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15 竜人競技会②

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「竜王様だ!」
「王のお出ましだ!」


 竜王様の登場に、わあっと大きな歓声があがる。今日の竜王様は出会った時と同じ、砂漠の王様のような服を着ていた。遠目からだとよけいに陽の光りが当たって、キラキラと輝いて見える。いつもと違い、髪を後ろになでつけているせいか、端正な顔立ちが際立っていて、見た瞬間ドキッと胸が高鳴った。


「ただ今から、竜人競技会を始める!」
「うおおおお!」
『うお~!』


 竜王様が大会の開始を宣言すると同時に、騎士の雄たけびが会場中に響き渡った。ビリビリと体が震えるほどの衝撃で、まわりにいた何人かは悲鳴を上げている。ついでにお腹にいる卵くんも、ワンテンポ遅れて叫んでいた。かわいすぎる。


「まあ! このくらいの竜気で怖がるとは。ひ弱ですわ」
「あら? そういえば迷い人様は平気なんですね」


 アビゲイル様のお友達が悲鳴を上げた人たちに軽蔑した眼差しを送っていると、その隣りにいた女性が私を見て驚いた顔をしていた。不思議そうに見ているので、竜気に耐性があることを伝えると、目をキラキラさせて私の手を握り始めた。


「まあ! 顔色も良いですし、やっぱり竜王様が認めただけありますわ!」
「先ほどの竜気にも耐えられるなんて、わたくしたちと同じくらい強いのですね!」


 なんだか最初に挨拶した時より親しみをもってくれたみたいで、心からの笑顔を向けてくれている。私がきょとんとしていると、リディアさんが耳元で「竜人はなにより強い者が好きなんです」と、こっそり教えてくれた。


「この競技会も、実はお見合いみたいなものなんですよ」
「お見合い? これがですか?」
「はい、強い竜を使役できるのは、強い竜気の持ち主ですから。そういう男性を夫に欲しい方が見に来ているんです」


 リディアさんの説明を聞き、キョロキョロとあたりを見回してみると、たしかに若い女性が多かった。何か紙を見ながら「団体戦のこの彼なんて赤竜を使役してるから、うちの家系にあっているわよ!」なんて話している。


(強い竜を従わせることができる人が、尊敬される世界なのね……)


 その頂点にいるのが竜王様ってことか。先ほど開始の言葉を叫んだ彼は、特別に作られた豪華な席に座って、お茶を飲んでいる。そして物憂げな表情で目を伏せたかと思うと、何かに気づいたように顔を上げた。


「あっ……」


 竜王様と目が合ったような気がした。こちらをじっと見つめ、目だけを細め笑っている。しかしそれは一瞬で、私の勘違いだったかもしれない。今はもうシリルさんと何かを話していて、こっちを見ていない。それなのに私は一気に耳まで熱くなって、妙に居心地が悪かった。


「では最初の競技を始める! 両者、前へ!」


 その始まりの声にハッとわれに返り、あわてて競技場に視線をうつした。


(とりあえずこんな珍しい競技なんだから、しっかり見ておかないと!)


 最初の競技は、竜の力比べだ。いわゆる綱引きで、騎士を背中に乗せて一本の綱を口で引っ張り合っている。この競技は若手騎士のお披露目らしく、彼らの気合いもすごかった。


「リディアさん、これって騎士さんは関係あるんですか?」
「ありますよ。騎士が竜をうまく乗りこなさないと、そもそも競技には参加しませんから」
『ぼくも、みたい……』


 強くないものには従わないってことか。たしかに予選を見ていると、途中でどこかに飛んでいったり、動かない竜もいる。周囲からはそんな状況を嘆く声が飛び交い始めた。


「まあ……今年の騎士は竜になめられている方が多くなくて?」
「なげかわしいですわ」


 それでも上手に乗りこなしている二組が残り、決勝の舞台となった。二匹の竜が睨み合いながら、怒鳴り合っている様はかなり迫力がある。


『去年は負けたけど、今年は勝つ!』
『なに言ってんだ! 俺が負けるわけないだろ!』


(ふふふ。竜たちも口喧嘩してる。竜王様の時も思ったけど、異世界ってすごいわ。竜がしゃべるなんて)


 面白い会話だとクスクス笑っていたが、ふと周りを見ると誰も笑ってない。竜が喋るなんて当たり前すぎて、気にもとめていないのだろう。いけない! みんな真剣に見てるから、勝負を茶化しているように思われたら大変だわ。


 私はあわてて真面目な顔をして試合を見始めた。すると私の背後から、わざとらしいほど大きなため息とともに、ライラさんが話す声が聞こえてきた。


「お兄様が出場できれば、決勝に出ていたはずですのに……」


 そう言うと、またまわりに聞こえるほどの大きなため息を吐いている。気になってほんの少し後ろを振り向くと、やっぱり私を睨みつけていた。

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