17 / 26
17
アパートの売却先(2)
しおりを挟む
「いいですよ。概要については明日朝までにメールの添付ファイルで送りますよ。その他の分量がある資料で急がないものは、コピーしたものを行内メールで明日発送するから明後日には受け取ってください」
彰司は小池さゆりからの依頼にそう応えた。
そして最後に、『宜しくお願いしますよ、期待していますから』と一言付け加えた。
浜本は彰司からの電話の翌日の夕方、小池さゆりをミーティングルームに呼んだ。
「東郷君からのメールとその添付の資料は見たかね?」
「はい目を通しました。これから、この物件に興味を示しそうな会社を選び出してみようと思っています」
「いや、もうそれはイイよ」
(えっ)小池は何事かと思った。
営業課長である浜本は、支店の取引先のことは、もう既に、殆どと言っていいくらい頭のなかに入れていた。よって、該当しそうな先を思い巡らし、前もって当たりを付けていたのである。
「藤田建設の社長に話を持っていってごらん。概要は先ほど話してある。藤田社長からは『ちょっと考えてみよう』と言ってもらっているので、明後日の訪問のアポイントを取って、社長のその後の意向を聞いて来るんだ。
他社にも当たってみたが、『業務用車両の駐車の場所がどこかにないか』と前に言っていた根本運送だが、土地がこの三百五十平米だと『足りない』という事だった」
「(そうだったんだ・・・)課長ありがとうございます」
そして浜本は付け加えた
「社長のご意向は、購入するのだったら会社としてではなく、社長個人としての対応になるだろうとの事だ。いいか、スケジュールを逆算して今期中に購入資金の融資実行まで持っていくように、必ずだ」
自分の席に戻りながら小池は心の中で思った。
(早っつ、課長の頭の中はもうこのレベルまで進んでいる・・・・頑張んなきゃ・・)
佳奈子は、サラダに乗っかっていたオリーブを一つ、ピックごと摘み上げ、クルックルッと回しながら、『ん?』という顔をして彰司に聞いた。
「そのぉ・・・田山敦子さん自身は、ご自分のアパートについて『売却はしないでくれ』『何とか賃借人を近々必ず付けるから!』って東郷さんには言ってこなかったのですか」
「田山さんは言っては来ていない。荒木真理子邸を訪問した翌々日、俺から田山さんには電話をした。明確に銀行としては売却に動き出すってことを」
「ええっ・・・どうして」
佳奈子は少し驚いた顔で彰司を見た。
「あの荒木真理子さんのご主人が電話してきたのを受けて、その方針と決めたんだよ」
「え、ひょっとして東郷さん・・・荒木さんのご主人にギャンギャン言われて、『てめぇー』って感じで頭に血が上っちゃったとか・・」
「そうじゃないよ」続けて
「とにかく、こっちとしても、間近に迫った銀行の次の決算には、あの融資が不良債権として決算表上に計上されるのは避けなければならなかったからな」
そう言いつつ彰司は小皿に一つ残っていたソーセージを、フォークで取るや、ソースをほんの少しつけて口に運んだ・・・。
彰司は小池さゆりからの依頼にそう応えた。
そして最後に、『宜しくお願いしますよ、期待していますから』と一言付け加えた。
浜本は彰司からの電話の翌日の夕方、小池さゆりをミーティングルームに呼んだ。
「東郷君からのメールとその添付の資料は見たかね?」
「はい目を通しました。これから、この物件に興味を示しそうな会社を選び出してみようと思っています」
「いや、もうそれはイイよ」
(えっ)小池は何事かと思った。
営業課長である浜本は、支店の取引先のことは、もう既に、殆どと言っていいくらい頭のなかに入れていた。よって、該当しそうな先を思い巡らし、前もって当たりを付けていたのである。
「藤田建設の社長に話を持っていってごらん。概要は先ほど話してある。藤田社長からは『ちょっと考えてみよう』と言ってもらっているので、明後日の訪問のアポイントを取って、社長のその後の意向を聞いて来るんだ。
他社にも当たってみたが、『業務用車両の駐車の場所がどこかにないか』と前に言っていた根本運送だが、土地がこの三百五十平米だと『足りない』という事だった」
「(そうだったんだ・・・)課長ありがとうございます」
そして浜本は付け加えた
「社長のご意向は、購入するのだったら会社としてではなく、社長個人としての対応になるだろうとの事だ。いいか、スケジュールを逆算して今期中に購入資金の融資実行まで持っていくように、必ずだ」
自分の席に戻りながら小池は心の中で思った。
(早っつ、課長の頭の中はもうこのレベルまで進んでいる・・・・頑張んなきゃ・・)
佳奈子は、サラダに乗っかっていたオリーブを一つ、ピックごと摘み上げ、クルックルッと回しながら、『ん?』という顔をして彰司に聞いた。
「そのぉ・・・田山敦子さん自身は、ご自分のアパートについて『売却はしないでくれ』『何とか賃借人を近々必ず付けるから!』って東郷さんには言ってこなかったのですか」
「田山さんは言っては来ていない。荒木真理子邸を訪問した翌々日、俺から田山さんには電話をした。明確に銀行としては売却に動き出すってことを」
「ええっ・・・どうして」
佳奈子は少し驚いた顔で彰司を見た。
「あの荒木真理子さんのご主人が電話してきたのを受けて、その方針と決めたんだよ」
「え、ひょっとして東郷さん・・・荒木さんのご主人にギャンギャン言われて、『てめぇー』って感じで頭に血が上っちゃったとか・・」
「そうじゃないよ」続けて
「とにかく、こっちとしても、間近に迫った銀行の次の決算には、あの融資が不良債権として決算表上に計上されるのは避けなければならなかったからな」
そう言いつつ彰司は小皿に一つ残っていたソーセージを、フォークで取るや、ソースをほんの少しつけて口に運んだ・・・。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
それでもあなたは銀行に就職しますか 第2巻~彰司と佳奈子の勉強会~「木室建設事件」
リチャード・ウイス
現代文学
西村佳奈子は中堅銀行に入って五年目、独身の総合職。支店長を目指したい佳奈子が、心を寄せる五年先輩の同じく独身の東郷彰司に、銀行のかなりきわどい事件処理を教わりながらキャリアを積んでいくストーリー、その第二弾。表には出ることのない、「取引先」の不祥事を解決する金融ビジネスパーソンの葛藤や活躍を描いています。今回は全国の建設業界を揺るがした大事件に迫る! (なお、内容は全てフィクションであり、登場する人物・組織は実態の物とは関係がありません)
ウイスの回顧録 その1
リチャード・ウイス
現代文学
筆者リチャード ウイスによる回顧録です(平成二十年から二十二年にかけて著述)。
ここでは、石原良純氏、タモリ、勝新太郎氏、加山雄三氏らとの貴重な接点を通して、自身の家族や、その時々の出来事を回想しています。ページをめくりながら、読者の方々もご自身の各時代の思い出を掘り起こしてみられてはいかがでしょう・・・心の中の奥にある、思い出の引き出しをそっと開けながら・・・。
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる