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導入
チャット
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結局僕たちは連絡先の交換だけをして、今日のところは一旦解散になった。
外に出ると、もう太陽が落ち空には赤色と紫色のグラデーションが巡っていた。そんな様子が少しだけ秋の訪れを感じさせた。
僕と東雲は無言のまま一緒に歩いて昇降口へ向かった。
微妙に気まずかった。
さっきまでは濃密な時間を過ごしていたからあまり気にならなかったが、僕たちはまだ会って間もない仲なのだ。だから、距離感も掴めないし、相手のことなど何も知らない。
それにも関わらず、一緒に帰ろうとするなんてどれだけ図々しいのかと思い僕は彼女の前をそそくさと歩いた。
僕は下駄箱で矢継ぎ早に靴を履き替えて、颯爽と玄関から出ようとした。
「ちょ、ちょっと待って」
僕は彼女のそんな声に足を止めた。
「急いでるんだったらいいんだけど、そうじゃないなら自転車置場まで一緒にいい?」
後ろを振り返ると、片足で跳ねながらローファーを履く東雲の姿があった。覚束ない様子で今にも転けそうだった。
しかし、そんな心配は杞憂だったようで彼女は上手く靴を履き終えて僕の方へ向かってきた。
「まあ、いいよ」
僕はそうやって素っ気なく返した。何だか素直に慣れなかった。
東雲が近くに来たことを確認してからまた僕は歩き始めた。ふと横をチラッと見ると東雲は少し早足で歩いているようだった。
良く聞く話だが女性は体格や靴などで歩くのが遅くなるものだという話を思い出した。最初は迷信だとか誇張が過ぎると思っていたが実際に目にすると相当なものらしい。
だから、僕は気持ちゆっくりと歩くことにした。すると彼女は足取りを落ち着かせ始めた。
「空、すごい綺麗」
東雲は急に足を止めてそんなことを言った。
確かに幻想的だった。赤と紫のグラデーションに雲が良い感じに乗っかっていた。
彼女はスマホを取り出して写真を撮っていた。空だけの写真や学校も含めた写真など多くの写真を撮っていた。
「その写真って作品に使うやつ?」
「たぶん使わないと思う。参考程度には使うかもだけど」
「癖みたいなものなのかな。僕は全然写真撮らないからよく分からないけど」
「たぶんそうだと思う。ネタになりそうなことは全部メモしないと落ち着かない」
彼女は会話をしながら更に数十枚の写真を撮っていた。この時間帯はすぐに景色が変わるからそのせいだろう。
僕はそんな彼女の姿を尊敬の眼差しで見ていた。何かに打ち込む人の姿に嫉妬を感じていたからだった。
彼女はひとしきり写真を撮り終えると、スマホを鞄にしまった。
「ごめんね付き合わせちゃって。つい熱が入っちゃった」
すると僕のスマホから着信音が聞こえた。
「いいよ。時間が無いわけじゃないし」
返事をしてから、僕は珍しいなと思いポケットからスマホを取り出して通知を見た。そこには『綺麗な空』というチャットと画像が添付されていた。
「どう? 綺麗じゃない?」
「まあ、そうだね」
駐輪場に着いてから僕たちはすぐに別れていった。その様子が僕にはとても淡泊に感じられた。決してずっと一緒に居たかったというわけではない。ただ、一言の挨拶だけで終わるということが少し苦手だったのだ。
昔からそうだった。僕は人付き合いが苦手だった。昔は過干渉ぎみで誰とも別れたくなかった。そのせいで無理強いをよくしていた。だから、いつの間にか離れられて友達がいなくなっていた。
そして、今は無関心で、仲良くするということ自体が面倒になっていた。そう思うようにした。そうすれば嫌われて悲しむこともない、相手を疲れさせることもなかったからだ。
でも、久しぶりに興味を持って誰かと話すことがとても楽しかった。だから僕の悪い部分が出かけていた。僕は隠すことに必死になっていた。
僕は家に帰り、お風呂に入って自室でゆっくりと過ごしていた。数学のプリントも終わらせて手持ち無沙汰だった。
僕は読みきれずに置いていた小説を手にとってごろごろとする。しかし、何も心に入ってこない。ただ文字を紙面で滑らせているだけだった。
でも今日はなぜか意地でも読んでやろうと思い30分は頑張ったが、やはり耐えられなかった。この本とは相性が悪いらしい。
仕方がないので僕は本を棚の中にしまって、部屋の中を見回した。
ふとスマホに目が留まった。
そういえば、東雲が他にもマンガを描いているという話を思い出した。僕は急いで携帯を手にとって、Twitterを開いた。
トップ画面には東雲が今日投稿したであろう記事があった。
『今日はいいことあった! 明日からもがんばろ!!』
そこには月の画像が一枚あった。綺麗な満月だった。僕は気になって自分の部屋から空を見た。同じく綺麗な満月が空を照らしていた。すると、薄い雲が月を霞がからせて童話のワンシーンにありそうな月が出来ていた。
Twitterにはこんな機能があるのかと思い、東雲の履歴を遡ってみた。
あまり良くないことだとは思ったが、好奇心には勝てなかった。
全体的にはずっと楽しそうな投稿ばかりをしているようだった。今日はどこに行ったとか、美味しかったとかそんなことが書かれていた。
しかし、数年前の履歴はあまり良い雰囲気ではなかった。もう駄目だとか消えてしまいたいとかマイナスな事ばかりを言っていた時期もあったらしい。
突然僕の携帯に振動が走った。
変な詮索をしていたせいだろうか、僕は異常なまでに驚いてしまった。スマホが僕の顔面に落ちてきた。
「痛っ」
気を取り直して僕は着信を見た。東雲からのチャットとだった。僕は急いでチャットの画面にして返事をした。
『こんばんわ』
『こんばんわ。どうかした?』
すぐに既読がついた。しばらくして入力中という文字が携帯に表示された。
『オンラインになってたから今時間あるかなって思って』
『まあ暇だよ』
僕は慣れないながらも必死に文字を入力する。
『それでさ、明後日の放課後とか時間ある?』
『うん。あるよ』
僕は早く返そうとして少し素っ気ない返信をする。文字を打っていると何だか話し方に違和感を持ってしまい遅くなってしまう。
『ちょっと手伝って欲しいことあるんだけどいい?』
『いいよ。水曜日の放課後ね』
『ありがとう。私数学の課題しなきゃだからまたね!』
僕はその言葉を見て返事をするのをやめた。
やっぱり別れ際というものは慣れなかった。チャットであれ現実であれ、寂しい気持ちになってしまうからだ。
僕はチャットのところをスクロールして眺めていた。
もっとこうすれば良かったとか、これで気分を悪くしたのではないかとか、ありもしないことでよく悩んでしまう。悪い癖だ。
僕は気を取り直す為に携帯をベッドの上に投げて、僕もベッドにダイブした。
外に出ると、もう太陽が落ち空には赤色と紫色のグラデーションが巡っていた。そんな様子が少しだけ秋の訪れを感じさせた。
僕と東雲は無言のまま一緒に歩いて昇降口へ向かった。
微妙に気まずかった。
さっきまでは濃密な時間を過ごしていたからあまり気にならなかったが、僕たちはまだ会って間もない仲なのだ。だから、距離感も掴めないし、相手のことなど何も知らない。
それにも関わらず、一緒に帰ろうとするなんてどれだけ図々しいのかと思い僕は彼女の前をそそくさと歩いた。
僕は下駄箱で矢継ぎ早に靴を履き替えて、颯爽と玄関から出ようとした。
「ちょ、ちょっと待って」
僕は彼女のそんな声に足を止めた。
「急いでるんだったらいいんだけど、そうじゃないなら自転車置場まで一緒にいい?」
後ろを振り返ると、片足で跳ねながらローファーを履く東雲の姿があった。覚束ない様子で今にも転けそうだった。
しかし、そんな心配は杞憂だったようで彼女は上手く靴を履き終えて僕の方へ向かってきた。
「まあ、いいよ」
僕はそうやって素っ気なく返した。何だか素直に慣れなかった。
東雲が近くに来たことを確認してからまた僕は歩き始めた。ふと横をチラッと見ると東雲は少し早足で歩いているようだった。
良く聞く話だが女性は体格や靴などで歩くのが遅くなるものだという話を思い出した。最初は迷信だとか誇張が過ぎると思っていたが実際に目にすると相当なものらしい。
だから、僕は気持ちゆっくりと歩くことにした。すると彼女は足取りを落ち着かせ始めた。
「空、すごい綺麗」
東雲は急に足を止めてそんなことを言った。
確かに幻想的だった。赤と紫のグラデーションに雲が良い感じに乗っかっていた。
彼女はスマホを取り出して写真を撮っていた。空だけの写真や学校も含めた写真など多くの写真を撮っていた。
「その写真って作品に使うやつ?」
「たぶん使わないと思う。参考程度には使うかもだけど」
「癖みたいなものなのかな。僕は全然写真撮らないからよく分からないけど」
「たぶんそうだと思う。ネタになりそうなことは全部メモしないと落ち着かない」
彼女は会話をしながら更に数十枚の写真を撮っていた。この時間帯はすぐに景色が変わるからそのせいだろう。
僕はそんな彼女の姿を尊敬の眼差しで見ていた。何かに打ち込む人の姿に嫉妬を感じていたからだった。
彼女はひとしきり写真を撮り終えると、スマホを鞄にしまった。
「ごめんね付き合わせちゃって。つい熱が入っちゃった」
すると僕のスマホから着信音が聞こえた。
「いいよ。時間が無いわけじゃないし」
返事をしてから、僕は珍しいなと思いポケットからスマホを取り出して通知を見た。そこには『綺麗な空』というチャットと画像が添付されていた。
「どう? 綺麗じゃない?」
「まあ、そうだね」
駐輪場に着いてから僕たちはすぐに別れていった。その様子が僕にはとても淡泊に感じられた。決してずっと一緒に居たかったというわけではない。ただ、一言の挨拶だけで終わるということが少し苦手だったのだ。
昔からそうだった。僕は人付き合いが苦手だった。昔は過干渉ぎみで誰とも別れたくなかった。そのせいで無理強いをよくしていた。だから、いつの間にか離れられて友達がいなくなっていた。
そして、今は無関心で、仲良くするということ自体が面倒になっていた。そう思うようにした。そうすれば嫌われて悲しむこともない、相手を疲れさせることもなかったからだ。
でも、久しぶりに興味を持って誰かと話すことがとても楽しかった。だから僕の悪い部分が出かけていた。僕は隠すことに必死になっていた。
僕は家に帰り、お風呂に入って自室でゆっくりと過ごしていた。数学のプリントも終わらせて手持ち無沙汰だった。
僕は読みきれずに置いていた小説を手にとってごろごろとする。しかし、何も心に入ってこない。ただ文字を紙面で滑らせているだけだった。
でも今日はなぜか意地でも読んでやろうと思い30分は頑張ったが、やはり耐えられなかった。この本とは相性が悪いらしい。
仕方がないので僕は本を棚の中にしまって、部屋の中を見回した。
ふとスマホに目が留まった。
そういえば、東雲が他にもマンガを描いているという話を思い出した。僕は急いで携帯を手にとって、Twitterを開いた。
トップ画面には東雲が今日投稿したであろう記事があった。
『今日はいいことあった! 明日からもがんばろ!!』
そこには月の画像が一枚あった。綺麗な満月だった。僕は気になって自分の部屋から空を見た。同じく綺麗な満月が空を照らしていた。すると、薄い雲が月を霞がからせて童話のワンシーンにありそうな月が出来ていた。
Twitterにはこんな機能があるのかと思い、東雲の履歴を遡ってみた。
あまり良くないことだとは思ったが、好奇心には勝てなかった。
全体的にはずっと楽しそうな投稿ばかりをしているようだった。今日はどこに行ったとか、美味しかったとかそんなことが書かれていた。
しかし、数年前の履歴はあまり良い雰囲気ではなかった。もう駄目だとか消えてしまいたいとかマイナスな事ばかりを言っていた時期もあったらしい。
突然僕の携帯に振動が走った。
変な詮索をしていたせいだろうか、僕は異常なまでに驚いてしまった。スマホが僕の顔面に落ちてきた。
「痛っ」
気を取り直して僕は着信を見た。東雲からのチャットとだった。僕は急いでチャットの画面にして返事をした。
『こんばんわ』
『こんばんわ。どうかした?』
すぐに既読がついた。しばらくして入力中という文字が携帯に表示された。
『オンラインになってたから今時間あるかなって思って』
『まあ暇だよ』
僕は慣れないながらも必死に文字を入力する。
『それでさ、明後日の放課後とか時間ある?』
『うん。あるよ』
僕は早く返そうとして少し素っ気ない返信をする。文字を打っていると何だか話し方に違和感を持ってしまい遅くなってしまう。
『ちょっと手伝って欲しいことあるんだけどいい?』
『いいよ。水曜日の放課後ね』
『ありがとう。私数学の課題しなきゃだからまたね!』
僕はその言葉を見て返事をするのをやめた。
やっぱり別れ際というものは慣れなかった。チャットであれ現実であれ、寂しい気持ちになってしまうからだ。
僕はチャットのところをスクロールして眺めていた。
もっとこうすれば良かったとか、これで気分を悪くしたのではないかとか、ありもしないことでよく悩んでしまう。悪い癖だ。
僕は気を取り直す為に携帯をベッドの上に投げて、僕もベッドにダイブした。
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