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早苗優馬

殴られるのが好き………

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「おはよー、澪!今日も可愛い!天使!!」
「チッ……、うざい………」



優馬はいつも僕にばっか可愛いとか天使って言う。
それがなんだかうざくて、つい反抗的な態度をとってしまうのはいつものこと。



「ははー、じゃあ俺ちょっと長谷川先生のとこ行ってくる!」
「あ……うん、HRまでに戻ってきなよ……?」




でも最近は………優馬がどこか素っ気ないように見える。
ずっと英語の教師の長谷川先生のところに行くし……あんまり仲良いって印象、なかったんだけど………



(いざ手放されそうになると怖くなる癖、ほんとなおさなきゃ)




気になって、後を追うことにした。






ーーー






生徒会の集まりがない時以外はあまり人通りのない3階の生徒会室前。

そこに長谷川先生と優馬が行くのを後ろからつけて、バレないようにさっと壁に隠れた。




「先生、あの」
「なんだ、もう待てなくなったのか……?本当にどうしようもないな……」




隠れながら2人の会話を聞いて、気になってバレないように少し顔を覗かせてみた。





そして…………いきなり目に飛び込んできたのは、











「……ぅ"ぐ…ッ!!」











(………………え……)






苦しそうな声の後に、途端に腹を抑えて床にしゃがみこむ友達の姿。

正面に立つ先生の拳が強く握られていたのを見て、殴られたんだとすぐに分かった。





(え………?なんで、なんで…!!?なんで優馬が……………)






優馬が殴られてる………そう理解して、すぐに助けようと方向を変えようとした………けど、







「……ッ!」ビク





先生が……優馬の髪を掴んだ。
それに反射的に足がすくんでしまって、動けなくなった。


口を抑えて、声が漏れないよう必死に息を止めた。






「ほら、嬉しいか?こんなことされるのが嬉しいのか?」








………そんなわけない、そんな人いるわけない。




(殴られるのが嬉しいなんて……どうかしてる………)






けど、その次に聞こえてきた言葉が、











一番……………驚いた。













「っ……はい、うれしい………、





ありがとうございます……………っ………」












……………………







……………………………?









意味がわからなかった。









なんで嬉しい…?なんでお礼?



………どう……して………………








唖然としていると、また






「ふ……、ぁがッ…!!は、はぁ……あは、は…………、ッ…ぃう"ッ!!」





腹以外にも頭や鳩尾を叩かれて、息を整えている度に狂ったかのような笑い声が聞こえてくる。







(……?………?)










どうして、殴られてるのに笑ってる………?




見ているこっちが怖くてたまらなかった。








………けど、咄嗟に





(そうだ………動画、動画を撮れば、誰か……他の先生に教えられる……!!)






震える手でスマホを取り出して、カメラを開いた。



バレないようにしゃがんで出来るだけ低く床の方にカメラを置いて、音が漏れないように工夫して……撮影を始めた。




(きっと……脅されてるとか、そんな感じだ……、僕が助けないと………)





この珍しく湧いた正義感がこの後仇になることは、まだ知らなかった。






「ッ……う、先生……もっと、もっと殴ってください…………」

「………………そんな目で見るな、それに……先生じゃなくて?」





僕の知ってる優馬じゃない。
正直、本当に……怖かった。





「………はい……、は……長谷川、さん」






ちがう、ちがうちがうちがう






「そうだな、じゃああれも言えるな?」






こんなの、優馬じゃない…………




優馬じゃ……………………









『友達に隠れてこんな変態臭いことしてごめんなさい……
長谷川さんに、もっといろんなとこ殴ってもらいたいです……っ』











ーーーーーーーッ!!!!!











…………気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い




やめろ、やめて、お願いだから………………









(優馬に、変なことさせないで………………)










自分の知らないところで、友達がこんなことしてると知ったのがショックだった。


知らなければよかったんだろうけど、もう知ってしまったことは遅い。



何より、普段とはあまりに違いすぎる優馬が………苦しくて、怖くて仕方なかった。






流石に苦しくなって、その場を去ろうとした………その時。








「あーあ、でもこんなことしてるなんてお友達に知られたらどんな顔されるかなーー」






長谷川の………わざとらしい、優馬が僕達のことをどう思っているのか聞き出すような台詞。




不可抗力で足が止まってしまって、その返事を聞くしかなかった。






優馬なら、きっと……あれだけ僕の事を好きでいてくれる優馬なら………………








そんな期待は、あっさり破られた。










「友達は………好きだけど、








長谷川さんとこういうことしてる方が、楽しい………」











...








「…………っ…!!!」





その返事だけでも苦しかったのに、長谷川と………目が合った気がした。


目が合って………そして、計算していたかのように意地汚く笑う長谷川。







長谷川にはバレているらしい。











ショックで動けないままとりあえず動画を撮りっぱなしなことをいいことに、長谷川が優馬に何か指示をした。







「優馬、これは今日はもう終わり。次は………




セックス、するか」








また意地汚く笑う長谷川。





そこから始まったのは、完全に………地獄だった。














「は……はぁ、は…ん"ッ、ん……んぁ………」




自分まで汚れていくような、そんな感覚。





「ふ……、ぁ、うん"……、ん"っ、ぅぐ………」





何も出来ずに無意識で涙を流したまま、青ざめた顔を……目を強く瞑って、耳を塞いで、出来るだけ体育座りで身を丸めた。






あまりにも怖くて、汚れていて、









「ちゃんと撮っておけよ………?お友達の滅多に聞けない声」










トラウマになった。












ーーー




友達が殴られておかしくなって、

友達よりも殴られるのが好きだと言われて、

ひたすら見たくないものを見せられて、







限界だった。










結局あの動画は消した。



目に入る度にあの時のことを思い出して辛かったから。





出来るだけ、優馬とも何も見なかった時のように接しようとした。








「おはよう澪!今日も可愛い!」
「………
    


うるさい……、ば、馬鹿」







つくりきれていなかったのは、よく分かる。








「じゃあ俺今日も長谷川先生のとこ行ってくる!」






毎日あいつの元へ行くようになった優馬を、止めることなんてできなかった。



楽しそうに、期待に満ちたあの時の顔。





今じゃそんな表情、僕の前ではしてくれない。








あれだけ嫌っていたのに、悔しくて………










でももう、







「HRまでには帰ってくる!」
「うん……、………いってらっしゃい。」










止めることが、出来なかった。











ーーーーー






補足……

優馬がMになってます。
澪は性行為の存在すら知らない純粋無知なので相当ショックを受けてくれてたらいいな……という妄想でした。








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