上 下
19 / 69
不穏な来訪者

12 カーテンの洗濯

しおりを挟む

……何だか少し変だ。

自室の鏡の前で髪の毛を梳りながらリリーは思った。
精霊から祝福を授かったからだろうか?
そのあたりからいつもと何かが違う。

「うーーん」

鏡の前で回ったりするも、よく分からない。
何だろうなぁ?と首を傾げながら自室を後にした。




「よし!やる!!!」

わー!とメイドたちから歓声が上がった。
水の精霊の祝福を受けてから、扱える水量が増えたので手始めにカーテンを洗濯してみることにする。

広間の一番大きくてドレープも多いカーテンにしてみた。
リリーはカーテンレールから下ろされたカーテンを水の膜で包み込む。
膜が溶けて床が濡れないよう意識しながら、水の膜の中に洗剤を投下して泡立たせた。

その調子!とメイドたちから声援が上がる。
最後に膜の水を下水まで転移させ、また新しい水の膜で何度かカーテンを洗った。

「こんなもんかな!」

やったあ、と言うメイドたち、でもー、とフラーが言った。

「これどうやって乾かすの?」

あー……と魔法で宙に浮いたまま行き場を無くす水を吸ったカーテンを見つめるリリー。

「…….テラスの屋根の上に転移させて乾かそっか?」

アンの提案にうん、とリリーは頷いた。

「……やらかした……ごめんね……」

ひと仕事終えて休憩中、中庭に置かれたローソファーの上でリリーは顔を覆って呟いた。

「ええ~大丈夫だよ!天気いいもんすぐ乾くよ!」

とフラー。

「洗うの見てて楽しかったわ」

アンも気遣う。

「……挽回したい……」
「アップルパイを食べて、休憩してから頑張るとかどう?」

トレーに乗せたアップルパイを見せてアンとフラーはにこにこする。

「それは……賛成」

ありがたくいただくことにした。


たっぷり休憩してから乾いたカーテンをレールにつけることにする。
王城の二階ほどの高さのある窓だが、このくらいなら飛んでいけそうだ。
リリーは背中から翼を出した。

「相変わらず綺麗な翼ねー!」
「飛べるの羨ましいー」

アンとフラーは口々にリリーを褒めた。

「……や、やっぱこっち」

リリーは赤面して高さのある梯子を魔法で取り出す。

「えー飛んでるとこみたいー」
「だって……注目されると恥ずかしくて…….」

うまく飛べなくなっちゃうよ、とリリーは梯子に手をかけた。

「じゃあそのうち外で飛んでみてー隠れて見るから!」
「事前告知されたら余計恥ずかしいよ……」

微妙に高さが足りないので梯子の上に立ってレールにカーテンをとりつけていく。
気をつけてね、と声をかけるアンとフラーにうん、と下は見ずにリリーは答える。

その時きゃー!と悲鳴が上がった。
反対側の二階の欄干にいるメイドたちだ。指を刺して叫ぶ。

「リリー!カーテンのレール留めが抜けちゃう!」

え、と声を上げると同時にネジが抜けたのかレール留めがぱちんと弾けて落ちた。
抑えを無くしたランナーがカーテンと一緒に滑り落ちるのはあっという間だった。
もちろんカーテンと一緒にリリーと梯子も巻き込む。
がしゃんという凄まじい音で倒れた。

「うう……翼があるのに落ちた……」

もう今日は失敗続きで寝込みたい。

カーテンがクッション代わりになり大した怪我はない。
リリーは差し出された手に礼を言って掴まって立ち上がった。

「怪我はないか?」
「ヴィント様!」

てっきりアンかフラーだと思って捕まった手は全然違う。

「リリー……ヴィント様も二階にいたの。すぐ気がついて飛んできてくれたんだよ」

涙目でアンとぎゅっと抱き合っているフラーが言う。
よく見るといつも魔法で収納しているはずのヴィントの翼が出ている。
恥ずかしさと申し訳なさが頂点に達したリリーは

「は、はらをきってお詫び申し上げます……」

と言った。
切らないで!?なんで切るの!?アンとフラーが混乱する中リリーは本気で消えたいと思った。







ちょっとちょっと、とアンとフラーは歩いていたヴィントの部下であるシスカを呼び止めた。

「何だ?お前ら。いいか、何と言おうとヴィント様の所は出禁だからな」

んもー!ちがぁう、とフラーは憤慨するとちょっとこっちよ、ナイショの話!と壁に向いてしゃがみ込む。
何だよ……としゃがみ込むシスカに続いてアンも隣にしゃがみ込む。

「あのねぇ、リリーの……様子がちょっと変なのよ」

と、アン。

「それがヴィント様とふたりで出掛けてから変なの。何があったか知らない?」
「何がって……ふたりで神殿に行ってきたんだろ。精霊を呼ぶとか何とかで……」

アンとフラーは同時に片手で口元を隠した。
……何だそれは

フラーは言う。

「秘密にしてね。リリーったら帰ってくるなり、何か凄かった、って言うのよ」
「あとちょっと濡れちゃったって」

「待て待て待て待て何の話だ何の」

慌てふためくシスカにアンとフラーはますます密着する。
壁に向いてしゃがんでいる為何か怪しい雰囲気である。

「これは……もう……濡れ場よ……」
「めくるめく……官能の世界よ………」
「……まああの辺り他に人なんて来ないしな……立地的には最適……って何言わせんだ」
「だって!リリーったら変なのよ!隙あれば鏡ばっかり見てるし!」
「窓とかで身繕いチェックするし!やる気があると思えば変な失敗するし!いつもと違う!」

口々に捲し立てるアンとフラーの話にむ……と考えこんでシスカは自身の髭を撫でた。

確かに最近自分の主もおかしい。
元々あれやこれや喋るタイプではないが、更に口数が減り窓の外を見て考えこんでいる事が増えた。
もしや?いやしかし。

「万が一あれやこれがあったとしてだな、」

ぼかしすぎて何だかおかしくなってきてるがシスカは続ける。

「追求してお前らはどうするつもりなんだ」
「私たちも同じコースでお願いしますってヴィント様に言うの」

がくっとシスカは頭を下げた。

「お前ら……そう言う事は俺に言え俺に」

いやぁーんと嬌声を上げるとふたりはシスカに抱きついた。

「暑い夜にしてくれる?」
「忘れられない夜にしてくれる?」
「そりゃもうどエロいやつだ!」

やったあ!楽しみにしてるねー!とふたりは去っていった。
シスカはがしがしと頭を掻いて言った。

「……女にはかなわなねぇなあ……」

そしてリリーを思い出した。
魚釣りに輝かす顔、堀の水に驚く顔、時渡り……
主の隣に立つ時は、どんな顔をしていただろうか?










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】異世界でお花屋さんの店員を募集したら、美しくて高貴なエルフが応募しに来ました。異世界の巨大な町にある僕の小さなお花屋さんの運命は?

みみにゃん出版社
ファンタジー
異世界で念願のお花屋さんを開業した僕、 ハナヤ・アオイ。 ある日、店員さんを募集する張り紙をしたら応募してきたのはとてつもなく美しく高貴なエルフだった…。 その日から、破天荒なエルフに振り回される僕の日々が始まった。 異世界の巨大な町にある僕の小さなお花屋さんの運命は? ほのぼの(?)日常ファンタジーのはじまりです(=^x^=) ※完結しました! ありがとうございました! ※宜しければ、お気に入りにご登録いただけたら嬉しいです。 ※ご感想をお待ちしています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

アイスさんの転生記 ~貴族になってしまった~

うしのまるやき
ファンタジー
郡元康(こおり、もとやす)は、齢45にしてアマデウス神という創造神の一柱に誘われ、アイスという冒険者に転生した。転生後に猫のマーブル、ウサギのジェミニ、スライムのライムを仲間にして冒険者として活躍していたが、1年もしないうちに再びアマデウス神に迎えられ2度目の転生をすることになった。  今回は、一市民ではなく貴族の息子としての転生となるが、転生の条件としてアイスはマーブル達と一緒に過ごすことを条件に出し、神々にその条件を呑ませることに成功する。  さて、今回のアイスの人生はどのようになっていくのか?  地味にフリーダムな主人公、ちょっとしたモフモフありの転生記。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...