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14)打算を胸に取引を(ケイト視線)

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ずっと疑問に思っていた。
再会した時、彼女は一度も魔法を見せなかった。この魔法が発達している国で魔法を使わない人間はほんの一握り。それこそ、魔力がない人間ぐらい。後は・・・俺の様に正体を隠している場合ぐらいか。

白乳色の髪の色をした少女は、たこ焼きを持って来るたびに、魔呪符に興味を示し、あれこれと目を輝かせて質問してきた。
最初こそは面倒だと思っていた相手だったけれど、慣れた頃になると議論になるぐらい盛り上がった。

(うん、今思えば、王子だってバレたのは本当に痛かったな・・・あれ以来一切議論もできてないし、敬語がなかなか取れないし。キスしても変わらないって相当頑固だよ・・・。)

でも、それ以上に驚いたのは、彼女の心を読めないこと。
俺の魔力はそれこそ高い。父と母が生きた伝説と呼ばれるぐらい有名なせいもあるんだろうけれど。
俺は城の中であれば、全ての人間の心を勝手に読みとることが出来る・・・両親以外の人間であれば、だ。
その俺が、両親以外で読み取れなかったのは誘拐犯を捕まえた時に泣かれたあの少女と、目の前にいるアリエッタの2人のみ。それもあって、後からこの二人が同一人物だと知った時には納得した。

からかい半分で始めた彼女のへのキスは、意外にも気持ちが良くて。ついつい隙を狙ってやってしまう。

「んっ・・・・・・・・・!!」

あの我慢するように声を詰まらせる様子も、いきなりのことに目を瞑ろうとするところも、終わった後に、紅潮した顔と潤んだ目で睨みつけてくるのも、見ていて気分が良かった。


だから、不思議だった。何故、彼女の心が読み取れないのか、と。
最初は本当にその程度の疑問だった。
だけれど、彼女のことを知るにつれてどんどん疑問が膨らんでいく。

ルアーの養女?
カルマリア国から逃走してきた?
奴隷だった?
しかも、前政権を担っていた皇族の?

・・・なんで、君は俺の精霊達に好かれているの?
何故か、俺の周りにいる精霊達は彼女を気に入っていて、時折彼女を俺の寝室に連れてくる。

「・・・はぁ、また連れてきたのか。また俺が怒られるじゃないか」

俺のベッドの上でぐっすりと眠るアリエッタを見ながら、精霊達に文句を言ったこともある。
返ってきた言葉は全て意味深なもので。

『大丈夫』
『彼女には貴方が必要なの』
『この子に癒しを与えてあげて』
『あなたにとってもこの子は必要』
『貴方達は出会う運命にあった。だから、手放してはダメ』


(その当の彼女は、精霊が見えてないらしい。だが、精霊達が気に掛けるほどの存在であることは確か。)


・・・新しい事実を知るたびに、彼女への興味が膨らんでいく。

何故、魔法を使おうとしない?
何故、皇族や貴族を嫌う?
何故、カルマリアから逃げた?

ルアーと話をした時、ある程度の情報は得たが、それでも不可解なことの方が多かった。

・・・なかなかいないと思うんだよね。
兵団以外で、俺がなかなか追いつけない人間って。これでも一応総団長だから、それなりに鍛えている。
そして、あのルーフェンの気配を読み取ることが出来る上に、自分の気配すら消せるってどういうこと?
暗闇の中で、灯りもなしにやすやすと目的地までたどり着けるその力。
・・・全て、生活の中では身に着ける必要がない力だ・・・逆に言えば、彼女はその必要性があったからこそ身につけざるを得なかったということ。

中央広場で魔物を見た時ですら、彼女は冷静だった。あの時、一瞬ではあるが、アリエッタは冷たい視線を向けていた・・・城の方へと。

(あの冷たい視線を感じた時、もしやと思ったんだよな・・・。ルアーと話した時のことを思い出してみれば、繋がりがあるように思える。黒の忌み子、精霊・・・魔法・・・)

そして、聖女について調べるスコット国王に付き合って、資料を探す中で見つけた記録。
それを見たことで、俺は確信を得た。
だからこそ、目の前にいるアリエッタに告げた。君が聖女なのではと。
彼女は今も、真っすぐに俺の目を捉えて離さない。・・・彼女は自分の手が震えていることに気づいているのだろうか。それでも、俺を睨みつけてくるのだから、大したものだと思う。

「ケイト王子、私が探しているものに興味がないと言っていましたよね」
「うん、確かに言ったね」
「どうやって気づいたんですか。私はあなたに喋った記憶がとんとないのですが」
「前に言ったっけね。俺は自分の目や耳で聞いたことしか信じない。そんな俺にとって心を読み取ることは情報集めの一つでしかない」
「・・・私の探し物を知っている人間は限られています。マシューでさえ、はっきりとは知らないはず。そして、ザン殿下の心は読めないとおっしゃいましたね」
「うん、誰かに伝えていれば話は別だけれど、そういうことはしない人だね、父上は」
「お父さんを・・・攫ったのはあなただったんですか、ケイト・トーリャ王子殿下。」

(ほんっとうに・・・賢いよなぁ。)

「その後に、カルマリアの人間が来て君の家を荒らしたのは予想外だったよ。それと、攫ったわけじゃないな。重要参考人として城に召集し、話を聞かせてもらっていただけだ」
「何故・・・・・・!!」
「ルアー夫妻はカルマリアで君を見つけた。では、何故彼らはそこにいたと思う?」
「え・・・」

どういうことだと目を見開かせたアリエッタに対して、ケイトは手を振りながら告げた。

「・・・彼らは逃げていたんだよ。父上の追っ手からね」
「どういう、ことですか?」
「母上が意識不明になった時の第一発見者がルアーだった。だから、彼は疑いをかけられていた」
「そん、な・・・・・・でも、お父さんは、貴方のことを気にかけていて」
「・・・君のお父さんの警戒心を解くのは簡単だった。父上だったら無理だっただろうが、俺なら、知らない仲じゃない。そ知らぬふりをして、君のことを心配すればその分、彼はホッとした様子を見せてくれたからね」
「でも、メリーが・・・!」
「そう、そのメリーが容疑者と解ったことで、ルアーに対する疑いは晴れた。だけれど、その代わり、君の身の安全が危険だということで、君を城で預かることになったよね。同時に、ルアーに対しても危険だからと、彼の実家の方にいてもらっているよ」
「なんで、それを教えてくれなかったんです!!心配したのにっ!!」

手を振り上げて叩こうとしてくるアリエッタの細い腕を掴み、顎を引き寄せる。

「さて、ここで質問だ。俺はどこから情報を手に入れたと思う」
「・・・っ・・・お父さんの、心を・・・読んだんですね」
「正解、ご褒美だ」

アリエッタの頭を引き寄せ、柔らかな唇に口づけた。必至に手を動かして胸を叩いてくるが、些細な抵抗だ。息苦しそうな様子にわずかに口を離す。
睨みつけてくる彼女の目にぞくぞくした。

「ああ、楽しいな」
「こっちは、全然楽しくないでっ、んっ・・・やぁ・・・んっ!!!」

うるさいので、今度は舌を絡めて黙らせることにした。立っているのが辛そうだったから、椅子に座り、彼女の身体を引き寄せ、抱き上げる。
彼女の舌の温もりを感じながら、ふと思った。

(・・・認めたくないが、結構この子を気に入っているんだよね。)

もう少し舌を堪能したいが、彼女の方がそろそろ限界のようだ。
名残惜しいと、最後にもう一度口づける。と、その時、彼女から思いっきり頭突きをされた。

「痛っ・・・・・・!!」
「それぐらいで済むことに感謝してくださいっ!!なんで、好きでもない人間にキスするんです、そういうことは、別の麗しい女性達にやってくれませんか!あなたなら選り取り見取りでしょう!」
「あんな卑しい心を持って近寄ってくる女性はまっぴらごめんだね」

(厚化粧して、俺の声名とか父上や母上を利用したいとばかりに色仕掛けをあれこれと画策して群がってくるバカ女どもを誰が抱きたいと思うんだ・・・いとこの皇太子でさえ嫌だと首を振るぐらいなのに。)

・・・バカ女どもと比べると、目の前で必死に俺の膝から降りようとしているアリエッタの方が数倍も可愛いし、抱きたいとも思う。
真っ赤な顔をして逃げようと頑張っているのはわかるが、手首と腰を捕まえているから逃げられない。それに気づいていないわけではないだろうに、必死になる様子がこれまた可愛い。

(こんな風に感情豊かなんだ、多分、寝床じゃもっと乱れてくれるだろうな・・・。)

「・・・王子、なんか変なことを考えていませんか?」
「そして、勘がいい。うん、やっぱり君が一番、最適だ」

うんうんと頷いていると、アリエッタの冷たい視線がさらに冷たくなった。
もう少し遊びたかったが、時間がないので、本題に入ることにした。

「からかいはともかくとして・・・ケイト・トーリャの名の下に取引をしたい」
「・・・天下の王子様が、一般市民の私と取引を?」
「正確には、カルマリア国の聖女様とだけれどね。でも、君にとっても悪い話じゃないと約束するよ」

アリエッタの動きが止まったということは、少しは興味を持ってくれたということかな。
できるなら、この取引は俺としても心都合だから是非にも受け入れて欲しいのだが・・・どうだろうな。

「何故、私が貴方の婚約者にならなければいけないんですか?貴方の国にはすでに聖女様がいるんだから、そんなことしても無意味では?」
「君はこの国から逃げたいだろう?聖女ということがバレれば、間違いなくこの国は手のひらを返して、君をなんとしても確保しようとするだろうね」
「・・・まあ、それは否定できません」
「そして、俺達・・・いや、わが国の皇帝はこの国に借りをつくりたくないと考えている。だが、母上を助けるためにはどうしてもこの国の助力が必要だった」
「・・・・・・あれ、でも、なんか国王様は好意的な様子ですが」
「そりゃあ、あっちからすればメリットばかりで魅力的だからね、断る要素がどこにもない」

しかも、魔物や聖女についての情報も結果的にはこっちから与えたようなものだ。その上にメリーを拘束となれば、父上にもわが国に対しても、大きな借りをつくることができる。

(いくら父上の友人とはいえ、曲がりなりにも国王だ。その友情を口実に、優位に立とうと考えるのがむしろ国王らしいといえる。父上も多分内心では腹立たしいと思っていただろうな。)

・・・ということをかみ砕いて話すと、アリエッタは遠い目で呟いた。

「・・・国と国に友情はないんですか」
「少なくとも、平等の力を持っている国同士でなければ難しいんじゃないのかな~」

(例え、友情で結ばれた国があったとしても、腹の中は探り合いだろう、純粋に助け合いをと考えるのは無理がある。)

「でも、そこでどうして私なのです?」
「アリエッタがあの魔物を追い払い、その上で父上に助けられたという話をすれば、借りはなかったことにできる。その上で、君を保護するという名目で婚約者にしたと言えば、あの国は我が国に強く出ることはできない」
「確かに。でも、この国を抑えることにはどういう意味が?」
「君も知っての通り、わが国は3ヶ国に囲まれている。その中で、この国だけは同盟を結んでいないんだよ。即ち、この国を介して戦争が起こる可能性がまだ残っている」
「・・・・・・それは、危険ですね。またあんな戦が起こるのはまっぴらごめんです」
「そういうことだ。父上の目的は母上の救出だが、皇帝の目的は同盟を結ぶことにある。そうでなかったら、俺やアリエッタを連れてこないだろうね」
「うう・・・・・・」

(どうでもいいけれどさ、君、膝に座るのが不安定だからって、俺の胸に縋りつくのはちょっと無防備すぎないか。さっきまでキスしていた相手だぞ・・・いや、違うか、抵抗はするが、キス自体どうでもいいと思っているふしがある。)

アリエッタを抱きしめる形にして腕を組むと、眉間にしわを寄せるものの、抵抗せずにもたれかかってくる。

「・・・・・・この体勢はどういう意図が?」
「君が落ちないようにしているだけだけれど」
「それならいいです。えっと、そうなると、婚約は形だけに?」
「まさか」
「え」

勢いよくアリエッタが顔をあげた。その拍子に顎とアリエッタの頭がぶつかって痛かった。

「アリエッタ、突然顔をあげるのはやめてくれ・・・痛いよ」
「うう・・・それより、どういう意味ですか、それは!!!」
「あのね、さっきまでの話は皇帝や父上の思惑だよ。それを俺が受け入れた理由は何だと思う?」
「つまり、貴方にもメリットがあるってことですか」
「そう。それが君との婚約だ。君も噂では知っていると思うが、俺には婚約者候補が何人かいる」
「ああ、皇太子の婚約者候補から外れて、それならばと貴方に乗り換えようと群がっている人間が何人かいると、ビビから聞いたことがあります」
「そう、まさにその通りだ、君にはその欲望に充実な愚かで馬鹿な女どもを追い払ってほしい。何、心配ないよ、わが国では、聖女は皇帝と平等の力を持っている。それは他国の聖女であっても同じだ」
「そのための婚約ですか」
「その代りといってはなんだが、このカルマリアの好き勝手にはさせないし、君とルアーの安全は保障する。あ、たこ焼き屋の営業も続けてくれて構わない」

まだ痛い顎を撫でつつ、アリエッタを見ると、嫌そうな顔を見せている。

(・・・うん、まあ、そういう顔になるのはしょうがないかな。かなり俺の都合が入っているし、ルアーもこっちの手の中だし。)

「ええ・・・そんな婚約の決め方でいいんですか」
「政略結婚なんてそんなものじゃない」
「これだから、皇族は嫌いなんですよ。見事にこっちの都合まるっと無視してくれて・・・っ!!」

あっけらんに言えば、アリエッタは怒りいっぱいに拳を握りしめている。

「まあ、今晩ちょっと考えておいて。とはいっても、選択肢はほぼないけれど。で、探し物はどうする?手伝ってもいいよ?」
「はあ。もうそんな気分じゃなくなったので、部屋に戻ります」
「じゃあ、部屋まで送ろう」

抱きしめながら立ち上がると、アリエッタが目を丸くした。

「ああ・・・力持ちなんですね」
「それほど重くないしね、君は」

ニヤリと笑いながら、指を鳴らす。瞬時に転移移動し、アリエッタの泊まっている部屋に着いた。

「この城は警備がかなり杜撰ずさんですね」
「魔呪符だけでは弱いしね。そうでなくても、再建したばかりの国だ、あまり予算的に余裕がないんだろう」
「うわぁ、国の予算事情が垣間見える・・・・・・って、うわっ!!」

抱き上げていたアリエッタをベッドの上へと降ろすと、自然と見下ろす形になった。
ちょこんと動物の様に座っているアリエッタを見て、ふと思った。
彼女の本来の姿はどんな姿なのだろうか。

(黒髪というからには母上と同じ日本人なんだろう、昔は母上以上に綺麗な髪の持ち主なんていないと思っていたけれど・・・。)

「・・・・・・君からの返事を楽しみに待つとしよう」

彼女の髪を一房とってそっと口づける。
普通ならこれで、頬を染められることが多いのだが、当の彼女は胡乱な目を向けていて、とても頬を染めているようには見えない。しかも、皮肉をストレートにズバッと言ってきた。

「お父さんを人質に取っておいて何をいうんですか」
「流されないそんな君だからこそ、気に入っているんだよ。じゃあ、おやすみ」
「・・・おやすみなさい、腐れ王子様」

アリエッタの言葉に微笑み返してから、自分の部屋に転移移動で戻った。


本当に勘がいい。・・・彼女が皇族や貴族を嫌っているのは汚さを知っているからだ。
だからこそ、彼女ならば俺の敵に対応できると踏んだ。あの回転の良さなら、予想以上に出来そうだし、問題もないだろう。
問題があるとしたらただ一つ。


「うーん、愛とか恋とか戯言だと思っていたけれど、溺れてしまいそうな気はするな」



(・・・俺が彼女に落ちないかどうか、だけだ。)




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