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02 二人の出会い
しおりを挟む「ニナ!」
「はい。ニナです。先生、手紙は読みましたか?」
「読んだよ! 読んだけど!」
「なら話が早いですね。おじゃまします」
そう言ってニナは俺の横をスルリとくぐり抜けると、奥のテーブルまで歩いて行った。背負っていたリュックを椅子に置くと、こちらを振り返りニコリとほほ笑む。
「今日は先生と同じベッドで、かまいませんよ」
「俺がかまうよ!」
頭が痛い。ニナは生徒だった時から、こんなふうに何を考えているかわからず、つかみどころがなかった。思い返してみると、彼女は魔術学園に入学したその日から、俺に懐いてきた。いや、懐かれたというよりも、からかう相手としてロックオンされたようなものだな。
出会いは偶然だった。入学式の日、裏庭で一人ベンチに座っている少女を見かけた。俺は薬草学の助手で、クラスの担任を受け持つことがない気楽な身。もちろん入学式に出席する必要もない。そこで空いた時間で薬草の手入れをするため畑に向かっていると、どこからか口笛が聞こえてきた。
(誰だ? 生徒も教員も、入学式に参加するため講堂にいるはずなのに)
どうやら俺が向かっている薬草園の方から、聞こえてくるようだ。魔法があるこの世界。なにか不思議な事が起こってもおかしくない。そんな淡い期待をしながら音の鳴るほうをのぞくと、そこにはプラチナブロンドの女生徒がベンチに座って口笛を吹いていた。
(あの髪色、在校生では見たことがないな。新入生なら、なぜこんな裏庭に……?)
「そこの君、一年生じゃないのかい? もし道に迷ってるなら、講堂まで送っていくが」
そう後ろから声をかけると、彼女は肩をピクリと動かし口笛を吹くのを止めた。そしてスッと立ち上がると、長い髪を優雅になびかせ振り返る。
「今の口笛、けっこう上手だと思いませんか?」
そう言って俺にほほ笑みかける口笛少女は、絵本の中の妖精にそっくりだった。羽が生えていたとしてもおかしくない、はかなげな美少女。雪のように白い肌をバラ色に染め、くりっとした大きな丸い目で俺を見て笑っている。
(えっ? 俺たち、初対面だよな……?)
俺は彼女の態度に戸惑いながらも、また同じ質問を繰り返した。さっきの口笛の件は無視しよう。
「えっと、それで君は新入生じゃないのかい? 迷っているなら送っていくけど」
「…………」
すると彼女は小声で「あれ? おかしいですね」とつぶやき、首をかしげている。俺が口笛に触れなかったのが不満なのだろうか? 口もとをゆがませ、じっと俺を見ていた。すると少しずつその唇がすぼまっていき、再び口笛を吹こうとするので、俺は慌てて感想を言うことにした。
「さ、さっきの口笛、上手だったね! ……それで君は、新入生かい? 迷ってるなら――」
「はい! 迷っていたので、送ってくださいますか?」
気付けば彼女は俺の隣にいて、まるで恋人のように腕を組んでいる。なんて素早い動き!
「ちょ、ちょっと離れてくれ。俺は助手ではあるが、ここの教師なんだ。生徒とは適切な距離を取らなくては――」
しかしそんな俺の戸惑いなど、目の前の美少女はまったく気にしていない。可愛らしく俺を上目遣いで見つめると、勝手に自己紹介を始めた。
「今日この学園にしぶしぶ入学する、ニナ・コートニーです! 私自分で言うのもなんですが、天才なんです! だから入学しないって学園長に言ったんですよ? それなのに入ってくれないと困るって言われて。でもその説得も断っていたら、次は国王が出張ってきたんです! ひどいと思いません? あっ! 先生は国王に会ったことはあります?」
(あるわけがない! それにしてもこの子が、あの有名な天才少女だったのか!)
事前に新入生の中に、有名な天才魔術師がいるとは聞いていた。しかしクラス担任にならない俺には関係ないことだと、気にも留めていなかったのだ。そもそも俺は魔力を必要としない「薬草学」の助手。花形の魔術の授業とは違い、最初から選択しない生徒も多い。
魔術の成績で単位が取れない、落ちこぼれ生徒のための救済科目。それがこの魔術学園での薬草学の立ち位置だ。馬鹿にしている生徒も多いという。
もしかしたらこの子も、俺を魔術の先生だと勘違いしているのかもしれないな。俺が薬草学の助手だとわかったら、きっと興味を失うだろう。そう思った俺は、自分も自己紹介することにした。
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