香帆と鬼人族シリーズ

巴月のん

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ハロウィンの夜に

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猫耳がついた赤い頭巾、三つ編み、そして超ミニスカートの赤いスカートにエプロン、黒い膝下のブーツ、そして手には籠。

まがうことなく、赤ずきんちゃんのスタイルである。


・・・しろ香帆かほは赤ずきんちゃんのコスプレを纏い、困惑した様子で、歩道の近くに立っていた。


友達と一緒にハロウィンということで、歩道天国に繰り出したはいいが、人ごみではぐれてしまったのだ。せっかく意を決していつもは着ない服に挑戦したのに、友達がいないと、上がっていたテンションもただ下がり。最初は自画自賛していた衣装も、今では恥ずかしく思えるぐらいに冷静になっていた。
そんなこんなで、香帆は真っ赤になりながら、ミニスカートの皺をのばしつつ立ち尽くしていたわけである。

「・・・あーあ。この人込みじゃ、合流できないよね」

テンション下がっちゃったし、電話して帰ろうかなと、携帯電話を取り出す。が、そこにオオカミはいつだって現れるもので。しかも、3人ほどの男で、丁度オオカミ男に変装していた。みるからによっぱらっており、家族以外ではあまり男と話すことが少ない香帆からすれば怖いと思うのも当然である。
狼男たちの一人が馴れ馴れしく香帆の肩を抱きよせ、じろじろと眺めながらニヤニヤと笑う。それに追従した男たちも香帆を取り囲むように立っていた。

「おぉ、可愛いじゃん、赤ずきんちゃんデショ?俺達オオカミだから丁度良いね~?」
「見るからにスタイルも悪くないし、この子でいいんじゃね?」
「今、月出てるし、俺達飢えてんのよー。だから、君を食べさせて~?」
「ぎゃははー」
「っ・・・・あの、離してっ・・くださいっ!!」

抱き寄せられた肩を振り払い、逃げようとするが、囲まれては逃げ場がない。男たちに腕を掴まれ、それに絶体絶命だと感じたその時―場違いな明るい声が響いた。
それに目を見開かせた香帆、そして男達が不機嫌そうに振り向く。そこに立っていたのは、ジャックスパロウのコスプレをした男だった。

「なー、お前ら、その子は俺のツレなんだけれど?」

どうやらオオカミ男たちとは知り合いのようで、馴れ馴れしく話しかけている。しかし、香帆はその男に見覚えもなく、当然ツレであるはずがない。しかし、ここは口裏を合わせなければ解放されないと踏んで、黙っていた。
狼男たちは怪訝そうな表情だったが、すぐに思い当たったのか、慌てふためていた。どうやらよほど怖いらしく、後ずさりして最後には煙をあげて消えていった。

「も、もしかして、八尋やひろさんっすか!?」
「そーよ。かっこいいっしょ?」
「は、ハイっす!!あの、この女、いや、このお嬢様がツレ様で・・・そ、そりゃ、すんまんせんっ!」

男を認識したとたん、取り囲んでいた男たちが香帆から礼をした後、一斉に離れて一列にと並び立つ。その光景に唖然としながらも、男同士のやりとりを見ていた香帆だが、未だに金縛りはとけなかった。

「指一本触れておりませんで、ハイ!!では、俺達はこれでっ!!」
「おう。あまり騒ぎを起こすなよ」
「へーいっ!!では失礼しやっす!!」
「大丈夫か、田城?」

八尋と呼ばれた男がいきなり名字を呼んできたのに驚いた香帆は慌てふためいた。

「あ、あの??し、知り合いですかっ!?ごめんなさい、その、わからないんですがっ!?」

慌てふためく香帆を見てぷっと笑い出したその男はしょうがねーなとばかりに帽子を取った。すると、ピンク色の髪が見え、ようやくその髪で気づいた香帆は指さしで叫んだ。

「わかんねーの?じゃー、これならだれかわかる?」
「・・・あっ、龍野たつの先輩!?」
「せーいかいっ!!」

ニヤリと笑ったその顔にようやく重なった先輩の笑顔。化粧でぱっと見ても解らなかったが、よくよくみれば、見知った先輩だった。
学校では、ピンクの髪に5個のピアスをつけていて、警察からも目を付けられているほどの不良。悪さばかりかと思えば、頭が良いらしく、成績はいつも上位で全国模試でも名が載るほどの明朗さ。彼のお蔭で学校の名が売れているため、規則を破っていても見て見ぬふりをするしかないと嘆く先生も多い。

「びっくりしました・・・」
「だろー?最初は茶色に染めよかなぁって思ったけれど、面倒くさくてなーやめたわ」

学校ではかなり恐れられている八尋だが、香帆にとっては優しい先輩でしかない。というのも、同じ図書部に在籍していて、入部した時からお世話になっている先輩でもあったからだ。
なぜか、八尋は不良な割に趣味が読書ということで、図書部に在籍していた。最初こそはびくびくしていた香帆も、八尋の意外な面倒見の良さに少しずつ懐いていったのである。

そういうわけで、いつも優しい八尋が目の前に現れて助けてくれたことに香帆はほっとした。それと同時に、さっきのオオカミ男三人組が逃げていったのも当然だとようやく納得できた。
何しろ、暴走族のリーダーもやっていて、よく小競り合いや喧嘩に参加している。学校区域でも一、二を争う強さを誇るという噂もあるぐらいなのだから。
ようやく落ち着いた香帆は改めて八尋にお礼を伝え、お辞儀した。八尋は気にした風もなく、それどころか、心配そうに話しかけた。

「あ、ありがとうございました、龍野先輩」
「別にいいって。大したことでもないし。でも、何故一人でいたのさ?ココ、結構治安が悪いから一人だとさっきみたいにやばいよ?」
「それが、はぐれちゃって・・・この人込みじゃ難しいなって思ったから、友達に電話して先に帰ろうと思っていたところだったんです」
「あーそこで絡まれたわけね。・・・丁度よいし、俺が送ってしんぜよう♪」
「え、でも・・・」
「いーのいーの。この後は飲みに行くだけだから、仲間は待たせとけばいいしー。大事な後輩をおいていくわけにはいかないっしょ。ちょい待ってて」

手のひらをひらひらさせながらスマホを取り出す八尋。恐らく仲間に連絡をとっているのだろう、なにやらやりとりしている。香帆が大丈夫かと不安になりながら見守っていると、会話が終わったようで、八尋が笑顔で丸を作ってみせた。

「遅くなるって言ったらオッケーってさ。じゃ、行こうか♪」
「あ、す、すみませんっ」
「えっと、香・・・じゃない、田城は曽野先そのさきまちだっけ?あ、バイクで送ってくから、こっちね」
「バイク!!・・・すごいですね、私、初めてです!」
「しかも、三ヶ月前に免許もとったから捕まる心配もないぜー」
「龍野先輩って、本当になんでもできますね。・・あっ、凄い、大きなバイクだ!」

公園の入り口近くに行くと、一台のバイクが見える。どうやら、このバイクが八尋のバイクのようだ。少し大きめのバイクに目をキラキラさせている香帆だが、ふと頭に降りてきた大きい手にびっくりしたのか、少し上目づかいに見上げた。すると、八尋が優し気な微笑みをみせていることに気づいた。

「た、龍野先輩?」
「んー?お前は本当、可愛いなって」
「えっ・・あの、ほ、褒めても何もでませんよーっ!?」
「ありゃ、それは残念。ほら、ヘルメットな。ちゃんとしめ・・・あっと!」

ヘルメットを香帆に身に着けさせている時、突然声をあげる八尋に驚いた香帆だが、当の八尋は何やら悩んでいる風だった。(ちなみに、この時の八尋は香帆の可愛らしい姿に悶えていたという事実が後に判明するが、今の香帆には知る由もない事実だ。)

「ど、どうしたんですか?」
「・・・あーまいったな・・・よし、これ、着てみてくれ」

眉間に皺を寄せつつ、上着を抜いて香帆に着せようとする。それにきょとんとしながらも、素直に着てみれば、わずかにほっとした表情を見せた。

「・・・まぁ、これぐらいなら、見えないだろう」
「あ、あの、龍野先輩?」
「ん?ああ、悪い、ちょっとスカートが短すぎてな、風で煽られたら困るかなって」
「スカート・・あっ!そ、そういうことですか!!」

ようやく意味が解って真っ赤になってしまう。今の香帆はコスプレ衣装で下着が見えるか見えないかの超ミニスカートをはいていたのだった。それを気遣ってくれたのだろう、八尋には頭が上がらない。
ようやく準備を終え、走り出したバイクはあっという間に香帆の家の前に着いた。香帆は、上京してアパートで独り暮らししている。貸してもらった上着を返しながら、香帆は八尋に微笑んだ。

「あの、先輩、ありがとうございました。よければ、お礼にお茶でも飲んでいきませんか?」
「・・・めっちゃくちゃ魅力的なお誘いなんだけれど・・・今日は自信がないからやめとくわ~」
「・・・・・・・自信って?」
「あー、いーの、いーの。今は、何もわからないままでいてくれ」
「えーまたそうやって子ども扱いするんだから・・・」
「子どもとは思っていないんだが。とりあえず、明日も学校あるし、早く寝ろよ」
「もーそれをいったら、先輩もですよ。あまり飲みすぎないでくださいね」
「うっ・・・自重する。ほら、早く部屋に行け」
「はーい、また明日!」

香帆はほっとしながら手を振って部屋に入っていく。その香帆の後ろ姿を見送った後、八尋はボソッと呟きながらバイクにまたがって帰っていった。

「やっぱ、入らなくてよかった。あのままだったら手を出さない自信がないわ。でも・・・さすがに今嫌われるわけにはいかねーもんなぁ」

八尋がそんなことを呟いてたこともつゆ知らず、香帆は赤ずきんの衣装を脱いで部屋で寛いでいた。
ココアを飲みながら、助けてもらったことを思い出しては赤面してしまう。いろんな笑顔をみせてくれた八尋を思い出すと、胸がドキドキするのだ。

「ふわー、まさかあの龍野先輩に助けてもらえるだなんて・・・多分、図書部の唯一の後輩ってこともあるんだろうけどさ。そうだ、なんかお礼しないと・・・あっ、ハロウィンにちなんで作ったクッキーでも持っていこうかな」


次の日―

授業が終わり、クッキーを包んだ袋を持って図書室へと赴いた香帆。すると、やはりというか、いつものように、図書室の奥で八尋が座って本を読んでいた。香帆に気づいたのか、笑って手招きしてきた。

「よう、田城。昨日はよく眠れたか?」
「はい。先輩も・・・大丈夫みたいですね?」
「はっ、一晩飲んだぐらいで酔わねぇよ」

八尋が窓際の席を少しあけて香帆に座るように言えば、素直に座ってきた。そんな香帆の素直さに苦笑しながら八尋は、いろいろと会話を続けた。そんな中、話はハロウィンの話題になっていく。

「そういえば、昨日のって、海賊映画のやつですよね?よくあれだけの衣装を準備できましたね?」
「ああ、ありゃ・・・暴走族仲間が面白がって着せてきたんだ。まぁ、似合っているからまだ許せたが、これがマリオとかだったら絶対キレてたねーうん」
「あっははー想像できない!だって、ピンク色の髪にピアスじゃらじゃらつけてる先輩がですよ?ヒゲつけ・・・ぷっ・・・はははっ・・・」

笑いが止まらないのか、香帆は腹を抑えて涙目になっていた。そこまでかと遠目になりながらも、八尋は香帆の笑いを止めようと肩を抱こうとするが、涙目になっている香帆のわずかに濡れた頬を見て思わず固まってしまう。そこで何かのスイッチが入ってしまったのか、気づけば、八尋は香帆の頬に触れていた。

「あー笑っちゃった・・・龍野先輩?」
「・・・あーもー。もうちょっと我慢するつもりだったんだけど・・・とりあえず、一日遅くなったけれど、質問させて?」
「え、な、何をですか?」
「Trick or Treat?」

突然流ちょうな英語で話されたハロウィン定番のセリフに香帆は思わず返事をしていた。たまたま、昼前にあった英語の授業で、ハロウィンのやりとりをしていたせいだろう。

「えっと、Happy Halloween?」
「おおーそうきたか。じゃ、褒美のお菓子をやろう」

すかさず返ってきた香帆の返事に対し、八尋はポケットから飴を取り出す。香帆はその飴をもらえるのだろうと、手を差し出そうとした。しかし、八尋はその手に自分の手を絡めながら、その袋を破って口に含んでしまった。突然の八尋の行動を疑問に思う間もなく、香帆は、身体ごと窓へと押し付けられた。

「あの・・・龍野先輩?」

そして八尋の顔が近づいてくるのに頭が働かず、きょとんとしていると、八尋の声と同時に唇に押し付けられる感触があたる。

「鼻で息をしろよ」
「え・・・んっ・・・なっ・・・んっんんーーーーー!!」

この時、香帆はやっと気づいた。自分が八尋に追い込まれてキスされているという事実に。
唇にあたる温もりでわずかに開けてしまった口に八尋の舌が飴と一緒に入り込んでくるのに、驚きながらも、少しずつ湧き上がってくる甘さに頭の思考が止まってしまった。
絡みついていた八尋の舌がようやく引いた時、香帆は身体に力が入らず、八尋の肩にもたれこんだ。
顔を真っ赤にさせ、八尋の胸を掴みながら潤んだ眼で睨みつけていたら、今度はおでこにキスが降ってきた。

「・・・せ、んっぱ・・い、なんで・・・?」
「本当は、田城の誕生日まで我慢するつもりだったんだけどなー。でも、我慢できなかった。ごめんな」
「え?ええ?」

とりあえずは仕切り直してと、改めて香帆の前に立った八尋は笑って告白した。そして香帆はその告白に対してー少し拗ね気味に答えた。


「田城香帆、俺と付き合ってくれ」
「・・・髪の毛、一緒に歩くと目立つので茶色にしてください」


――八尋がどう返したかなんて言うまでもないだろう。
この数日後、髪を茶色に染めた八尋と手つなぎでデートしていた香帆はとても嬉しそうな様子だった。


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