溶融サテライト

はなみ 茉莉

文字の大きさ
上 下
4 / 16

4 竜と天馬

しおりを挟む

「相変わらず魔法も剣も素晴らしいね、やんちゃなペリステラ

うっ、とリリーは内心で声を上げた。
学内唯一にして一番苦手な人物の声がする。
すっと目の前に差し出された手を拒否する訳にもいかず、仕方なく手のひらを乗せて立ち上がる。

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません、生徒会長」

さりげなく手を離そうとしたが、強い力で掴まれてしまいまったく離れない。
ああぁ、とリリーは心の中で頭を抱えた。

「さあ皆、怪我や気分が悪くなった者はいないかな?」

生徒会長はリリーの手を取ったまま演習場を見に来ていた生徒たちに語りかける。

「明日は祝日だ。調子を悪くした者は正直に、速やかに医務室に行くようにね。明日は存分にくつろげるようにね……と、その前に、決闘の勝者を讃えないといけない。リリーさんに拍手を、」

パチパチとリリーに賞賛が送られる中、リリーの心中は穏やかではない。
……本当に、そういう所!


リリーが留学生としてロマネストにやってきた時、生徒会長は実に親切だった。
校内を案内し、分からない事は率先して教えてくれる。

が、近い。
あまりに距離が近い。

昼食時や図書館など隙あらば隣に座り、偶然か必然か校内で出会いまくる。

「生徒会長って、リリーさんの事好きよねえ」

しまいにはクラスメイトにしみじみと言われてしまう始末。

「……ただの親切心……だと思うけど」
「でも同じ留学生のフィアナさんにはさっぱりよね?」

そうですわ、とフィアナにまで言われる。

「…………私、故郷に恋人がいるから……そういうのは……」

校内では隠しておこうと思ったが、このままでは外堀から固められてしまう。
リリーは仕方なく皆に公表すると、

「ロマネストって重婚できるんだよ?」

などと。
驚くべきかなロマネスト、人情を軽んじ成果を重んじる探究者の国よ。
何でそんな法律作った。

遠距離の彼と二股できるね!とクラスメイトは何の疑いもなく倫理を蹴っ飛ばしてくる。

「眉目秀麗、成績優秀、生徒たちの憧れの的!おまけに生徒会長は由緒正しいペガサスの種族なんだよ!」
「リリーさんの種族とは遠縁だから、生徒会長本気なんじゃないかなあ?」
「良縁だから、グイグイいっていいと思うよ!」

などと。クラスメイトは好き放題言っている。
基本的にヴィントとは包み隠さずお互いの事を話す、というのがお互いの取り決めなので愚痴半分不安半分で生徒会長の事を通信で話せば、ヴィントは何をどうやったのか一ヶ月はかかるロマネストへの道のりを一日ですっ飛ばし、学校へも留学を決めてしまった。
かくして意図せず遠距離恋愛は解消となったが……






演習場を後にする生徒たち一人一人にさようならと挨拶をする生徒会長とは依然手を繋いだままであり、はたから見ればまるで仲の良い恋人のようだ。
生徒会長という立場を利用し、堂々と距離を詰めあまつさえ公然の場で注目が集まるよう仕掛ける。
毎度巧妙な手口で追い立てられ、リリーはもちろんヴィントも手を焼いていた。

ひっく、としゃくり上げ泣きながらやってくるのは見覚えがある一年生。
あまりの大泣きに皆の注目が集まったタイミングでリリーは心の中でごめんなさい、と生徒会長に謝罪し、ごく弱い雷魔法を手のひらに放つ。
反射で手が離れたところでリリーはばっと自分の両手を後ろに隠しながらど、どうしたのかなー?と一年生に近づく形で生徒会長と距離をとった。

「せ、せんぱ、い、ごめんな、さい…………わ、わたし、の、幼馴染が………………」

しゃくり上げる合間合間に何とか喋る女生徒は昨日海に取り残されていた少女だ。

「か、か、勘違いで…………決闘、を、」

一体どんな勘違いをしたのやら。
リリーは下がり眉で怒ってないから大丈夫だよ、ね?と語りかける。
と、きゃああ、と残っていた女生徒たちから歓声が上がった。

……あああぁ。
来てしまった。

本来ならば会いたくてしょうがないはずの恋人。
やって来たヴィントの形相は一見無表情にも見えるが、あれはめちゃくちゃ怒っている時の顔だ。
生徒会長はにこやかに挨拶する。

「やあヴィントさん。校外学習は楽しかったかな?」
「……………………………………どうも」

見つめ合う二人。
バッチバッチと火花が飛び散っているように見えるのか、ギャラリーの女生徒たちはこれが見たかった!とでも言いたげに目がらんらんしている。
リリーはすすす、と移動してさっとヴィントの影に隠れた。

「君は医務室に行った方がいいね。付き添おう」

生徒会長は泣きじゃくる女生徒を連れ、皆に挨拶すると去って行った。
さすが生徒会長、引き際を心得ているんだわ後ろ姿も素敵ねなどと女生徒たちは好き勝手言っている。

ヴィントは自身の翼を広げると、胸の中に包み込むようにリリーを引き寄せた。

「……さっき手を繋いでいたな」

ばっちり見られている。
お仕置き、と、ちゅっと軽く唇に口付けられる。

いやぁときゃあの中間の甲高い悲鳴が女生徒たちから上がった。

「今ヴィントさん、リリーさんにこっそりキスしたでしょ!」
「その不自然な翼の出し方!怪しい!」

翼の中なので見られた訳ではないが、皆感が良い。
つんとそっぽをむいてヴィントは知らん顔している。

「大体リリーさんの顔見れば一発で分かるしね」

リリーは慌てて真っ赤になった両頬を隠すように手で覆った。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

TRACKER

セラム
ファンタジー
2590年代後半から2600年代初頭にかけてサイクス(超常現象を引き起こすエネルギー)を持つ超能力者が出現した。 生まれつき膨大な量のサイクスを持つ主人公・月島瑞希を中心として心理戦・策略を張り巡らせつつ繰り広げられる超能力バトル/推理小説

「黒炎の隼」

蛙鮫
ファンタジー
人々を襲う怪物。忌獣を一人で討伐し続ける青年。松阪隼人。そんな彼がとあるきっかけで忌獣を討伐する組織『忌獣対策本部』の戦闘員を育成する学園『金剛杵学園』に入学する事になる。

マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~

ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」  騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。 その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。  この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。

10044年の時間跳躍(タイムリープ)

ハル
ファンタジー
【目が覚めるとそこは1万年後の世界だった】 亜空間物理学者リョウは、翌日にプロポーズするはずだった恋人カレンに見守られながら、12時間の予定で冷凍睡眠カプセルに入る。しかし、目が覚めると、そこは科学を捨て、思わぬ方向に進化していた1万年後の世界だった。 全てを失い孤独に苛まれながらも、彼は発掘隊の考古学者アリシアに支えられ、この時代に目覚めた原因を調べ始める。そして、千年前の伝説に手がかりを見出したとき、彼は恐るべき野望を持つ輩との戦いに巻き込まれる。 果たして、リョウの運命は。そして、アリシアとの恋の行方は?

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

【完結】月の行方

黄永るり
ファンタジー
魔法学校の生徒ルナは見習い錬金術師。大切な人を探すために、卒業試験先として選んだ国はめちゃくちゃ危険な国だった。

わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠
ファンタジー
「この私、レムレス・ド・アルメルセデスの名において、アナスターシア・スタンフォード侯爵令嬢との間に結ばれた婚約を破棄することをここに宣言する!」 その声は、よりにもよってこの年に一度の神事、国家の祭祀のうちでもこの国で最も重要とされる聖緑祭の会場で、諸外国からの特使、大勢の来賓客が見守る中、長官不在の聖女宮を預かるレムレス・ド・アルメルセデス王太子によって発せられた。 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。 その聖都アルメリアの中央に位置する聖女宮広場には、荘厳な祭壇と神楽舞台が設置され。 その祭壇の目の前に立つ王太子に向かって、わたくしは真意を正すように詰め寄った。 「理由を。せめて理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「君が下級貴族の令嬢に対していじめ、嫌がらせを行なっていたという悪行は、全て露見しているのだ!」 「何かのお間違いでは? わたくしには全く身に覚えがございませんが……」 いったい全体どういうことでしょう? 殿下の仰っていることが、わたくしにはまったく理解ができなくて。 ♢♢♢ この世界を『剣と魔法のヴァルキュリア』のシナリオ通りに進行させようとしたカナリヤ。 そのせいで、わたくしが『悪役令嬢』として断罪されようとしていた、ですって? それに、わたくしの事を『お飾り聖女』と呼んで蔑んだレムレス王太子。 いいです。百歩譲って婚約破棄されたことは許しましょう。 でもです。 お飾り聖女呼ばわりだけは、許せません! 絶対に許容できません! 聖女を解任されたわたくしは、殿下に一言文句を言って帰ろうと、幼馴染で初恋の人、第二王子のナリス様と共にレムレス様のお部屋に向かうのでした。 でも。 事態はもっと深刻で。 え? 禁忌の魔法陣? 世界を滅ぼすあの危険な魔法陣ですか!? ※アナスターシアはお飾り妻のシルフィーナの娘です。あちらで頂いた感想の中に、シルフィーナの秘密、魔法陣の話、そういたものを気にされていた方が居たのですが、あの話では書ききれなかった部分をこちらで書いたため、けっこうファンタジー寄りなお話になりました。 ※楽しんでいただけると嬉しいです。

処理中です...