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桜木郁人
色が無い
しおりを挟む初めて援交?した後の郁人、しょっちゅう病んでる
ーーー
(郁人side)
14歳の春、初めて援交をした。
………援交なんて言われれば聞こえはまだ良いかもしれないけど、実際にあれは合意があっただけのレイプで、本心でやった訳じゃない。
小説家の父親の編集者に襲われて、抵抗すれば父親の仕事がどうなるか、なんて脅されて合意するしか無かった。
締切間近で同じ階の部屋で仕事をしている父親と別の部屋で、何度も何度もその男は僕を犯してきた。
僕が家に帰ってくる度にやにやしながら「おかえり」と言って、学ランを舐め回すような目線で見てきて、
部屋にいてもリビングにいても、母がパートに出かけていたから家族に見つかること無く犯された。
…正直犯されただけならなんとかなったかもしれない。でも、その男は行為が終わったあと、数千円を渡してくる。
「やだ…いらない、」
それを受け取ってしまったら援交になる、そう思って何度も拒否したけど最後には無理矢理受け取らされて、初めは使わないでおこうと思ったのに、
「最近漫画買いすぎてお金ないんだよなぁ…」
「僕も、メロンパン買いすぎた」
「早く来月のお小遣い欲しい!!…郁人は?お小遣いもう無い?」
友達が困っている事を知って、使ってしまった。
「いつもごめんな…飲み物くらいは買えるようちゃんとお小遣い管理するから!」
「来月お金返すね、…ありがとう、郁人。」
………なんて、
「…ううん、お金じゃなくて飲み物で返してくれればいいよ」
お金を貰うことがトラウマになっていた。
ーーー
この男に犯される度に虚ろになって、目に見える風景に色がつかないようになって、
楽しそうに笑う幼馴染達とは違う風景が見えているんだって、2人との間に距離を感じるようになった。
(僕は2人みたいに綺麗じゃない…、早く死にたい)
あんなに綺麗に見えていた風景が、白と黒だけで見えるようになった。
なんで僕なんだろう、気持ち悪い、早く忘れたい、そう思うのに日に日に罪悪感は増していって、
何度も吐いて日に日に痩せて、それでも誰も気付いてはくれなかった。
気付いてくれたのはただ1人、
「お前最近細くなったなぁ………成長期なんだから食べなきゃ駄目だろ」
毎日のように僕を犯してくる編集者。
今思えば、この男が1番僕のことを見ていたのかもしれない。
パートで忙しい母、執筆でほとんど部屋から出てこない父。
まだ純粋な幼馴染。
本当は誰かに助けを求めたかったのに、誰も、誰も僕の事なんて見ていなくて、
誰にも頼れなくてこんな自分が惨めで汚く見えて、早く死ねばいいってずっと思ってた。
「わ、見て……!猫だ…可愛い。」
「ほんとだ!なあ郁人、猫いるぞ!人懐こい………」
そのうち、可愛いと思っていたものも可愛く見えなくなって、
「え…、……あ、そうだね」
何も綺麗に見えなくなっていた。
「僕なんかが生きててごめんなさい………」
何度も何度も汚い自分を責めたけど、何も変わらなかった。
もう援交したくなくてわざと帰りが遅くなっても、あの男は家にいて、また犯される。
あまりに遅いと母が帰ってきてしまって、更に声を我慢しなくちゃいけなくなるからそのうち諦めて早く帰るようになった。
貰ったお金はあれ以降は箱に入れて部屋の押し入れに隠して、誰にも見つからないように箱に鍵もかけた。
これが見つかれば我慢していたもの全てがバレてしまう、援交している事実も、誰かに見つかって責められるのも怖かった。
ずっと、苦しかった。
ーーー
高校に入って新しい友達が出来た。
「海斗おはよーっ!、…あ、優馬もおはよ!」
新しい友達が出来ても結局何も変わらない。あの男は今も毎日家に来ているし、毎日のように援交を繰り返していたら体もボロボロになっている。
痣や痕を隠す為に夏でも長袖を着ていた。
「お前いつも長袖だよな………今日30度だぞ?」
「えっと…、…あ、あんまり日焼け……したくないから」
「そんな理由なんだ………でも室内だし大丈夫だろ、半袖あるなら着替えた方いいぞ」
「見てるだけ暑い」なんて言われて、本当ならここで脱がなきゃいけないのに、どうしても脱げなかった。
「………」
手首には何度も掴まれた痕が残っている、手首にはリストカットの痕もある。
これがバレれば援交の事もバレるかもしれない、日を重ねていく事にもう戻れない気がする。
どうして僕は周りと同じようになれないんだろうって、毎日死にたくて仕方なかった。
(優馬の目……綺麗だな)
綺麗な紫が澄んでいて、これならきっと風景だって綺麗に見える。
白と黒しか無い自分の世界が嫌で嫌で仕方ない。
(僕なんかが生きてたって仕方ない………)
もう、死んでしまおうと思った。
ーーー
帰りに薬局で大量の薬を買って、今日の援交が終わったあと死のうと思った。
机の引き出しに薬を隠して、いつものように男が部屋に入ってきて、犯されて、
普段ならバレないはずなのに、帰ってきた時に薬局の袋を見えるところに持っていたせいか、その事が男にバレた。
「え……あっ、」
知っていたかのように引き出しを開けて、
「お前死のうとしてたの?俺のせい?…俺の名前遺書に書いたりした?」
バレたくなかった
「…書いてない、です」
「本当か?………言っとくけど、お前は被害者なんかじゃないからな」
…どうやら僕は、死ぬことすら許されないらしい。
「え………」
「こんな事やってるお前も同罪だよ、さっさと誰かに言えばいいのに」
……そう言われて、気付いた。
(………そうだ)
僕が悪い、被害者なんかじゃない
今までずっと、自分は被害者だからと思って耐えてきた。
いざとなればどうにでも出来るんだって、そう思う事でしか心の拠り所が無かった。
………でも、僕は被害者なんかじゃない。
もっと早く誰かに頼っていれば救われたかもしれないのに
誰も助けてくれないなんて受け身で、
結局、自分は何もしていなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、…生きててごめんなさい」
全部全部僕が悪い。
何をしても僕が、僕のせいで、
何度も追い詰められても逃げられない。
この罪悪感の中で、ずっと生き続けた。
ーーー
おまけ…救われる郁人
「そうだったんだ、今まで気付けなくてごめんな」
何もかもが限界で、泣きながら何度もしゃくりあげながら相談した。
「でもよく頑張ったよ、辛かったな…これからは俺が守るから」
「誰にも言えなかったんだな、…ごめん、俺が早く気付ければ良かったんだけど」
「2人に気付かれないように頑張ってたんだな、…すごい、本当に強いな、郁人は」
これでもかと言うほど温かい言葉を貰ったのは初めてだった。
「でもこれからは俺を頼って、郁人さえいいなら他の皆も頼っていい、…その男は俺がどうにかするから」
もっと早く相談していれば良かった。
「僕…ずっと、誰かに気付いて欲しいなんて受け身で」
「受け身で何が悪いんだよ、…でもそうだな、そう思ってたのに俺に相談してくれて、それってきっとすごく勇気のいることだから、
………頼ってくれてありがとう、郁人」
何度泣いても吐いても救われなかった。
寝る時は薬を飲んで、苦しければ手首を切って、
毎日毎日…本当に苦しかった。
(でも……これからは薬を飲まずに済みそう)
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