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導入
漫画とSNS
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東雲はそうして紙から手を離した。
僕は一枚目の紙をめくった。包帯を巻いた少年が大量の人を倒しているシーンで始まった。
その少年は能力を持っているのだが強力であった為に制限がかけられていた。しかし少年は魔族に襲われたある家族を守るために、自ら枷を外してその家族を助けるが、その家族からは化け物だと恐れられる。
少年は自分の能力に悲観し、規律を破った犯罪者として殺されるという話であった。
かなり激しいタッチで描かれていたが、一人一人のキャラクターの個性が絵に出ているし、背景の描写も良く凝られていて面白かった。さらに小難しい話も平易な言葉や比喩を使うことで簡単に読みきれる作品だった。
僕個人としては一次審査で落とされるレベルのストーリーや絵だとは思えなかった。
「すごい、めっちゃ面白いじゃん」
僕は自然と言葉が出ていた。
そして僕は東雲に原稿を返した。この原稿を受け取った彼女の手が小刻みに揺れているのを感じた。
「本当? お世辞で言ってない?」
「本当だよ。王道なストーリーだったけど、最後の展開は意外で驚いたし。やっぱり絵も上手だって思うよ。素人目だけどよく考えてるんだなって思った」
彼女はさらに強く原稿を握りしめた。紙に涙がこぼれてインクが滲む。
「そうなんだ。これを面白いって言ってくれる人がいるんだ」
彼女は自分に言い聞かせるように小さな声で呟いた。喜びと悔しさの入り交じった声だった。
ほとんど同じ長さの時間を過ごしてきた筈なのに、僕と彼女では生きている時間や場所の価値、重みが違っているそんな気がした。
ウサギとカメの話にだって、そんなことが書かれていた。どんな天才も努力を怠れば大成しないし、凡人で才能なんてなくても努力一つでのしあがることが出来る。
でも、僕はこの話にひねくれた感想しか出てこなかった。何かを成せる人は努力する才能がある、そうやってしか考えられなかった。
故に僕は彼女に対して劣等感というやり場のない怒りが支配した。
だからこそ、僕は泣いている彼女を見て何をするでもなく、ただ見守ることしか出来なかった。
「あ、そのごめんね。勝手に興奮して泣いて。初めて話した人の前で情けないね」
彼女は長袖のブラウスで涙か汗か分からない額を一生懸命拭いていた。
ここでハンカチとか何かを貸せたら格好いい男子になるのだろうが、生憎持ち合わせていなかった。
「別に情けなくないよ。その涙って努力の結晶みたいなものじゃん」
自分で言っておきながら何だか気恥ずかしくなった。努力の結晶なんて知った口を利きながら無責任に褒めてるだけで、何も考えていないから。むしろ僕の方が情けなかった。
「ありがとう」
彼女はそう言うと鞄の中からスマホを取り出した。
「そうだ、もしよかったら私のことフォローしておいてよ。他にも書いてるから」
東雲はスマホの画面を僕の前に出した。Twitterのアカウントのようでペンネームと同じく落葉というユーザー名で登録しているらしい。
「ちょっと待って、Twitterインストールする」
「え、現代人でやってない人っているの?」
「そりゃいるよ。例えば僕とか」
「だって、趣味とか無いの?」
僕は東雲に言われてどきっとした。
考えてみると趣味らしい趣味をしたことがなかった。何かを始めようにも全てが中途半端になるから、結局趣味と言える程にやっているものがなかったのだ。
例えば、趣味で始めたギターは部屋の肥やしになっているし、読もうと思って買った本も買って満足してしまう。筋トレも始めようと思ったが、筋肉痛で超回復を待っているとそのまま終わる。
「……」
「なんか、悪かったかな。ごめんね」
彼女は少し気まずそうに首を下げた。
僕が悪いのになぜか彼女を責めてしまったような構図になって悲しかった。これこそ本当に情けない。
こんなに中途半端な形で会話が終わってしまった。僕はこの気まずい空気に耐えられなくて話を変えることにした。
「そうだ。じゃあ東雲さんは趣味とかある?」
「そうだな、やっぱり漫画かな。ピアノもたまにやるけど習慣になってるのは漫画かも」
「すごいね。何でも出来るじゃん」
「そんなことないよ。趣味だから上手って訳じゃないし」
僕は話をしながらインストールを終わらせて、ログイン画面に入った。スマホをあまり使わないのでアカウントの作り方がよく分からなかった。
「東雲さん、ここからどうしたらいい?」
僕のスマホを見せた。彼女は僕の方に顔を近付けてきた。距離が近くて少しドキッとした。
「ちょっと触ってもいい?」
「どうぞ」
彼女はそんな僕を気にすることもなく、そっとスマホを取ってするすると文字を入力していた。
現代人はこんなに難しい物を使いこなしているのかと感心していると、彼女が話しかけてきた。
「メアドとか覚えてる?」
「覚えてないな。というか作った記憶があんまり」
「ほんとに現代人? なんかおじいちゃんと喋ってるみたい」
「失礼な」
彼女はほとんど話を聞いていないようで、スマホをずっと弄り回していた。
「あ、あった。これでやっとくね」
「うん、よろしく」
一分くらいしてから、彼女は僕のスマホを返した。そこにはマイページが表示されており、一番上にはひののんと可愛らしい名前が書いてあった。
「なに、このひののんって」
「可愛いでしょ? 日野のあだ名」
「可愛いけど、見られたら恥ずかしいんだけど」
「見せることないでしょ?」
「まあ」
納得してしまった。そもそも友達とは学校でしか話さないし、連絡先も知らない気がする。これまではそれで困っていなかった。遊びたければ学校で約束をすればよかった。
そう思うとやっぱり自分は時代遅れなのかもしれないと思った。
すると、いきなり僕のスマホから鳥の鳴き声が聞こえた。何かの着信かと思ってステータスバーを確認すると、落葉さんからフォローされましたという通知だった。
「さっきフォローしておいたから。フォローバックしておいて」
「え、あ、うん」
僕は通知からアプリに飛んで、フォローバックと書かれた画面をタップした。すると東雲のスマホから鳥の鳴き声が聞こえてきた。
僕は一枚目の紙をめくった。包帯を巻いた少年が大量の人を倒しているシーンで始まった。
その少年は能力を持っているのだが強力であった為に制限がかけられていた。しかし少年は魔族に襲われたある家族を守るために、自ら枷を外してその家族を助けるが、その家族からは化け物だと恐れられる。
少年は自分の能力に悲観し、規律を破った犯罪者として殺されるという話であった。
かなり激しいタッチで描かれていたが、一人一人のキャラクターの個性が絵に出ているし、背景の描写も良く凝られていて面白かった。さらに小難しい話も平易な言葉や比喩を使うことで簡単に読みきれる作品だった。
僕個人としては一次審査で落とされるレベルのストーリーや絵だとは思えなかった。
「すごい、めっちゃ面白いじゃん」
僕は自然と言葉が出ていた。
そして僕は東雲に原稿を返した。この原稿を受け取った彼女の手が小刻みに揺れているのを感じた。
「本当? お世辞で言ってない?」
「本当だよ。王道なストーリーだったけど、最後の展開は意外で驚いたし。やっぱり絵も上手だって思うよ。素人目だけどよく考えてるんだなって思った」
彼女はさらに強く原稿を握りしめた。紙に涙がこぼれてインクが滲む。
「そうなんだ。これを面白いって言ってくれる人がいるんだ」
彼女は自分に言い聞かせるように小さな声で呟いた。喜びと悔しさの入り交じった声だった。
ほとんど同じ長さの時間を過ごしてきた筈なのに、僕と彼女では生きている時間や場所の価値、重みが違っているそんな気がした。
ウサギとカメの話にだって、そんなことが書かれていた。どんな天才も努力を怠れば大成しないし、凡人で才能なんてなくても努力一つでのしあがることが出来る。
でも、僕はこの話にひねくれた感想しか出てこなかった。何かを成せる人は努力する才能がある、そうやってしか考えられなかった。
故に僕は彼女に対して劣等感というやり場のない怒りが支配した。
だからこそ、僕は泣いている彼女を見て何をするでもなく、ただ見守ることしか出来なかった。
「あ、そのごめんね。勝手に興奮して泣いて。初めて話した人の前で情けないね」
彼女は長袖のブラウスで涙か汗か分からない額を一生懸命拭いていた。
ここでハンカチとか何かを貸せたら格好いい男子になるのだろうが、生憎持ち合わせていなかった。
「別に情けなくないよ。その涙って努力の結晶みたいなものじゃん」
自分で言っておきながら何だか気恥ずかしくなった。努力の結晶なんて知った口を利きながら無責任に褒めてるだけで、何も考えていないから。むしろ僕の方が情けなかった。
「ありがとう」
彼女はそう言うと鞄の中からスマホを取り出した。
「そうだ、もしよかったら私のことフォローしておいてよ。他にも書いてるから」
東雲はスマホの画面を僕の前に出した。Twitterのアカウントのようでペンネームと同じく落葉というユーザー名で登録しているらしい。
「ちょっと待って、Twitterインストールする」
「え、現代人でやってない人っているの?」
「そりゃいるよ。例えば僕とか」
「だって、趣味とか無いの?」
僕は東雲に言われてどきっとした。
考えてみると趣味らしい趣味をしたことがなかった。何かを始めようにも全てが中途半端になるから、結局趣味と言える程にやっているものがなかったのだ。
例えば、趣味で始めたギターは部屋の肥やしになっているし、読もうと思って買った本も買って満足してしまう。筋トレも始めようと思ったが、筋肉痛で超回復を待っているとそのまま終わる。
「……」
「なんか、悪かったかな。ごめんね」
彼女は少し気まずそうに首を下げた。
僕が悪いのになぜか彼女を責めてしまったような構図になって悲しかった。これこそ本当に情けない。
こんなに中途半端な形で会話が終わってしまった。僕はこの気まずい空気に耐えられなくて話を変えることにした。
「そうだ。じゃあ東雲さんは趣味とかある?」
「そうだな、やっぱり漫画かな。ピアノもたまにやるけど習慣になってるのは漫画かも」
「すごいね。何でも出来るじゃん」
「そんなことないよ。趣味だから上手って訳じゃないし」
僕は話をしながらインストールを終わらせて、ログイン画面に入った。スマホをあまり使わないのでアカウントの作り方がよく分からなかった。
「東雲さん、ここからどうしたらいい?」
僕のスマホを見せた。彼女は僕の方に顔を近付けてきた。距離が近くて少しドキッとした。
「ちょっと触ってもいい?」
「どうぞ」
彼女はそんな僕を気にすることもなく、そっとスマホを取ってするすると文字を入力していた。
現代人はこんなに難しい物を使いこなしているのかと感心していると、彼女が話しかけてきた。
「メアドとか覚えてる?」
「覚えてないな。というか作った記憶があんまり」
「ほんとに現代人? なんかおじいちゃんと喋ってるみたい」
「失礼な」
彼女はほとんど話を聞いていないようで、スマホをずっと弄り回していた。
「あ、あった。これでやっとくね」
「うん、よろしく」
一分くらいしてから、彼女は僕のスマホを返した。そこにはマイページが表示されており、一番上にはひののんと可愛らしい名前が書いてあった。
「なに、このひののんって」
「可愛いでしょ? 日野のあだ名」
「可愛いけど、見られたら恥ずかしいんだけど」
「見せることないでしょ?」
「まあ」
納得してしまった。そもそも友達とは学校でしか話さないし、連絡先も知らない気がする。これまではそれで困っていなかった。遊びたければ学校で約束をすればよかった。
そう思うとやっぱり自分は時代遅れなのかもしれないと思った。
すると、いきなり僕のスマホから鳥の鳴き声が聞こえた。何かの着信かと思ってステータスバーを確認すると、落葉さんからフォローされましたという通知だった。
「さっきフォローしておいたから。フォローバックしておいて」
「え、あ、うん」
僕は通知からアプリに飛んで、フォローバックと書かれた画面をタップした。すると東雲のスマホから鳥の鳴き声が聞こえてきた。
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