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プロローグ
負け犬とよばれて
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シオン魔法学園。
ここには『強者に逆らうことは許されない』という最大の掟がある。
「あら、アンリエットこんなところにいたの」
図書室で魔導書を読んでいた私を、三人の人影が取り囲む。
しかし、私は無視して魔導書をめくった。
「相変わらず、無駄な努力がお好きなようねえ」
三人はクスクスと笑った。
ー相変わらず、五月蝿い人たちだこと
そのうちの一人が甲高い声を上げた。
「今日は王太子殿下のお茶会のはずだけど…あなた、もしかして呼ばれていないの?」
「ええ」
「まあ、かわいそうに!それでしたら、私のお供として、連れて行ってあげてもよろしくてよ?同じ四大侯爵家のよしみだもの」
王太子殿下のお茶会。
学生たちと親交を深める目的で、王太子の気まぐれで人選が行われる。だから四大侯爵家であっても呼ばれるとは限らない。
私は顔をあげた。
銀髪の少女がさも馬鹿にしたような顔で、私を見下している。
「お断りするわ、イザベラ・グリント。
あなたのヒステリックな声を聞きながらお茶なんて。まだ鶏の声のほうがマシ」
「なんですって!負け犬のくせに!」
「万年負け犬のあなたに言われたくないわ」
イザベラと私は睨み合う。
四大侯爵家の令嬢で同学年だけど、イザベラの魔力は中の中。
それなのに、実家の権力を振りかざさずにはおれない、非常に厄介な人間だ。
「静かにして」
どこからともなく、声が聞こえた。
私が顔を向けると、一人の少女が近付いてきた。
背中まである髪と、切れ長の瞳は真っ黒で、薄い唇がきりりと結ばれている。
「おしゃべりするなら、他の場所に行ってくださらない?」
「マリエ・ブラッドリー様、申し訳ございません」
イザベラは猫なで声で黒髪の少女に言い、慇懃に頭を下げると、ほかの二人と一緒に歩き出した。
「マリエ様、また、お茶会でお会いしましょう」
マリエの横を通り過ぎる時、イザベラはあからさまに声を上げ去っていった。
ーマリエも王太子殿下のお茶会に呼ばれているですって?
私は胸騒ぎがした。
マリエはイザベラを見向きもせず、私に近づいてきた。
「その本、貸してもらうわ」
マリエは私が読んでいた本を奪う。
「ちょっと、なにするの!」
「あなた、私に逆らえると思っているの?」
マリエは切れ長の目をさらに細めた。
黒髪が風もないのにふわりと空気をはらむ。
マリエの手元に黒い表紙の本が現れた。
「あなたは私に負けたの。四大侯爵家の御令嬢が平民の私にね」
マリエは見下すようにいった。
「もう一度、その時のことを再現してあげましょうか?」
「何をしてるんですか!ここでは魔法禁止ですよ!」
司書が異変に気づき、慌てて近づいてきた。
「申し訳ございません、先生。まだ魔力の制御が上手くできなくて」
マリエの纏っていた魔力が消える。
そして本を持ったまま、出口に向かった。
「次は私が勝つわ」
私はその背中に向けて叫んだ。
「無理ね。あなたは一生負け犬よ」
マリエは私を振り返ろうともせず、一言いい、また歩き出した。
私はその後ろ姿を眺めながら、屈辱に震えるしかなかった。
ここには『強者に逆らうことは許されない』という最大の掟がある。
「あら、アンリエットこんなところにいたの」
図書室で魔導書を読んでいた私を、三人の人影が取り囲む。
しかし、私は無視して魔導書をめくった。
「相変わらず、無駄な努力がお好きなようねえ」
三人はクスクスと笑った。
ー相変わらず、五月蝿い人たちだこと
そのうちの一人が甲高い声を上げた。
「今日は王太子殿下のお茶会のはずだけど…あなた、もしかして呼ばれていないの?」
「ええ」
「まあ、かわいそうに!それでしたら、私のお供として、連れて行ってあげてもよろしくてよ?同じ四大侯爵家のよしみだもの」
王太子殿下のお茶会。
学生たちと親交を深める目的で、王太子の気まぐれで人選が行われる。だから四大侯爵家であっても呼ばれるとは限らない。
私は顔をあげた。
銀髪の少女がさも馬鹿にしたような顔で、私を見下している。
「お断りするわ、イザベラ・グリント。
あなたのヒステリックな声を聞きながらお茶なんて。まだ鶏の声のほうがマシ」
「なんですって!負け犬のくせに!」
「万年負け犬のあなたに言われたくないわ」
イザベラと私は睨み合う。
四大侯爵家の令嬢で同学年だけど、イザベラの魔力は中の中。
それなのに、実家の権力を振りかざさずにはおれない、非常に厄介な人間だ。
「静かにして」
どこからともなく、声が聞こえた。
私が顔を向けると、一人の少女が近付いてきた。
背中まである髪と、切れ長の瞳は真っ黒で、薄い唇がきりりと結ばれている。
「おしゃべりするなら、他の場所に行ってくださらない?」
「マリエ・ブラッドリー様、申し訳ございません」
イザベラは猫なで声で黒髪の少女に言い、慇懃に頭を下げると、ほかの二人と一緒に歩き出した。
「マリエ様、また、お茶会でお会いしましょう」
マリエの横を通り過ぎる時、イザベラはあからさまに声を上げ去っていった。
ーマリエも王太子殿下のお茶会に呼ばれているですって?
私は胸騒ぎがした。
マリエはイザベラを見向きもせず、私に近づいてきた。
「その本、貸してもらうわ」
マリエは私が読んでいた本を奪う。
「ちょっと、なにするの!」
「あなた、私に逆らえると思っているの?」
マリエは切れ長の目をさらに細めた。
黒髪が風もないのにふわりと空気をはらむ。
マリエの手元に黒い表紙の本が現れた。
「あなたは私に負けたの。四大侯爵家の御令嬢が平民の私にね」
マリエは見下すようにいった。
「もう一度、その時のことを再現してあげましょうか?」
「何をしてるんですか!ここでは魔法禁止ですよ!」
司書が異変に気づき、慌てて近づいてきた。
「申し訳ございません、先生。まだ魔力の制御が上手くできなくて」
マリエの纏っていた魔力が消える。
そして本を持ったまま、出口に向かった。
「次は私が勝つわ」
私はその背中に向けて叫んだ。
「無理ね。あなたは一生負け犬よ」
マリエは私を振り返ろうともせず、一言いい、また歩き出した。
私はその後ろ姿を眺めながら、屈辱に震えるしかなかった。
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