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魔法使いに捕まったシンデレラ

3)互いの譲歩

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麻友はいつものように真っ赤なワイヤレスヘッドフォンをつけていつも座っている席で待っていた。雨の時はイヤホンを付けるときもあるけど、大抵はヘッドフォンだ。今の時代には持ち歩きが不便だが、この重さが好きな麻友としては苦にならない。
行儀悪くも、椅子で胡坐をかきながらノートを開いていると待ち相手がやってきた。まさに待ち人来たれり。

「ごめん、まった?」
「ううん、大丈夫」
「麻友。えっと、その・・・・・・何かあった?」

佳音が来たので一緒に注文すべく、鞄から財布を取り出しているとなぜか佳音が目を見開いて言いにくそうな様子で聞いてきた。
あったにはあったが、彼女に言うのはどうかなと思っていたので話を逸らそうとする麻友。しかし、佳音はそっと首の裏を指さして顔を真っ赤にしていた。

「あの、その・・・・・・アレがついてる」
「え、あ、もしかして?」
「うん。キスマークがはっきりと」

佳音の恥ずかしそうな声に麻友の顔が真っ赤に染まった。同時に手で首の裏を隠すも今の時間を考えると他の人達や友人も気付いていたことになるのではと頭を机にがんとぶつけた。

「あいつ~~!!」
「麻友、ここ食堂だからね? とりあえずテイクアウトして、誰もいないとこいこうよ!」

こういうときの佳音の行動は早い。さっさとする!とせかされた麻友は財布どころか鞄を全部持って注文を終わらせた。食堂を出て、誰もいない講義室を探して座った。

「ココなら大丈夫かな。さ、話してよ。誕生日は彼氏とデートだったんだよね?でもそのようすからすると違うっぽいし」
「佳音って、へんなとこで鋭いよね」

遠い目になりながらも、勢いに負けて少しずつ話しはじめた。ただ、さすがに左京の気持ちまでは暴露するわけにはいかなかったのでその部分だけすっとばした。

「ってことがあったの」
「わぁ・・・・・・左京さんてば」

佳音は割り箸を口に咥えながらも、呆れを含んだ表情をみせた。ひらひらしたスカートからみえる足がぶらぶらと揺れている。そして、佳音はスカートをよく履いてて、コンサバ系とかフェミニン系が似合う。だから、麻友にとって佳音は女の子らしい女の子。本人はふつーだよといっているが、気付く人が見たら肌が綺麗でパーツが整っていて、にきびがないってすごく珍しいって気づくと思う。美人って感じじゃなくてもナチュラルに惹かれるものってあると思うの。まぁ、何が言いたいかっていうと、あの自他共に認めるイケメンな佐野双子が惹かれるのも当然だわなって感じなのです・・・。我が親友ながらスゴイよね。ちなみに自分はロック系やB系なファッションが好きだ。(←誰も聞いていない)

「でも、蹴っ飛ばしてきたからなぁ」
「うーん。それぐらいで諦めるとは思わないけれど」
「最悪な誕生日になったよ、ほんと」

後、前に佳音をバカかと思ったけれど訂正する。最悪を経験すると一つ位は諦めが必要になるんだね。つまりはイケメンとやれただけましかというしょうもない結論に達してしまうことを嫌ながらも実感した。

「今更だけれど佳音のあの時の心境がよくわかった」
「私の場合は結果オーライだけれど、麻友の場合はうーん!?」

考え込んでいる佳音の指が目に入る。いや、正確にいうとはめられている指輪を見ていた。このシンプルながらも一際でかいダイヤがついている指輪は当然ながら右京さんからのプレゼント。佳音達は付き合う経緯がアレだったのに今ではイチャコラとかなりラブラブ。ただ、前と変わって夜の関係は減ったという。佳音に何故と聞いたら、よくわからないけれど右京さんが安心だからと言っているからだと。ああ、なるほどいらん心配が消えたからか・・・と納得した。そりゃ、佳音がふらふらじゃ寄ってくる男に牽制したくもなるよね。今更ながら右京の苦労を哀れみながら食べていると、佳音はもう食べ終えたようでごみを片付けていた。

「ねぇ、麻友は左京さんのこと嫌いなの?」
「嫌いか好きかって?  うーん、どうだろう」

いやぁ、左京さんの片思いの相手にこんなこと言われるのもどうかなと思うんだけれどな。
複雑な気持ちながらも麻友は頬杖をついて返事した。

「うん。やっぱりあたしを見てない男は嫌いだな」
「佐野家に必要だからっていう理由だもんね。うん、それはさすがに」
「好きって理屈じゃないと思うの。でも、ダメな恋だってあると思う」

それは恋愛していたからこそわかること。でもね、時として諦めたほうがいい恋だってたくさんある。不倫とか、叶わない片思いとか・・・そう、周りを傷つけるような恋はするべきじゃない。それはあたしの離婚した両親を見たってわかる。母と父は政略結婚した末に離婚した。幸い、父の再婚相手が優しかったこともあって恵まれた環境で過ごすことができている。離婚したことで父と母は逆に仲良くなっている。そういう関係が合っている人たちだっているわけだ。

「聞いてると、麻友は左京さんが好きだけれど、嫌いになりたいって感じがする」
「ぶぅほっ!」
「だから、嫌いだって口にする。麻友って、時々意地っ張りになるよねぇ、私とかあたしとか使い分けしてるときだってそう。ほんと、そういうところも可愛いなぁ」

なぜかそういいながら頭を撫でてくる佳音にぶるぶる肩を震わせることしかできない。なんでって、いらんものをぽたぽた口から出しているんですよ?あれですよ?涙目ですよ?ここで何か言おうものならもっといらんものが口からどばっとでるに違いない。
せめてと首を横に振るが、佳音はただ頷いて解ってるよとばかりの表情。まって、何を考えてるの、変なとこで勘が良いから困る・・・いやいや、それよりもさ、佳音、何て言った?

「何って、これからどうするのって聞いたの。左京さん、大学来てるし、方向性決めないと」
「え。来てるの?」
「うん、右京が仕事って言っていたから間違いなく今日は左京さんのはずだよ」
「よし、帰る!」

幸い講義はもうないから帰っても問題ないしと叫んでいると、佳音のスマホの着信が鳴った。スマホを耳元に当てていた佳音がちらっとこちらを見ている。え、嫌な予感しかないんですけど?

「あ、左京さん、こんにちは。ああ、まぁ、確かに麻友ちゃんと一緒にいますけれど」

何故ばらすーーー?さっき帰るって言ったばっかりだよね?そう叫びたいけれど、電話が続いてるから声も出せない。ぶんぶんと横に振っても佳音はこっちの都合お構いなし。

「はぁ・・・はい、はい・・・解りました」

電話が終わったのを確認してすぐに佳音に問いただす。一体何故と。すると佳音はあっけらんと言った。

「だって、借りを返してほしいって言われたら断れないもの」
「借り?」
「右京さんとの恋愛でいろいろ相談にのってもらっていたから」
「(あの男ぉおおお、そういうことできるなら最初から押せばよかったのに!)」

理不尽なことを考えながらも、ここにいない男のヘタレさを罵倒することしかできない。机に伏していると、佳音がポンポンと頭を撫でてきた。これで二回目ですよ、佳音さんや。

「左京さんは計算高い人だけれど、悪い人ではないよ」
「あのね、それは佳音が右京さんの彼女だからであって」
「でも、麻友にも優しいよね。だって、助けてもらったんでしょう」

佳音は知らないからそういうことを言える。でも、私は解っているのだ。
助けてくれたのはあたしが佳音の「親友」だったから。あたしが困れば佳音が困るか泣くかを解っているからに違いない。そして、何より自分の会社に関係していたからだぁああああああ!!!!   計算高いというその時点で意図的だっていうあたりを佳音は解っとくべきだ!   
本当はあの人の気持ちをここでぶちまけてやりたい。でも、それはさすがに人としてどうかと思う。だから、言わない。
言わない、言わないけれど・・・・・・頭の中で頭を踏むぐらいは許されるだろうか!!!!!!

「くくく、佳音、助けてもらってもそのあとがアレなんだからもうどうしようもないわ」
「あ。え、え、えっと~」

そうよね?あんた忘れてるけれど、あたしあいつに抱かれてるからね?そりゃ、あたしが悪いけれど・・・・・・結局あいつは失恋のために他人を利用する最低な男だからね?

「うー。耳が痛いけれど、せめて言い訳ぐらいはさせてほしいなぁ」

佳音を追い詰めていると、良く見知った声が割って入ってきた。まさかと思い、扉の方を見やると、そこには会いたくもなかった男が気まずげに立っていた。

「ななんあんあ」
「ごめんなさーい、さっきどこって聞かれて答えちゃった」
「かーーーーーのーーーーーーん?」
「あ、講義があるから失礼するねっ、ごめんなさぁああああい!!」

般若になった麻友の一瞬のスキをついて逃げた佳音。そんな佳音を助けるように扉から離れて、佳音を見送る左京。怒りのやり場を失った麻友は深いため息をついて椅子にふらふらと座りなおした。

「はぁ・・・・・・」
「そんな嫌そうにため息をつかないでほしいんだけれどな」
「昨日のことなら謝らないですよ」
「あーうん。正直、ぐさぐさっと刺さったは刺さったね。だから、責任取って」
「は?」
「だから責任とって俺と付き合って?」
「また昨日みたいに言われたいんですか?」

微笑みながら自分と目線を合わせてはっきりと言ってきたこの男、一体何を考えてるのか。
左京の考えが読めないことに顔をひきつらせた麻友だが、それを読み取ったかのように左京が困ったように口を開いた。


「正直に言う。本当にこの気持ちをどうしていいかわからない。でも、右京や佳音ちゃんに心配をかけたくもないんだ。だから、ちょっとだけでいい。俺に力を貸してほしい」


ああ、これが初恋をこじらせたバカな男の末路なのか・・・・・・!


「口に出さないでっ! はっきり言われたら傷つくじゃん!」
「あ、つい声に」
「っ、本当に、容赦ないよね・・・・・・君は!!!!」


今度こそ床に項垂れたように膝をついた男を眺めながら麻友は不貞腐れた。結局自分って損な性格をしてるんだなと思いながら。


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