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魔法使いに捕まったシンデレラ
2)弱さは本性と言わない
しおりを挟む「ここ、どこだっけ」
麻友はテレビのニュースの音で飛び起きた。あたりを見回すと無駄に広いベッド。扉の奥には陽光が差すリビングが見えている。無駄にでかいテレビの一部が見えている。ズキズキする頭と腰を抑えながら必死に思いだしたのは昨日の一日の流れ。走馬灯のごとく鮮明に再生されたのを確認した麻友はよろっと肩を落とした。
「あり得ない!これじゃ、佳音を笑えないじゃないの」
自分の状況に呆然としていたのは、佳音から聞いていた右京さんと付き合った流れとまんま似ているから。
しかし、佳音はこの時逃げられたとも聞いている。ならば、私も逃げるべきではないか!そうと決まれば即座に立ち上がる麻友だが、この時これまた金属の擦れる音に気付いた。嫌な予感を感じてみてみれば、足首に鎖。思わず持ち上げてその先を辿るとベッドの足につながれていた。
「何コレ・・・・・・!佳音でも監禁されなかったってっていうのに」
「君が佳音ちゃんから聞いたよーに俺も右京から聞いていたからね~」
「ひぃっ?」
鎖を持ち上げて呆然としていると後ろから笑い声が聞こえてきた。突然の声に驚き、恐る恐る振り返ると、ベッドの片方に見えるサンルームのソファーに左京が座っていた。
胡坐をかいて、スケッチブックを広げていて、手には鉛筆らしきものを持っている。訝しく思いながらも、慌ててシーツを被った麻友は嫌々ながらも左京に問いかけた。
「ちゃっかり自分だけ服を」
「素っ裸でいるよりはマシでしょ~?」
「・・・・・・なら、私のも着せてよ!」
「洗濯してるもーん☆」
さっきからズキンズキンと頭が痛いと額を抑えていると、当然とばかりに左京が呆れるように説明しだした。
「そりゃ、あれだけ飲んでればそうなるよ。君は散々飲んで、俺に絡んだあげく俺が気にしていたことをあれやこれやズバズバ言ってくれた」
「その仕返しに?」
「いいや、仕返しでも嫌がらせでもないよ。申し訳ないことに俺は右京ほど夢を見れない」
「でしょうね!」
「でも、俺の本性を知った君ならパートナーになれそうだし、佐野家に合うと思ってね。それもあって、体の相性を試してみようかなって☆」
「・・・・・・双子揃って最悪」
「ふふふ、ついでだから右京のセリフをパクちゃおうか。俺と試しにつきあってみない?」
「だが、断る!」
間髪入れずに即答すれば、彼はクスクスと笑っていた。私がこう答えるのはわかっていただろうに、それでも敢えて言うあたりが彼らしいと思う。
「つれないな~。なんでか聞いていい?」
「あたし、馬鹿にされるの嫌いなんですよね。ついでに利用されるのもまっぴらです」
「バカにしてるつもりはないけれどね」
「してますよ。佐野家のためならあたしはどうでもいいってことでしょ」
「尊重はするよ?」
「愛のない生活は不毛ですよ」
お互いにはっはっと笑う。麻友が一人称を”あたし”と言い換えてる時点で、本気だと気付いているであろうに、左京はそれを敢えてスルーしている。こういうあたり本当に頭がいい人だとは思う。思うが、それ以上に性格が最悪だ。
「大体、なんですか、あたしが本性を見抜いたって。悪いんですけど、何回も言うように記憶がこれっぽちもないんですよ」
「ヒドイな。あれだけえぐってくれたのに」
「いや、それをいうなら散々体を弄んでくれた貴方の方がヒドイです」
やってられんとばかりに、くだらない皮肉の応酬をしながらベッドの足から鎖を抜く。あとは自分の足首から鎖を外すだけなのだが、カギが必要なわけで。
「左京さん、鍵をください!」
「えーどうしようかな」
「どうでもよさげに片付けたな!」
「実際、俺は困ってるわけじゃないからね~。大丈夫、トイレは近いからそのままでも十分行けるよ」
「そういう問題じゃなくて!」
思わず言い方が荒くなったのは、左京がさっきからどうでもいいとばかりにスケッチブックを片付けていたからだ。サンルームが左京の仕事部屋になっているらしく、高級な猫足の机といすが鎮座している。そこに座る左京はそりゃよく似合うであろう。
「うん、まだわかってないよね~。あのね、俺は勝てない取引はしない主義なの。だからさ、麻友には受け入れるしか選択肢はないわけ~」
「あーなんか、似たやり取りを昨夜もしたような」
床にへたりこんだ麻友は諦めて左京にしぶしぶと向かった。そんな麻友の様子に左京も会話をする気になったのか麻友に近寄っていく。
「うん、取引は昨夜にも言ったからね~。麻友は頑として受け入れなかったけれど、正直、わかんないんだよね。どうしてそんなにも嫌がるのかなって」
「・・・・・・解らない?」
「そう。俺はね、これでも自負してるんだよ。顏も悪くないし、仕事もできるし、金もある。それなりの地位にはいるし、まぁ、護衛なんていらないぐらい身体は鍛えてるつもり。それなのに、君達はどうでもいいって感じだろう」
「それが気に入らないと」
「逆だよ。そういう人間はなかなか俺達の周りにはいない。それこそ貴重だ。だからこそ、囲い込みたい」
そうこうしているうちに左京が麻友を立ち上がらせて、ベッドへと座らせた。そして、傍にあったシャツを麻友に着せていく。たぶたぶなことから明らかに左京のものだと分かった麻友は眉をひそめたが、左京はそれを気にする様子もない。
「私の着替えは」
「さっきも言ったけど、洗濯中だから今はそれで我慢して」
「うう。落ち着かない」
ブラもパンツもないからすーすーするのだと麻友が言っても左京は笑うだけ。ベッドに座った左京はついでにとばかりに胡坐を組んで麻友を抱きかかえた。
「麻友、ここから出たいなら俺と付き合う以外に道はないよ」
「卑怯って罵っていいかな」
「もう昨夜に散々言われてるからね、好きなだけ叫ぶといい」
どうせ防音完備の部屋だしねと微笑む左京がにくいとさえ思う麻友だが、彼の言うように鎖を付けられていては選択肢などない。必死に考えた末に麻友は条件を付けることを思いついた。
「そんな卑怯でどうしようもないケダモノな左京さんに提案があります」
「嫌な予感がするけれど聞こうか」
後ろから引き寄せる力が強くなる。麻友の項に左京の息がかかるほど密着しているわけだが、当の二人に甘い雰囲気などあるはずもなく。
「嫌だけれど左京さんの言う通りにしましょう。その代わり、半年間であたしの気持ちを変えられなかったら諦めてもらえますか」
「なるほどね、期間を決めるのか・・・・・・まぁ、それでもいいよ~」
「ちょ。何を触って・・・・・・」
「なんでかな、感触がスゴイ好きなんだよね、もちもちぷにぷにって。ああ、これ、本当に気持ちいいな」
昨夜も思わずじゃぶっちゃったという左京にクッションを投げ捨てるが、彼はそれを難なく避けた。なまじ、ベッドがバカでかく寝そべりやすい広さというのもよくない。
「・・・・・・うん、やっぱりいいよね」
「ちょ、何を!」
なぜか左京にいきなり抱きしめられ、太ももの付け根をなぞるように触られる。麻友は自分の手と違って大きくも細長い指が一番敏感なところを撫でているのを感じていた。左京を見上げると胡散臭い笑みを見せている。あ、これ解っててやってると察した麻友はじたばたと身体を動かすが、しっかりと腰を掴まれている。まだ痛む身体では逃げられるはずもなく。
「これから付き合うんだし、身体の方にも覚えてもらわないと」
「んっ!!」
「ああ、上の桃も可愛がってやらないとな」
ぷちんと上から2つボタンを外され、そこにも魔の手がもぐりこんでいく。やわりと胸を揉みながら、麻友の項を舐めていく左京の舌の動きは完全に麻友を翻弄していた。舌が耳の輪郭を撫で、時には咥えてねっとりと愛撫する。体中が敏感になっている麻友にはかなり効く攻撃である。茂みを撫でていた指はすでに麻友の秘部の中へと押し込まれ、厭らしい水音を立てながら狭い膣の中で暴れていた。
何も履いていない麻友はあそこから太ももに流れてくる汁の感触を直に感じ、足を閉じようとするが、当然左京がそれを許すはずがない。
快感で力が入らないので、左京が少し押しただけですぐに横たわってしまう。左京は抜いた指を舐めとり、麻友の中へと入りやすくするために体勢を変えた。
「大丈夫、絶対に大事にするよ?少なくとも、俺にとって君はとても貴重だから」
その言葉を聞いた瞬間、麻友は頭がクリアになった。なんとか力を振り絞って足を大きく上にあげて、左京の頭にかかと落としを食らわせた。
「いたっ!」
「さっきもいったけれど!あたしは利用されたくない!例え大事にされてようと、そんなのあたしを見ていない限り、必要ないっ!」
「どういう意味なのかな」
「解ってんでしょうが。佳音を好きな気持ちを押し殺して、しかも、諦めるために適当な女ですませようとするんじゃない!」
麻友は・・・・・・気づいていた。いや、おそらくは右京も。佳音本人は気付いていなかったようだけれど、この男は間違いなく佳音を好きで、自覚もはっきりしている。それは彼氏がいる麻友にも目に見えてわかるほど佳音への視線が優しいからこそ解ったこと。だからこそ、右京は左京を警戒していた。でも、麻友に言わせれば、この男はヘタレでしかない。計算高いからこそ、確率が低い勝負には絶対に手を出さないだろうと解っていた。
そういう意味では右京の方が佳音に合っているし、あの二人がくっつくのも当然だと麻友は今更ながらに思う。少なくともこの男と区別してみれば、だけれど。
「自分が絶対佳音に選ばれないってわかっていたからこそ、何も言わなかった。右京さんに譲る体裁で、身を引いたのは変なプライドが邪魔したからでしょ」
「昨夜のことを覚えていないといいながら、ほぼ同じことをいってはえぐる麻友はやっぱり麻友だね」
「あなたは結局自分が一番大事。だからこそ、佐野家を優先に考えるといいながら自分の保身を考えて自分の弱さを隠す。そんなのあたしからみたら逃げでしかない。けっきょくあなたの本性ってその程度でしかないってことよ」
一気に言い切って、呼吸を整えていると、洗面所の方から音が鳴るのが聞こえた。洗濯機の音だと分かった麻友は、送り迎えはいらないと言い切ってさっさとリビングを出た。
頭を押さえながらも、舌打ちしている左京は不機嫌からか、追いかけようとしない。
麻友は洗濯機から取り出した服を身に着け、それまで着ていたシャツと拭くためにつかったタオルを洗濯機に放り投げて玄関へと歩き出した。そこに左京が苦々しい顔で鞄を持って立っていた。
「忘れ物だ」
「ありがとうございます」
麻友は何も言わずに鞄をひったくって玄関から出ていった。彼女の姿が消えて大きく音を立てて閉まった扉を見ながら、左京は小さく呟いた。
「・・・・・・解ってるよ、そんなの君に言われなくたって」
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