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シーズンⅠ-24 境界線
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もうすぐ新学期が始まる。
君子は年明けに内田紗栄子さんと飲み会をしたが、その翌週を除いてほぼ毎週二人で飲んでいる。
二月からは勤務表の木曜日か金曜日のどちらかを日勤で提出している。
週に一回、家事から解放され紗栄子さんと晩御飯を食べるパターンが出来上がりなんと楽しいことか。
日勤だと仕事帰りのOLっぽく過ごせる、君子的にはこれがベスト。
飲みが決まってる日はバスで通勤し帰りは病院始発のバスで道が空いてれば二十分で市街中心部に来る、二十分間のワクワク感もたまらない。
紗栄子さんの北部経済界での宴会が木曜日に多いので三月からの勤務表は金曜日を日勤に当てた。
紗栄子さんもこの晩御飯が一週間の疲れを癒す源とまで言ってくるので、それも嬉しい。
君子の週飲みを一番応援してくれたのはなんと涼子だったのには驚かされた。
金曜日は家事を代わってやると言い出し、献立表も作成している。
涼子は何事にも凝るタイプだが今回ほど頼りになると思ったことはない。
頼ってばかりいるといつ梯子を外されるか分からないのも涼子なので、君子が本当に頼るのは四月から小学六年生になる朝美の方だったが。
料理を覚えるのも朝美は速いしテキパキとやる。
涼子お姉ちゃんを助けるのが生き甲斐に違いない。
そんなことに気付くはずもない涼子だが不思議なことに朝美の声優への道を一番応援している、しかも、「声優でご飯が食べれるなんて一握りに決まってる。手に職を持つべき、朝美ちゃんのトリマー姿を想像するとうっとりする」と実に現実的なアドバイスをかなり前からしていたことも分かった。
なんと有難いことか、涼子を見直した。
きっとどこかの時点で涼子は朝美に全部丸投げするのは容易に想像がついたが、それでも涼子が応援してくれたことが嬉しい。
****
有佳とは昨年末に会ったのが最後で「しばらく会えない」と言い渡されている。
君子は翌月の勤務表を写真に撮りメールに添付して有佳に送っている。
何も書かないで送るのは不自然なので短い言葉も添えた。
迷ったが、「会える連絡がいつか入ることをお待ちしています」にした。
毎月この文言で送って有佳からの連絡を待つ。
今のところの有佳の返信は「まだダメ」の四文字が来ただけだ。
有佳との年末デートからもう三ヵ月が過ぎている、あっという間だ。
今の君子は毎週のように天使と晩御飯を食べている。
悪魔から逃げれると思うと、もうこのまま有佳と会えなくてもいいような気もするが保存データを開くたびにあの日が蘇る。
君子はつくづく自分がどうしようもない変態だと思う。
同性に堕とされることを望んでいる。
容姿に自信がある自分が同性にたたき落される理不尽さを味わいたい。
レディスコミック『タブーなあなた』にのめり込んだ時に自分の性的嗜好を知った。
あれから十数年が経つが消えることがない。
のめり込むと周りが見えなくなって見境が無くなる。
年末のデートではお手洗いの個室で有佳が自撮りした内容と限りなく同じに撮ることが使命だとあの時は思った。
自分がどれだけ異常だったかは後になってわかった。
常識を遥かに逸脱している。
最後の一枚が欲しくて欲しくてしょうがなかった。
君子の携帯の中に今それは入っている、有佳は姿見で写した中心部が曝《さら》け出された最後の一枚を約束通りメールしてくれた。
あの日、有佳がお手洗いの個室で君子の携帯を使って撮ったものは最後の一枚を遥かに超えているものばかりだが接写なので誰なのかは分からない、それに比べて最後の一枚は顔は写っていないが服装で一枚目と二枚目とを続けて見れば有佳だと分かる。
有佳が撮ったのと同じ構図で君子が自分の中心部を撮ったものが有佳の手元にある、接写なので君子だとは分からない。
だが、それを写したのは他ならぬ自分自身なのだ。
信じられない。
今までの君子からは考えられない。
さすがに自分でやったことなのにいまだにショック状態にいる。
このまま後戻りできないで行くとどこかで破滅しそうな気がする。
なんでこうなったんだろう。
有佳と初めて会った時からすでに一年が経過しているが、直に躰に触れられたのは襲撃された一回だけであとはチャンスはいくらでもあったはずなのに触れられていない。
生煮えの欲望を抱えたままで一年も悶々と過ごしている。
それを知っているくせに有佳は君子をオモチャにして嘲笑っている。
なんであの日だけは違っていたんだろう。
君子の頭のどこかで微かな疑念が湧いた。
あの時の襲撃は突発的だったのか計画的だったのかという疑念。
有佳と初めて会った時から今までのお付き合いのすべてをなぞってみた。
何度も繰り返しなぞってみた。
・・・そして、これに違いないという答えを見つけ出した。
その答えが君子自身もっとも腑に落ちた。
あれは計画的ではない、計画的だったはずがない、突発的というより有佳は衝動的に襲ったのだ。
そうだとすれば有佳が衝動的になった原因は一つしかない。
襲った場所が君子の家だったからだ。
なんで気が付かなかったんだろう。
このままではいつか君子の家に入り込まれる。
いずれ耕三さんは異動になり単身赴任することを有佳は君子と初めて会った時に工藤先生が話すのを聞いて知っている。
耕三さんが居なくなるのをいつまでも待っている気がしてきた。
泊まりに来ると言い出すかも知れない。
子供達がいる同じ家の中で君子を襲おうとするに違いない。
有佳がどんな人間なのかまた一つ見えたような気がする。
有佳ほど完璧な演技者はいない。
会話を逆手に取るのも難なくやってのける。
しかも、しつこいのも平気でどこまでもやる。
それだけでなかったことに君子は気が付いた。
有佳はいつまでも待てる忍耐力が凄すぎる。
ふと文香さんが思い浮かんだ。
文香さんは何度でも君子を頂きに向かわせるのを好むが、有佳はきっとそうじゃない。
頂きに向かう途中で平気で止めて来る、いや、止めるだけじゃない。
放置して相手が苦しむのを見るのが好きなんだ。
最後のデートの時がそうだった。
有佳は何度もそういうことをやっているに違いない、今にして思えばあの時の有佳は手慣れていたとさえ思える。
君子は有佳のことが心底恐ろしくなった。
絶望を与えてくる有佳が恐ろしい。
ナルシストで自分が自慢の君子を絶望の淵に追いやってくる。
逃げるなら今を置いて他にないのだろう。
それができるならそうしたい。
せめて子供達が居る家の中でもう二度とあんな目に合わないようにするのが君子が死んでも守るべき境界線に違いない。
これが突破されたら家庭が崩壊してしまう。
****
「お酒臭いお母さんは嫌いじゃない」
涼子にそう言われた昨夜は、金曜日だった。
紗栄子さんと一杯やったが結構飲んでしまい、帰宅した時には相当顔が赤らんでいたのだろうが涼子がそんな私を見て嫌いじゃないと言ってくれた。
涼子の後ろに控えている朝美ちゃんが少し嫌な顔をしていたので、わざと朝美ちゃんに抱きついてやった。
ヤダっお母さん、とか言ってる朝美ちゃんとじゃれ合っていたらその輪に涼子が入って来て君子に抱きついてきた。
涼子の魂胆はわかっている。
匂いを嗅いでいるのだ。
どういうわけか宮藤家で唯一の匂いフェチなのだ。
知っているのは君子だけだ。
というか君子の匂いだけに関心があるのが分かっていたからだが、家事手伝いを率先してこなしてくれているので思う存分に嗅がせてあげることにした。
どんなに大人びて中国古代史が好きな歴女になったとしてもしょせんは母乳の味が忘れられない赤ちゃんなのだ。
今朝は耕三さんはゴルフに出かけてしまっていない。
北部では冬は当然ゴルフ場はクローズになり三月下旬から新シーズンが始まる。
オープン記念で料金が安いんだと言い訳をしながら昨夜の耕三さんは楽しそうだった。
耕三さんがプレーをするメンバーは年明けから北部銀行顧問に就任しているみつつ証券の先輩だった菊池隆司さんだ、北部カントリークラブが今日からオープンなのでみつつ証券北部支店の部下二名も参加して四人で回ると言っていた。
部下が車で迎えにきていたのでたぶん夕方まで帰ってこない、終わってから飲み会をするからだ。運転する人は飲めないので可哀想だが以前の耕三さんもそうやって支店長を迎えに行って自分は飲まない飲み会をやって送り届けてから帰宅していた。
朝美が刻文市に行くのは明日だ、宮藤家の女三人の今日の予定はカラオケにする。
耕三さんが居る時は二時間カラオケが宮藤家の定番、後ろ髪を引かれるぐらいで終わるのが丁度いいという耕三さんの考えでそうしている。
だが、今日は違う。
子供達は家事を頑張ってくれたしもうすぐ新学期、ここは思う存分好きにさせるのがいい。
三時間でも四時間でも構わないと言った時の娘二人の顔ときたらなさけないほどの笑顔になっていた、二人でハイタッチまでやってる。
一年間通った声優学校から所属事務所を決めてみたらどうかという連絡が入っていた、朝美さんならアイドル声優も夢じゃないとも伝えられた。
家族会議を開き、朝美の希望もあり北部市から通えるなら活動を開始してみるという結論に固まりつつあるが、早急に結論を出すのは控えることで一致している。
今日は、純粋に女三人で楽しむ。
「はいはい、ちゃんと朝ご飯食べてからね」
「はーい」
二人同時に伸びのある返事が返ってきた。
「ところでお母さん」
そう言ったあと涼子は何も話さないで黙ってご飯を食べている。
「お姉ちゃん、またやってる」
「えっ、なに? あっそうだった」
「お姉ちゃん。何か気になると途中で話《はなし》しなくなるってば。言い出したことを最後まで言ってからにして下さい」
「ごめんなさい。もう二度としません」
「今度こそホントだね。約束破ったらお姉ちゃんの面倒はもう見てあげないから」
これじゃどっちが姉だか分からないと思っていたら、二人の会話はそこで止まってしまい今度は二人とも落ち着いたみたいで普通に食べている。
君子だけ落ち着かない、何を話そうとしたんだろう。
「なに、なんかあったの涼子」
「なんでもないけどちょっと。お母さんってアメリカ大統領選に興味あったんだ」
「えっ、そんなこと私言ったの?」
「言ったなんてもんじゃなかったよ。ヒラリー・クリントンがどうしたこうしたって、変なお酒でも飲んだのかって朝美とあのあと話しちゃった」
内田紗栄子さんだ。
昨日の二人飲みの時に紗栄子さんはずっと今年十一月におこなわれるアメリカ大統領選の話をしていた、それが君子に焼き付いていたんだ。
うーん何だか感化されてるなぁ。
最近の君子は紗栄子さんで癒されている、とにかく気が合う。
紗栄子さんをもっと知りたいので究極魔法の名前と呪文を考えるのが今の君子の楽しみの一つになっている。
君子は年明けに内田紗栄子さんと飲み会をしたが、その翌週を除いてほぼ毎週二人で飲んでいる。
二月からは勤務表の木曜日か金曜日のどちらかを日勤で提出している。
週に一回、家事から解放され紗栄子さんと晩御飯を食べるパターンが出来上がりなんと楽しいことか。
日勤だと仕事帰りのOLっぽく過ごせる、君子的にはこれがベスト。
飲みが決まってる日はバスで通勤し帰りは病院始発のバスで道が空いてれば二十分で市街中心部に来る、二十分間のワクワク感もたまらない。
紗栄子さんの北部経済界での宴会が木曜日に多いので三月からの勤務表は金曜日を日勤に当てた。
紗栄子さんもこの晩御飯が一週間の疲れを癒す源とまで言ってくるので、それも嬉しい。
君子の週飲みを一番応援してくれたのはなんと涼子だったのには驚かされた。
金曜日は家事を代わってやると言い出し、献立表も作成している。
涼子は何事にも凝るタイプだが今回ほど頼りになると思ったことはない。
頼ってばかりいるといつ梯子を外されるか分からないのも涼子なので、君子が本当に頼るのは四月から小学六年生になる朝美の方だったが。
料理を覚えるのも朝美は速いしテキパキとやる。
涼子お姉ちゃんを助けるのが生き甲斐に違いない。
そんなことに気付くはずもない涼子だが不思議なことに朝美の声優への道を一番応援している、しかも、「声優でご飯が食べれるなんて一握りに決まってる。手に職を持つべき、朝美ちゃんのトリマー姿を想像するとうっとりする」と実に現実的なアドバイスをかなり前からしていたことも分かった。
なんと有難いことか、涼子を見直した。
きっとどこかの時点で涼子は朝美に全部丸投げするのは容易に想像がついたが、それでも涼子が応援してくれたことが嬉しい。
****
有佳とは昨年末に会ったのが最後で「しばらく会えない」と言い渡されている。
君子は翌月の勤務表を写真に撮りメールに添付して有佳に送っている。
何も書かないで送るのは不自然なので短い言葉も添えた。
迷ったが、「会える連絡がいつか入ることをお待ちしています」にした。
毎月この文言で送って有佳からの連絡を待つ。
今のところの有佳の返信は「まだダメ」の四文字が来ただけだ。
有佳との年末デートからもう三ヵ月が過ぎている、あっという間だ。
今の君子は毎週のように天使と晩御飯を食べている。
悪魔から逃げれると思うと、もうこのまま有佳と会えなくてもいいような気もするが保存データを開くたびにあの日が蘇る。
君子はつくづく自分がどうしようもない変態だと思う。
同性に堕とされることを望んでいる。
容姿に自信がある自分が同性にたたき落される理不尽さを味わいたい。
レディスコミック『タブーなあなた』にのめり込んだ時に自分の性的嗜好を知った。
あれから十数年が経つが消えることがない。
のめり込むと周りが見えなくなって見境が無くなる。
年末のデートではお手洗いの個室で有佳が自撮りした内容と限りなく同じに撮ることが使命だとあの時は思った。
自分がどれだけ異常だったかは後になってわかった。
常識を遥かに逸脱している。
最後の一枚が欲しくて欲しくてしょうがなかった。
君子の携帯の中に今それは入っている、有佳は姿見で写した中心部が曝《さら》け出された最後の一枚を約束通りメールしてくれた。
あの日、有佳がお手洗いの個室で君子の携帯を使って撮ったものは最後の一枚を遥かに超えているものばかりだが接写なので誰なのかは分からない、それに比べて最後の一枚は顔は写っていないが服装で一枚目と二枚目とを続けて見れば有佳だと分かる。
有佳が撮ったのと同じ構図で君子が自分の中心部を撮ったものが有佳の手元にある、接写なので君子だとは分からない。
だが、それを写したのは他ならぬ自分自身なのだ。
信じられない。
今までの君子からは考えられない。
さすがに自分でやったことなのにいまだにショック状態にいる。
このまま後戻りできないで行くとどこかで破滅しそうな気がする。
なんでこうなったんだろう。
有佳と初めて会った時からすでに一年が経過しているが、直に躰に触れられたのは襲撃された一回だけであとはチャンスはいくらでもあったはずなのに触れられていない。
生煮えの欲望を抱えたままで一年も悶々と過ごしている。
それを知っているくせに有佳は君子をオモチャにして嘲笑っている。
なんであの日だけは違っていたんだろう。
君子の頭のどこかで微かな疑念が湧いた。
あの時の襲撃は突発的だったのか計画的だったのかという疑念。
有佳と初めて会った時から今までのお付き合いのすべてをなぞってみた。
何度も繰り返しなぞってみた。
・・・そして、これに違いないという答えを見つけ出した。
その答えが君子自身もっとも腑に落ちた。
あれは計画的ではない、計画的だったはずがない、突発的というより有佳は衝動的に襲ったのだ。
そうだとすれば有佳が衝動的になった原因は一つしかない。
襲った場所が君子の家だったからだ。
なんで気が付かなかったんだろう。
このままではいつか君子の家に入り込まれる。
いずれ耕三さんは異動になり単身赴任することを有佳は君子と初めて会った時に工藤先生が話すのを聞いて知っている。
耕三さんが居なくなるのをいつまでも待っている気がしてきた。
泊まりに来ると言い出すかも知れない。
子供達がいる同じ家の中で君子を襲おうとするに違いない。
有佳がどんな人間なのかまた一つ見えたような気がする。
有佳ほど完璧な演技者はいない。
会話を逆手に取るのも難なくやってのける。
しかも、しつこいのも平気でどこまでもやる。
それだけでなかったことに君子は気が付いた。
有佳はいつまでも待てる忍耐力が凄すぎる。
ふと文香さんが思い浮かんだ。
文香さんは何度でも君子を頂きに向かわせるのを好むが、有佳はきっとそうじゃない。
頂きに向かう途中で平気で止めて来る、いや、止めるだけじゃない。
放置して相手が苦しむのを見るのが好きなんだ。
最後のデートの時がそうだった。
有佳は何度もそういうことをやっているに違いない、今にして思えばあの時の有佳は手慣れていたとさえ思える。
君子は有佳のことが心底恐ろしくなった。
絶望を与えてくる有佳が恐ろしい。
ナルシストで自分が自慢の君子を絶望の淵に追いやってくる。
逃げるなら今を置いて他にないのだろう。
それができるならそうしたい。
せめて子供達が居る家の中でもう二度とあんな目に合わないようにするのが君子が死んでも守るべき境界線に違いない。
これが突破されたら家庭が崩壊してしまう。
****
「お酒臭いお母さんは嫌いじゃない」
涼子にそう言われた昨夜は、金曜日だった。
紗栄子さんと一杯やったが結構飲んでしまい、帰宅した時には相当顔が赤らんでいたのだろうが涼子がそんな私を見て嫌いじゃないと言ってくれた。
涼子の後ろに控えている朝美ちゃんが少し嫌な顔をしていたので、わざと朝美ちゃんに抱きついてやった。
ヤダっお母さん、とか言ってる朝美ちゃんとじゃれ合っていたらその輪に涼子が入って来て君子に抱きついてきた。
涼子の魂胆はわかっている。
匂いを嗅いでいるのだ。
どういうわけか宮藤家で唯一の匂いフェチなのだ。
知っているのは君子だけだ。
というか君子の匂いだけに関心があるのが分かっていたからだが、家事手伝いを率先してこなしてくれているので思う存分に嗅がせてあげることにした。
どんなに大人びて中国古代史が好きな歴女になったとしてもしょせんは母乳の味が忘れられない赤ちゃんなのだ。
今朝は耕三さんはゴルフに出かけてしまっていない。
北部では冬は当然ゴルフ場はクローズになり三月下旬から新シーズンが始まる。
オープン記念で料金が安いんだと言い訳をしながら昨夜の耕三さんは楽しそうだった。
耕三さんがプレーをするメンバーは年明けから北部銀行顧問に就任しているみつつ証券の先輩だった菊池隆司さんだ、北部カントリークラブが今日からオープンなのでみつつ証券北部支店の部下二名も参加して四人で回ると言っていた。
部下が車で迎えにきていたのでたぶん夕方まで帰ってこない、終わってから飲み会をするからだ。運転する人は飲めないので可哀想だが以前の耕三さんもそうやって支店長を迎えに行って自分は飲まない飲み会をやって送り届けてから帰宅していた。
朝美が刻文市に行くのは明日だ、宮藤家の女三人の今日の予定はカラオケにする。
耕三さんが居る時は二時間カラオケが宮藤家の定番、後ろ髪を引かれるぐらいで終わるのが丁度いいという耕三さんの考えでそうしている。
だが、今日は違う。
子供達は家事を頑張ってくれたしもうすぐ新学期、ここは思う存分好きにさせるのがいい。
三時間でも四時間でも構わないと言った時の娘二人の顔ときたらなさけないほどの笑顔になっていた、二人でハイタッチまでやってる。
一年間通った声優学校から所属事務所を決めてみたらどうかという連絡が入っていた、朝美さんならアイドル声優も夢じゃないとも伝えられた。
家族会議を開き、朝美の希望もあり北部市から通えるなら活動を開始してみるという結論に固まりつつあるが、早急に結論を出すのは控えることで一致している。
今日は、純粋に女三人で楽しむ。
「はいはい、ちゃんと朝ご飯食べてからね」
「はーい」
二人同時に伸びのある返事が返ってきた。
「ところでお母さん」
そう言ったあと涼子は何も話さないで黙ってご飯を食べている。
「お姉ちゃん、またやってる」
「えっ、なに? あっそうだった」
「お姉ちゃん。何か気になると途中で話《はなし》しなくなるってば。言い出したことを最後まで言ってからにして下さい」
「ごめんなさい。もう二度としません」
「今度こそホントだね。約束破ったらお姉ちゃんの面倒はもう見てあげないから」
これじゃどっちが姉だか分からないと思っていたら、二人の会話はそこで止まってしまい今度は二人とも落ち着いたみたいで普通に食べている。
君子だけ落ち着かない、何を話そうとしたんだろう。
「なに、なんかあったの涼子」
「なんでもないけどちょっと。お母さんってアメリカ大統領選に興味あったんだ」
「えっ、そんなこと私言ったの?」
「言ったなんてもんじゃなかったよ。ヒラリー・クリントンがどうしたこうしたって、変なお酒でも飲んだのかって朝美とあのあと話しちゃった」
内田紗栄子さんだ。
昨日の二人飲みの時に紗栄子さんはずっと今年十一月におこなわれるアメリカ大統領選の話をしていた、それが君子に焼き付いていたんだ。
うーん何だか感化されてるなぁ。
最近の君子は紗栄子さんで癒されている、とにかく気が合う。
紗栄子さんをもっと知りたいので究極魔法の名前と呪文を考えるのが今の君子の楽しみの一つになっている。
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