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ヒューダー

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「ヒューダーって言うマンション会社が売り出した神奈川のマンションが、当局の命令で確かものの見事に取り壊されましたよね・・」

「ああ、そうだった、よくニュースを見ているじゃないか」
そういう彰司に佳奈子はにこっとした。彰司は続けて、
「日本の建設史上で初めての、世間も仰天する内容だったな」 
「だって、あれで、本当に何の罪もないマンション住民がいきなり『さあ出ていってください!このマンションは倒壊の危険がありますから』ってことになった訳でしょう」
「その通り」
佳奈子はしばらく無言でグラスの氷をカランカランと回した。
「それで、次に住む、たぶん賃貸マンションでしょうけれど『そこまでは面倒見ません、自分で探してください』だったわね」

 当時ヒューダーは『駅に比較的近く、広い床面積のマンションを首都圏に提供』を標榜し、それをものの見事に東京・神奈川で実践していたため、おのずと人気が出て売れに売れていた。社長はある意味、ときのヒトとなっていた。

「住んでいた人たちは、住宅ローンは残るは、世間体は悪いは、もう死活問題さ」
「ほんとですねぇ。子供たちの中には、次に移った賃貸マンションが同じ校区内ではなく、場所が完全に変わってしまったために転校せざるをえなかったって言う話も新聞に出ていたわ」佳奈子は右手で髪を後ろに流しながらそう言った。

「仮に、同じ校区にとどまっていたとしても、その子供たちは学校に行きたくなかっただろうなきっと、学校でいろいろ言われたくないから・・・。俺なら全く別の土地に行きたいって親に言うだろうな」
「可哀そうに・・・・しかし変ですよねぇ」
「えっ、なにが?」
「いまこうして食事している高砂界隈や、お隣の清川二丁目辺り、いいえ・・もっと中洲の人形小路(にんぎょうしょうじ)のお店は、震度五強どころか四弱でも潰れちゃうんじゃない・・・昭和初期の建物が結構あるようだし」そして佳奈子は(ね、でしょう)と付け加えた。

彰司は次に頼んだクアーズのボトルに口を付けた。そして、左手で頬ヅエをついてから、佳奈子にひとこと言おうかと思ったが、ただ心の中でつぶやいた。
(おカミからの指示によるマンション取り壊し・・・みせしめさ、完璧にあれは)

「それにしても、ヒューダーの社長はテレビの報道陣に囲まれた時に・・・・」
「吠えていたな。怒りをあらわにして。『私どもが意図してやったことではありません!設計したのは姉波事務所です』とね」
「姉波に鉄筋を減らせと圧力をかけただの なんだかんだ報道されているが、すべて事実無根ですって真顔で言ってましたしね」

 姉波はのちの取り調べで、設計図に鉄筋を減らして比較的安く建物が建つように全ての絵をかいたこと、また、通常のやり方に戻したら注文が減るために続けてしまったことを証言した。
 しかし、捜査線上には、建設会社でもない設計事務所でもない、もう一つの組織の存在が浮かび上がった。
それは『創建』という建設コンサルタント会社だった。この会社の社長は「ホテル建設希望の施主(地方の私鉄会社や大地主)」を回り、『比較的安い建築費でホテルを建設できるプランをご提案します』とセールスをし、それに私鉄会社が興味を示すと今度は地方の中堅ゼネコンに、「お宅でこのプロジェクトをやってみませんか、全国規模の会社になるチャンスかもしれませんよ」と勧誘をしていた疑いがあるというのだ。
そのコンサルはそのすべての案件で「姉波設計事務所」を通していた。

 「建設コストを抑えたい建設オーナー、そしてバブル崩壊後に思った受注ができない地方ゼネコンを引き込み、この絵は回っていったようなんだな。ヒューダーの社長もそれに乗せられたのかもな・・・」
 「となると、被害者ね」佳奈子は続けた
 「けどもう、あのマンション会社も倒産しちゃった訳でしょう、『心機一転、再起を!』もできないわけで、・・・可哀そう」
 「うちの銀行も、八代支店がその余波をもろに受けてしまった・・・。それもその会社の担当は昔、俺の隣の支店で働いていた女子行員だったんだ。お互いの支店の若手を集めてよく飲みにも行ってたよ」
 佳奈子は(えっ、本当ですか・・・)と言うような表情で顔を上げた。

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