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第5章 秘密

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 加奈の携帯に1件のメールが届いている、藤崎智子からだ。
「あなた、自分がヘマした自覚ないでしょ。今週金曜日に行く、あなたも来なさい」とだけ書かれている。
 午前零時を過ぎてベットに入る前に「分かりました」とだけ返信した加奈はなかなか寝付けれなかった、いったいどんなヘマをしたんだろう、藤崎智子で思いつくのは専務室で見た名刺しかない、あれだったのか、あれをヘマと呼ばれても到底納得できるものではない、とにかく行けば分かることだ、行けば母親と会うことになるが藤崎智子の命令には従うしかない、母親の顔が頭をよぎりさらに寝付けなくなる。
 加奈の母親の相沢真美子は、一回り以上も年の離れた社会人と高校生の時に恋仲になり19で加奈を生んでいる、相手の男はスタイルも顔立ちも抜群の実業家で周囲の誰からも羨ましがられながら無事に結婚したのだが資金繰りの悪化で会社が傾き加奈が8歳の時に他の女と夜逃げをし、離婚届けを郵送している。
 旧姓に戻った相沢真美子はまだ27歳だった、自分を捨てた男の遺伝子を受け継いでいる加奈の顔立ちはイヤになるほど父親似だ、加奈を見るたびに憎くなる自分に気が付いた相沢真美子が取った行動は関心を持たないようにする、関心を持たなければ憎くならない。
 二人はそれまで住んでいたマンションを出て安アパートに引っ越し、すぐに近くのスーパーに真美子は勤めに出た。
 たが、レジ打ちに時間がかかり手際よくできない、真美子のレジに並ぼうとしたお客に「あのレジはカゴの中で整頓ばかりして時間が掛かるから並んじゃダメよ」とアドバイスする別のお客の声が聞こえ、それが決定打でそれまで溜まっていたストレスに耐え切れず半年足らずで仕事を辞めている。
 整理整頓が苦にならない相沢真美子が次にえらんだのが清掃の仕事だった。
 業界大手のビル管理会社で清掃部門だけで3千人近く雇っていて面接官はみんな若い、相沢真美子の面接官は大卒2年目で真美子より4歳年下の大柄な女性、藤崎智子である。
 真美子が藤崎智子の彼女になるのに時間は掛かっていない。
 安アパートの玄関にハイヒールがある時は藤崎智子が泊まっていく。
 台所兼居間と隣に一部屋があるだけの家、藤崎智子が来た日は加奈は居間で寝る。
 隣の部屋で二人が普通に話す声は丸聞こえだ、二人の会話が止む、音が漏れないように必死に真美子は喘ぎ声を押し殺しながら長い時間を掛けて愛される、営みの最中に交わす会話のいくつかを襖の隙間に耳を当てて加奈は聞いている、8歳の加奈でも隣の部屋で見てはいけない事をしているのが分かる。
 何回か藤崎智子が来るうちに、どうしても見てみたいという気持ちが極限まで高まり、襖を少し開けて加奈が盗み見る。
 すぐにバレて母親たちが居る部屋に連れ込まれる。
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