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19 サクラを呪った魔術師②
しおりを挟む「アンジェラが関わっているのでしょう?」
「――っ!」
「やはり、そうなんですね」
殿下の突然の言葉に表情を取り繕うひまもなく、私はアンジェラ王女との間でなにが起こったのかを話すことになった。
最初は静かに聞いていた殿下も、身勝手な理由で私から聖女の力を奪ったことや瘴気で苦しんでいる国民への無関心さを話すと、ギリリと音が聞こえるほど歯を食いしばっていた。
「……そうだったのですか。しかしあの愚妹がこのような高度な魔術を使えるとは思えない。なにせ遊ぶことしか考えていないのです。そのせいで何人も家庭教師が変わってしまって、結局一時的にエリックが話し相手として収まったのだが……そうだジャレド! エリックはおまえの紹介だっただろう? 彼は魔術を使えるんじゃないか?」
(え! エリックさんは師匠の紹介で家庭教師になったの?)
殿下の言葉でみんなの視線が一気に師匠に集まる。それなのにジャレドはぽかんと口を開き、なんのことだかわからないらしい。
「え~? そうだっけ?」
「そうだっけじゃないぞ。ジャレドのサインがある紹介状を持っていたから採用したのだ。まさか知らない者に紹介状を書いたのか?」
(あの面倒くさがりな師匠が紹介状を書いたなんて、それだけでも親しい関係に思えるけど……)
しかし師匠はそれを聞いても、まったく思い出せないらしい。「う~ん。でもたしかにあの子はどこかで見た気がするな~」なんてことをブツブツ言っては、カイルやアルフレッド様をイラつかせている。
「ジャレド氏! サクラの呪いに関わっているかもしれないのです。さっさと思い出してください!」
「アンジェラの家庭教師になったのは一年と少し前だ。サクラさんは一年前に呪われたのだろう? なら時期も合っている。エリックの魔術はそんなにすごいのか?」
「え~? 僕より天才ってことはないと思うけど。なんで紹介状なんて書いてるんだろう? 偽物じゃないの?」
「サインには魔力がこもっている。それが登録しているおまえの魔力と同じなのを確認して採用しているのだ。偽物ではない」
「う~ん……じゃあ誰だろう?」
「ジャレド!」
いっこうに思い出せない師匠に二人は頭を抱え始めている。すると突然部屋のすみからおずおずと話しかけるブルーノさんの声が聞こえてきた。
「あの、発言をお許し頂けますでしょうか?」
振り返るとブルーノさんとアメリさんがこちらをじっと見て、なにか言いたそうにしている。殿下の許可をもらうと二人は顔を見合わせうなずき、まずはブルーノさんから話し始めた。
「エリックという方は先ほどアンジェラ王女と一緒に来た男性ですよね? それでしたら以前ジャレド様が弟子として雇っていましたよ」
「へ? そうだっけ?」
再びみんなの視線が師匠に集まった。証言する者が出たからか、ジャレドはさすがにあせった顔をしている。すると今度はアメリさんが話し始めた。
「私も一度だけですが、お茶をお出ししたので覚えております。たしか二年ほど前に連れていたかと。ジャレド様が弟子を取るなんて珍しいと思ったのでよく覚えています」
「え~? 本当?」
どう考えても師匠よりもアメリさんたちのほうが信用できる。その考えはみんな一緒だったようで、冷たい視線がジャレドに注がれ始めた。その時だった。いきなり師匠が立ち上がり、ポンと手を打った。
「あ! もしかしてあいつか! 思い出したよ! たしかに仕事場に入れてた気がする!」
「もう! 師匠ったら、なんで忘れてるんですか!」
「だって、あいつ女の子じゃないし……」
「し、師匠~!」
ジャレドのその言い訳に、実の伯父である司教様ですら嫌悪感丸出しの顔で見ている。他の人たちの視線も同様に冷たい。
それにしても師匠の女性好きには呆れるけど、彼が教えたならエリックは凄腕の魔術師だろう。さっきは頼りない感じだったけど私に二つも呪いをかけて、なおかつ日本に送り返しているのだ。
(もしかしたらまた何か仕掛けてくるかも……)
考えれば考えるほど不安になってくる。すると皆に責められるような視線を浴びていた師匠が口をへの字に曲げ、不満そうな顔をし始めた。
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