3 / 20
3)与えられた快感
しおりを挟む
佳音は完璧に油断していた。サークル以外であれば会う機会もないだろうと思っていたし、食堂だって、先日がイレギュラーで、そうそうあの男が来ることはないと麻友がいっていたから余計に。
「なんでここにいるのよ、右京先輩」
「つれないね~榊ちゃんも佳音も」
「呼び捨てはやめてもらえます?」
「犬山ちゃんって呼ぶのもなんだかなーって。それに佳音って呼ぶ方がしっくりくるし。あ、もちろん、敬語もナシでいいよ」
なぜか私達は食堂で同じからあげランチセットを食べていた。本当は逃げ出したいというのに、から揚げを残していけないし何より、周りの目が、目が!!
「先輩がいると周りの目がきっつい。麻友、サークルでは大丈夫なの?」
「サークルの仲間は慣れているみたいでこいつになびくバカはいなかったなー。ただ、一年生はさすがにね。私は彼のお蔭で無駄に耐性があるから大丈夫だけれど」
そうだった。麻友には高校生の時から付き合っている人がいるんだった。先輩もそれを知っているらしく口説くといったような行動はしていない。・・・いや、違うな。少なくとも、今日の彼は、だ。
「しっつれいだなー。仲間を食うつもりはないよ。そんなんしたら後から気まずくなるだけじゃん。それに彼持ちに手を出すほど飢えてないし~」
「当たり前の行動を威張られても」
なるほど、一応ルールはちゃんと設定してあるわけかと納得した佳音は最後の唐揚げを食べ終えた。この分だと、色々と情報が洩れてそうでコワイ。さっさと逃げよう。
「美味しかった。ごちそうさまです」
手を合わせた佳音はそのまま立ち上がろうとしたが、それより早く彼の方が佳音の右手首を掴んでいた。
「放してください」
「この後は別に予定なんかないはずだよね。じゃ、俺と話そうよ」
「え、ま、麻友も一緒に!」
顔をひきつらせた佳音はせめて友達と一緒にと思ったが、無常にも、麻友は無理だと湾曲的に言ってきた。
「あ~ごめん。サークルの打ち合わせがあるんだ」
ごめんと拝まれては何も言えない。何より、麻友に対して昨日の先輩とのやり取りをまだ説明していないかった。それだけに佳音としてはそう、がんばって・・・としか言えず、やむなく先輩と一緒に食堂を出ることにした。さすがに彼が傍にいると何も言えないらしく、周りは視線をよこすだけで何も言ってこなかった。ある意味助かったともいえるが、今後も続くようなら嫌がらせとかが出てくる可能性も考えておかねばならないと佳音は考え込んでいた。
「佳音、こっち」
「えっと、どこに?」
「あっちの木陰の方。ちょっと離れているけれど椅子や机もあって雨宿りもできるからかなり便利」
そう言って案内してくれた先は公園にあるような屋根付きの休憩所。しかも、灰皿もコンセントも設置されている珍しい場所。
「わ、スゴイ」
「ああ、たばこを吸うために来てるけれど、割と使いやすくて気に入ってる」
「木陰だからかあまり人も通らないんですね・・・穴場じゃないですか」
彼がタバコを吸いだしたので、少し離れたところにあるベンチに座る。木陰だから、日差しも入らないし、風も心地よい。ぼんやりしている佳音の横に右京が座った。
「ここのことは内緒ね」
「あ、はい」
「その代わり、君も使っていいからさ」
「大学ですよね、ってことは公共施設では?」
「そこでハマらないところがイイよね。で、考えてくれた?」
「何をです」
「一夜限りのお遊びについてに決まってるじゃん」
あっけらんと言う右京に佳音は一拍置いてからため息をついた。
「まさか、そのことについても共有しているとは思いませんでした」
「どういう意味、ソレ?」
「一人目は昨日の先輩。二人目は今日の先輩。本当の右京さんはどっちですか?」
「何をもって判断したの?」
隣にいた先輩は目を細めて質問には答えずに質問で返してきた。それについて佳音は彼の眼鏡を指さした。
「わずかではありますが、厚みが違っています。貴方の方が度数が高いですよね、それにタバコのメーカーも違います」
昨日彼がタバコを吸っているのを見た時にメーカーも覚えていたことが役立った。煙草をころころ変える人は少ないと指摘すれば、彼はびっくりしつつも、なぜか拍手をくれた。
「すっげー! 俺と右京を見分けたのって、家族や幼馴染以外じゃ君が初めてだ」
「名前からして兄弟がいるのかもとは思っていましたが、双子とはびっくりしています」
「ううん、三つ子。俺が一番上で、真ん中が妹で、一番下が右京なんで。あ、改めて、佐野左京ね」
「えっと、佐野さんも大学生ですか?」
「いいや、俺は仕事をしているから大学生じゃない。でも、大学に籍はあるよ。あ、俺のことは左京でいいからね~」
「はぁ、それでいいのなら」
「というか、それでお願い。ぶっちゃけ、苗字の方がいろいろと面倒なんでね」
改めてよろしくと宣った左京にウンザリした佳音はとりあえずと口を開いた。
「えと、先輩に伝えていただけますか、いい加減平穏な日々に戻りたいから解放してくださいって」
「んー言うのは構わないけれど、多分無理だろうな~」
「何故ですか」
「それは今晩直接聞いたらいいと思うよ。はい、右京からの手紙」
「あの人はこうなることを予想していたと?」
「五分五分とは言っていたけれどね、じゃ、俺は仕事に戻るからごゆっくり~」
手をひらひらさせてまたねーと消えていった左京の後ろ姿が消えた時、ようやく手紙を開封した。そこに書いてあったのは、ホテルの名前と部屋番号に地図。
検索してみるとかなり有名なホテルだった。うわぁ、何コレ。そういえば、苗字が面倒とかなんとか言っていたっけ。ということはそれなりの家なんだ……と何度目になるかわからないため息をついた。時間が書いていないということは、何らかの都合で彼がここにいるということだろう。
佳音は面倒だと思いながらも、頭に過ぎったのは昨日の彼の言葉。
「はぁ、行きたくないけれど、行かなきゃまたいろいろありそうだもんね」
変なところで思い切りのいい佳音は立ち上がって、スマホで検索しつつ歩き出した。
「うわぁ、無駄にでかい。さすが海野ホテル!」
大学終わりの佳音はとりあえず地図を頼りにホテルへとたどり着いた。かなりの高級ホテルにちょっと引いたが、ここまで来たからには入るしかないと無理やり足を前へと動かした。
書いてあった部屋番号についてフロントに問い合わせるとなぜか部屋の前まで案内された。そこまで?と思ったらなるほど、最上階まで行くのかと納得したのと同時に、どんどん不安に襲われてきた。
案内してくれたお姉さんにお礼をいった後、ドアをノックする。すると、どうぞと声が聞こえてきた。恐る恐るドアを開けると、視界一面に夜景が見えた。
「うわ・・・・・・」
「すごいだろう?」
いきなりの声にびっくりして横を見ると、夜景を前にソファーにもたれている右京がいた。
「こんばんは、先輩」
「ああ、こんばんは。ここに来れたってことはあいつに会ったということか」
「左京さんですよね。はい、ほんとそっくりだなぁって」
佳音の声が途中で止まったのは、右京が驚いた表情でこちらを見つめてきたからだ。
「何故、左京の名前を?」
「え、あ、左京さんが苗字は面倒だからって」
「何それ。そういや、あいつも佳音って言っていたな。じゃあ、なんで俺には先輩呼びなわけ?」
「先輩は先輩ですから」
間を置かずにずばっと言い切ったのは条件反射と思いたい。だけれど、瞬時に目を細めた右京が立ち上がってこちらに向かってきたのを見た佳音はあれ?と冷や汗をかいた。もしかして私なにかしたか?と思いながらも少し後ずさりしたが、彼の両手に挟まれて、窓におしつけられる形になった。突然のことにびっくりして鞄を落としてしまったが、それを取ろうにも、右京に頬を撫でられては動けない。しかも、その声はやけに甘く、それでいて妖艶に聞こえるのだから自分の耳が腐ったのかおかしくなったのかと思うほど。
「佳音、何故俺がここに君を呼んだかわかる?」
「試したいって言っていたことを実行するためですよね」
「解ってるじゃないか。じゃあ、どうして逃げなかった?」
「終わらせたいからです」
「ーーは?」
「いい加減すっぱり終わって、平穏な日々を取り戻したいんですよね~って、いたっ!」
幸いにして、セックスが初めてなわけではないですしと佳音が口にしたとたん、右京は佳音の腕を窓へと押し付けていた。
「ほーんと、面白い。佳音はほんとに俺をイライラさせる天才だな」
「はっ、私が?なんで・・・あっ・・・ん・・」
皮肉った声が降ってきたと思ったら、顔が近づいてきて首筋に止まった。柔らかな髪と耳が視界に見えたとたん、首筋にちくっとした刺激を感じた。何をと声にするも、彼は声で反応しなかった。そのかわりに、佳音の首筋を舐め始めた。
「ちょ、ま、やめっ・・・・・・」
顎を掴まれて今度は激しいキスをされる。何を思ったのか、舌まで入れてきた右京にびっくりするも、息苦しくて声を出すことができない。
というか、今気づいたけれど、眼鏡かけていない・・・!やっぱ、だて眼鏡だった!とそんな思考が頭に過ぎるも、彼の舌が口の中を蹂躙し、手首をつかんでいた手がなぜか背中へと回った。その時、佳音は思いだした。今の服がワンピースであることを。空いた手で慌てて彼の胸を押し返そうとするが、それより彼の手が先にファスナーを下へとさげた。内心慌てふためいてると、ようやく彼がキスから解放してくれた。
「ほっんと、イラつく。だから前言撤回だ・・・一回でなんて終わらせてやらない」
「え、は?な?なん、で?」
いらつくというのなら、もう開放してほしいのに、彼はそれを許さないという。一体なんで?訳が分からない。混乱している佳音をよそに、ワンピースを剝いで抱き上げていく彼はなんて手慣れているんだろうか。下着姿で持ち上げられた佳音は真っ赤になりながらも彼に抗議した。
「やっ、どこに?」
「ベッドに決まってるでしょ?ああ、それともこの夜景の前でやりたいっていうならいいよ?」
「っ・・・ど、っちもや・・・・あっ!」
ドアをあけてすぐに目の前に広がる大きなベッドに放り出されたかと思うとすぐに覆いかぶさられた。片手でシャツを脱ぎ、ズボンを下していくその一方で佳音の身体を舐めたり撫でまわしたりと完全に右京のペースで進んでいく。・・・経験はあるものの、一人しか知らない佳音にとって、こんな風にされるのは初めてのことだった。
むかつく、いらつくと言い、荒々しく撫でてくるのに・・・キスだけは優しい。
ナニコレ。これがエッチだっていうのなら、自分の初体験のあれは一体何だというのか。
撫でながら肩にキスして、谷間にまでキスを始めた右京がブラのホックを外していることにも気づいていたけれど、何も声に出せなかった。だって、足を絡めてきて、ショーツまで外そうとしているのに抵抗するのに精いっぱいだったから。ホックが外れる音にびくっと身をすくませたその時、ショーツが引き下ろされるのが解った。
「あっ!」
「ああ、ピンク色で美味そうだな」
思わず普段でないような声が上がったのは、彼が乳首をくわえ込んできたから。身体が火照るのを感じながらも、佳音はさらに身体をすくませた。彼の片手が・・・いや、指が下の茂みの中へと滑り込んできたからだ。
「い、や・っ・・・・・・!」
ぐちゅりと指が入ってくる感覚に体をくねらせるしかない。気付けば自分の息遣いが荒くなっている。それでも絡みとられた身体は右京の口と手によって快感を与えられて、どんどん厭らしくなっていく。
どれくらい経ったかわからない。佳音は悶えながらも、ぎゅっと目と唇を閉じて快感の波が早く過ぎ去っていくことを願った。
だけれど、右京は無情にも佳音の足を掴んで大きく広げた。何をと思う間もなく、グショグショに濡れた谷間の奥から指を引き抜いた。感じていた快感と違和感が一気に亡くなったことにほっとしたのもつかの間、茂みに熱い熱が当てられていることに気付いた。
それが何かなんてもう考えるまでもない。
「佳音、恥ずかしがってないでこっちを見ろ」
「やぁ・・・・・」
「開けないとこのままだぞ」
足を広げられたままなんて嫌だと羞恥心にあおられながらも、佳音が恐る恐る目を開けると彼が汗びっしょりで見詰めてきているのが見えた。・・・そこで舌なめずりとかやめてもらえませんか。
「せん、ぱ・・・い・・・」
「上、見てみ?佳音のいやらしい身体が見えるでしょ?」
「なんで鏡があるんです?」
あられのない自分と右京の姿が天井に広がっていることに驚いた佳音はさっきまでの熱が噓のように真っ青になった。だが、右京がそれを見逃すはずがない。右京はなぜか指を口の中に含んでから、佳音の耳元で囁いた。
「ちゃんと入れるとこ、見ているんだよ」
「ま、って・・・っ・・・」
「待たない」
目を逸らしたら許さないと言い切った彼は唾を付けた指をぐっと茂みの奥へと入れて入り口を広げて勃起しているソレを宛がった。震える佳音は腰を引き寄せられたその瞬間、身体全体に力を入れるが、腰を引き寄せられては先端を飲み込むしかない。
押し寄せてくる快感と痛みに耐えられなかった佳音は喘ぎ声を出した。それが右京をさらに煽っていることにも気づかずに。奥が彼の熱でいっぱいになっていることにようやく気付いた佳音は汗いっぱいに喘ぐことしかできなかった。擦られたかと思うと奥へと突き刺さってくるソレも含めて、右京との性交はあまりにも気持ち良すぎた。
「やあっ。・・だめぇ・・・・・ああん、あっ・・・や、だ・・・!」
「そんなこと言ってるけれど、身体の方は凄く素直だな。こんなにも絡みついてびしょびしょになって、俺を離してくれない」
「ちがっ・・・んっん・・・!」
「初めてじゃない割には、経験に慣れていないようだが?」
意地悪なことを言う右京だが、根本まで埋めているソレを少し引き抜こうとしている。はぁはぁと息を切らせながらも、佳音はぼんやりとした頭で頷いた。
「だ、って・・・こんな、あまく、ない・・・はげし、くて、それで、あまいの・・・はじめてっ・・・」
「へぇ。元カレとはどういう?」
「・・・・痛い、だけだった。入れてきても、快感なんてなかなかなくて・・・・」
「なるほどな。佳音、その元カレに今度会う機会があったら伝えてやれ」
右京がそう口にしたとたん、佳音は下半身がさらに熱を持ったのを実感した。右京は引き抜こうとしたんじゃない。滑りをよくしてさらに奥へ入れるためだったのだと気付いた時には、もう何も考えられなくなっていた。ただ、彼がさらに言葉を重ねながらキスしてきたことは覚えている。
「『お前のセックスはへたくそだ』とな・・・まぁ、会わせる気などないが」
その言葉を最後に、佳音は倦怠感と眠気に負けてシーツに身を投げ出した。
「なんでここにいるのよ、右京先輩」
「つれないね~榊ちゃんも佳音も」
「呼び捨てはやめてもらえます?」
「犬山ちゃんって呼ぶのもなんだかなーって。それに佳音って呼ぶ方がしっくりくるし。あ、もちろん、敬語もナシでいいよ」
なぜか私達は食堂で同じからあげランチセットを食べていた。本当は逃げ出したいというのに、から揚げを残していけないし何より、周りの目が、目が!!
「先輩がいると周りの目がきっつい。麻友、サークルでは大丈夫なの?」
「サークルの仲間は慣れているみたいでこいつになびくバカはいなかったなー。ただ、一年生はさすがにね。私は彼のお蔭で無駄に耐性があるから大丈夫だけれど」
そうだった。麻友には高校生の時から付き合っている人がいるんだった。先輩もそれを知っているらしく口説くといったような行動はしていない。・・・いや、違うな。少なくとも、今日の彼は、だ。
「しっつれいだなー。仲間を食うつもりはないよ。そんなんしたら後から気まずくなるだけじゃん。それに彼持ちに手を出すほど飢えてないし~」
「当たり前の行動を威張られても」
なるほど、一応ルールはちゃんと設定してあるわけかと納得した佳音は最後の唐揚げを食べ終えた。この分だと、色々と情報が洩れてそうでコワイ。さっさと逃げよう。
「美味しかった。ごちそうさまです」
手を合わせた佳音はそのまま立ち上がろうとしたが、それより早く彼の方が佳音の右手首を掴んでいた。
「放してください」
「この後は別に予定なんかないはずだよね。じゃ、俺と話そうよ」
「え、ま、麻友も一緒に!」
顔をひきつらせた佳音はせめて友達と一緒にと思ったが、無常にも、麻友は無理だと湾曲的に言ってきた。
「あ~ごめん。サークルの打ち合わせがあるんだ」
ごめんと拝まれては何も言えない。何より、麻友に対して昨日の先輩とのやり取りをまだ説明していないかった。それだけに佳音としてはそう、がんばって・・・としか言えず、やむなく先輩と一緒に食堂を出ることにした。さすがに彼が傍にいると何も言えないらしく、周りは視線をよこすだけで何も言ってこなかった。ある意味助かったともいえるが、今後も続くようなら嫌がらせとかが出てくる可能性も考えておかねばならないと佳音は考え込んでいた。
「佳音、こっち」
「えっと、どこに?」
「あっちの木陰の方。ちょっと離れているけれど椅子や机もあって雨宿りもできるからかなり便利」
そう言って案内してくれた先は公園にあるような屋根付きの休憩所。しかも、灰皿もコンセントも設置されている珍しい場所。
「わ、スゴイ」
「ああ、たばこを吸うために来てるけれど、割と使いやすくて気に入ってる」
「木陰だからかあまり人も通らないんですね・・・穴場じゃないですか」
彼がタバコを吸いだしたので、少し離れたところにあるベンチに座る。木陰だから、日差しも入らないし、風も心地よい。ぼんやりしている佳音の横に右京が座った。
「ここのことは内緒ね」
「あ、はい」
「その代わり、君も使っていいからさ」
「大学ですよね、ってことは公共施設では?」
「そこでハマらないところがイイよね。で、考えてくれた?」
「何をです」
「一夜限りのお遊びについてに決まってるじゃん」
あっけらんと言う右京に佳音は一拍置いてからため息をついた。
「まさか、そのことについても共有しているとは思いませんでした」
「どういう意味、ソレ?」
「一人目は昨日の先輩。二人目は今日の先輩。本当の右京さんはどっちですか?」
「何をもって判断したの?」
隣にいた先輩は目を細めて質問には答えずに質問で返してきた。それについて佳音は彼の眼鏡を指さした。
「わずかではありますが、厚みが違っています。貴方の方が度数が高いですよね、それにタバコのメーカーも違います」
昨日彼がタバコを吸っているのを見た時にメーカーも覚えていたことが役立った。煙草をころころ変える人は少ないと指摘すれば、彼はびっくりしつつも、なぜか拍手をくれた。
「すっげー! 俺と右京を見分けたのって、家族や幼馴染以外じゃ君が初めてだ」
「名前からして兄弟がいるのかもとは思っていましたが、双子とはびっくりしています」
「ううん、三つ子。俺が一番上で、真ん中が妹で、一番下が右京なんで。あ、改めて、佐野左京ね」
「えっと、佐野さんも大学生ですか?」
「いいや、俺は仕事をしているから大学生じゃない。でも、大学に籍はあるよ。あ、俺のことは左京でいいからね~」
「はぁ、それでいいのなら」
「というか、それでお願い。ぶっちゃけ、苗字の方がいろいろと面倒なんでね」
改めてよろしくと宣った左京にウンザリした佳音はとりあえずと口を開いた。
「えと、先輩に伝えていただけますか、いい加減平穏な日々に戻りたいから解放してくださいって」
「んー言うのは構わないけれど、多分無理だろうな~」
「何故ですか」
「それは今晩直接聞いたらいいと思うよ。はい、右京からの手紙」
「あの人はこうなることを予想していたと?」
「五分五分とは言っていたけれどね、じゃ、俺は仕事に戻るからごゆっくり~」
手をひらひらさせてまたねーと消えていった左京の後ろ姿が消えた時、ようやく手紙を開封した。そこに書いてあったのは、ホテルの名前と部屋番号に地図。
検索してみるとかなり有名なホテルだった。うわぁ、何コレ。そういえば、苗字が面倒とかなんとか言っていたっけ。ということはそれなりの家なんだ……と何度目になるかわからないため息をついた。時間が書いていないということは、何らかの都合で彼がここにいるということだろう。
佳音は面倒だと思いながらも、頭に過ぎったのは昨日の彼の言葉。
「はぁ、行きたくないけれど、行かなきゃまたいろいろありそうだもんね」
変なところで思い切りのいい佳音は立ち上がって、スマホで検索しつつ歩き出した。
「うわぁ、無駄にでかい。さすが海野ホテル!」
大学終わりの佳音はとりあえず地図を頼りにホテルへとたどり着いた。かなりの高級ホテルにちょっと引いたが、ここまで来たからには入るしかないと無理やり足を前へと動かした。
書いてあった部屋番号についてフロントに問い合わせるとなぜか部屋の前まで案内された。そこまで?と思ったらなるほど、最上階まで行くのかと納得したのと同時に、どんどん不安に襲われてきた。
案内してくれたお姉さんにお礼をいった後、ドアをノックする。すると、どうぞと声が聞こえてきた。恐る恐るドアを開けると、視界一面に夜景が見えた。
「うわ・・・・・・」
「すごいだろう?」
いきなりの声にびっくりして横を見ると、夜景を前にソファーにもたれている右京がいた。
「こんばんは、先輩」
「ああ、こんばんは。ここに来れたってことはあいつに会ったということか」
「左京さんですよね。はい、ほんとそっくりだなぁって」
佳音の声が途中で止まったのは、右京が驚いた表情でこちらを見つめてきたからだ。
「何故、左京の名前を?」
「え、あ、左京さんが苗字は面倒だからって」
「何それ。そういや、あいつも佳音って言っていたな。じゃあ、なんで俺には先輩呼びなわけ?」
「先輩は先輩ですから」
間を置かずにずばっと言い切ったのは条件反射と思いたい。だけれど、瞬時に目を細めた右京が立ち上がってこちらに向かってきたのを見た佳音はあれ?と冷や汗をかいた。もしかして私なにかしたか?と思いながらも少し後ずさりしたが、彼の両手に挟まれて、窓におしつけられる形になった。突然のことにびっくりして鞄を落としてしまったが、それを取ろうにも、右京に頬を撫でられては動けない。しかも、その声はやけに甘く、それでいて妖艶に聞こえるのだから自分の耳が腐ったのかおかしくなったのかと思うほど。
「佳音、何故俺がここに君を呼んだかわかる?」
「試したいって言っていたことを実行するためですよね」
「解ってるじゃないか。じゃあ、どうして逃げなかった?」
「終わらせたいからです」
「ーーは?」
「いい加減すっぱり終わって、平穏な日々を取り戻したいんですよね~って、いたっ!」
幸いにして、セックスが初めてなわけではないですしと佳音が口にしたとたん、右京は佳音の腕を窓へと押し付けていた。
「ほーんと、面白い。佳音はほんとに俺をイライラさせる天才だな」
「はっ、私が?なんで・・・あっ・・・ん・・」
皮肉った声が降ってきたと思ったら、顔が近づいてきて首筋に止まった。柔らかな髪と耳が視界に見えたとたん、首筋にちくっとした刺激を感じた。何をと声にするも、彼は声で反応しなかった。そのかわりに、佳音の首筋を舐め始めた。
「ちょ、ま、やめっ・・・・・・」
顎を掴まれて今度は激しいキスをされる。何を思ったのか、舌まで入れてきた右京にびっくりするも、息苦しくて声を出すことができない。
というか、今気づいたけれど、眼鏡かけていない・・・!やっぱ、だて眼鏡だった!とそんな思考が頭に過ぎるも、彼の舌が口の中を蹂躙し、手首をつかんでいた手がなぜか背中へと回った。その時、佳音は思いだした。今の服がワンピースであることを。空いた手で慌てて彼の胸を押し返そうとするが、それより彼の手が先にファスナーを下へとさげた。内心慌てふためいてると、ようやく彼がキスから解放してくれた。
「ほっんと、イラつく。だから前言撤回だ・・・一回でなんて終わらせてやらない」
「え、は?な?なん、で?」
いらつくというのなら、もう開放してほしいのに、彼はそれを許さないという。一体なんで?訳が分からない。混乱している佳音をよそに、ワンピースを剝いで抱き上げていく彼はなんて手慣れているんだろうか。下着姿で持ち上げられた佳音は真っ赤になりながらも彼に抗議した。
「やっ、どこに?」
「ベッドに決まってるでしょ?ああ、それともこの夜景の前でやりたいっていうならいいよ?」
「っ・・・ど、っちもや・・・・あっ!」
ドアをあけてすぐに目の前に広がる大きなベッドに放り出されたかと思うとすぐに覆いかぶさられた。片手でシャツを脱ぎ、ズボンを下していくその一方で佳音の身体を舐めたり撫でまわしたりと完全に右京のペースで進んでいく。・・・経験はあるものの、一人しか知らない佳音にとって、こんな風にされるのは初めてのことだった。
むかつく、いらつくと言い、荒々しく撫でてくるのに・・・キスだけは優しい。
ナニコレ。これがエッチだっていうのなら、自分の初体験のあれは一体何だというのか。
撫でながら肩にキスして、谷間にまでキスを始めた右京がブラのホックを外していることにも気づいていたけれど、何も声に出せなかった。だって、足を絡めてきて、ショーツまで外そうとしているのに抵抗するのに精いっぱいだったから。ホックが外れる音にびくっと身をすくませたその時、ショーツが引き下ろされるのが解った。
「あっ!」
「ああ、ピンク色で美味そうだな」
思わず普段でないような声が上がったのは、彼が乳首をくわえ込んできたから。身体が火照るのを感じながらも、佳音はさらに身体をすくませた。彼の片手が・・・いや、指が下の茂みの中へと滑り込んできたからだ。
「い、や・っ・・・・・・!」
ぐちゅりと指が入ってくる感覚に体をくねらせるしかない。気付けば自分の息遣いが荒くなっている。それでも絡みとられた身体は右京の口と手によって快感を与えられて、どんどん厭らしくなっていく。
どれくらい経ったかわからない。佳音は悶えながらも、ぎゅっと目と唇を閉じて快感の波が早く過ぎ去っていくことを願った。
だけれど、右京は無情にも佳音の足を掴んで大きく広げた。何をと思う間もなく、グショグショに濡れた谷間の奥から指を引き抜いた。感じていた快感と違和感が一気に亡くなったことにほっとしたのもつかの間、茂みに熱い熱が当てられていることに気付いた。
それが何かなんてもう考えるまでもない。
「佳音、恥ずかしがってないでこっちを見ろ」
「やぁ・・・・・」
「開けないとこのままだぞ」
足を広げられたままなんて嫌だと羞恥心にあおられながらも、佳音が恐る恐る目を開けると彼が汗びっしょりで見詰めてきているのが見えた。・・・そこで舌なめずりとかやめてもらえませんか。
「せん、ぱ・・・い・・・」
「上、見てみ?佳音のいやらしい身体が見えるでしょ?」
「なんで鏡があるんです?」
あられのない自分と右京の姿が天井に広がっていることに驚いた佳音はさっきまでの熱が噓のように真っ青になった。だが、右京がそれを見逃すはずがない。右京はなぜか指を口の中に含んでから、佳音の耳元で囁いた。
「ちゃんと入れるとこ、見ているんだよ」
「ま、って・・・っ・・・」
「待たない」
目を逸らしたら許さないと言い切った彼は唾を付けた指をぐっと茂みの奥へと入れて入り口を広げて勃起しているソレを宛がった。震える佳音は腰を引き寄せられたその瞬間、身体全体に力を入れるが、腰を引き寄せられては先端を飲み込むしかない。
押し寄せてくる快感と痛みに耐えられなかった佳音は喘ぎ声を出した。それが右京をさらに煽っていることにも気づかずに。奥が彼の熱でいっぱいになっていることにようやく気付いた佳音は汗いっぱいに喘ぐことしかできなかった。擦られたかと思うと奥へと突き刺さってくるソレも含めて、右京との性交はあまりにも気持ち良すぎた。
「やあっ。・・だめぇ・・・・・ああん、あっ・・・や、だ・・・!」
「そんなこと言ってるけれど、身体の方は凄く素直だな。こんなにも絡みついてびしょびしょになって、俺を離してくれない」
「ちがっ・・・んっん・・・!」
「初めてじゃない割には、経験に慣れていないようだが?」
意地悪なことを言う右京だが、根本まで埋めているソレを少し引き抜こうとしている。はぁはぁと息を切らせながらも、佳音はぼんやりとした頭で頷いた。
「だ、って・・・こんな、あまく、ない・・・はげし、くて、それで、あまいの・・・はじめてっ・・・」
「へぇ。元カレとはどういう?」
「・・・・痛い、だけだった。入れてきても、快感なんてなかなかなくて・・・・」
「なるほどな。佳音、その元カレに今度会う機会があったら伝えてやれ」
右京がそう口にしたとたん、佳音は下半身がさらに熱を持ったのを実感した。右京は引き抜こうとしたんじゃない。滑りをよくしてさらに奥へ入れるためだったのだと気付いた時には、もう何も考えられなくなっていた。ただ、彼がさらに言葉を重ねながらキスしてきたことは覚えている。
「『お前のセックスはへたくそだ』とな・・・まぁ、会わせる気などないが」
その言葉を最後に、佳音は倦怠感と眠気に負けてシーツに身を投げ出した。
10
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。
KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※
前回までの話
18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。
だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。
ある意味良かったのか悪かったのか分からないが…
万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を…
それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに……
新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない…
おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる