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第7章 せめぎ合い

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 一ヵ月後、もうすぐゴールデンウィークが始まる。
 健太郎が依頼して40日が経った時点で興信所から報告書が送られてきた、さゆりの元夫である工藤友也が子供達まで居なくなってからどう動いたか、再婚相手はどんな人なのか。
 いま健太郎と加奈は自宅に居る、じっくり読み終えた健太郎が加奈に手渡す。
「この今井穂乃果って人も離婚協議中だったんだ」
 読んでいる途中で加奈が健太郎に話し掛ける。
「そう、最後まで読んでみて」
 加奈が読み終えるのを待つ健太郎。
 読み終えた加奈の第一声は「マジでっ」だった。
「マジでっ、なにこれ」
 報告書を手にしたままで加奈が唸る。
「だよね、姉さんとの離婚は計画的だった、そうとしか考えられない」
 友也の再婚相手、今井穂乃果《いまいほのか》は3月に離婚が成立し今は6歳になる男の子を連れて実家に戻っていると記されている、名字も旧姓である八重樫に戻り、いまは八重樫穂乃果である、両親の名は八重樫多三郎、八重樫圭子、八重樫多三郎は友也の勤め先である大津軽建設の会長である。
「会長の娘と再婚だなんて、しかも2年後には会長の息のかかった県会議員の後釜になる、後任候補だとも書かれているわ」
「友也さんがどんな人か少し分かった気がする」
「健太郎、あなたにはどう見えたの」
「もし県会議員になれば地元の同級生や仲間内だけでなく、自分が出た中学や高校からも出世頭と見なされる、もちろん建設業界からも一目置かれる存在になる、いずれは先生と呼ばれて地元の名士になる、そういう自分になりたいんだと思う」
 上昇志向というか自己顕示欲が強いんだと思うと続ける健太郎に、
「上流階級の仲間入りをしたいからだなんて、最低っ」
 と言い放つ加奈。
「向こうにも息子がいるみたいだから、再婚すれば拓海君や晴香ちゃんと距離を置くと思う。いまだって自分の子供達に連絡一つ寄こしていないんじゃないかな」
「と言うことは・・・」
 拓海の名前が出てきたことで調査の本来の目的を思い出した加奈。
「拓海君に株を渡しても大丈夫だと思う、拓海君を操ってウチの会社に手を出せばウチが取る対抗手段によっては向こうで友也さんは評判を著しく落とすことになる、姉さんと家族を捨てて掴んだ地位を守るのが賢明だと損得勘定が働くに違いない」
 加奈がコーヒーを淹れに席を立つ。
 二人ともブラック、健太郎はまだ報告書を見ている。
 3月後半に興信所から、今井穂乃果の妹及び離婚協議中の夫に関する調査を希望するかどうか打診され追加料金を払う約束をしている、今井穂乃果は二人姉妹で他に兄弟はいない、妹は既に嫁いでいる。
「今井穂乃果は夫に飽きられたのかも、若すぎる」
 淹れたてのコーヒーを味わいながら健太郎が加奈に話を振る。
「この夫、ビックリするぐらい若いんだけど、うち等以上に年が離れてる。40歳の穂乃果より一回り年下で6歳になる息子がいるって、二十歳そこそこで結婚してることになる」
 知り合った場所はズバリ夫が勤めているゴルフ練習場だったりして、親が経営者だし、と加奈が続ける。
「それは分かんないけど、どっかで別れ話を聞きつけた友也さんが会長に、私も離婚するつもりで動いています、とか何とか言って近づいたんじゃないかな」
「十分にあると思う。穂乃果の妹の夫は厨房機材の卸会社を経営しててまっとうな感じだわね、ただ、子供がいなくて共稼ぎは分かるけど、スナック経営ってのは少しビックリした、やってみたかったのかも知れない、開店資金は夫じゃなくて親に頼んだのかも、その方が気が楽だし、35歳かぁ」
 ここまで話して加奈と健太郎が黙る、二人とも考えているのは同じ、この計画的離婚をさゆりに告げるべきかどうかだ、拓海に株を渡す件も含めてどこかの時点で話す必要はあるのだが、
「お義姉さんには私がそれとなく話す、業界筋から得た情報ってことにすれば大丈夫だと思う」
「確かに、加奈からの方がいいかも知れない」
「株の件も含めてお義姉さんを絶対に見捨てないって話はあなたからしてあげて下さい」
 加奈の目は真剣だ。
「分かった、タイミングみて伝える」
 健太郎が調査を打ち切ることを加奈に伝え、加奈も了解する。
 加奈は明日、晴香と街に出る、連休初日にはさゆりと出かける。
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