俺の彼氏が喘がない理由

本編(仁己視点)

2：俺の失念と打開策

「う、嘘だろ……？」

目の前にある見た目だけは完璧な卵焼きを見て、俺は震えていた。
まずい。死ぬほどまずいのだ。あまりの不味さに最初は水を飲むのも忘れてしまっていた。

何がまずいのかと言うと、まず、見た目では気づけないほどの細かな卵の殻がいくつも混入していて、それが食感になんとも言えない違和感を産んでいる。

食感の違和感といえば、そもそもこの物体。卵焼きとは思えない程の弾力があるのだ。きっと砂糖と片栗粉か迷った末に大量に入れたこの白い粉が原因だろう。
あとはなんだ、奇妙な味の中に何故か僅かにアルコールの味もするのも変だし、沢山入れたはずのみりんの味もしない。

とにかく、本っ当にまずいのだ。

――思えば俺は小学校の頃から調理実習ではとにかく危険だからという理由で味見係に任命されていたような気がする。あの判断は間違っているとずっと思ってたのだが、先生は正しかったんだなぁ。


そんなことを考えながら、卵焼きを処理した後、俺は考えた。

「……このままだと、俺はやばくないか」

大学進学のため、実家を出て初めての一人暮らし。
今まで引っ越しやらなんやらで食事は全てコンビニ弁当で済ませていた。
引っ越し作業が落ち着くまでの間、掃除やら洗濯やらの家事はすべて滞りなくできていた。

だから料理も何とかなるだろうと思って、とりあえずお腹がすいたので卵焼きでも作って食おうと思ってた矢先に出来たのがこの卵焼きだ。 

とにかく俺は自炊は無理だ。俺が料理できるようになるまでにかかる時間とそれまでに俺が食べないといけない物体Xの量を考えると心が折れてしまう。

毎日買い弁生活というものを考えてみたけど、一応俺の家はそこまで裕福ではないからそんなお金ないし、俺の一個上の先輩がちょうどこんな生活を行って、体を壊したというのを風の噂で聞いたので、それはできるだけ避けたかった。

――そして、自炊問題を解決するために俺がとった行動、それは、毎日外食生活、であった。


なぜそんなことになったのかと言うと、とりあえず今日の夕飯を何とかせねばと俺が駆け込んだ最寄りの喫茶店。そこのご飯がとても美味しかったのである。
そしてそこのマスター曰く、俺が住んでいるアパートの住人には少し安めにご飯を作っているとの事。
どうやら俺のアパートの大家さんがここのマスターの恩人らしい。

――それはまさに俺への救済であった。
ありがとう、大家さん。あなたはマスターだけじゃなく俺の大恩人です。


そして、俺がこの店を頼るようになって1週間ほどたった頃、しばらく休んでいたバイトのお兄さんがまたバイトに入ることになったとマスターから告げられた。その時はふーん、と言う感じで聞いていたのだが、本人を目の当たりにした俺はびっくりした。

――なぜなら彼があまりにもイケメンだったからだ。