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精霊の祝福

7 遺跡の最深部

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最深部らしい広間に着いたリリーたちはひと通り探索を終え休憩していた。

「おかしい……何にもないぞ」

そう言うラーニッシュにリリーはフンと鼻を鳴らして言った。

「最初から無いって言ってるじゃないですか」
「あっ!お前!なんかすれてきてるぞ!」
「誰のせいですか!誰の!」

ヴィントがこっちだと言っているのに違う道に入り込み床から槍が出てくる仕掛けにリリーはトルカと抱き合って震え泣きしたり、新しい道だと道じゃない通気口を通らされた結果あんまり絶対好きになれそうにない節足動物溜まりに遭遇したり、この仕掛けは知ってるぞここを押すんだとボタンを押し込んだせいでごろごろ転がる巨大な丸い岩に追い回されたり……散々されて足が限界だ。

「あと上が残ってる!この広間の上部は調べてないからお前たち上を見てこい」
「お前たちって……」

指でヴィントとリリーを差している。
ものすごい嫌そうな顔をしているヴィントに倣ってリリーも嫌そうな顔をした。

「お前たち飛べるだろ!出し惜しみするな!」

うぐぅとリリーは推し黙る。
確かに飛べる。
リリーは有翼種(ゆうよくしゅ)で背中に鳥のような白い翼がある。
普段は魔法で見えないように収納している翼だが、飛び方も覚えているので飛べない事はないはずだ。
出し惜しみではないが、何となく見られるのが嫌で隠していた。

故郷では異質な翼を隠していたが、ここ惑星エライユでは種族は多種多様で、仲の良いアンは耳が鳥の羽のようになっているし、フラーは頭に三角の獣耳が生えている。角やしっぽがついている子も珍しくない。

ヴィントの翼は見た事がない。
エライユでも飛べる翼は異質なのだろうか……?

「……食べ終わったらな。君は待っていても良い」

ヴィントにそう振られて

「いえ、私も行きます!」

リリーは食べていたサンドイッチを口に押し込んだ。
ヴィントひとりにだけやらせるわけにもいかない。
ここは勇気の見せ所だ。

アンとフラーが作ってくれたらしいサンドイッチのバスケットの底にカードが入っていた。

『王様、大きい赤ちゃんみたいでしょ?そこが可愛いんだけど……帰ってきたらリリーはゆっくり休んでね』

カードを読んだリリーはふふっと笑った。
赤ちゃんにしては破天荒がすぎるけど……皆よく分かっている。

「何て書いてあるんだ?」

横から見ようとするラーニッシュからサッと隠した。

「アンとフラーはよくカードにメッセージをくれるんです。でもこれは私の宝物だから。秘密です!」

出先でサンドイッチも、友達がカードをくれるのも故郷ではありえなかった事だ。

どれも楽しい。頑張ろう。


休憩が終わり、食事のものを片付けたタイミングでぴりっと静電気のようなざわめきを肌で感じた。

「ま、このくらいはな」

長剣を手に取るラーニッシュ。

「頑張ります!」

と弓を継がえたのはトルカ。

「十分で片付けろ。君は教えた通りに」

リリーを後ろに下がらせるとヴィントも剣を抜いた。
いつのまにか小型の狼のような魔物が現れる。
外の木をつたって天井付近の明かり取りの隙間から入り込んだのだろう。
落ち着いて。大丈夫。
リリーは自分に言い聞かせた。


ガン、キィンと剣と魔物のぶつかり合う音、魔物の興奮した唸りが響き渡る。
リリーは決して前に出ず防御魔法で魔物を跳ね飛ばし三人に当たる魔物の数を減らす。自分に向かう魔物がいないか注意を払いながら詠唱する。

二匹倒した、あと三匹…じゃない!隙間から新しく魔物が入り込んでくる。それを見越しての十分なのだろうか?それとも……余計な考えはダメだ。集中、集中。

数がどんどん増え、自分には当たらないものの三人に飛びかかる魔物の数が増える。防御。自分の安全確認。三人の回復。防御。自分の安全確認。それか

「らっ!?」

急に足が浮き宙に浮いたので心臓が跳ね上がる。

「前に出過ぎだ」

ヴィントに抱えられて飛ぶ。
リリーは初めてヴィントの翼を見た。
新月の闇夜のような深い黒の飛膜状の翼が背中から生えている。本でしか見た事がないドラゴンのような翼だ。
一瞬で明かり取りの反対側まで飛び上がり高所に下ろされる。

「ごめんなさい……」
「見なさい。最初君がいたのは壁際だ。どんどん前に出ていた」

確かに増える魔獣の数を数えようとして明かり取りに注目しすぎていた。結果前に出ていたのだろう。

「覚える良い機会だ。トルカも上手い」

弓を使うトルカは身軽に動き回り壁を背にして急所を見せず上手く立ち回っている。
ラーニッシュは大振りで……確かに前に出過ぎたら巻き込まれていただろう。

「お前ら見学すんな!ちゃんとやれー!」

ラーニッシュは怒って地団駄を踏んだ。

「十分で片付けろと言ったはずだ。お前が手を抜くから増えたんだ」

ヴィントは涼しい顔で言ったが、リリーはこれは……どうしたらいいんだろうと混乱した。
この位置から魔法を飛ばして参戦するべきなのか……
んがあああ!と大剣を振り回したラーニッシュの剣撃で魔物が吹き飛んだ。
トルカはわーびっくり!とあまり緊張感のない声で剣撃をかい潜り高所にとびついた。

「す、すごい……」

一撃で全ての魔物に当たり、力尽きた魔物は灰となって消えた。リリーの感嘆も束の間、凄まじい地鳴りで床が崩れ始めている。

「あっ!あっ!私!飛べます!トルカと!」

焦りで言葉が怪しいが伝わっただろうか?
リリーは翼を出して飛翔するとトルカにとびついた。

「何でだ。床が抜けたぞ」

腑に落ちない、という顔でヴィントに首根っこを雑に掴まれて飛んでいるラーニッシュが言った。

「お前が暴れるからだ」
「十分でやれとか暴れるなとか注文の多い奴め」

「うわー下に空間がありますよっ!新たな冒険の始まりですか!?」

トルカのわくわく声にリリーは反応する余裕がない。

こ、この子ものすごく重い………

軽量化の魔法はすぐかけたものの、人体にはあまり効かない魔法なので装備と服分しか変わらない。
すごく集中しないと落としてしまいそうだ。

上に上がるか下に下がるか早く決めてほしい……!

「よし!下だ!早く降りるぞ!」

上機嫌なラーニッシュにヴィントが軽くため息をついた。

「行くぞ」

下りが決まりリリーはほっとする。
上がるより楽そうだ。すぐに地面に着きますように……祈りながら降下し始めた。






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