40 / 54
22 呪いを解く旅②
しおりを挟む「さあ~……しゅっぱつしようか~」
「いや師匠、さっきのやる気はどこにいったんです?」
目の前にいるのは、だらけきったいつもの師匠だ。眠そうにうつらうつらと船を漕いで、しまいには馬車に頭をぶつけそうになったのでカイルがあわてて支えていた。
「ジャレド氏は昨日徹夜で魔法陣を作ったらしい。しばらく魔術の出番はないし、彼は寝かせておこう」
「いつもの師匠の仕事ぶりだわ……」
ジャレドは集中すると寝食を忘れ魔術に没頭する。今回もそうだったのだろう。カイルにひょいっと担がれた時にはすでに寝息が聞こえていた。
「ジャレドが言うには前回は教会の馬車だったのだろう? しかし今回はなるべく目立たないように移動したいんだ。サクラには申し訳ないが、以前と違って荷馬車で行こうと思う」
「私は大丈夫だよ! みんなと一緒に乗れるならなんでも平気!」
ありがたいことにこの世界の道はけっこう綺麗に舗装されている。そのうえ案内された馬車をのぞいてみると、床には厚手の絨毯にフカフカのクッション。それに師匠が横になっても十分な広さがあって、なかなか快適に改造してあった。
「うわあ……素敵! 乗り心地良さそう!」
「「頑張りました!」」
ブルーノさんとアメリさんは顔を見合わせ、満足そうに笑っている。思わず仲良さそうな二人にニヤニヤしていると、荷物を運び終わったカイルが地図を持ってやってきた。
「みんな聞いてくれ。旅の計画なのだが、まず目的地であるケセラの町がここだ。急げば一日で着く距離だが、報告では結界の穴から出ている瘴気の量が多いらしい。そこでそのひとつ前にある『カレブ』という町を目指そうと思う。ここなら休憩しながらでも日没前には着くだろう」
「わかりました。カレブなら時々訪れますので道に迷うこともないです」
「助かるな。よろしく頼む」
馬車の手綱を取るのはブルーノさんだ。そのまま地図を受け取ると御者台に向かっていく。残った私たちも急いで馬車に乗り込むと「出発します!」というブルーノさんの掛け声とともに、馬車はカレブの町目指して走り出した。
「司教様も見送りたかったみたいで残念がってましたよ」
「まあ、しょうがない。司教様が見送ると目立ってしまうからな」
「ふふ。おじいちゃん……」
予想どおり馬車の旅は快適だった。私が馬車の揺れに慣れているのもあるけど、疲れたら横になれるのがなかなか良い。私たちは酔わないように、休憩を重ねながらカレブの町に近づいていった。
「あれ? 師匠、もう起きて大丈夫なんですか?」
もうそろそろカレブの町につくという頃、外で最後の休憩をしていた時だった。さっきまでスヤスヤと寝ていた師匠がやけにスッキリした顔で馬車から出てきた。
「だってもうお昼を過ぎてるだろう? お腹空いたよ~」
「お昼にアメリさんが起こしましたよ? すぐ寝ちゃいましたけど。それにカレブはもうすぐそこらしいですから、その町で食べましょう」
「え~ひどいよ!」
時間と協調性に厳しい日本人の性なのか、私は師匠に厳しいらしい。しかしそんなやり取りを見たアメリさんがクスクス笑って「パンとチーズならありますから」と言って用意している。
「アメリさんは本当に優しいね」
「そうですね。昔からアメリは思いやりがある女性ですから」
そう言ってニコニコとアメリさんを見つめるブルーノさんの頬は赤い。優しい瞳で見つめていて、やっぱり一年経った今も二人は両思いみたいで安心した。
するとそんなほのぼのした雰囲気のなか、カイル一人だけが警戒するように周囲をじっと見つめている。
「カイル、私たち馬車の中に入っていたほうがいい?」
私にはわからない危険を察知しているのかもしれない。それにさっき魔術で飛ばす郵便を受け取っていた。きっとケリーさんからの報告だろう。
「いや、ここは大丈夫だ。しかし少し瘴気が風にのってきているな。ジャレド氏も起きたことだし、食事を終えたら馬車の進みを早めよう」
「本当だ。まだ地上には降りてないけど、上のほうに黒いのが溜まってる……。私、みんなに伝えてくるね」
瘴気が見えるのは、私とカイルそして師匠だ。さっきの話をすると師匠も嫌な顔をしてパンを飲み込み、さっさと馬車の中に移動した。
「ブルーノとアメリは、布で口をふさいでおいて~」
瘴気に耐性のない私たちと違い、二人はあの黒いモヤモヤを吸い込むと体に良くない。いきなり倒れることはないけど、濃度が濃かったら何日も高熱を出してしまう。
(まだあれくらいじゃ大事には至らないけど、結界に穴が開いているケセラの町は大変なことになってそう……)
魔力を満タンにして結界の穴を修復しなきゃ。久しぶりだから上手くいくかわからないけど、きっと困ってる人がいっぱいいるはず。私はぎゅっと手を握りしめ馬車に乗り込んだ。
スピードアップした馬車はかなり揺れたが、あっという間に今夜の目的地に着いたようだ。
「さあ、カレブの町に着いたぞ。風向きのせいかこの町には瘴気がほとんど無いみたいだな」
馬車置き場から町を眺めると、たしかに空は澄み切っていて空気も綺麗だ。私はホッとしてアメリさんたちに報告し、みんなで荷物を持って町の入り口に入っていった。
「瘴気がなくて良かったですね。今日はゆっくり過ごして明日に備えましょう」
「うん!」
すると町に入ったとたん、たくさんの人たちがワーワーと騒いでいるのが見えた。喧嘩をしているわけじゃないけど、みんなものすごく興奮してお祭り騒ぎだ。
「なにかあったのかな?」
「サクラ、ちょっと下がっててくれ」
私たちはカイルの誘導で、急いで道の端に駆け寄った。この辺りなら人もそんなにいないから安心だ。そう思ってカイルの背中からチラリと様子をうかがうと、大きな声で叫ぶ一人の男が群衆から飛び出してきた。
「みんな! お祝いだ! アンジェラ王女が、隣国サエラに嫁ぐことが決定したぞ!」
その男の言葉に、思わず皆で顔を見合わせる。
(アルフレッド殿下が言っていたあの縁談が本当に成立したの? アンジェラ王女が了承したなんて信じられないけど……)
カイルの名を叫ぶ王女の姿が頭に浮かぶと、なおさら信じられない。数ヶ月経ったならまだしも昨日の出来事だ。
(自暴自棄になったアンジェラ王女がなにかしでかすんじゃ……それにいつも王女の側にいたエリックはどうしてるんだろう)
私はそんな不安な気持ちを抱きながら、目の前で大喜びする町の人たちをじっと見ていた。
20
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた? そんな事実はないのですが?
柚木ゆず
恋愛
私が籍を置いている王立リュナレック学院、その創立記念パーティーに出席していた際のことだった。幼馴染の子爵令嬢ダリアが、青ざめた男性を――ダリアの婚約者である男爵令息ファビオ様を連れてやって来て、涙目で私を睨みつけてきた。
彼女がそうしている理由は、私とファビオ様が浮気をしている姿を目撃したから、みたいなのだけれど――。
私はそんな真似はしていないし、そもそもファビオ様とは面識がほぼないのよね。
なのにダリアは見たと言っていて、ファビオ様は浮気を認めている。
これはいったい、どういうことなのかしら……?
義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。
五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」
私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。
「残念だがもう決まったことさ。」
アトラスはもう私を見てはいなかった。
「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」
私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの?
まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。
別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが
リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!?
※ご都合主義展開
※全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる