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プロローグ
いうことを聞け
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『一族の恥』
目の前にいる父が言った。
燃えるような赤毛、眉間には深いしわが刻み込まれ、射貫くような目で私を見ている。
そして吐き捨てるように言った。
『お前に居場所はない。お前を誰も必要としていない。お前は..』.
「いやあっ!」
私は、がばりと起き上がった。
またあの夢だ。
全身じっとりと汗をかいている。
こんな日がいつまで続くのだろう。
辛い。苦しい。誰か助けて!そう叫びたかった。
本当はこの学園から逃げ出したいのに、それは絶対にできないのだ。
スカーレル侯爵家の長子である私が逃げ出すわけにはいかない。
窓を見ると、うっすらと光が差し込んでいる。
折角起きたのだ。魔法の練習をしに行こう。
私は制服に着替え、ローブを羽織って部屋を出た。
校庭は、うっすらと朝靄がたち、鳥たちの鳴き声が聞こえた。
久しぶりに穏やかな気持ちを味わっていると、どこからともなく、カンカンと木を叩く音が聞こえてくる。
あら、木を叩く鳥なんて珍しい。
私は興味津々で、音が鳴るほうへと足を進めた。段々音が近くなる。
しかし予想は外れた。
木を叩く音の正体。それは丸太で作られた人形に向かって、剣の修行をしている男だった。
私はとっさに逃げようとした。しかし、相手が先に気づいて目があう。
「アンじゃないか」
「おはようユーリ」
私はしかたなく挨拶をした。
「おはよう、アン」
ユーリは、満面の笑みで返事を返す。
背が高く、手足が長く、こげ茶色の髪はあちこちに飛び跳ねている。制服は着ておらず、麻の上着に胸当てを付け、手には長剣が握られている。
「こんなに朝早くから練習しているの?」
「うん。昼間は魔法の練習してる奴らが陣取ってるから」
「大変ね。魔法が使えない人間は」
ユーリは魔法が使えない。この学園では末端の地位に位置する。
なるべくなら、そういう人間に関わりたくない。
もし誰かに見られたら、また何を言われるかわかったものではない。
私は部屋に戻ろうとした。
「夜遅くまで勉強してたのか?目の下にクマができてるぞ」
ユーリが近付いてきて言った。私は思わず顔をそむける。
「う、うるさいわね」
「無理するなよ。寝不足は体に悪い」
「心配していただかなくても、結構よ」
魔法が使えないくせに、目ざといんだから。
逃げようとすると、ユーリに手を掴まれた。
「離して」
「あいつの言ったことは気にするな。ただの気まぐれだから」
「ユーリ。いくら王太子付きの護衛でも、あいつ呼ばわりするなんて失礼よ!」
「ただの世間知らずのお坊ちゃんじゃないか」
「ユーリ・フォークフィールド、いいかげんにしなさい!」
「おまけに行動もガキっぽいし。急にアンとの婚約を破棄するなんて…」
ユーリは途中まで言いかけて慌てて口を閉ざした。
「あなた、なぜそのことを知っているの」
もしかして、この前のお茶会で公表したのだろうか。
背中に嫌な汗がつたう。
「いや…別に、アイツが一人でいるときにぽろっと言ってたのを聞いただけだ」
「絶対誰にも言わないで」
私はほっとした。まだユーリ以外知らない。
私はユーリに詰め寄る。
「絶対に言わないで、お願い」
これ以上他の人に知られてはいけない。
「わかった。ただし交換条件がある」
ユーリの顔からいつもの笑顔が消えた。私は身構える。
「なに?」
ユーリはいつもと違う、計算高そうな笑みを浮かべた。
「俺の言うことを、何でも聞くって約束してくれたらな」
目の前にいる父が言った。
燃えるような赤毛、眉間には深いしわが刻み込まれ、射貫くような目で私を見ている。
そして吐き捨てるように言った。
『お前に居場所はない。お前を誰も必要としていない。お前は..』.
「いやあっ!」
私は、がばりと起き上がった。
またあの夢だ。
全身じっとりと汗をかいている。
こんな日がいつまで続くのだろう。
辛い。苦しい。誰か助けて!そう叫びたかった。
本当はこの学園から逃げ出したいのに、それは絶対にできないのだ。
スカーレル侯爵家の長子である私が逃げ出すわけにはいかない。
窓を見ると、うっすらと光が差し込んでいる。
折角起きたのだ。魔法の練習をしに行こう。
私は制服に着替え、ローブを羽織って部屋を出た。
校庭は、うっすらと朝靄がたち、鳥たちの鳴き声が聞こえた。
久しぶりに穏やかな気持ちを味わっていると、どこからともなく、カンカンと木を叩く音が聞こえてくる。
あら、木を叩く鳥なんて珍しい。
私は興味津々で、音が鳴るほうへと足を進めた。段々音が近くなる。
しかし予想は外れた。
木を叩く音の正体。それは丸太で作られた人形に向かって、剣の修行をしている男だった。
私はとっさに逃げようとした。しかし、相手が先に気づいて目があう。
「アンじゃないか」
「おはようユーリ」
私はしかたなく挨拶をした。
「おはよう、アン」
ユーリは、満面の笑みで返事を返す。
背が高く、手足が長く、こげ茶色の髪はあちこちに飛び跳ねている。制服は着ておらず、麻の上着に胸当てを付け、手には長剣が握られている。
「こんなに朝早くから練習しているの?」
「うん。昼間は魔法の練習してる奴らが陣取ってるから」
「大変ね。魔法が使えない人間は」
ユーリは魔法が使えない。この学園では末端の地位に位置する。
なるべくなら、そういう人間に関わりたくない。
もし誰かに見られたら、また何を言われるかわかったものではない。
私は部屋に戻ろうとした。
「夜遅くまで勉強してたのか?目の下にクマができてるぞ」
ユーリが近付いてきて言った。私は思わず顔をそむける。
「う、うるさいわね」
「無理するなよ。寝不足は体に悪い」
「心配していただかなくても、結構よ」
魔法が使えないくせに、目ざといんだから。
逃げようとすると、ユーリに手を掴まれた。
「離して」
「あいつの言ったことは気にするな。ただの気まぐれだから」
「ユーリ。いくら王太子付きの護衛でも、あいつ呼ばわりするなんて失礼よ!」
「ただの世間知らずのお坊ちゃんじゃないか」
「ユーリ・フォークフィールド、いいかげんにしなさい!」
「おまけに行動もガキっぽいし。急にアンとの婚約を破棄するなんて…」
ユーリは途中まで言いかけて慌てて口を閉ざした。
「あなた、なぜそのことを知っているの」
もしかして、この前のお茶会で公表したのだろうか。
背中に嫌な汗がつたう。
「いや…別に、アイツが一人でいるときにぽろっと言ってたのを聞いただけだ」
「絶対誰にも言わないで」
私はほっとした。まだユーリ以外知らない。
私はユーリに詰め寄る。
「絶対に言わないで、お願い」
これ以上他の人に知られてはいけない。
「わかった。ただし交換条件がある」
ユーリの顔からいつもの笑顔が消えた。私は身構える。
「なに?」
ユーリはいつもと違う、計算高そうな笑みを浮かべた。
「俺の言うことを、何でも聞くって約束してくれたらな」
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