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第16話 魔王に追いついた
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アルヴァリスタ領の端に、古城があった。
かつてアルヴァリスタ領内でトップクラスの栄華を極めた古い貴族が建てた城。
そんな古城に、魔王マガラとルピスがいた。
「ハハハハハハハ!! 酒が美味いなぁ女!」
「全然美味しくないよ! というか私、お酒飲めないし!」
そう言って、ルピスは酒杯を魔王へ投げつけた。酒が魔王にかかる刹那、液体は空中で静止した。
彼のおぞましい魔力は自動的な防御を可能とする。つまり、ルピスの行動は攻撃と見做され、それに対しての防御行動が働いたのだ。
「その気丈さ! 良き! 流石はこの世に一つしか無い宝!」
「それ、ずっと言っているけど、私は貴方と結婚する気は一ミリもないよ?」
「……本当か?」
「うん。だって私、ライド以外の人と結婚する気はないし、もしライドが死んじゃったら私もすぐ命を断つつもりだから」
「ハハハハ! 全く冗談に聞こえぬ! そうなれば、本当なのだな? 貴様はそのライドとやらが死んだらすぐに死ぬつもりなのだな!?」
「うん! だってライド以外いい人いないよ~?」
「それはもはや純愛! だからこそ俺はお前を振り向かせたい!」
「馬鹿にしないで。私はずっとライド一筋なの。変わるなんてありえないから」
その気迫は、潜り抜けた修羅場が豊富な魔王でさえ、嬉しくて口角を吊り上げたほどだ。
何と高潔な精神、何と純粋な愛情。
だからこそ魔王は全てを物にしたいのだ。
この気高さこそ、世界でたった一つの宝物なのだから。
「ではこの俺がライドを打倒しよう。それも、お前が自ら命を断つような惨めさではなく、あくまで正々堂々とな」
魔王はルピスに近づき、顎をクイと上げた。
「まあ、そうではなくても俺は魔王だ。どれ、口づけでもしておこうか……」
ルピスは抵抗するが、魔王の力から逃げることは出来ない。彼女はその瞬間から、自決の選択肢を選ぼうとしていた。
ライド以外の人間に許す唇ではない。それが無理矢理奪われるのならば、死をもってライドに詫びる。それが、ルピスの誓いであった。
魔王の顔が近づく。ルピスは服に仕込んでいた短剣を自らの手首に当てた――。
「誰の許しを得て、ルピスに近づいているんだぁぁぁぁぁ!!!」
轟音。直後、破壊音。
城の壁が突き破られた。煙と瓦礫の中から飛び出したのはライドを乗せたトラックであった!
「ライド!」
「ほお! 本当に来たのか! 見上げた根性!」
そのままトラックは魔王を跳ね飛ばした。すぐにライドはトラックから降り、ルピスへ駆け寄る。
「ライド! 私――」
次の瞬間、ライドはルピスを抱きしめていた。
ルピスからライドへは何度もあった。だが、ライドからルピスへの抱擁は今の今までなかった。
ルピスは思わず顔を赤くする。
「へ!? ど、どうしたのライド!?」
「僕はこうして君を抱きしめる瞬間まで、自分に嘘をついていた」
「そ、それって……」
「ルピス、僕は――」
「はーはははは! ようやく現れてくれたな人間さんよぉ!」
魔王マガラがライドの前に立つ。多少衣服に傷が入っているが、本体にダメージは入っていないようだった。
ライドはルピスを後ろにやり、一歩踏み出した。
今、ライドと魔王は超至近距離で向かい合っている。
「人間さん、お前の名は?」
「ライドルフ・ジェン・アルヴァリスタ。親しい奴はライドと呼ぶ」
「そうか。ならライドルフ、覚えておけ。俺様の名はマガラだ。どちらがどうなるか分からない以上、覚えておいてくれよ、俺様の名を」
「好感度による」
「正直だな。その勢いに任せて聞こう。お前、ルピスとやらを譲る気は?」
「愚問だな」
「ハハハ!! そうか、じゃあ決着をつけようぜ!!! お前が死んだら、ルピスは俺様がいただく!!」
「そうはさせるかよ馬鹿野郎が!!!」
魔王の拳に合わせて、ライドのトラックが出現した。
トラックは粉砕され、魔王は無傷。これは分が悪かった。
「この鉄くずはなんだ!? 容易くぶっ壊せるなぁ!」
「言ってろ!!」
ライドは次なるトラックを召喚した。四方八方から迫りくるトラック。一台一台から放たれる殺意はとてつもなく、確実に転生させてやるという気持ちが良く感じられた。
「ごおおお!!」
無数のトラックに潰される魔王。これで絶命するなら実に容易い。だが、魔王はそういう類の存在ではなかった。
「良いマッサージだなぁあ!!! おかげで肩こりが治ったわ!!!」
「そのまま死んでくれてたら良かったなあ! 二の矢、行くぞ!」
「落ち着けい! 次は俺様のターンだろうがぁん!?」
マガラの全身から黒い闘気が吹き出す。
だがライドは冷静だった。そこから繰り出される攻撃パターンはだいたい予想できていた。あと必要なのは、冷静な対応だけ。
そう、思っていた。
「のびーろ!」
彼が何気なく手を伸ばすと、黒い闘気が手の形となって、伸びた。
「何だとぉぉー!?」
驚きのあまり、一瞬対応が遅れてしまったライド。黒い腕は容赦なくライドを掴み上げる。
「つーかまぇた!」
「しまった逃げられ――!」
そのままマガラは、ライドが対応する隙も与えず、壁めがけて投げつけた。
一撃で壁を突き抜けたライドは、城の外に放り出される。
「――――」
意識を失ったライドの身体は、地上へと落下していく……。
かつてアルヴァリスタ領内でトップクラスの栄華を極めた古い貴族が建てた城。
そんな古城に、魔王マガラとルピスがいた。
「ハハハハハハハ!! 酒が美味いなぁ女!」
「全然美味しくないよ! というか私、お酒飲めないし!」
そう言って、ルピスは酒杯を魔王へ投げつけた。酒が魔王にかかる刹那、液体は空中で静止した。
彼のおぞましい魔力は自動的な防御を可能とする。つまり、ルピスの行動は攻撃と見做され、それに対しての防御行動が働いたのだ。
「その気丈さ! 良き! 流石はこの世に一つしか無い宝!」
「それ、ずっと言っているけど、私は貴方と結婚する気は一ミリもないよ?」
「……本当か?」
「うん。だって私、ライド以外の人と結婚する気はないし、もしライドが死んじゃったら私もすぐ命を断つつもりだから」
「ハハハハ! 全く冗談に聞こえぬ! そうなれば、本当なのだな? 貴様はそのライドとやらが死んだらすぐに死ぬつもりなのだな!?」
「うん! だってライド以外いい人いないよ~?」
「それはもはや純愛! だからこそ俺はお前を振り向かせたい!」
「馬鹿にしないで。私はずっとライド一筋なの。変わるなんてありえないから」
その気迫は、潜り抜けた修羅場が豊富な魔王でさえ、嬉しくて口角を吊り上げたほどだ。
何と高潔な精神、何と純粋な愛情。
だからこそ魔王は全てを物にしたいのだ。
この気高さこそ、世界でたった一つの宝物なのだから。
「ではこの俺がライドを打倒しよう。それも、お前が自ら命を断つような惨めさではなく、あくまで正々堂々とな」
魔王はルピスに近づき、顎をクイと上げた。
「まあ、そうではなくても俺は魔王だ。どれ、口づけでもしておこうか……」
ルピスは抵抗するが、魔王の力から逃げることは出来ない。彼女はその瞬間から、自決の選択肢を選ぼうとしていた。
ライド以外の人間に許す唇ではない。それが無理矢理奪われるのならば、死をもってライドに詫びる。それが、ルピスの誓いであった。
魔王の顔が近づく。ルピスは服に仕込んでいた短剣を自らの手首に当てた――。
「誰の許しを得て、ルピスに近づいているんだぁぁぁぁぁ!!!」
轟音。直後、破壊音。
城の壁が突き破られた。煙と瓦礫の中から飛び出したのはライドを乗せたトラックであった!
「ライド!」
「ほお! 本当に来たのか! 見上げた根性!」
そのままトラックは魔王を跳ね飛ばした。すぐにライドはトラックから降り、ルピスへ駆け寄る。
「ライド! 私――」
次の瞬間、ライドはルピスを抱きしめていた。
ルピスからライドへは何度もあった。だが、ライドからルピスへの抱擁は今の今までなかった。
ルピスは思わず顔を赤くする。
「へ!? ど、どうしたのライド!?」
「僕はこうして君を抱きしめる瞬間まで、自分に嘘をついていた」
「そ、それって……」
「ルピス、僕は――」
「はーはははは! ようやく現れてくれたな人間さんよぉ!」
魔王マガラがライドの前に立つ。多少衣服に傷が入っているが、本体にダメージは入っていないようだった。
ライドはルピスを後ろにやり、一歩踏み出した。
今、ライドと魔王は超至近距離で向かい合っている。
「人間さん、お前の名は?」
「ライドルフ・ジェン・アルヴァリスタ。親しい奴はライドと呼ぶ」
「そうか。ならライドルフ、覚えておけ。俺様の名はマガラだ。どちらがどうなるか分からない以上、覚えておいてくれよ、俺様の名を」
「好感度による」
「正直だな。その勢いに任せて聞こう。お前、ルピスとやらを譲る気は?」
「愚問だな」
「ハハハ!! そうか、じゃあ決着をつけようぜ!!! お前が死んだら、ルピスは俺様がいただく!!」
「そうはさせるかよ馬鹿野郎が!!!」
魔王の拳に合わせて、ライドのトラックが出現した。
トラックは粉砕され、魔王は無傷。これは分が悪かった。
「この鉄くずはなんだ!? 容易くぶっ壊せるなぁ!」
「言ってろ!!」
ライドは次なるトラックを召喚した。四方八方から迫りくるトラック。一台一台から放たれる殺意はとてつもなく、確実に転生させてやるという気持ちが良く感じられた。
「ごおおお!!」
無数のトラックに潰される魔王。これで絶命するなら実に容易い。だが、魔王はそういう類の存在ではなかった。
「良いマッサージだなぁあ!!! おかげで肩こりが治ったわ!!!」
「そのまま死んでくれてたら良かったなあ! 二の矢、行くぞ!」
「落ち着けい! 次は俺様のターンだろうがぁん!?」
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だがライドは冷静だった。そこから繰り出される攻撃パターンはだいたい予想できていた。あと必要なのは、冷静な対応だけ。
そう、思っていた。
「のびーろ!」
彼が何気なく手を伸ばすと、黒い闘気が手の形となって、伸びた。
「何だとぉぉー!?」
驚きのあまり、一瞬対応が遅れてしまったライド。黒い腕は容赦なくライドを掴み上げる。
「つーかまぇた!」
「しまった逃げられ――!」
そのままマガラは、ライドが対応する隙も与えず、壁めがけて投げつけた。
一撃で壁を突き抜けたライドは、城の外に放り出される。
「――――」
意識を失ったライドの身体は、地上へと落下していく……。
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