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本編(仁己視点)

1:プロローグ(✤)

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恋人との秘事。それは大抵の人にとって幸せな時間だと思う。というか俺はそう思っている。俺が童貞を目の前の恋人に捧げた時はそれはそれは幸せだったし、今も俺の下半身は天にも昇る心地を味わっている。

しかし、俺の恋人はそうは思っていないのかもしれないということを俺が考え始めたのはちょうど数日前。それからというものの俺の頭の中はそのことでいっぱいになってしまった。

なんでそんなことを思うのかって?
それは、俺の恋人がセックスの時にほとんど喘がないということに気付いてしまったからだ。 

そういう時に声が出ない人もいるということはもちろん知っている。でも、彼は違うということを俺は知っているんだ。彼の下準備の時の声とか聞いてればそれは痛いほどわかる。あれほんとにエロいんだよな……

それなら、俺とやる時にも声出してくれよ……
それとも俺が悪いのか?


――そんなことを考えながら、目の前の彼に問いかけてみる。

「……っ、須藤さん、気持、ちいいですか?」 

「……ふぅっ、はっ、……ん゛っ」 

俺の熱の篭った問いかけに対して、わずかに息の漏れる音が聞こえた。
しかし、肝心の声は返ってこない。ぱちゅん、ぱちゅんという水音と、俺と彼の息遣いが部屋に響くだけだ。

そういうことをしている間は真っ暗にしよう、という彼の提案により電気は消えているため、彼の表情すらも確認出来ない。

だから俺は必死で彼の感じている顔を想像する。
それはきっと綺麗なんだろうなと考えると、自分の体温がいっそう上がったように感じて、その勢いのまま腰の動きを早めた。

心無しか彼も熱くなったように感じて嬉しくなった。そう考えると彼が息を吐く音も強く、速くなったように聞こえる。

「はっ、はぁっ……っ」

溢れるような快感と熱量の中、俺と彼の呼吸音が耳に響く。暗闇で視界が塞がれているせいで、聴覚ですら俺を刺激するのか耳からでも快感を拾えているような気がした。

そうこうしている間に俺の息子が限界を迎えそうになった。
どくどくと熱いものが上って来るのを感じる。

「……はっ、も、もう、出ます」

「……あ、あぁ、分かった」

そう言って俺は彼の中に熱いものをぶちまけた。
吐精した気持ちよさを味わうまもなく、賢者タイムがやってくる。
――果たして彼は気持ちよくなっているのだろうか。


暗闇の中声を出さずに口を動かして聞いてみた。

(俺の事、どう思ってるんですか。俺の事好きじゃないから声は我慢してるんですか)

もちろん、彼が俺に答えることは無かった。
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