからね。それを考えれば、知識は多くあるにこしたことはない」
「ううう、はーい」
「八尋クン、勉強を始める時間はいつもと同じでいいかい?」
「はい、お願いします」
頃合いとばかりに立ち上がった真帆に対して、八尋は頭を下げた。
夕食の後、香帆は八郎と一緒に、台所で皿洗いをしていた。八郎は世話になっている身だからと、積極的に手伝ってくれる。そして、大抵は、アパートの方へ送ってもらうことが多い。
八尋が世話になっているからと、仕事が忙しいにもかかわらず、いろいろと配慮してくれるので、香帆としては恐縮するしかない。
「コレが終わったらいつものように送ろう」
「いつも申し訳ありません」
「いやいや、香帆ちゃんがここに泊まるのは八尋にとっても良くないからな」
「親父、聞こえてんぞ―――――人を獣みたいに言わないでぇ!!!」
「・・・八尋があんなふうに言うようになるなんてな。やっぱ、香帆ちゃんは偉大だわ」
「いえ、八尋・・・・先輩は、元からあんな感じですけど」
「いやいや、本当に、過去の八尋を見せてやりたいぐらいだよ」
八郎が好意的なのは、香帆のお蔭で、八尋がいい方向に変化していることが大きい。しかし、女遊びが激しいことは知っていても、どういう風に腐っていたかを知らない香帆としては、八尋を変えたという意識があまりない。
八尋に聞いても、「はっはっ、香帆が知る必要はないですよー?むしろ知らないままの方がきっといいと思うの・・・とにかく、調べないでください、聞かないでください、お願いだから知らないままでいてくださぃいいい!!」と、スライディング土下座をされたので、それ以上は何も聞けなかった。
アルバムは自由に見ていいということからして、どうやら証拠隠滅も完璧に終えているらしい。
スライディング土下座は誠意が感じられないと言われるが、その時の八尋は真っ青にガクブルに震えていたことから、本気で知られたくない模様。
そんなこんなで、八郎に送ってもらった後、アパートで寝るということが最近の日課になっていた。
風呂を終えて、ドライヤーで頭を乾かしていた時に、スマホの着信音が鳴った。スマホを見ると、八尋からのメッセージがいつもの様に入っていた。それに対して、香帆は返事を打つ。
八尋:今日も料理美味しかった!いつもありがとうございます。(スタンプ)そうだ、親父、またばかなこと言ってなかった?変なこと言っても、絶対にスルーしてね?( ;∀;)
香帆:今日もお疲れ様です^^車では、小学校の入学式の時のエピソードを話してもらいました。
八尋:ぎゃああああ!!(スタンプ連打)
香帆:なかなか行進に入ることが出来なくて、泣きながらお父さんに駆け寄ったとか。昔は泣き虫だったんですね。
八尋:・・・うう( ノД`)シクシク…親父のバカぁあ・・・これだから油断も隙もねぇwもういいよぉ、風呂入って寂しくひとりで寝てやるんだからっヽ(`Д´)ノ
香帆:(画像)
八尋:香帆さんや、嫌がらせに、俺の猫耳写真を載せるのやめてくださぃいいい。(スタンプ)
香帆:可愛いと思うんですけどね・・・・おやすみなさい(画像)
八尋:香帆の方が可愛いのー!!!受験が終わったら絶対にいちゃついてやるー!!おやすみ!(スタンプ)
香帆:(オコトワリスタンプ)+(おやすみスタンプ)
いつものやり取りに満足した香帆は、布団にもぐった。この後もきっとメッセージが来るだろうが、スルーの方向になるのもこれまた、いつものことである。
「受かったようぉおおお!!」
「俺も受かったわ・・・いやー大変だった」
しばらくして、八尋が本命の大学に合格したというニュースが届いた。隆も同じように大学に合格したということで、久しぶりに学校に集まった時、みんなで喜びあった。
「いやー久々に集まるとほっとするね」
「あっという間に1月・・・・早い」
「ほっんとう・・・・大変だったー。冬休みは、香帆と会えたけれどなかなか遊べなかったし。うう。香帆、俺も落ち着いたし、デートしようよ、遊ぼうよーたくさんたくさんやることあるんだから!!」
「でも、クリスマスパーティーも家族ぐるみでできたし、誕生会もしましたし、私は、全然寂しくなかったですよ?」
「俺は香帆といちゃこらしたいのー!!!後、二ヶ月ぐらいしかないんだよ、学生の香帆を味わえるのは!!どうせなら、もっと美味しく味わいた・・・げふっ!!」
そういいながら、八尋が香帆を抱きしめようとするが、莉里の飛び膝蹴りによって阻まれた。
「族長、下品」
「小娘・・・いっつもいっつも邪魔するなぁああ~~!!」
莉里を追いかけようとする八尋だが、なかなか捕まらない。追いかけっこをしている2人をあきれ顔で見ている虎矢と2人で顔を見合わせて笑った。と、その時、虎矢が真顔になったのにびっくりしたが、虎矢の意図が解った香帆は、深く頷いた。
「・・・まぁ、あんな馬鹿でどうしようもない親友だけれど」
「はい?」
「これからも、あいつをよろしくね、香帆ちゃん」
「――はい!」
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