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西原純也

少しだけ妬いた

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「西原会長!このプリントに目を通しておいてと先生が……」 
「ん?あ、分かったー」


俺の親友はこの学校の生徒会長だ。


「りゅーき、ごめんー、帰るの遅くなるから先帰って……」
「まだ終わってないのか?何が終わってないんだ……」



だからもちろん暇ではなく、こうやって一緒に帰れない時もある。


その度に俺は、こいつの仕事を手伝っていた。




ーーー



今日も手伝って、終わって無事帰れるという頃には人もいなくなって、既に空が暗くなっていた。
純也が机を片付けながら窓の外を見て、


「うわー、暗ーー、誘拐されそう」


なんて怖いことを言うから少し動揺した。
けどすぐに冷静になって、


「されないように俺が一緒に帰ってるんだろ、馬鹿な事言うな」



そう言いながら席を立った。




「えー、別にされたことはないけど………、てかほんとにされるわけないじゃん、俺男だし」



自分の可愛さを知らずにこんなことを言う。
生徒会の中にはこいつを狙ってる奴だっているのに、気付く気配もない。



やっぱりこいつには俺がいないと危険だ。




「帰るぞ。」
「ん!あ、そういえばさーー」





ーーー





帰り道は他愛のない会話をする。
中でも「寒い」とか「暗い」は数え切れないほど出てくる単語で、会話が途切れる度純也が言う単語でもあった。


「りゅーき」
「なんだ?純也」



この、名前を呼び合うのは親友同士って感じがする。
別に俺はそういうのにはあまりこだわらないけれど、こいつと仲良くなれたと感じるなら、まあ悪くは無いかもしれない。



だから別に………純也が他の奴に名前で呼ばれようと、何も気にならない、そう思っていた。









ーーー






「純也さん、お話があります。」




この日までは。












「何?柴田さん」


柴田と呼ばれた男は、生徒会の2年書記。
こいつが純也に気を持っていることは知っていた。




「校舎裏に来てもらえますか?」
「ここじゃ駄目な話…?」



「はい」と言って柴田が微笑む。



いつも通り純也を迎えに来て生徒会室の扉を開けようと手を伸ばした時だった。



何を思ったのかその手を止めて、物陰に隠れる。


すぐに2人が出てきた。







「ここで良くない?校舎裏まで行くの面倒なんだけど………」
「……本当にいいんですか?声生徒会委員達に聞かれちゃいますよ?」



にたにたと笑う男に警戒心を持ちつつ不思議そうにしている純也。




次の瞬間。






「ん"………ッ!!」






壁に押さえつけるくらい強い力で、柴田が純也の口を手のひらで塞いだ。



本当にそのまま壁に押さえつけられて、逃げられない体勢になった。






「はは……可愛いなぁ………、純也さん……いや、純也は」




にたにたと笑いながら息を荒くする柴田、逃げようと抵抗していたけど力の差があって無駄だった。





(やめろ…………汚い……!!)





「ん"…、、ふ、んーーん"!!」





口を押さえられながら、誰かの名前を呼ぶ純也。
口を塞ぐ方とは逆の柴田の手が、また純也の方に伸びて………触れる前に、







「ッ……うあ"!!」





その手を掴んで、捻った。





「いだい!!いだぃ!!!」
「うちの純也が世話になったな……?」





両手を掴んで体を地面に押さえつけて、動けないように手で拘束した。





「なんの騒ぎですか!?」
「副会長、悪いが先生を呼んできてくれないか?」




柴田の悲鳴を聞いて急いでかけつけてきた副会長にそう頼んで、その後しばらくして………柴田は連れていかれた。





ーーー



柴田が捕まった、その後のこと。



「りゅーき、ココアあげる」



いつもの様に仕事が終わるまで純也を待って、今日は生徒会室のベランダで終わるのを待っていた。




「………仕事は終わったのか?」
「俺が本気出せばすぐ終わるー、でもまだ活動時間でする事ないからさ」



甘いのはあまり好きではないけど、投げられた缶ココアをしっかりと受け取った。



隣に純也が来て、柵に手を置いて前を見た。



「いい景色だね?」
「そうか?見慣れてるだろ、高校なんか」



ここから見えるのは高校の敷地内。
別に……景色がいいとは思えない。





「………、りゅーき、ありがと。さっき」





いきなりお礼を言われて、普段なら絶対言われないような台詞を言われて飲んでいたココアを吹き出してしまいそうになる。


なんとか吹き出すのは止めたけど、動揺が隠せずにいた。





「正直……気持ち悪かった、」
「当たり前だろ、あんなの………」





動揺を隠そうといつも通り冷静そうな顔をしたけど、特にそれを気にすることもせず前を見る純也。



それで、少しだけ動揺がさめた。






「………正直俺も、少しだけ……腹が立った」
「えっなんで?」



ぱっ、とこっちを向いてまた少し冷静さが欠ける。
それが柄にもないから恥ずかしくて、目を逸らした。




「…お前の名前を呼んでいいのは俺だけだからな。」








その答えに、純也が隣で目をぱちくりとさせていた。








「………………えっ」
「何だよ……、妬いたって、言ってるんだよ。」








そう言うと…………いつもは動揺なんて絶対にしない純也が真っ赤になった。




「りりりりゅーきが嫉妬!!?俺の為に!?」
「聞き返すな!!そうだって言ってるだろ……!!」






お互い柄にもなく、真っ赤になっていた。





沈黙が続いて…………けど、その沈黙を破るように純也が吹き出した。




「…………ふはっ、なんか調子狂うなーー」




そう言って笑う純也を見て、なんだか馬鹿らしくなってため息が出た。






「お前はそうやっていつもヘラヘラって……「俺、してもいいよ、りゅーきとだったら」………は?」




しても……いいって、







「何、を…………」
「えー、分かるでしょ?流れ的に」





…………ッ







「目瞑るから、……して、いーよ」





そう言って純也が、本当に目を瞑った。








……………………











「……………、ん、」







小さく声が漏れて、少しだけ腰が引いた。





永遠に感じられるような一瞬が過ぎて、塞いでいた口を離す。









顔を離して、すぐに目が合った。









「……」
「……」







何を言えばいいのか分からない。




気まずくて、とりあえず出てきた言葉は………







「ど……




どう、だった?」






とりあえず感想。







純也がまた目をぱちくりさせて、それから考えて、












「………………ココアの味だった」
「……それはお前がくれたココアだ」








...





「ねえ、りゅーき」
「……何だ?」






ココアを飲み終えて、生徒会室に戻る時。







「また……しよーね」







そう微笑んで、先に中に入っていった。









(………………今の顔は、反則だろ…………)










いつもはすました顔してる癖に、









本当に………………調子が狂う。















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