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マスターと喫茶店でみるぼのぼのな光景?

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「・・・・ああ、もう疲れちゃった。」
「それはこっちのセリフだよ。なんで毎回俺が怒られなきゃならないの?」
「あなたがすることをしてくれないからでしょう!!」

(なんだんだ、カップルの喧嘩か?俺の店の中で修羅場は勘弁してくれよー。)

耳を傾けているとどうやら、彼女は彼との生活に疲れを感じているようでいろいろと愚痴りだした。

家にいるときは当たり前の行動なのに、してくれない。
散らかった靴下や着替えをかごに入れることぐらいできないの?
朝のネクタイも自分で選ばないし、私がなぜ全部選ばなきゃいけないの。
ごはんの手伝いすらせずにゲームばかりするし。
汚れたのをぎりぎりに出して早く汚れを取ってくれとか、魔法じゃないのよ!

(・・・何だ、それ。今まで家で何を学んできたんだ?まさか、全部母親任せとか?情けねぇ男だな。うちのあいつの方がよほどできた奴だ。)

「・・・・俺は仕事で忙しいんだよ。」
「でた、その言い訳。私だって仕事があるのよ。」
「でも、仕事の量は俺のほうが多い。」
「それを言うなら、給料は私のほうが高いのよ。」
「ああ、出たよ、出た。お前そうやって揚げ足とるんだよな~。」
「揚げ足をとっているのは貴方のほうだわ!」

ぎゃあぎゃあと言い合うカップル・・・・俺の客は女性客が多いから、どう考えても男のほうが不利なのに、男のほうは偉そうに上から目線で説教を始めた。

(いかん、このままじゃ、常連客のアイツがキレる。)

「聞き捨てならんことを言ってるわねぇ、そこの馬鹿男は。」
「な、なんだよ!お前に関係ないだろう。」
「そうだね、無関係ながら勝手に突っ込んで済まない。だが、あまりにもお主の言い分はヒドイ。どう考えても彼女のことを家政婦か母親か家政婦かなんかと誤解しているのではないかね?」
「そんなわけ・・・」
「少なくとも、私なら好きな子には笑顔でいてほしいし、一緒に楽しみたいと思うがね。」
「・・・・は?」

(カップルである二人が唖然と・・・。まぁ、それは無理ないとして、あいつは毎回首を突っ込みすぎだ・・・。しかも、男の娘だから、外見だけは美人な女性だし。しっかし、予想通りキレたか・・・。)

「そうだ、お主も男の娘になってみんか。そうすれば彼女の気持ちも少しは理解できようというもの。お主は運が良い。この私直々にファッションを指南してやろうぞ!」
「え?ええええ?ぎゃあああああ、なんてバカ力だよ!!!誰か、たすけてくれええええええええ!!!!」

誰もが唖然とする中、あいつはさっそうと男を担ぎ上げていってしまった。生憎とうちの常連客はもう慣れたものでまたかと会話しあっている。
事実、あいつがキレた時の手段でもあるのだ。どんな男であろうと女であろうと自分のペースに巻き込むのがあいつの得意技だ。

(さて、いつものように、自分は彼女のフォローといきますか。)

「彼女さん、俺の知り合いが迷惑をかけて申し訳ない。お詫びと言っては何ですが、当店おすすめのコーヒーセットをどうぞ。もちろん、無料でございます。」
「え、あ・・・あり、ありがとうございます。あの、マスターですよね。あの方は一体?」
「あれはこの店の名物とかしている俺の幼馴染である市松光いちまつひかるっつー奴です。常連客はあれに慣れていますが、初めて来られた方はびっくりしますよね。」
「・・・あんな軽々と彼を抱き上げた上に脇に抱えられるだなんてびっくりしました。」
「あれでも一応、雄ですからねー。」
「え・・・お、男なんですか!?」

驚く女性客を前に笑うしかない自分。内心では密かに付け足したが、女性に言うことはしない。

(ちなみに元チャピオンだったりもするんだな、これが。)

はっはっと笑っていると、彼女は何とも言えない表情を見せた。その時、ドアが開き、見知った常連客が好奇心からか、目を輝かせて近寄ってきた。

「なんだか騒がしくない?ねぇ、光ちゃんはどうしたの?」
「例によっていつものところに新規のお客様を連行していきましたよ。」
「あらあら・・・それじゃ当分は戻らないわね、仕方がないわ、ともちゃんが相手をしてちょうだい。」
「オレで良ければお相手しましょう、マダム。」

気取った言い方で言うと、彼女はいつものように注文を頼んできた。それにこたえる形でカウンター席に戻ると、彼女を気遣って、他の客が相手をしてくれているのが見えた。

「あなたも災難ねぇ、あんな馬鹿男で。」
「でも、心配いらないわ。光ちゃんなら完璧に調教してくれるからすぐに改善するはずよ。」
「それでも変わらなかったら別れて次の男を探しなさいな。」
「は、はい、ありがとうございます。」

わきあいとしている雰囲気に和みつつ、注文されたオーダーを運んでいく。そのたびに常連客から声がかかるが、一声ずつ対応しつつ、時間配分も考えながらまわしていた。しばらくして、件の女性が立ち上がったのを見て、レジへと入る。

「もうお帰りですか?」
「はい、彼も戻りそうもないですし・・・このお店は賑やかでいい人ばかりですね。また来てもいいでしょうか?」
「もちろんでございます。当店はいつでも大歓迎ですよ・・・定休日以外は。」
「ふふふ、ありがとうございました。」

会計の最中にそんなやりとりをした後、彼女は晴れやかな笑顔で帰っていった。
今日は光も戻らないだろうと踏んで、今日は店を早めに閉めようと思案を巡らせていた。

「しっかし、カップルの喧嘩って、たいてい男のほうがダメなんだよなぁ。あれかな、慣れて甘えてしまうのかなぁ。光なんて、親しき仲にも礼儀ありってうるさいのに。」
「倫ちゃん、ぶつぶつ言ってないでおかわりをちょうだいよ。」
「はいはーい。」
「しかし、彼女もやっぱり気づかなかったわね・・・倫ちゃんの性別に。」
「この格好でこの口調ですからね。もし初見で俺が女だって気づいたら俺のほうがびっくりしますよ。」
「たまにはマスターもメイド服とか着てみたらどう?」
「それには光の許可が必要ですね。あいつ意外と俺の服装にうるさいですから。」
「まー、聞いた?光ちゃん、意外と独占欲が高いのねっ。」
「ねー、なんでですかね。」
「んもう、男心がわかってないなんてっ。」
「いや、あなた方は全員女性でしょう・・・。」
「あらっ?この様子だと、光ちゃんがなぜ毎日ここで見張っているのかわかってないわね~。」

首をかしげていると、常連客が一斉にため息をついた。あなた方、10人そろって同時にため息はどうなんですかね?

「ま、光についてはどうでもいいんですよ。どうせ、家で会うことになるんだし。」

(・・・同居してるしな・・・あれ、じゃ、なんで光は毎日ここに来ているんだろうか。暇なわけないし。今度聞いておこう。)

常連客や光の心配をよそに倫は今日も首をかしげながらマスターとして働く。
スーツを戦闘服として纏い、コーヒーとアップルパイを片手に。




余談

「マスター、光さん、ありがとうございます!!おかげで彼氏がすっごく優しくなりました。一緒に皿洗いまでしてくれるようになって、嬉しいです。」
「あら、良かったわね。でも、その彼氏はどうしたの?」
「あ・・・・その、男の娘の道はあまりにも険しくて自分には合わないと・・・」
「早い話が逃げたのじゃな。ふん、根性なしだのう。」
「変人変態な光に付き合える奴はそうそうそういないと思うよ、男女ともにね。」
「それほどまでに完璧な私がわるいというのだな。みなまでいうな。私は別に倫がいれば他はどうでもよい。だから嫉妬するでないよ。」
「別に嫉妬してはないんだけれど・・・その思い込みもいい加減直せよ。」
「素敵なカップルですね。あ、その・・・私は性別など気にしません。どうか、頑張ってくださいっ!」
「・・・・はは、ありがとう?」

なぜか素直に返事ができず、後からその言葉の意味を知ったのは、光が苦笑いで説明してくれた時だった。



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