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第6話 こうして罪は作り上げられていくッ!
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ウィズが許す間もなく、ずるずると家へ入り込むオルフェスとリリウム。彼の目から言えば、既に害虫か何かにしか見えていなかった。
早速オルフェスがウィズを空き部屋へ引っ張り込む。
「私の口調について一切触れないでくれないかな!?」
「君、まさか猫かぶってるのか!?」
何も言い返さなかったオルフェスは代わりに壁を一発殴った。情緒の不安定さにウィズは彼女を一段下に見ていた。
彼女は泣き出す。シンプルな号泣である。
「だって! ちょっとでも偉そうな口調にならなきゃ舐められそうだったからぁ!!」
「そ、そんな事のために君はそんなオモシロ口調になったのかい!? い、イかれてる……!」
「しかも今いるリリウムなんて特に私の事を尊敬してくれているのよ! じゃあそれに応えなきゃならないじゃない!」
「知ったことか! というかさっさと帰ってくれよ! 僕はぐっすりお昼寝をしたいんだよ! 慮ってくれよ!」
オルフェスの事情は良く分かった。
良く分かった上で、さっさと帰って欲しかった。
何度でも言うが、オルフェスが絡むとだいたいが厄介事だ。
スローライフを送りたい彼にとって、オルフェスの存在はなんとしても自分の人生から排除しなければならない。
「……はぁ、良いよ。分かったよ。リリウムさんには僕からも上手く誤魔化してあげる。だからほんともう帰ってくれ」
「そう言ってくれると信じていたわ! ありがとうウィズ!」
屈託なく笑う彼女は眩しかった。具体的に言うと、彼女がいつの間にか抜いていた剣から反射する日光に目をやられていた。
「トキメキを感じない僕はまだ精神状態良好みたいだ。良かった……」
二人でリリウムのいる部屋に戻ると、ウィズの目にはとんでもないものが飛び込んできた。
「あ、ウィズひゃん。ぐんだんひょう。おはなしながかったでひゅね。おにく、いただいてまひた」
テーブルの上に広げられていた肉・肉・肉。いつの間にこんな量の肉を確保出来たのか。一瞬、ネズミよろしくウィズの備蓄を盗んだのかと思い、走って見に行ったが無傷。
ならばこの肉の量は一体――?
ちょうど手に持っていた肉を食べ終えたリリウムは明るい笑顔で教えてくれた。
「お腹空いたんでその辺の魔物を狩ってました!」
「野蛮が過ぎるぞ! というかどうやって調理したんだ!?」
「あ、私。いつも調理器具は持ち歩いてるんですよ。どこでもお肉が食べられるように……ね!」
そう言うと、どこに締まっていたのか、良く切れそうで頑丈なナイフを取り出した。
他には? と聞くと、これだけです! と胸を張って答えてくれた。ウィズは頭がおかしくなりそうだからそこで会話を打ち切った。
英断だと自分で自分を褒めてやった。
「待ちなさいリリウム。それ、私初耳なんですが」
「あれ? そうでしたか? ま、そういうことです! お肉食べますか?」
「めちゃくちゃ美味しそうですが、今は良いです。…………ウィズ、ちょっと」
そう言って、オルフェスはウィズの耳元に顔を寄せた。
オルフェスは非常に整った顔立ちをしている。控えめに言って、街を歩けば百人中百人が振り返るだろう、そんなレベル。
だが、ウィズにとってその顔の良さは何らプラスには働いていない。
「……もしかして私、リリウムに誤魔化さずに済みそう?」
「あれを見て、済まないと思ってるほうが問題だろう。ほら見ろよ、あれ頭がタンパク質に支配された顔だぜ」
「やった! リリウムが単純で助かった!」
「僕もいらない手間かけずに済んだから良かった! じゃあさっさと帰ってくれ! 僕は寝室にいるから」
「まあまあまあまあまあ!」
「何だよ!?」
逃さないとばかりにウィズの服を引っ張るオルフェス。
抗議の声をあげたかったが、いよいよまともに相手をしてやらなければ無限に居続けると悟ったウィズはちゃんと話を聞くことにした。
とりあえずウィズは二人の対面の椅子に腰をおろす。
「で、僕に一体何の用があるんでしょうか? 僕が引っ越してきた瞬間、ここをすぐに特定出来たことにも関係があるのかな?」
「ウィズ貴方、コルカス王国軍に入る気はない?」
「ない」
「……リリウムから聞いたわ。天使に勝ったって」
天使――その単語がここで出てくるのかと、ウィズは少しだけ聞く姿勢を改めた。
続きを促すと、彼女は今の世界の状況を話し始める。
「圧倒的な力を持つ神話の存在、天使。彼女たちを信仰する集団が最近力を付けてきていて、王国軍は手を焼いている。だから――」
「僕に入ってくれ、っていうことか。そんな馬鹿な話はないだろう。なんせ僕はこの辺境一の剣士フレンのパーティーをクビになったんだぞ? そんな奴を欲しがる軍は無いッ!」
「クビ? ウィズが?」
「ああ、そうだ。“やる気がない”って理由で解雇。その時にもらった退職金を使ってこうして優雅なスローライフを始めようとしていたのさ」
おもむろにオルフェスが立ち上がり、剣の柄に手をかけた。
「リリウム。フレンのパーティーをしょっ引くから手続きをお願いします。罪状はそうね、適当に要人への暴行の疑いで良いです」
「了解です! 明日には書類を揃えられると思います!」
「明日? 何を言っているのですか? 今日中に身柄を押さえますよ」
「今日ですか! 了解しました~!」
「了解できるのかよ」
などと言っている場合ではない。
オルフェスはやるといったら絶対にやる女だ。その事をウィズは深く理解している。
「待て待て待て! オルフェス! そんな適当な罪があって堪るかッ!」
「あ~り~ま~す~! 要人とはつまり私、私の心を暴行した罪ならば誰もが頷きますよ。待っていてくださいねウィズ。明日にはフレン一行を王都の中心で磔にしてみせますから!」
「まじでやめろォッ!!」
全く話が進まない。
それは少なくともウィズはそう感じていた。
早速オルフェスがウィズを空き部屋へ引っ張り込む。
「私の口調について一切触れないでくれないかな!?」
「君、まさか猫かぶってるのか!?」
何も言い返さなかったオルフェスは代わりに壁を一発殴った。情緒の不安定さにウィズは彼女を一段下に見ていた。
彼女は泣き出す。シンプルな号泣である。
「だって! ちょっとでも偉そうな口調にならなきゃ舐められそうだったからぁ!!」
「そ、そんな事のために君はそんなオモシロ口調になったのかい!? い、イかれてる……!」
「しかも今いるリリウムなんて特に私の事を尊敬してくれているのよ! じゃあそれに応えなきゃならないじゃない!」
「知ったことか! というかさっさと帰ってくれよ! 僕はぐっすりお昼寝をしたいんだよ! 慮ってくれよ!」
オルフェスの事情は良く分かった。
良く分かった上で、さっさと帰って欲しかった。
何度でも言うが、オルフェスが絡むとだいたいが厄介事だ。
スローライフを送りたい彼にとって、オルフェスの存在はなんとしても自分の人生から排除しなければならない。
「……はぁ、良いよ。分かったよ。リリウムさんには僕からも上手く誤魔化してあげる。だからほんともう帰ってくれ」
「そう言ってくれると信じていたわ! ありがとうウィズ!」
屈託なく笑う彼女は眩しかった。具体的に言うと、彼女がいつの間にか抜いていた剣から反射する日光に目をやられていた。
「トキメキを感じない僕はまだ精神状態良好みたいだ。良かった……」
二人でリリウムのいる部屋に戻ると、ウィズの目にはとんでもないものが飛び込んできた。
「あ、ウィズひゃん。ぐんだんひょう。おはなしながかったでひゅね。おにく、いただいてまひた」
テーブルの上に広げられていた肉・肉・肉。いつの間にこんな量の肉を確保出来たのか。一瞬、ネズミよろしくウィズの備蓄を盗んだのかと思い、走って見に行ったが無傷。
ならばこの肉の量は一体――?
ちょうど手に持っていた肉を食べ終えたリリウムは明るい笑顔で教えてくれた。
「お腹空いたんでその辺の魔物を狩ってました!」
「野蛮が過ぎるぞ! というかどうやって調理したんだ!?」
「あ、私。いつも調理器具は持ち歩いてるんですよ。どこでもお肉が食べられるように……ね!」
そう言うと、どこに締まっていたのか、良く切れそうで頑丈なナイフを取り出した。
他には? と聞くと、これだけです! と胸を張って答えてくれた。ウィズは頭がおかしくなりそうだからそこで会話を打ち切った。
英断だと自分で自分を褒めてやった。
「待ちなさいリリウム。それ、私初耳なんですが」
「あれ? そうでしたか? ま、そういうことです! お肉食べますか?」
「めちゃくちゃ美味しそうですが、今は良いです。…………ウィズ、ちょっと」
そう言って、オルフェスはウィズの耳元に顔を寄せた。
オルフェスは非常に整った顔立ちをしている。控えめに言って、街を歩けば百人中百人が振り返るだろう、そんなレベル。
だが、ウィズにとってその顔の良さは何らプラスには働いていない。
「……もしかして私、リリウムに誤魔化さずに済みそう?」
「あれを見て、済まないと思ってるほうが問題だろう。ほら見ろよ、あれ頭がタンパク質に支配された顔だぜ」
「やった! リリウムが単純で助かった!」
「僕もいらない手間かけずに済んだから良かった! じゃあさっさと帰ってくれ! 僕は寝室にいるから」
「まあまあまあまあまあ!」
「何だよ!?」
逃さないとばかりにウィズの服を引っ張るオルフェス。
抗議の声をあげたかったが、いよいよまともに相手をしてやらなければ無限に居続けると悟ったウィズはちゃんと話を聞くことにした。
とりあえずウィズは二人の対面の椅子に腰をおろす。
「で、僕に一体何の用があるんでしょうか? 僕が引っ越してきた瞬間、ここをすぐに特定出来たことにも関係があるのかな?」
「ウィズ貴方、コルカス王国軍に入る気はない?」
「ない」
「……リリウムから聞いたわ。天使に勝ったって」
天使――その単語がここで出てくるのかと、ウィズは少しだけ聞く姿勢を改めた。
続きを促すと、彼女は今の世界の状況を話し始める。
「圧倒的な力を持つ神話の存在、天使。彼女たちを信仰する集団が最近力を付けてきていて、王国軍は手を焼いている。だから――」
「僕に入ってくれ、っていうことか。そんな馬鹿な話はないだろう。なんせ僕はこの辺境一の剣士フレンのパーティーをクビになったんだぞ? そんな奴を欲しがる軍は無いッ!」
「クビ? ウィズが?」
「ああ、そうだ。“やる気がない”って理由で解雇。その時にもらった退職金を使ってこうして優雅なスローライフを始めようとしていたのさ」
おもむろにオルフェスが立ち上がり、剣の柄に手をかけた。
「リリウム。フレンのパーティーをしょっ引くから手続きをお願いします。罪状はそうね、適当に要人への暴行の疑いで良いです」
「了解です! 明日には書類を揃えられると思います!」
「明日? 何を言っているのですか? 今日中に身柄を押さえますよ」
「今日ですか! 了解しました~!」
「了解できるのかよ」
などと言っている場合ではない。
オルフェスはやるといったら絶対にやる女だ。その事をウィズは深く理解している。
「待て待て待て! オルフェス! そんな適当な罪があって堪るかッ!」
「あ~り~ま~す~! 要人とはつまり私、私の心を暴行した罪ならば誰もが頷きますよ。待っていてくださいねウィズ。明日にはフレン一行を王都の中心で磔にしてみせますから!」
「まじでやめろォッ!!」
全く話が進まない。
それは少なくともウィズはそう感じていた。
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