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早苗優馬

共犯

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ほんとに優馬枠なのかとても疑問です。
最近ゆういくばっかり書いてる気がする………



ーーー



好きだった友達が死んだのが数年も前のことのように思う。



『澪……、澪ッ?!なんで………』



あの日の放課後、血が飛び散った教室。

まだほんの少し息があった、柔らかい手を掴んで必死に名前を呼んだ。それしか出来なかった。


『なぁ……なんで、どうして、』


すぐそこで立ち尽くしていた犯人の顔を見る。


俺も澪も、よく知っている人で、俺と同じで澪の事が好きだった人。




『………ッ!』




あの時、あいつの顔を見なければ俺の人生はまた変わっていたと思う。



でも、見てしまったから、




(何……どうしてそんなに、)




その時の犯人の表情を見て、何もわからなくなった。




『は……、はぁ、ッはぁ、』



乱れた息、血のついた髪や頬。


酷く怯えているその目の先にいたのは、俺達では無かった。




『ご……ごめんなさい、』




………扉の前にいるもう1人を見て、あいつは酷く怯えていた。



その時の様子は、尋常じゃないくらい怖がっていて、




俺もその視線の先を見て、理解した。





『もう終わった、終わったから、もう殴らないで、


………先生……』




……きっと、この先生に脅されていたんだと。





この状況で笑っている先生を見て、俺も判断がおかしくなっていた。




(……駄目だ、…こいつが、郁人が、1人悪者になるなんて)




そんな事させない






……………………俺も










ーーー




「……んぁ?」




場面がフェードアウトして、家の天井が映し出された。



「……夢か」



あの最悪な事件から、数ヶ月。



(どうしてしたんだろうな………本当に)



俺はあの後、とどめを刺した。



まだ息があって助かるかもしれなかった、それに何より大好きだった人を、殺した。





(俺も共犯だって、共犯になれば……辛さが分かるんじゃないかって)



数ヶ月前から郁人が教師に告白されたという話は聞いていた。


でも、了承したなんて聞いていなかった。断るとも言っていた気がする。



………それでもああなったのはやっぱり、脅されていたのか。



(ずっと誰にも言えなかったんだ、あの先生から毎日殴られていたことも、人生を壊されそうになっていたことも)



洗脳までされていた郁人は、「俺から逃げたければ刑務所にでも入ったらどうだ」と言われて、本当にそれしか考えることが出来なかったらしい。



どうして澪を殺そうとしたのかは分からないけど、もう判断力が大分鈍っていたのかもしれない。




(でも俺も澪を殺した、あいつが持ってた刃物で、澪をもう1回刺した)



好きな人を殺すなんて判断、俺も狂っていたとしか思えない。




(どうすれば良かったんだろう………)






『被告人は当時心神喪失していたと考えられ………』




あの日から数週間後、俺達は解放された。


郁人は「全部僕がやった、友人は助けようとしていた」なんて嘘をついていた。


……あの教師は教唆罪で今は刑務所にいる。




「こんなの、おかしいよなぁ………」




あいつが刑務所にいるのは構わない。でもそれもほんの数ヶ月。もう少しで出てくると聞いた。



でも何より、心神喪失していたからといって何も刑罰を受けなかった郁人も、法廷に立たなかった俺も。




(……澪の命って、こんなに軽いものだったんだ)





なんて、自分の言えることじゃないけど。






………でも罪はそれだけではない。






『優馬………ごめん、ありがと……』



郁人の住むアパートに、散々に落書きや紙がはられていた。


「人殺し」「死ね」「犯罪者」なんて、ドラマでよく見る在り来りな言葉が書かれていた。



『……ていうか、もうここいたくないだろ』
『…まぁ……うん』
『……それならさ』





………なんて話したのは数週間前。




「ねぇ優馬、ぶつぶつ言ってないでそこ、退いてくれる?」




俺の家にびしばし働いてくれる家政婦が来た。




「掃除してくれるのはいいけどたまには休めよ」
「せっかく居候させてもらってるんだから、働かせてよ、ここ広すぎて落ち着かないから」



………俺は郁人をかくまうことにした。




一応、共犯というところを単独犯というていで話してもらった恩もあるから。





「…ご飯は何が良い?」
「クリームシチュー!この前作って貰ったやつ美味かったから!」


「冬休みの時のやつか……」と、掃除機のゴミが溜まっている所を取ってゴミ箱に中のゴミを捨てていく郁人。



「でもあんまり働きすぎるなよ?」
「働かないと……じっとしてると、思い出しちゃうから。」



最後の方は小さくて、聞こえなかったけど察しはついた。



(事件の事も、DVされていた事も、忘れたくても忘れられないだろうな)



まだ消えない服の下のアザ。



全部、全部知ってる。





「あ、ご飯作る前にトイレ掃除あるんだった」
「明日でいいよ?」
「ううん、結構汚れてたからすぐやってくる」




そう言って広いリビングから出ていった。





「………」



郁人がいなくなって、ふとテレビをつけてみる。


ニュースが流れていた。





『続いてのニュースです。三坂市男子高校生殺人事件で、新たな情報が入りました。』




………俺たちが起こした事件。


その新しい情報は、澪の妹が自殺したという内容だった。




(……結局一度も謝りに行ってない)




両親のいない家庭で、兄弟2人で何とかやっていたのに。




(花だけでもあげていいのかな………)



俺達がした事がこんなにも最低な事だったなんて、




分かってはいたけど……………苦しい。








「………あっ、」



……タイミングが悪かった。



「郁人……」
「あ、うそ、…そんな、」



今の精神状態でこのニュースはまずい。

すぐに消したけど遅かった。




「あ……、あぁ”あ”ぁぁぁ”ッ!!!!」




濁音が入るほど絶望しきった声で叫んで、その場に崩れた。





………今の郁人は、決して回復している訳では無い。


事件の事を思い出さないように必死なだけで、まだ……怯えている。





「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、」
「落ち着いて、大丈夫だから落ち着けって」




髪を掻きむしって怯えて、しまいには壁に何度も頭を打ち付ける始末。



落ち着かせようと肩を掴めば、今度はDVの事を思い出すのか「殴らないで」「痛い、やめて」なんて尋常じゃないくらい怯え出す。




「大丈夫、大丈夫だよ郁人、俺は………」
「お願い、もうあの人達には会いたくない、お願いだから許して、先生ごめんなさい」



………あの人達。きっと無理矢理売春でもさせられていたのか。




「痛いよ………」






苦しそうで可哀想で、もう見てられなかった。









ーーー


小学生の妹達が帰ってきた。



「……ねぇ兄貴、いつまであの人、ここに置いとく気?」


俺には小学生で双子の妹が2人と、もう1人いとこの女の子がいる。


3人とも、澪の妹によく懐いていた。




「ごめん……でも、」
「いい加減にしてよ!!美優ちゃんを苦しめて……全部あいつのせいじゃん!!!」


妹はまだ怯えている郁人を睨んだ。



「美優ちゃんが死んだらどうするつもりなのよ………」
「……あ」



まだニュースを知らない妹。



「……事件のこと、進展あったの?」

察しが良い双子の姉が、テレビをつけた。



まださっきの報道がやっていて、澪の妹が亡くなったことを2人が知った。




「「うそ……」」




絶望した2人、気性の荒い妹の方が、




「なんでよ……なんで、なんであんたなんかに澪達が殺されなきゃいけないの?!!」



世間は皆、郁人が悪いと思っている。

それはうちの妹達も同じだった。




「…ごめんなさい、ごめんなさい」
「なんでよ……」




苦しそうな妹。怯える郁人。





「郁人は悪くない、お願いだから、」



事情を知っているのは俺だけ。






「……ねぇ兄貴、どうしていつもこいつの味方する訳?」
「え……」
「本当は、兄貴も一緒にやったの?」







………………ッ









「行こ……、私達、夜ご飯いらない。」








ーーー


数時間後。



中学生の妹も同じように郁人を責めて、2階に行ってしまった。



「シチュー、やっぱり美味いな。これ好きだよ、俺」
「……そっか、よかったぁ」



「妹さん達にも食べて欲しかったな」なんて、眉を下げて笑ってた。




「………なぁ郁人」
「なに?」





ここに居ても何も変わらない。







「2人だけで、逃げようよ、何処かに」











ーーー


家族も学校も捨てて、……まぁ元から学校は行ってなかったけど。



遠い街に引っ越して、小さなアパートを借りた。



「スーパー近くてそこそこ町外れ!いいとこだろ?」
「そうだねぇー……僕外出れないんだけどね………」


「別にここまで来たら大丈夫だろ、外に出ても」



ニュースでも顔は映ってなかったし、遠くに来てしまえばきっと。




「あいつももうすぐ出てくる。……これで良かったんだよ」
「……ありがと」





この狭い小さな部屋で、元々はライバル同士だった友人と2人で。




「澪も連れてこればよかったね、澪の家に遺影あったよね?」
「持ってこればよかったな、……まぁ、写真をプリントして貼っておけばいいか………」



携帯に残った画像。



(楽しかったあの頃には戻れない、けど)








別にこんな人生でもいいんじゃないかって思う。









「共犯だからな、人生も一緒に共犯しよう」ドヤ
「何言ってんの?」








俺達はこれから、罪悪感に押しつぶされながら生きていく事になる。






「これから死ぬまでよろしくな、郁人」
「……うん、よろしくね。優馬」






それでもきっと、この人となら、










(きっと………大丈夫、なはず)













ーーー


おまけ……ミニキャラ感覚。


とある日の夜

「僕を殺した郁人と優馬を許さない」ドロン
「わ、郁人!!なんか可愛い幽霊いる!!」
「え……っわ、ほんとだ可愛い幽霊!」
「は?」イラァ…


「許さない、絶対許さないから……」
「ごめんって、怒ってる顔も可愛いぞ☆」
「足がないのも欠損みたいで可愛いよ、澪!」
「え、何怖……」ガタガタ


「僕もここ住む」
「本編台無しじゃんw」
「お布団足りるかなぁ……」
「あ、じゃあさ俺の布団で一緒に寝よ!」
「やだよ怖い……」
「幽霊なのにw」


「こっちの世界で美味しいメロンパンのお店を見つけた」
「満喫してるな、俺達もそっち行っていい?」
「優馬…本編書いてる時に何気なく思ってた僕達も後を追うエンドをさりげなく取り入れてくるのやめて…」
「それも考えたけどあえて触れなかったのになw」


「ていうか僕死んだら誰が本編(全年齢の方)の主人公やるの?!」
「次の話から生き返れるから大丈夫、この世界で命1つとかすぐ駄目になるから」
「なんかあれば殺されるもんね~僕達」





本当はゆういくほのぼの同居生活を書きたかっただけでした。
なんでこんな重くなったのかは分かりません。






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