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第41話 剣士、押しに負ける【イラスト有】
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立ち話もなんだと思い、近くの喫茶店に入り、手近な席に座った後に向かい合うアルムと耳長族の少女。どこから会話を切り出していこうかアルムは黙考するが、その答えが出るよりも早く少女が切り出した。
「そういえば~私達って~まだお互いの名前を知らないよね~?」
「あ、ああ……そうだったな」
「う~んと……四本、剣を持っているからぁ……変態さん?」
「断じて違う。アルムだ、アルム・ルーベン」
「アルムくんかぁ~私は、オリファウン・プテューギカっていうんだ~。名前は長いから~オリファーでいいよ~」
そう言って少女オリファウンは柔らかい笑みを浮かべた。彼女の笑顔は不思議なもので、見れば何故か肩の力が抜けてしまう。
それは間違いなく美点だとアルムは胸を張って言える。そういう者の存在はどこの世界になろうがとても貴重なのだ。
二人は運ばれてきた珈琲に口をつけ、先にアルムから会話が再開される。
「オリファウンは――」
「オリファ~」
「……オリファーは人を探していると言ってたな。どういう奴を探しているんだ?」
「それはね~私と同じ耳長族の子~」
そこからオリファウンは語り始める。
一週間前、彼女はシルフィーという友人に会うためこの王都サイファルへやってきた。そして友人の自宅へ行ってみたものの、鍵がかかっていた。留守の可能性を考え、日を改めて何度か訪ねてみても、全く戻ってきた気配はなかったという。
だんだん不安になってきたオリファウンは意を決し、とうとう鍵を壊し、無理やり家に入ることにした。
「……思ってたより行動力に満ちあふれているんだな」
「えへへ~ありがと~」
アルムの引きつった顔には一切気づいていないのか、気を良くした彼女は更に続けた。
「それで、家に入ったら~シルフィーちゃんがいなかったの~!」
代わりに見た光景とは、暴れたとしか思えない物が散乱した家の中だったという。
そこでようやく事の重大さを察した彼女は王国の治安維持部隊に通報。そして、自分もシルフィーを捜索するため、行動を開始した。
「なるほどな……最近、この王都では女ばかり誘拐される事件が多発しているらしい。もしかしたらそのシルフィーという奴も巻き込まれているかもしれないな」
「そんな、シルフィーちゃんが~……」
みるみるうちに目に涙が溜まっていくオリファウンを見て、慌ててアルムはフォローに回る。
「……まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたらひょっこり見つかる可能性だってあるんだ」
「……そっか~そうだよね~。ありがとアルムくん~」
「何か手がかりはないのか? 妙なものが落ちていたりとか、何でも良いんだ」
問われ、彼女は両腕を組んで、考え始める。そして一つだけ思い出した。あの散乱していた部屋で異様だった物がたったの一つだけあったのだ。
「そういえば~……“ザグ、ガグ、リグ”とか書いてあった紙が部屋の真ん中にあったような~?」
「何だと……?」
その単語には聞き覚えがあった。あの獣人族のガルムが呟いていた言葉と同じ内容。ガルムの件とシルフィーの件は繋がっているのだ。
これで関係者二人目。ここまで来ると、もはや手を引くことはできないとアルムは、自分で自分にトドメを刺したような感覚に陥った。
珈琲を一口飲み、喉の渇きを癒やす。この苦味が今の熱くなりそうな思考をクールダウンさせてくれた。
「……情報が足りんな」
「みんなどこに行ったんだろうね~。こんなに行方不明になっているんだから~捕まえておく場所もきっと広いんだろうな~」
「そうだな……ん?」
オリファウンの言葉でアルムはいかに自分の頭に血が昇っていたか思い知らされた。
考え方の違いだ。闇雲に探すのではなく、捕まった人が集められていそうな場所に絞って探す。もしかしたら見つからないかもしれないが、適当に探すよりは百万倍マシである。
方針が決まったアルムはおもむろに席を立った。行動あるのみ、こうしている間にも場所を移されている可能性だってあるのだ。
お金を置こうと彼はテーブルへ腕を伸ばす。しかし、それをオリファウンが掴んだ。
「また、探しに行くの~?」
「ああ、そうだ。こういうのはさっさと手を打つに限るからな」
「そっか~」
そして、彼女は一度頷き、アルムにとって頭が痛くなるようなことを言い放つ。
「それなら~私も連れて行って欲しいな~」
「……何だと?」
彼からしたらまたか、と言いたくなるような言葉であった。この世界に来てから、ずっとこんな調子である。一人でなんとかしようと思ったらいつもこうやって同行者が増えてしまう。
そして、もはやこういった事態に慣れてしまったアルムは一つの確信があった。
(……ここで頷けばこいつも俺達と行動を共にするようになるんだろうな)
イーリスといい、ウィスナといい、エイルといい。三度あることは四度目もある。これ以上大所帯になっても扱いに困ってしまうアルムはなんとか穏便に事を進めようと知恵を絞る。
「恐らく荒事になる。その時はお前を守れる自信は無いぞ」
「大丈夫~こう見えて~少しは魔法使えるから~」
「……もしかしたら何日も歩くところに誘拐された人間が集まっているかもしれない」
「私って~体力はある方だよ~?」
「…………ハッキリ言って俺一人で動きたい」
「……あはは、そっかぁ~。少しは助けになると~思ったんだけど~……な」
オリファウンの頬に一筋の水滴が流れる。アルムは思わず身を硬直させた。外ならまだしも、ここは喫茶店の中。
すでに客の何組かは自分たちをじろじろと見始めてきた。なんとも居心地が悪い。否、悪すぎる。
この状況を打破する方法なんて、たったの一つしか存在しなかった。
「はぁ……分かったよ。降参だ」
ため息をつき、アルムは両手を挙げた。
「そういえば~私達って~まだお互いの名前を知らないよね~?」
「あ、ああ……そうだったな」
「う~んと……四本、剣を持っているからぁ……変態さん?」
「断じて違う。アルムだ、アルム・ルーベン」
「アルムくんかぁ~私は、オリファウン・プテューギカっていうんだ~。名前は長いから~オリファーでいいよ~」
そう言って少女オリファウンは柔らかい笑みを浮かべた。彼女の笑顔は不思議なもので、見れば何故か肩の力が抜けてしまう。
それは間違いなく美点だとアルムは胸を張って言える。そういう者の存在はどこの世界になろうがとても貴重なのだ。
二人は運ばれてきた珈琲に口をつけ、先にアルムから会話が再開される。
「オリファウンは――」
「オリファ~」
「……オリファーは人を探していると言ってたな。どういう奴を探しているんだ?」
「それはね~私と同じ耳長族の子~」
そこからオリファウンは語り始める。
一週間前、彼女はシルフィーという友人に会うためこの王都サイファルへやってきた。そして友人の自宅へ行ってみたものの、鍵がかかっていた。留守の可能性を考え、日を改めて何度か訪ねてみても、全く戻ってきた気配はなかったという。
だんだん不安になってきたオリファウンは意を決し、とうとう鍵を壊し、無理やり家に入ることにした。
「……思ってたより行動力に満ちあふれているんだな」
「えへへ~ありがと~」
アルムの引きつった顔には一切気づいていないのか、気を良くした彼女は更に続けた。
「それで、家に入ったら~シルフィーちゃんがいなかったの~!」
代わりに見た光景とは、暴れたとしか思えない物が散乱した家の中だったという。
そこでようやく事の重大さを察した彼女は王国の治安維持部隊に通報。そして、自分もシルフィーを捜索するため、行動を開始した。
「なるほどな……最近、この王都では女ばかり誘拐される事件が多発しているらしい。もしかしたらそのシルフィーという奴も巻き込まれているかもしれないな」
「そんな、シルフィーちゃんが~……」
みるみるうちに目に涙が溜まっていくオリファウンを見て、慌ててアルムはフォローに回る。
「……まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたらひょっこり見つかる可能性だってあるんだ」
「……そっか~そうだよね~。ありがとアルムくん~」
「何か手がかりはないのか? 妙なものが落ちていたりとか、何でも良いんだ」
問われ、彼女は両腕を組んで、考え始める。そして一つだけ思い出した。あの散乱していた部屋で異様だった物がたったの一つだけあったのだ。
「そういえば~……“ザグ、ガグ、リグ”とか書いてあった紙が部屋の真ん中にあったような~?」
「何だと……?」
その単語には聞き覚えがあった。あの獣人族のガルムが呟いていた言葉と同じ内容。ガルムの件とシルフィーの件は繋がっているのだ。
これで関係者二人目。ここまで来ると、もはや手を引くことはできないとアルムは、自分で自分にトドメを刺したような感覚に陥った。
珈琲を一口飲み、喉の渇きを癒やす。この苦味が今の熱くなりそうな思考をクールダウンさせてくれた。
「……情報が足りんな」
「みんなどこに行ったんだろうね~。こんなに行方不明になっているんだから~捕まえておく場所もきっと広いんだろうな~」
「そうだな……ん?」
オリファウンの言葉でアルムはいかに自分の頭に血が昇っていたか思い知らされた。
考え方の違いだ。闇雲に探すのではなく、捕まった人が集められていそうな場所に絞って探す。もしかしたら見つからないかもしれないが、適当に探すよりは百万倍マシである。
方針が決まったアルムはおもむろに席を立った。行動あるのみ、こうしている間にも場所を移されている可能性だってあるのだ。
お金を置こうと彼はテーブルへ腕を伸ばす。しかし、それをオリファウンが掴んだ。
「また、探しに行くの~?」
「ああ、そうだ。こういうのはさっさと手を打つに限るからな」
「そっか~」
そして、彼女は一度頷き、アルムにとって頭が痛くなるようなことを言い放つ。
「それなら~私も連れて行って欲しいな~」
「……何だと?」
彼からしたらまたか、と言いたくなるような言葉であった。この世界に来てから、ずっとこんな調子である。一人でなんとかしようと思ったらいつもこうやって同行者が増えてしまう。
そして、もはやこういった事態に慣れてしまったアルムは一つの確信があった。
(……ここで頷けばこいつも俺達と行動を共にするようになるんだろうな)
イーリスといい、ウィスナといい、エイルといい。三度あることは四度目もある。これ以上大所帯になっても扱いに困ってしまうアルムはなんとか穏便に事を進めようと知恵を絞る。
「恐らく荒事になる。その時はお前を守れる自信は無いぞ」
「大丈夫~こう見えて~少しは魔法使えるから~」
「……もしかしたら何日も歩くところに誘拐された人間が集まっているかもしれない」
「私って~体力はある方だよ~?」
「…………ハッキリ言って俺一人で動きたい」
「……あはは、そっかぁ~。少しは助けになると~思ったんだけど~……な」
オリファウンの頬に一筋の水滴が流れる。アルムは思わず身を硬直させた。外ならまだしも、ここは喫茶店の中。
すでに客の何組かは自分たちをじろじろと見始めてきた。なんとも居心地が悪い。否、悪すぎる。
この状況を打破する方法なんて、たったの一つしか存在しなかった。
「はぁ……分かったよ。降参だ」
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