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シーズンⅠ-33 SとM
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九月十六日。
君子は、待ち合わせ時間より早く第三駐車場に着いた。
第三駐車場は本棟の奥側にあり遠いので職員で駐車する人はまずいない、車を置いて帰る時に停めるスペースという感覚で使用されている、第三駐車場から小道を下っていけばバスの発着所に着く。
指示された場所の隣にはすでに車が止められていた。
メーカーは違うが君子のと同じく軽自動車だった。
誰も乗っていないがこの車は有佳のだと思う。
有佳は君子の職場を見て回っているのだろう、広大な敷地に病棟が点在している景観にきっと圧倒されているに違いない。
君子はエンジンを切ってサングラスを外し代わりにサンバイザーを下ろして、ふっとため息をついた。
緊張している。
駐車場の出入り口をずっと見続けた。
約束の時間が近づくにつれて胸が張り裂けそうなくらいドキドキ感が止まらなくなっている。
もうすぐ時間だ。
まもなく、まもなく有佳がやって来る。
約束の時間丁度に駐車場に入って来る有佳の姿を見た。
マキシ丈のワンピース姿が似合っている。
君子の方は膝が見えるフレアスカートで素足、同じ素足でもマキシ丈で脛の半分が隠れている有佳とは対照的だとふと思った。
君子の前を通り過ぎて自分の車に向かう有佳は、君子を見ようともしない。
すでに二人の立場は確定していることを思い知らされた。
意を決して君子は、ジーンズや下着などの着替えが入った手提げバックを手にして車から出て有佳が待つ車の助手席側のドアを開けた。
「失礼します」
助手席に座りバックを後ろの席に置いて、君子は前を向いた。
夕方の日差しがキツイのでサンバイザーを下ろし目を閉じた。
有佳はなにも話し掛けてこない。
静寂の二人の時間がスタートした。
有佳とは無言から始まることがほとんどだが、今日のこれからのことを思うと今までとはまったく違う。
初めは看護師の先輩後輩として出会った。
有佳から告白され女同士のお付き合いを始めたが、有佳は火を付けただけで関心を示さない。
工藤先生に欲情した顔を知られている。
話し相手として有佳を成長させる踏み台になると決めた。
それからはいろいろとあったが、なんと別れた彼女さんと復活を遂げたという。
工藤先生も了解していると聞かされ、君子の踏み台の役目に突然終わりがきてしまった。
そして、有佳にお仕えするかどうかの選択を迫られた。
最後に決断を下したのは君子ということになる。
言葉を待つしかない。
最初にどんな命令が来ても即座に従うよう命じられている。
・・・どのくらいの時間が経ったんだろう。
「ショーツを脱いで渡しなさい」
最初の命令が下された。
有佳の口を継いで出て来た言葉に一瞬ビクっとしてしまった。
「・・・はい。有佳様」
君子は少し躊躇ったが座ったままでその作業をおこない、脱いだショーツを両手に持って有佳に渡そうとした。
その時、有佳の腕が伸びてきて君子の手首をしっかりと掴んで来た。
有佳はそのまま顔を近づけてきて、一度、嗅いでから受け取り、裏返してショーツを眺め始めた、とても恥ずかしくなる。
ずっと眺めている。
有佳の動きを横目で見ていた君子は有佳と視線が合ってしまった。
今の君子の顔を見られるのが恥ずかしいが俯《うつむ》くことはできない。
有佳の目は半開きで細くなっている。
目が物語っているのは君子への蔑みそのもの。
容赦のない支配者の目がそこにあった。
シートを倒して横になるよう命じられ、しばらくすると車が動き始めた。
有佳はなにも話し掛けてこない。
いま行われた一連の光景が頭をよぎる。
あれは今日これからおこなわれる始まりの儀式に違いない。
二人の静寂の時間がどこまでも続いている。
二十分くらい経った頃だと思うが車が停止しエンジン音が消えた。
有佳のマンションに着いたと教えられた。
外観はそれなりの年数を感じさせるがしっかりとした建物に思える。
一階の一番奥の扉を開けた有佳の後を追い、有佳に続いて玄関に入った。
入った瞬間、何もかもがリニューアルされていると分かった。
とても綺麗で真新しい感じがする。
リビングに通され、ソファではなく食事用テーブルの方を勧められた。
君子は椅子に腰かけたが落ち着かない、どんな夜を迎えることになるのか、緊張しっぱなしでうまく会話もできそうにない。
「はい、これ。穿きなさい」
有佳は君子にショーツを渡し、振り向いて流しに向かいお湯を沸かし始めた。
有佳に背を向けて急いで身につけ、これで少しは落ち着くかと思ったがだめだ、落ち着かない。
有佳がお茶を入れてくれた。
「時間、たっぷりあるし。少し話そっか」
「そうですね」
「覚悟まで時間掛かったよね、わたし相当な無理言ったのかな」
有佳を見るとあのギラついた視線ではなく、優しい顔に似合った視線になっている。
君子も少し落ち着かないといけない。
いま有佳が望んでいるのは会話だと思う。
「有佳さんのお相手に申し訳ないと思いました」
「ふーぅーん、そういう発想したんだ。それだけ?」
「いえ。工藤先生に知られるのが怖いんです。それが一番の理由です」
「お母さんに君子の欲情した顔見られてるもんね。それに、この前まで君子の娘の担任だったし。・・・私からは言わない」
「工藤先生に聞かれたら言うってことですか」
「怒った顔、見せるんだ」
「だって」
「絶対に言わない、言う必要がない、言う気もない。お母さんには君子と付き合って成長したって言うことに決めてる」
「えっ、決めてるってどういうことですか。まだ話していないってことですか。離婚された方とお付き合いしてるんですよね。先生も承知だって。私の踏み台の役目もだから終わったんじゃ・・・そうですよね」
「まだ言ってない。離婚した人と付き合ってるのは嘘。あの人とこれからの人生で交わることはもうない。こっちが本当」
騙《だま》したの?
なんで有佳はそんな嘘をついたんだろう。
今になってどうして本当のことを言ったんだろう。
君子へ隠し事をしたくないのとは違う気がする。
なんだろう。
きっと、有佳は自分に嘘を付きたくなかったのかも知れない。
そうに違いない。
「有佳さん、好きな女性《ひと》ができたんですね」
「・・・・・・」
「わたし、有佳さんの人生に割り込む気はありません。そんな大それたこと考えたこともありません。むしろ、知り合えてよかったと思っています。心配しないで下さい」
「君子は大人の女性だね。でも間違ってる。踏み台を心配するとでも思ってたわけ?」
一瞬で、あの蔑みの視線が戻ってきた。
私を使う気になっている。
今度の有佳は止まらない、それだけは分かる。
こっちへ来るのよ、と言われリビングを出て部屋に連れていかれた。
その部屋は扉が厚く一目で防音されていると君子にも分かった。
八畳か十畳ぐらいの広さがあるきれいな部屋だった。
音響設備が目に付いた、スピーカーが二つ、離れて置いてある。
あとは横長のソファと天版がガラスのテーブルがあるだけ。
左の壁一面が真ん中の柱部分を中心に左右に引き戸形式の扉がついている。
一つの扉はウオークインクロゼットかも知れない。
もう一つの方は収納箪笥みたいになっているのかもと想像した。
床は全体がフローリングで出来ている。
そして大きめのカーペットが敷かれている。
カーペットの上に一組の寝具が敷いてある。
マットと敷布団、シーツと掛け布団、それに枕。
全部新しい感じがする。
有佳は掛け布団をまくるとソファに向かい、君子には正座するよう命じてきた。
君子は命じられた通り布団に行ってシーツの上に正座した。
「今日はなにしに来たの。言いなさい」
ソファに座り足を組んだ有佳は、両手を膝の上で掛け合わせ前かがみになって君子を見ている。
「それは・・・有佳様に尽くすことだと」
「どう尽くすの、一晩中でしょ。言ってみて」
「・・・・・・」
君子にはどう尽くすかを考える発想はない。
有佳に身を委ねどんな命令が降ってきても精一杯それに従うつもりでいる。
一晩中でも君子を使ってもらえればそれが嬉しい。
それに酔う。
どうやって尽くしたら有佳が喜ぶのか分からない。
言葉が見つからないまま沈黙が続いてしまう。
「前に言ったこと、覚えてる? はぐらかしたり、反応鈍かったりしたら、縁はそこでおしまい」
「覚えています。どうやって尽くしたらいいのか、どうすれば喜んでいただけるのか、わかりません」
「そっか。だから私を使って下さいだったんだ。いいわ、使ってあげる」
「有佳様、ありがとうございます」
自分が発した言葉と同時に両手を前に出した君子は、額がシーツにつくまでの深いポーズをとり、そのままの状態で次の言葉を待った。
「這いながらこっちに来るんだよ、おばさん」
有佳だっ、本当の有佳が正体を現した。
四つん這いの姿勢をとりソファに向かって這い出した。
「そこで停止っ」
すぐ近くに有佳の声が聞こえる。
「下ばっか見てるね。ほらっ、情けない顔見てやるから上げるんだよっ」
顔を上げ有佳を見ようとしたが火花が散ったのが見えただけで有佳が目の前にいるはずなのに見えない。
次の瞬間、ビンタを食らったのだと思考が追い付いた。
「嬉しそうだね。普段の君子はどこいったのかな」
有佳が動いたのが気配で分かる。
左の頬に痛みはあるがそれほどでもない、それよりも動いた有佳が何をしているのだろうという不安で頭の中が一杯になる。
どさっと音が目の前でした。
ビンタされた後でまたうなだれてしまっていた首を少し上げたら音の正体が分かった。
かなりの数の麻縄とタオルがそこにあった。
「何をされるか分かるよね」
「・・・・・・」
右の頬にビンタが飛んできた、音は大きいが痛くない。
「分かるよねっ」
「はい」
「だったら言うことあるんじゃないの」
「縛ってください、有佳様」
グイっと髪を掴まれ顔を上にされ有佳に見据えられた。
あっと思った時には唾を吐き掛けられていた。
「ショーツ、脱がせるのよ。早くっ」
慌てて有佳の脛から手を差し入れてショーツを脱がせたところで、有佳がマキシ丈のワンピースの裾をたくし上げてきた、君子の髪は掴まれたままだ。
有佳の唾が飛んでくる、思わず目を閉じてしまう。
「ブタ顔にしてあげる。感謝しなさいよ」
されるままになる、顔中が唾で汚されていく。
集中して鼻のあたりが狙われている。
自慢の顔が情け容赦なく不細工な顔に作り替えられていく。
それだけで君子の中心部はあと一突きもあればイッてしまう寸前まで追い込まれてしまった。
髪を掴んでいた有佳の手が離れた。
顔に掛かっていた僅かな髪を払いのけると有佳が跨《また》いできた。
有佳の中心部によって君子の顔は蓋をされた。
有佳の太腿の付け根が君子の顔を挟んでいる、髪を掴んでいた有佳の左手は今は後頭部を支えている。
「おばさんにも使い道があったねぇ、嬉しいでしょ」
有佳の行為が次第に速さを増していく。
顔全体を使われている。
「動くんじゃないよっ」
前後の動きがぴたっと止まり、代わりに押し付けが強くなる。
肉で顔が包まれている。
そう感じた瞬間に君子は今まで経験したことがないほどの刺激を味わい躰に痙攣が走った。
君子が自慢の顔を徹底して汚された。
こんなにも待ち望んでいた自分が信じられない。
もうどうなってもいい。
うっ。
・・・息が出来ない、口元を開けたい、許可をもらっていない。
我慢できずに口元を開いた。
口元から出せる武器を伸ばせるところまで伸ばして肉の下から上までなぞって最初に脱出した鼻を使って息をした。
甘い香りを嗅いだと思ったと同時に、こんどは有佳の痙攣が始まった。
一拍置いて暖かい飛沫が顔に掛かった、気持ちがいい、いつまでも終わらないで欲しい。
****
ソファと寝具の間の床が結構な範囲で水浸しになった。
君子が着ている清涼感のある白のベーシックな半袖シャツはもちろんカーキ色のリボンベルト付きで膝が見えるスカートにも飛沫が掛かっている。
「そこにあるタオルで拭き取ってくんない」
「はい」
四枚使って床を拭いた。
拭き取りが終わると有佳は「全部脱いで」と言い残して君子からタオルを受け取ると部屋から出て行った。
君子は全てを脱いだあとどうしようか迷ったが、床に横座りして両掌《てのひら》を床についた姿勢で有佳を待つことにした。
戻って来た有佳はショーツだけになっていた、君子が脱がしたショーツはそのまま床にある、有佳が履き替えて来たショーツ姿に一瞬で見惚れてしまう。
太腿《ふともも》部分が水平にカットされているボーイショーツ姿。
男の人だとボクサーパンツと言う、君子は男でも女でもこの形状のショーツを履いている人がとにかく好き、カッコよく見える。
有佳のショーツの色は全体に薄い感じの黒だった、一部分はレースで出来ていて透けている。
とても似合っている。
「膝とか股関節って弱かったり怪我してたりする?」
「いいえ、普通だと思いますけど」
「そっか。こっちに来て胡坐《あぐら》かいて。できるでしょ」
君子は床から立ち上がって布団に座り命令された通りに胡坐をかいた。
有佳がタオルを足首に巻き付けてきた。
「縛って下さいって言ったよね、おばさん」
「はい」
有佳は縄を二つ折りにして君子の目の前で片膝をついている。
タオルの上から麻縄を受けた。
最初、縄の巻き方はとても緩い感じがしたが足首から腰骨を通って一回りしてきた縄を緩く巻かれた縄の間に通され、もう一回りして通された時に緩みは消えていた。
腰と足首が繋がっているので胡坐をかいた状態から足を延ばすことができない。
手慣れた動きに思えるほど有佳の縛りには迷いが無い。
二十歳の看護師に縛られている。
どこで覚えたのか。
君子を絡めとる女の縄師が目の前にいる錯覚に陥る。
無言で手際よく仕事をしているとしか思えない。
足首が終わると、手首を前に出すよう言われ同じくタオルで巻いてから縛られた。
手首の結び目の仕掛けに君子は驚かされた。
君子に見えない側で結ばれた縄の端が君子に見える位置に出ている。
出ている部分は、一本の縄を最初に二つ折りにしたその中心に当たる部分。
指を差し込むと輪になる。
有佳は指を差し込んで引っ張ってきた、少しぐらいの引っ張りではビクともしない、だが、さらに引っ張るとしっかり結ばれていたはずの手首の縄が解けた。
解けたあとで君子を一度見た有佳は、同じ形に縛り直してきた。
これだと歯を使えば君子でもさほど難しくなく解くことが出来る。
二人の間での初めての縄。
初めに体調を聞かれた。
そして、タオルの使用と結び目が解ける縛り方を採用してくれた。
そこには有佳の気遣いが表れている気がして嬉しかった。
このあと、どうされてもいい。
すべて有佳に委ねる。
君子は自分では絶対に解かないと決めた。
そう思い始めた矢先、髪を掴まれて前のめりにされ両肘と両膝で躰を支える形にさせられた。
胡坐《あぐら》縛りのままで前のめりにされた君子の後ろ側は、完全に無防備状態で曝け出されている。
「丸見えなんだけど」
「言わないで下さい」
「二穴同時ってわかるよね」
「そんな・・・わかりません」
次の瞬間、尻を打たれた。
絶妙のタイミングでの尻打ちが始まった。
無言で一定の間隔を置いて打たれる。
いつ終わるのかもわからない。
ただただ有佳が満足するまで続きそうに思える。
これに言葉が加わったら君子は追い込まれる、後が無くなってしまう。
痛みだけでイカされるんだろうか、それとも言葉も頂けるんだろうか。
そんな思いが頭を支配し始めている。
酔いが深くなり始める。
不意に尻打ちが止まってしまった。
「さっきブタ顔にしてあげたよね」
「・・・・・・」
「あげたよねっ」
「はい。ありがとうございます」
「スパンキングだけでイキそうなんでしょ、変態おばさん」
「そんな」
「じゃぁ、再開しなくていいの? 止める?」
「それは」
「だったらお願いして」
「有佳様、お願いします」
「なに手抜きしてんの。どこをどうして欲しいかも言えないの。手抜きした罰として最後にブゥって鳴き声も入れてもらおっかな。ブタ顔おばさんには相応しいでしょ」
「許して下さい」
「許すわけないでしょ。そんなこと言うなら罰も追加ね、決まり。今度会った時に、有佳さんこんにちはブゥって鳴いた君子です、って。必ず言うこと。出来ないなら二度と会わない」
「・・・・・・」
「どうなの」
「有佳様、お尻叩きの再開お願いします・・・ブゥ」
「ホントに鳴いたよ。このメス豚ったら。イクまで止めないから」
尻打ちが再開され、そこに言葉責めが加わってきた。
もう、ダメだった。
イキたい。
勝手にイクわけにはいかない、どうお願いすればイカせてもらえるのか。
「イキそうです」
「・・・・・・」
「イッてもよろしいでしょうか」
「だぁーめ。イクまで止めないって本気にしてた? 笑えるんだけど」
「そんな、お願いします」
「お願いが多いおばさんだね。この一年間なにやってきたの。いくらでも私から離れられたでしょうに、なんで離れなかったの」
「それは」
「それは、なに。言えっ」
「こうされたかったからです。こうして責められたかった」
「君子っ」
「はい」
「わたしはどうしようもない変態ですって言うなら続けてあげてもいいけど」
「えっ、そんな。・・・言えません」
無言が続く、有佳はなにも発しない、どうしよう。
言うべきなんだと分かっているのに喉元まで出かかったまま言えないでいる、時間だけが過ぎていくので有佳の性格を思うと終わりにされそうで焦りが出てくる。
そう思っているうちに手首と足首の縄を解かれてしまった。
先程と同じ体勢を取るよう命じられた。
両手両足が自由になった君子はすぐさま先程と同じ四つん這いの体勢を取り、有佳が動くのを待った、終わりにしないで欲しい、動いて欲しい。
背中に有佳の両手が触れてきた。
両手が君子の両肩に向かって移動してくる。
背後から完全に密着される。
しばらくそうした後で、両手が肩から離れていき君子の腹側に回され抱きしめられた。
とても意外な事だが、まるで愛おしい者でも包むように静かに重なっているように思える。
有佳に抱かれるのは初めてだがとにかく気持ちがいい。
ずっとこうしていたい。
有佳は動いてこない。
有佳の躰を背中に感じるだけで不思議と幸せな気分になれる、この後で仰向けにされたらどうしよう。
お互いの顔が見れる仰向けで抱かれることを想像するだけで火が付くほど恥ずかしくなる。
終わりにだけはしないで欲しいとまた思った。
突然、背中に電流が走った。
口元から出せる武器を背中に使われている。
声が出てしまうのを必死に耐える。
耳元に有佳が近づいてくる気配がすぐ後ろでする。
「仰向け」
「はい、有佳様」
仰向けになった君子を抱いてきた有佳の顔は君子の横にあった。
目を合わせなくて済む。
有佳の背中に手を回したいが回してもいいものかどうか迷ってしまう。
迷っているうちに今度は中心部に電流が走った。
有佳の突起部分を君子のそれに密着されていた。
君子が仰向けになってから有佳は一言も発していない。
いつショーツを脱いだのかも全く気付かなかった。
とてもゆっくりとだが確実に的を得た動きが始まった。
まるで男性が女性にするのと同じ動きだ。
もうダメだった。
有佳が愛おしくなる。
君子は有佳の背中にそっと両腕を回し両方の手のひらで抱き返した。
朝までずっとこうしていたい。
密着したままで僅かに上下運動をしてくる。
一定の間隔だった動きが止まり有佳が起き上がる気配がした。
有佳に上から覗かれている、目と目が合う。
「君子。足、腰に回したいんじゃないの。回してもいいんだよ」
「恥ずかしいです」
「なんで」
「はしたない女だと思われそう」
「この状況で、そういうところは妙に遠慮がちなんだ。笑えるんだけど、この変態っ。回したら自分で腰を使えよ」
優しい時間に終わりがきた。
一瞬、躊躇ったが言われた通りに君子は動いた。
「これでよろしいですか」
「そう、それでいい。やればできるじゃん、変態おばさん。その調子、もうすぐ、もうすぐで」
「わたしもです。イッてもいいですか」
「突き上げるんだよ」
「はいっ」
「ほらご褒美っ、ありがたく思いなさいよ」
胸の両方の突起を引きちぎれるんじゃないかと思うくらい掴まれ、その後で引っ張られた時にあっという間に君子は頂を迎えさせられていた。
意識が飛ぶことはなかったが躰が弛緩している、力が入らない。
強烈なビンタが飛んできた。
「なに休んでんの。これからが本番、地獄を見せてやる」
思わず怯えた。
いや、本当は怯えたフリをしていたのかも知れない、自分でも分からない。
つい、口元が緩んでしまう。
縄を受け、二穴を同時に責められ罵倒されている姿が頭の中に浮かんでいた。
****
この季節の早朝は気持ちがいい。
工藤有佳は自宅マンションの駐車場で車から降りずに、ぼぉーっと前を向いていた。
今しがた宮藤君子が勤める病院の駐車場に君子を送って帰ってきたところだった。
運転席側の窓を開けて新鮮な空気を取り入れるかどうか迷ったが、さっきまで助手席にいた君子の空気を残しておきたいので止めた。
ただ前を向いて脱力している。
考え事なのか、思い出しなのか、疑問を感じたことへの答え探しなのかは分からないが有佳の頭の中では昨日の出来事がゆっくりと巡回している。
君子の躰は想像以上に責め甲斐があり、たった一晩で有佳は君子にのめり込んだ。
のめり込んだことを気付かれるようなへまはしていない。
有佳は細心の注意を払って自分の気持ちが君子に傾いたことを伏せた。
君子の肌は信じられないくらい質感がいい。
素晴らしいもち肌の持ち主だと言える、いままでこんな肌に会ったことがない。
有佳の手の平も太腿の内側も脛でさえも君子の躰に絡みついてしまう、その感触がたまらなくいい。
責めを受けて汗をかいた肌はしっとりとして少しだけ、ほんの少しだけ薄く桜色を帯びてくる。
もっともっと責めて欲しいと肌が言ってくる。
こんな女は初めてだった。
肌だけではない。
中心部のすぐ裏側にある蕾の感度にはただただ驚いた、三本の指の受け入れが可能だったこともそうだが、その時に見た中心部は触ってもいないのに凄いことになっていた。
縛ったあとで二穴同時をやった、その最中に、駐車場での待ち合わせを君子の娘に見られたことを告げて地獄に堕とすつもりだったが、言えなかった。
言えないまま朝を迎えていた。
昨日、有佳は勤め先の小児科病院を午前中で早退し待ち合わせの駐車場に一時間半も早く着いて宮藤君子が勤める病院をくまなく散策した。
十五分前に駐車場の近くまで戻り君子の車を後ろから遠目に確認、時間丁度に駐車場に入るつもりでいたが駐車場を見下ろす土手に人影を見た。
有佳の方からは逆光でよく見えない。
駐車場を注視しているらしいので有佳は迂回して気付かれないように横から確認してみた。
思わず声が出そうになった。
そこにいたのは宮藤涼子だった。
なぜ、よりによって今日ここに居るんだろうが最初に沸いた疑問だったが、瞬時に頭の中で無視するのが一番いいと決めた。
有佳は気付いていないフリをして駐車場に入って行き、母親の裏の顔が娘に分かるように仕向けた。
そして今朝、娘に知られたことを隠したままで君子を帰していた。
この先、どうなるのかは分からない。
君子は、待ち合わせ時間より早く第三駐車場に着いた。
第三駐車場は本棟の奥側にあり遠いので職員で駐車する人はまずいない、車を置いて帰る時に停めるスペースという感覚で使用されている、第三駐車場から小道を下っていけばバスの発着所に着く。
指示された場所の隣にはすでに車が止められていた。
メーカーは違うが君子のと同じく軽自動車だった。
誰も乗っていないがこの車は有佳のだと思う。
有佳は君子の職場を見て回っているのだろう、広大な敷地に病棟が点在している景観にきっと圧倒されているに違いない。
君子はエンジンを切ってサングラスを外し代わりにサンバイザーを下ろして、ふっとため息をついた。
緊張している。
駐車場の出入り口をずっと見続けた。
約束の時間が近づくにつれて胸が張り裂けそうなくらいドキドキ感が止まらなくなっている。
もうすぐ時間だ。
まもなく、まもなく有佳がやって来る。
約束の時間丁度に駐車場に入って来る有佳の姿を見た。
マキシ丈のワンピース姿が似合っている。
君子の方は膝が見えるフレアスカートで素足、同じ素足でもマキシ丈で脛の半分が隠れている有佳とは対照的だとふと思った。
君子の前を通り過ぎて自分の車に向かう有佳は、君子を見ようともしない。
すでに二人の立場は確定していることを思い知らされた。
意を決して君子は、ジーンズや下着などの着替えが入った手提げバックを手にして車から出て有佳が待つ車の助手席側のドアを開けた。
「失礼します」
助手席に座りバックを後ろの席に置いて、君子は前を向いた。
夕方の日差しがキツイのでサンバイザーを下ろし目を閉じた。
有佳はなにも話し掛けてこない。
静寂の二人の時間がスタートした。
有佳とは無言から始まることがほとんどだが、今日のこれからのことを思うと今までとはまったく違う。
初めは看護師の先輩後輩として出会った。
有佳から告白され女同士のお付き合いを始めたが、有佳は火を付けただけで関心を示さない。
工藤先生に欲情した顔を知られている。
話し相手として有佳を成長させる踏み台になると決めた。
それからはいろいろとあったが、なんと別れた彼女さんと復活を遂げたという。
工藤先生も了解していると聞かされ、君子の踏み台の役目に突然終わりがきてしまった。
そして、有佳にお仕えするかどうかの選択を迫られた。
最後に決断を下したのは君子ということになる。
言葉を待つしかない。
最初にどんな命令が来ても即座に従うよう命じられている。
・・・どのくらいの時間が経ったんだろう。
「ショーツを脱いで渡しなさい」
最初の命令が下された。
有佳の口を継いで出て来た言葉に一瞬ビクっとしてしまった。
「・・・はい。有佳様」
君子は少し躊躇ったが座ったままでその作業をおこない、脱いだショーツを両手に持って有佳に渡そうとした。
その時、有佳の腕が伸びてきて君子の手首をしっかりと掴んで来た。
有佳はそのまま顔を近づけてきて、一度、嗅いでから受け取り、裏返してショーツを眺め始めた、とても恥ずかしくなる。
ずっと眺めている。
有佳の動きを横目で見ていた君子は有佳と視線が合ってしまった。
今の君子の顔を見られるのが恥ずかしいが俯《うつむ》くことはできない。
有佳の目は半開きで細くなっている。
目が物語っているのは君子への蔑みそのもの。
容赦のない支配者の目がそこにあった。
シートを倒して横になるよう命じられ、しばらくすると車が動き始めた。
有佳はなにも話し掛けてこない。
いま行われた一連の光景が頭をよぎる。
あれは今日これからおこなわれる始まりの儀式に違いない。
二人の静寂の時間がどこまでも続いている。
二十分くらい経った頃だと思うが車が停止しエンジン音が消えた。
有佳のマンションに着いたと教えられた。
外観はそれなりの年数を感じさせるがしっかりとした建物に思える。
一階の一番奥の扉を開けた有佳の後を追い、有佳に続いて玄関に入った。
入った瞬間、何もかもがリニューアルされていると分かった。
とても綺麗で真新しい感じがする。
リビングに通され、ソファではなく食事用テーブルの方を勧められた。
君子は椅子に腰かけたが落ち着かない、どんな夜を迎えることになるのか、緊張しっぱなしでうまく会話もできそうにない。
「はい、これ。穿きなさい」
有佳は君子にショーツを渡し、振り向いて流しに向かいお湯を沸かし始めた。
有佳に背を向けて急いで身につけ、これで少しは落ち着くかと思ったがだめだ、落ち着かない。
有佳がお茶を入れてくれた。
「時間、たっぷりあるし。少し話そっか」
「そうですね」
「覚悟まで時間掛かったよね、わたし相当な無理言ったのかな」
有佳を見るとあのギラついた視線ではなく、優しい顔に似合った視線になっている。
君子も少し落ち着かないといけない。
いま有佳が望んでいるのは会話だと思う。
「有佳さんのお相手に申し訳ないと思いました」
「ふーぅーん、そういう発想したんだ。それだけ?」
「いえ。工藤先生に知られるのが怖いんです。それが一番の理由です」
「お母さんに君子の欲情した顔見られてるもんね。それに、この前まで君子の娘の担任だったし。・・・私からは言わない」
「工藤先生に聞かれたら言うってことですか」
「怒った顔、見せるんだ」
「だって」
「絶対に言わない、言う必要がない、言う気もない。お母さんには君子と付き合って成長したって言うことに決めてる」
「えっ、決めてるってどういうことですか。まだ話していないってことですか。離婚された方とお付き合いしてるんですよね。先生も承知だって。私の踏み台の役目もだから終わったんじゃ・・・そうですよね」
「まだ言ってない。離婚した人と付き合ってるのは嘘。あの人とこれからの人生で交わることはもうない。こっちが本当」
騙《だま》したの?
なんで有佳はそんな嘘をついたんだろう。
今になってどうして本当のことを言ったんだろう。
君子へ隠し事をしたくないのとは違う気がする。
なんだろう。
きっと、有佳は自分に嘘を付きたくなかったのかも知れない。
そうに違いない。
「有佳さん、好きな女性《ひと》ができたんですね」
「・・・・・・」
「わたし、有佳さんの人生に割り込む気はありません。そんな大それたこと考えたこともありません。むしろ、知り合えてよかったと思っています。心配しないで下さい」
「君子は大人の女性だね。でも間違ってる。踏み台を心配するとでも思ってたわけ?」
一瞬で、あの蔑みの視線が戻ってきた。
私を使う気になっている。
今度の有佳は止まらない、それだけは分かる。
こっちへ来るのよ、と言われリビングを出て部屋に連れていかれた。
その部屋は扉が厚く一目で防音されていると君子にも分かった。
八畳か十畳ぐらいの広さがあるきれいな部屋だった。
音響設備が目に付いた、スピーカーが二つ、離れて置いてある。
あとは横長のソファと天版がガラスのテーブルがあるだけ。
左の壁一面が真ん中の柱部分を中心に左右に引き戸形式の扉がついている。
一つの扉はウオークインクロゼットかも知れない。
もう一つの方は収納箪笥みたいになっているのかもと想像した。
床は全体がフローリングで出来ている。
そして大きめのカーペットが敷かれている。
カーペットの上に一組の寝具が敷いてある。
マットと敷布団、シーツと掛け布団、それに枕。
全部新しい感じがする。
有佳は掛け布団をまくるとソファに向かい、君子には正座するよう命じてきた。
君子は命じられた通り布団に行ってシーツの上に正座した。
「今日はなにしに来たの。言いなさい」
ソファに座り足を組んだ有佳は、両手を膝の上で掛け合わせ前かがみになって君子を見ている。
「それは・・・有佳様に尽くすことだと」
「どう尽くすの、一晩中でしょ。言ってみて」
「・・・・・・」
君子にはどう尽くすかを考える発想はない。
有佳に身を委ねどんな命令が降ってきても精一杯それに従うつもりでいる。
一晩中でも君子を使ってもらえればそれが嬉しい。
それに酔う。
どうやって尽くしたら有佳が喜ぶのか分からない。
言葉が見つからないまま沈黙が続いてしまう。
「前に言ったこと、覚えてる? はぐらかしたり、反応鈍かったりしたら、縁はそこでおしまい」
「覚えています。どうやって尽くしたらいいのか、どうすれば喜んでいただけるのか、わかりません」
「そっか。だから私を使って下さいだったんだ。いいわ、使ってあげる」
「有佳様、ありがとうございます」
自分が発した言葉と同時に両手を前に出した君子は、額がシーツにつくまでの深いポーズをとり、そのままの状態で次の言葉を待った。
「這いながらこっちに来るんだよ、おばさん」
有佳だっ、本当の有佳が正体を現した。
四つん這いの姿勢をとりソファに向かって這い出した。
「そこで停止っ」
すぐ近くに有佳の声が聞こえる。
「下ばっか見てるね。ほらっ、情けない顔見てやるから上げるんだよっ」
顔を上げ有佳を見ようとしたが火花が散ったのが見えただけで有佳が目の前にいるはずなのに見えない。
次の瞬間、ビンタを食らったのだと思考が追い付いた。
「嬉しそうだね。普段の君子はどこいったのかな」
有佳が動いたのが気配で分かる。
左の頬に痛みはあるがそれほどでもない、それよりも動いた有佳が何をしているのだろうという不安で頭の中が一杯になる。
どさっと音が目の前でした。
ビンタされた後でまたうなだれてしまっていた首を少し上げたら音の正体が分かった。
かなりの数の麻縄とタオルがそこにあった。
「何をされるか分かるよね」
「・・・・・・」
右の頬にビンタが飛んできた、音は大きいが痛くない。
「分かるよねっ」
「はい」
「だったら言うことあるんじゃないの」
「縛ってください、有佳様」
グイっと髪を掴まれ顔を上にされ有佳に見据えられた。
あっと思った時には唾を吐き掛けられていた。
「ショーツ、脱がせるのよ。早くっ」
慌てて有佳の脛から手を差し入れてショーツを脱がせたところで、有佳がマキシ丈のワンピースの裾をたくし上げてきた、君子の髪は掴まれたままだ。
有佳の唾が飛んでくる、思わず目を閉じてしまう。
「ブタ顔にしてあげる。感謝しなさいよ」
されるままになる、顔中が唾で汚されていく。
集中して鼻のあたりが狙われている。
自慢の顔が情け容赦なく不細工な顔に作り替えられていく。
それだけで君子の中心部はあと一突きもあればイッてしまう寸前まで追い込まれてしまった。
髪を掴んでいた有佳の手が離れた。
顔に掛かっていた僅かな髪を払いのけると有佳が跨《また》いできた。
有佳の中心部によって君子の顔は蓋をされた。
有佳の太腿の付け根が君子の顔を挟んでいる、髪を掴んでいた有佳の左手は今は後頭部を支えている。
「おばさんにも使い道があったねぇ、嬉しいでしょ」
有佳の行為が次第に速さを増していく。
顔全体を使われている。
「動くんじゃないよっ」
前後の動きがぴたっと止まり、代わりに押し付けが強くなる。
肉で顔が包まれている。
そう感じた瞬間に君子は今まで経験したことがないほどの刺激を味わい躰に痙攣が走った。
君子が自慢の顔を徹底して汚された。
こんなにも待ち望んでいた自分が信じられない。
もうどうなってもいい。
うっ。
・・・息が出来ない、口元を開けたい、許可をもらっていない。
我慢できずに口元を開いた。
口元から出せる武器を伸ばせるところまで伸ばして肉の下から上までなぞって最初に脱出した鼻を使って息をした。
甘い香りを嗅いだと思ったと同時に、こんどは有佳の痙攣が始まった。
一拍置いて暖かい飛沫が顔に掛かった、気持ちがいい、いつまでも終わらないで欲しい。
****
ソファと寝具の間の床が結構な範囲で水浸しになった。
君子が着ている清涼感のある白のベーシックな半袖シャツはもちろんカーキ色のリボンベルト付きで膝が見えるスカートにも飛沫が掛かっている。
「そこにあるタオルで拭き取ってくんない」
「はい」
四枚使って床を拭いた。
拭き取りが終わると有佳は「全部脱いで」と言い残して君子からタオルを受け取ると部屋から出て行った。
君子は全てを脱いだあとどうしようか迷ったが、床に横座りして両掌《てのひら》を床についた姿勢で有佳を待つことにした。
戻って来た有佳はショーツだけになっていた、君子が脱がしたショーツはそのまま床にある、有佳が履き替えて来たショーツ姿に一瞬で見惚れてしまう。
太腿《ふともも》部分が水平にカットされているボーイショーツ姿。
男の人だとボクサーパンツと言う、君子は男でも女でもこの形状のショーツを履いている人がとにかく好き、カッコよく見える。
有佳のショーツの色は全体に薄い感じの黒だった、一部分はレースで出来ていて透けている。
とても似合っている。
「膝とか股関節って弱かったり怪我してたりする?」
「いいえ、普通だと思いますけど」
「そっか。こっちに来て胡坐《あぐら》かいて。できるでしょ」
君子は床から立ち上がって布団に座り命令された通りに胡坐をかいた。
有佳がタオルを足首に巻き付けてきた。
「縛って下さいって言ったよね、おばさん」
「はい」
有佳は縄を二つ折りにして君子の目の前で片膝をついている。
タオルの上から麻縄を受けた。
最初、縄の巻き方はとても緩い感じがしたが足首から腰骨を通って一回りしてきた縄を緩く巻かれた縄の間に通され、もう一回りして通された時に緩みは消えていた。
腰と足首が繋がっているので胡坐をかいた状態から足を延ばすことができない。
手慣れた動きに思えるほど有佳の縛りには迷いが無い。
二十歳の看護師に縛られている。
どこで覚えたのか。
君子を絡めとる女の縄師が目の前にいる錯覚に陥る。
無言で手際よく仕事をしているとしか思えない。
足首が終わると、手首を前に出すよう言われ同じくタオルで巻いてから縛られた。
手首の結び目の仕掛けに君子は驚かされた。
君子に見えない側で結ばれた縄の端が君子に見える位置に出ている。
出ている部分は、一本の縄を最初に二つ折りにしたその中心に当たる部分。
指を差し込むと輪になる。
有佳は指を差し込んで引っ張ってきた、少しぐらいの引っ張りではビクともしない、だが、さらに引っ張るとしっかり結ばれていたはずの手首の縄が解けた。
解けたあとで君子を一度見た有佳は、同じ形に縛り直してきた。
これだと歯を使えば君子でもさほど難しくなく解くことが出来る。
二人の間での初めての縄。
初めに体調を聞かれた。
そして、タオルの使用と結び目が解ける縛り方を採用してくれた。
そこには有佳の気遣いが表れている気がして嬉しかった。
このあと、どうされてもいい。
すべて有佳に委ねる。
君子は自分では絶対に解かないと決めた。
そう思い始めた矢先、髪を掴まれて前のめりにされ両肘と両膝で躰を支える形にさせられた。
胡坐《あぐら》縛りのままで前のめりにされた君子の後ろ側は、完全に無防備状態で曝け出されている。
「丸見えなんだけど」
「言わないで下さい」
「二穴同時ってわかるよね」
「そんな・・・わかりません」
次の瞬間、尻を打たれた。
絶妙のタイミングでの尻打ちが始まった。
無言で一定の間隔を置いて打たれる。
いつ終わるのかもわからない。
ただただ有佳が満足するまで続きそうに思える。
これに言葉が加わったら君子は追い込まれる、後が無くなってしまう。
痛みだけでイカされるんだろうか、それとも言葉も頂けるんだろうか。
そんな思いが頭を支配し始めている。
酔いが深くなり始める。
不意に尻打ちが止まってしまった。
「さっきブタ顔にしてあげたよね」
「・・・・・・」
「あげたよねっ」
「はい。ありがとうございます」
「スパンキングだけでイキそうなんでしょ、変態おばさん」
「そんな」
「じゃぁ、再開しなくていいの? 止める?」
「それは」
「だったらお願いして」
「有佳様、お願いします」
「なに手抜きしてんの。どこをどうして欲しいかも言えないの。手抜きした罰として最後にブゥって鳴き声も入れてもらおっかな。ブタ顔おばさんには相応しいでしょ」
「許して下さい」
「許すわけないでしょ。そんなこと言うなら罰も追加ね、決まり。今度会った時に、有佳さんこんにちはブゥって鳴いた君子です、って。必ず言うこと。出来ないなら二度と会わない」
「・・・・・・」
「どうなの」
「有佳様、お尻叩きの再開お願いします・・・ブゥ」
「ホントに鳴いたよ。このメス豚ったら。イクまで止めないから」
尻打ちが再開され、そこに言葉責めが加わってきた。
もう、ダメだった。
イキたい。
勝手にイクわけにはいかない、どうお願いすればイカせてもらえるのか。
「イキそうです」
「・・・・・・」
「イッてもよろしいでしょうか」
「だぁーめ。イクまで止めないって本気にしてた? 笑えるんだけど」
「そんな、お願いします」
「お願いが多いおばさんだね。この一年間なにやってきたの。いくらでも私から離れられたでしょうに、なんで離れなかったの」
「それは」
「それは、なに。言えっ」
「こうされたかったからです。こうして責められたかった」
「君子っ」
「はい」
「わたしはどうしようもない変態ですって言うなら続けてあげてもいいけど」
「えっ、そんな。・・・言えません」
無言が続く、有佳はなにも発しない、どうしよう。
言うべきなんだと分かっているのに喉元まで出かかったまま言えないでいる、時間だけが過ぎていくので有佳の性格を思うと終わりにされそうで焦りが出てくる。
そう思っているうちに手首と足首の縄を解かれてしまった。
先程と同じ体勢を取るよう命じられた。
両手両足が自由になった君子はすぐさま先程と同じ四つん這いの体勢を取り、有佳が動くのを待った、終わりにしないで欲しい、動いて欲しい。
背中に有佳の両手が触れてきた。
両手が君子の両肩に向かって移動してくる。
背後から完全に密着される。
しばらくそうした後で、両手が肩から離れていき君子の腹側に回され抱きしめられた。
とても意外な事だが、まるで愛おしい者でも包むように静かに重なっているように思える。
有佳に抱かれるのは初めてだがとにかく気持ちがいい。
ずっとこうしていたい。
有佳は動いてこない。
有佳の躰を背中に感じるだけで不思議と幸せな気分になれる、この後で仰向けにされたらどうしよう。
お互いの顔が見れる仰向けで抱かれることを想像するだけで火が付くほど恥ずかしくなる。
終わりにだけはしないで欲しいとまた思った。
突然、背中に電流が走った。
口元から出せる武器を背中に使われている。
声が出てしまうのを必死に耐える。
耳元に有佳が近づいてくる気配がすぐ後ろでする。
「仰向け」
「はい、有佳様」
仰向けになった君子を抱いてきた有佳の顔は君子の横にあった。
目を合わせなくて済む。
有佳の背中に手を回したいが回してもいいものかどうか迷ってしまう。
迷っているうちに今度は中心部に電流が走った。
有佳の突起部分を君子のそれに密着されていた。
君子が仰向けになってから有佳は一言も発していない。
いつショーツを脱いだのかも全く気付かなかった。
とてもゆっくりとだが確実に的を得た動きが始まった。
まるで男性が女性にするのと同じ動きだ。
もうダメだった。
有佳が愛おしくなる。
君子は有佳の背中にそっと両腕を回し両方の手のひらで抱き返した。
朝までずっとこうしていたい。
密着したままで僅かに上下運動をしてくる。
一定の間隔だった動きが止まり有佳が起き上がる気配がした。
有佳に上から覗かれている、目と目が合う。
「君子。足、腰に回したいんじゃないの。回してもいいんだよ」
「恥ずかしいです」
「なんで」
「はしたない女だと思われそう」
「この状況で、そういうところは妙に遠慮がちなんだ。笑えるんだけど、この変態っ。回したら自分で腰を使えよ」
優しい時間に終わりがきた。
一瞬、躊躇ったが言われた通りに君子は動いた。
「これでよろしいですか」
「そう、それでいい。やればできるじゃん、変態おばさん。その調子、もうすぐ、もうすぐで」
「わたしもです。イッてもいいですか」
「突き上げるんだよ」
「はいっ」
「ほらご褒美っ、ありがたく思いなさいよ」
胸の両方の突起を引きちぎれるんじゃないかと思うくらい掴まれ、その後で引っ張られた時にあっという間に君子は頂を迎えさせられていた。
意識が飛ぶことはなかったが躰が弛緩している、力が入らない。
強烈なビンタが飛んできた。
「なに休んでんの。これからが本番、地獄を見せてやる」
思わず怯えた。
いや、本当は怯えたフリをしていたのかも知れない、自分でも分からない。
つい、口元が緩んでしまう。
縄を受け、二穴を同時に責められ罵倒されている姿が頭の中に浮かんでいた。
****
この季節の早朝は気持ちがいい。
工藤有佳は自宅マンションの駐車場で車から降りずに、ぼぉーっと前を向いていた。
今しがた宮藤君子が勤める病院の駐車場に君子を送って帰ってきたところだった。
運転席側の窓を開けて新鮮な空気を取り入れるかどうか迷ったが、さっきまで助手席にいた君子の空気を残しておきたいので止めた。
ただ前を向いて脱力している。
考え事なのか、思い出しなのか、疑問を感じたことへの答え探しなのかは分からないが有佳の頭の中では昨日の出来事がゆっくりと巡回している。
君子の躰は想像以上に責め甲斐があり、たった一晩で有佳は君子にのめり込んだ。
のめり込んだことを気付かれるようなへまはしていない。
有佳は細心の注意を払って自分の気持ちが君子に傾いたことを伏せた。
君子の肌は信じられないくらい質感がいい。
素晴らしいもち肌の持ち主だと言える、いままでこんな肌に会ったことがない。
有佳の手の平も太腿の内側も脛でさえも君子の躰に絡みついてしまう、その感触がたまらなくいい。
責めを受けて汗をかいた肌はしっとりとして少しだけ、ほんの少しだけ薄く桜色を帯びてくる。
もっともっと責めて欲しいと肌が言ってくる。
こんな女は初めてだった。
肌だけではない。
中心部のすぐ裏側にある蕾の感度にはただただ驚いた、三本の指の受け入れが可能だったこともそうだが、その時に見た中心部は触ってもいないのに凄いことになっていた。
縛ったあとで二穴同時をやった、その最中に、駐車場での待ち合わせを君子の娘に見られたことを告げて地獄に堕とすつもりだったが、言えなかった。
言えないまま朝を迎えていた。
昨日、有佳は勤め先の小児科病院を午前中で早退し待ち合わせの駐車場に一時間半も早く着いて宮藤君子が勤める病院をくまなく散策した。
十五分前に駐車場の近くまで戻り君子の車を後ろから遠目に確認、時間丁度に駐車場に入るつもりでいたが駐車場を見下ろす土手に人影を見た。
有佳の方からは逆光でよく見えない。
駐車場を注視しているらしいので有佳は迂回して気付かれないように横から確認してみた。
思わず声が出そうになった。
そこにいたのは宮藤涼子だった。
なぜ、よりによって今日ここに居るんだろうが最初に沸いた疑問だったが、瞬時に頭の中で無視するのが一番いいと決めた。
有佳は気付いていないフリをして駐車場に入って行き、母親の裏の顔が娘に分かるように仕向けた。
そして今朝、娘に知られたことを隠したままで君子を帰していた。
この先、どうなるのかは分からない。
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