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本編(仁己視点)

4:須藤さんの親切

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須藤さんの親切は、いつからか、タッパーではなく夕食になった。なんと、彼は俺を部屋にあげてご飯を食べさせてやるという行動に出たのだった。

彼いわく、「タッパーよりこっちの方が早い」との事。

そういうことでその日俺は教えてもらった須藤さんの家に向かった。

そして初めて入った彼の部屋は非常に綺麗だった。俺も片付けは得意だとは思ってたが、こんなにレベルは高くない。

ものが少ないのか、彼の片付けのスキルが非常に高いのかはよく分からないが、ほんとに生活感がなくて、ホテルのようだった。

「俺ご飯の準備するから、手洗ってそこで待ってて」

しばらく彼の言う通りにして待っていると、なにかを揚げているらしい音が聞こえた。
揚げ物といえばトンカツとかだろうか?
なんにせよ美味しそうだ。

そうして待っているうちにいい匂いと共に出てきたのは、鳥の唐揚げだった。

「……唐揚げ?」

「……鳥、苦手?」

「……違います。大好きっす!鳥!」

そう、俺は鳥の唐揚げが大好きなのだ。
1度俺の母が俺の唐揚げ好きに呆れ、どうにか飽きさせようと毎食毎食唐揚げを出してきたことがあったが、1週間後母が音を上げるまで俺は唐揚げを食べ続けた。それくらい俺はそれが好きだった。

そんな俺を見て須藤さんは安心したようで、

「なら良かった、早く食べよう」

といった。
いそいそと箸をとる。

いただきます、と言って唐揚げを口にすると、幸せの味が口に広がった。

「美味い!美味いです」

「なら良かった」

パリパリの表面に反して噛めば肉汁が溢れ出す柔らかい鶏肉。ニンニクが僅かに効いた味付けも完璧だ。

「すごい、須藤さん凄いですよ。こんな美味しい唐揚げ初めて食べました!」

そういえば須藤さんはまた微笑んだ。

「仁己くんは、美味しそうに食べるな。」

「食べてるものが美味しいですから」

うまいものを食べる時は誰だって美味しい顔をするもんじゃないか。
そんな俺に、須藤さんは爆弾を投下した。

「……美味しそうに食べる男子、モテるらしいよ」

「ふぬっ?!」

須藤さんが須藤さんらしからぬことを口走った。

「急にどうしたんですか?」

「いや、今日あった知り合いにそういうこと言われたから、仁己くんのことかと思って」

「いや、俺モテないですよ。」

「そうなのか……てっきりイケメンだからモテるのかと」

「え?いけめん?」

イケメンにイケメンと言われても嬉しくはないな。

「……仁己くんは割とすぐ顔に出るな」

不服そうな顔をしながら彼は言った。

「いや、だって、俺がイケメンはないっすよ。
目とか怖いし。なんか顔が猟奇的ってよく言われます。」

そう、俺はちょっとばかし強面なのだ。小さい頃から周りの人に怯えられるもんだから、もうモテなんて諦めた。

「そうか?俺は仁己くん、かっこいいと思う。
シュッとしてるし、その三白眼、俺は好き」 

「そうっすかね……」

須藤さんと目が会いそうにあった俺は目を伏せた。
そんなことを目を合わせて言おうとするんじゃない。うっかり恋に落ちたらどうするんだ。彼は自分の顔面の良さを早く実感すべきだと思う。

「そ、それより、須藤さんこそモテるんじゃないですか?」

「まさか」

「その顔でモテないことあります?」

「……身長あるから怖いとよく言われるし、告白なんてされたことない。」

……絶対それは無い。きっと彼の場合は高嶺の花扱いされて本人はもてることに気づかないというパターンに違いない。

きっとそうだ。

……きっとそうだ。

須藤さんがモテないだなんて信じられない俺は、片付けの間も、帰る間もそれに頭を占領され、首をひねりながら自分の家に戻ったのであった。
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