香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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番外編:進路相談(真帆目線)

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俺は志帆と2人で顔を見合わせた。
もうお正月も過ぎてけっこう経つのに、未だにクリスマスのことをグチグチと言い続けている冴帆の落ち込みようが半端ないからだ。こういう所が女々しい・・・と思いつつ、黙って夕飯を食べ続けた。

「ううっ、香帆ちゃんとクリスマス会したかったのにぃいいい!!
「あーもう、うっざ。俺だってクリスマスパーティーしたかったよ、家族でな」
「聞こえる様に言うな。揉めるから」
「聞こえる様に言ってんだよ、そもそも、冴帆兄貴のせいだかんな」
「うっ・・・うう、ひ、酷いわ、志帆だって、盗聴のことを怒られた癖に!」
「うっぐ」
「俺に言わせればどっちもどっちなんだがな」

豚汁を飲み干した真帆はため息をつき、出かける準備をはじめた。
今日は久々の休みで香帆に会いに行くことになっているが、敢えて目の前でケンカをしている2人は誘わないことに(たったいま)決めた。

(・・・こいつらが行っても香帆の相談にのれるとは思えんし、また喧嘩しそうだしな。)

「じゃあ、行ってくる。」

2人の言い合いを余所に真帆は家を出た。昔は忙しかった親に反抗して族で暴れたりもしたものだが、その当の親が死んでから族を解散してまで、香帆の世話を必死にやってきたのは、自分たちのためでもあるが、贖罪のためという方が大きい。香帆はあまり両親の温もりを知らない。俺達も暴れてばっかりで香帆を見ようともしなかったし・・・。

(両親が死んで初めて、現実に直面したんだよな・・・葬式のこととか遺産のこととか、香帆の進路のこととか。生活費とか。)

本当に、世間知らずだったと今では思う。金は増えることもあるが、減ることもある。むしろ、減ることの方が多いのだ。特に両親は料理店をやっていたから、群がるハイエナが酷かった。
結局、店は畳まざるを得なかったが、何か思うことがあったのか、志帆がいきなりシェフになると言い出したことには驚いた。
幸いにして、俺も冴帆もなんとか仕事にありつけたが、未だに学ぶことが多い。

(大人になった今、余計に感じさせられることはたくさんある。)

子どもの時は気づかなかったことがたくさん見えてきて、ああこういうことかって実感することばかりだ。
子どもだった頃は、大人に対して、綺麗事をいうなよって怒ってばかりいた。
でも、今ならわかる。あれは子どもに対する願いとして言っていたことであり、自分たちに言い聞かせていたことでもあったのかもしれないと。
子どもにはずるいことを覚えて欲しくないと。
どうせいつかは自分たちのように現実の汚さを、むなしさを、大変さをしることになるのだから、せめて今だけでもと望んだのかもしれない。

・・・大人は子どもに対して清廉潔白を望む。
子どもは大人に対して真摯に向かい合ってほしいと望む。

でも、結局子どもはいずれ大人になる。そうして連鎖が繰り返される・・・か。

(・・・いかん、柄にもなく考え込んでしまった。)

いつの間にか、香帆のいるマンションの前までやってきていたようだ。チャイムを鳴らすとドアが開き、妹の香帆が迎えてくれた。

「あ、いらっしゃいです、真帆お兄ちゃん」
「うん、上がらせてもらうよ」

居間を見る限りすっきりとして落ち着いている。ちらっと見る限り、男モノがないということもほっとした。こたつへ入ると、香帆が珈琲を目の前においてくれた。

「他のお兄ちゃん達は?」
「まぁ、いつものじゃれあいだ」
「ああ、また喧嘩ですか。相変わらずなんですね」

香帆の言う通り、あの2人のケンカは昔から相変わらずなのだ。もう名物と言われてもおかしくないぐらいなのでほっておくに限る。

「それはそうと、香帆、何かあったのかな?」
「うっ、ちょっと、進路の相談をしたくて」
「進路・・・ああ、それでこの進路希望調査を見せてきたんだね」

こくりと頷いた香帆に自分たちと違ってよく考えているなと実感した。俺を呼んだのも多分進学か就職か迷っているからだろう。

「香帆は進学を考えているんだろう?学費については心配しなくていい。幸いにしてお前が頭がよいお蔭で奨学金も受けられているしね」
「進学、は、考えてるけれど・・・変えたい大学のふり幅が酷くて。でも、高いなら、諦めるつもりでいます」
「・・・・・あれ、歴史関係じゃなかったかな?ああ、もしかして図書司書になりたいとか?」
「うう・・医療関係・・・・もいいかなって・・・・べ、別に影響されてはないんだけれど!!なんか、ありかなって思っただけですけど!!」
「否定すると余計に怪しまれるから止めた方がイイ・・・はぁ、そういえば八尋クンの実家は病院だっけ」
「うっ。」
「ふーん、それで相談というわけだね」
「・・・もうちょっと考えるつもりでいますけど」
「八尋クンとは相談は?」
「し、してないしてないっ・・・あの、全然してませんっ!!!」
「つまり、言えてないってことだね・・・まさか八尋クンは香帆を捨てる可能性があるの?」

これでも兄として、香帆の性格はよくわかっているつもりだ。香帆のことだからうじうじとしているのだろう。ということは、まだ八尋クンは香帆の進路について知らない可能性もあると。
でも、八尋クンの性格がまだよく解らないし・・・判断がつかないと思い、ちょっとカマをかけてみると香帆は眉間に皺を寄せていた。

「・・・か、香帆?」
「ない、とは言い切れないけど、なんていうか、そういう所が見えないので、判断がつかないという感じですね」
「そういう所っていうのは?」
「えっと・・・他に女性がいるような気配とか・・・ないんです」
「ああ、そういえばそうだね。確かに浮気とか二股したとかっていう噂は聞かない。女が途切れたことがないっていうだけで」
「ん・・・・先輩が言うには、約20人ぐらいって目を泳がせてました」
「正式に付き合った数はってことだね」
「よくわかりますね!」
「それぐらい解るよ。そういえば、香帆・・・知ってたかい?先日八尋クンね、いきなり『鬼月女』っていう族を潰して解散させたらしいよ・・そこの総長が麗香という名前で彼の元彼女の一人らしいけれど、心当たりはある?」
「待ってください、なんでそんな情報を掴んでいるんですか?」
「志帆が心配だからって彼の情報を定期的に集めているよ。あ、盗聴もストーカーもしてないみたいだから安心しなさい」
「志帆お兄ちゃん・・・もうっ!」

震えながらも香帆は憮然とした表情を見せていたが、何かに思い当たったのか驚いた顔に変化した。

「あっ・・・この前、八尋先輩と遊んでいた時に絡んできた人の名前が確か麗香さんだったかもしれない。そうか、あの人も族だったから志帆お兄ちゃんを知っていたんだ」
「ふうん」

香帆はなるほどと納得しているが、真帆はタイミング的に八尋が何か報復したのだろうと推測していた。事実、そうでもなければ、タイミング的にあり得ないと思っているからだ。
だが香帆にわざわざ言うほどでもないと思い、考えていたことを丸ごと珈琲とともに飲み干した。

「それで、それがどうかしましたか?」
「うん、それは知っておいた方がイイかなと思ってね。八尋クンのことだから、仕返しが来ないように手配はしてくれてると思うけれど」
「あ、身の安全に気をつけろってことですか・・・なるほど、ありがとうございます」

納得した香帆はぶつぶつと呟いていたが、問題は進路の方だろうと思い、真帆は持ってきていたパソコンを取り出して、何かを調べ始めた。

「香帆、見てごらん。これが大学の学費の違いだ。コレを見る限りどっちに転んでも学費の心配はいらないと思う。まずは、取れる資格の違い、進路先の傾向・・・。お前がどんなところを選ぶにしろ、自分が納得するだけどんどん調べなさい。実際に仕事を見にいくのもいいし、大学の文化祭を見学するのも手だ。そうやって調べて納得した上での進路ならば俺達は止めない。でも、八尋クンを理由にして進路を選ぶのはナシだ。言いたいことはわかるね?」
「・・・うん、解ります。人の人生まで背負わせることはできないし、背負うこともできないってことですね」

真顔で話すと香帆も両親が死んだ時のことを思いだしたのだろう、神妙な顔をしている。

「そういうことだな。お前も知っての通り、親父が死んでからお店は潰れ、多くの従業員が路頭に迷うと困っていた。なんとか全員に職場を紹介して、少しではあるが、補償金もなんとか渡すことが出来た。でも、それは全て結果論だ。あの時にあれがなければ、なんていう言い訳も現実の前では無意味。それに、ね・・・香帆、人生はリスクと覚悟と責任が常に伴う。自分の裁量さいりょうや利益に合わなければ、例え親しい友や家族であろうともすっぱり切る冷酷さも時には必要になる。そうでなければ一生その人達と付き合わないといけないからね」
「あの親戚のことですね」
「香帆は賢いな。そういうことだ。親父は優しかったから、親戚の借金の補填までしていたのに返してもらうことすら考えていなかった。でも、親戚は図に乗ってついには働いていると嘘をいいながら働かなくなってしまって・・・親父が死んだにも関わらず、俺達の生活のために仕送りを続けろとか抜かすあいつらはもはや人間としての尊厳までも捨て、寄生虫に成り下がった」
「真帆お兄ちゃんもはっきりと言いますね」
「あいつらとは縁を切ったからどうなったかは知らんが、噂じゃ借金で首が回らなくなってヤクザに搾り取られたとか。まぁ、まとめると、環境が自分を作るし、その環境は自分が決めるべきことだってことだ。だから、香帆も良く考えて動くように」

ちょっと説教くさくなってしまったが、香帆は真面目な分素直に聞き入っていた。とりあえず、自分に言えるのはここまでだと告げると香帆がお辞儀をした。

「ありがとうございます・・・・進路はもうちょっと考えてみます」
「ん、身体には気を付けて過ごすんだぞ。それに、あまり考えすぎるな、もう少し時間はあるはずだ」
「はい」

困ったような笑顔を見せた香帆を一度抱きしめてから、香帆のマンションを後にした。その足で向かうは、八尋クンのいるであろう『ブロッサム』。行く予定はなかったけれど、一応釘はさしておかないといけない。

「今晩は、八尋クン」
「ぐはっ、、真帆さん、なんでこちらにっ?」
「近くまで寄ったからちょっと顔を見にね。そういえば『鬼月女』を解散させたとか。これでまた族の名前が有名になるね」
「・・・ああ、確か、志帆さんが情報集めるの得意でしたっけ・・・。あ、珈琲飲みます?」
「いや、質問を一つだけしたらすぐに帰るからいいよ。ねぇ、君は医者希望のようだけれど、結婚相手には何を望むの?同じ職場にいること?それとも同じ職業?」
「結婚相手に?えっと、俺なら・・・・・家の方を任せたいなと。俺自身、母が父の仕事を手伝うことで体を壊して倒れたってこともあって、あまり自分の仕事には関わらせたくないな、と。親も凄くそれだけを後悔していて、再婚をしなかったのも母に対して思うことがあったのかなぁと。家のことを任せて、医療系以外の仕事をしてもらったっていいし、専業主婦になってもいいし。そこは彼女の意志に任せたいと思います」

意外にしっかりしていた八尋クンの言葉に内心唖然としながら、表面上は微笑むことで精いっぱいだった。質問を終えて退出した後の帰り道で思わず考え込んで感心してしまったくらい彼の考えはしっかりとしていた。

「うーん。しっかりしてる。後はあの2人がちゃんと話し合えば、香帆の悩みも解決するかもな。しゃくだけれど、香帆には八尋クンに相談してみるように進言してみるか」


そう決めた真帆が帰った時、家の中は物凄くぐちゃぐちゃになっていた。


(原因はもう解りきっている。あの2人のことだ、気まずくて俺の前に現れないだけだろう。まったくあの2人も香帆や八尋クンみたいにしっかりして欲しいものだ・・・。)



真帆は怒りを込めて、息を一旦大きく吸ってから叫んだ。



「志帆、冴帆、今すぐ俺の前に来て正座しろ!!」




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