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双葉澪

夢の中 2

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きっかけなんて、シンプルなものだった。
1年とちょっと前、俺は普通の高校生だった。
でも、そんな普通も、彼に出会ってから、変わった。



「高野先輩!おはようございます!」
「おはよう、郁人。……あれ、その子は?」


郁人の後ろに隠れている黒髪の男の子。その姿は、なんとなくこちらを怖がるうさぎのように見えた。
「あ、この子体調崩しちゃったみたいで、保健室まで連れてく途中でした…!」
郁人は元気よく応答する。
「澪、この人、僕の委員会の先輩なんだけど、すごくいい人なんだよ!…………だめか………」





最後、ぼそっと何か言ったような………
「ごめんなさい、この子、今少し病んでて、最近よく体調崩すんです、前までは、もっと明るかったんですけど………両親が、事故で………」
それ以降は、なんとなく察した。
「そっか、ごめんね、引き止めちゃって。」
「えっ!?いえいえ!僕が挨拶したから………」


次の瞬間、後ろの子が郁人のカーディガンの裾をぎゅっと掴んだ。
「……気持ち、悪い、郁人。」



……!
可愛い声、声変わり、してるのかな………
(この子、泣いたらどんな声をするのかな、殴ったら、どんな声で泣くのかな、気になる……)
その時、自分でも知らなかった感情が、込み上げてきた。
そして、ある日の放課後。


「ばいばい、澪。」
「うん…またね」




1人で帰った彼を、後ろからバッドで殴って、誘拐した。






「……ん…?………あれ、ここ、どこ……?」
こうして、無事彼を誘拐することを成功した俺は、彼を部屋に閉じこめた。

そして
「おはよう、ちゃんと寝れた?」
「えっ……あ、郁人の、先輩………」
「覚えててくれたんだ!俺、高野って言うの、君は?」
「え、ぁ……双葉 澪………」
澪は正直に答えてくれた。
状況が理解出来ていなかったんだろうな。



「澪か、可愛い名前。ねぇ俺、君のこと好きになっちゃった。」
「………え?」
わかんないか、わかんないよな。
「男同士だけど、君の両親みたいに、俺も澪のことが好きになっちゃったんだ…!」
「両親」という単語を出すことが、今の彼にはどれだけ危険なことか、知っててわざとそれを出した。
案の定、彼は





「両親……父さん、母さん………あ、ああああぁぁぁぁ"ぁ"!!!」







……やっぱり、両親を思い出して取り乱した。
彼の親は、数日前に事故でこの世を去った。
それが辛くて病んで、体調不良も起こしやすくなった、そうでしょ?
……でも、その声は、あまり綺麗じゃない。
可愛く、ない。
(黙らせるか)



俺は、彼の腹を思いっきり殴った。
「……っ!ぐ、ぁ………!」
彼は驚いて、それ以上に苦しいのか、腹を抑えて苦しそうに泣いた。



でも、それじゃまだ、足りない。
俺は、苦しみもがく彼の胸ぐらを無理矢理掴んだ。
「ねぇ、君は、誰のモノ?」


……選択肢もない、卑劣な質問。



「ぇ……げほ、僕、誰のでも、ない………」
「ぁ"?」
バキッ




「――っ!なんで、なんで…!?」
「早く言って、あんまりイライラさせないで。」



こんなの、理不尽だって、自分でもわかってる。
「早く」
「っ……!」

ようやく状況が理解出来たのか、彼は小さな声で……





「たかの、先輩………?」

……あはは………




「そう、そうだよ?俺のモノ、今日から、澪に拒否権なんてないから。先輩に挨拶もできない君のこと、ちゃんとしつけてあげるから………」







そう言って、笑った。








ーーー




次に目が覚めたのは、何時くらいだっただろう。
部屋は真っ暗で、高野さんもいなかった。
(喉、乾いたな………)
水……



リビングに水を飲みに行こうと、立ち上がったその時。


「―――あっ!!」





そうだ、足の骨、折れてるんだった………
それに、手首には手錠、リビングどころが、このベッドから出ることは出来ない。
「いた、ぃ………」
まだ治っていない足を庇う、治療なんてされることもなく、包帯などをまいてくれる訳でもない。
(青くなってきた、な……)
ズボンを上まで上げて、関節を見ると、それは、以上な程に青く変わっていた。
見るだけで辛くなって、関節部分を優しくさする。



その足はまるで、ここから逃げられない、という証明のように思えた。


こんな足じゃ、ここから逃げられない。


それに今は、逃げようとも思わない。


完全に、壊れた人形だ。





(涙なんて、こんな時に限ってでない……でないのに、どうして高野さんに殴られたら、でたんだろう。)
そんなに、高野さんを怒らせたいのかな?僕は。





「……ごめんなさい」

訳もなく、謝った。



………何してたんだっけ、ここに来る前は。


郁人や、他の友達と楽しくやってたんだっけ?

………記憶が、曖昧になってきた。

僕、友達なんて、いたっけ……

クラスで、1人じゃなかったっけ?

思い出せないよ、もう、なにもかも………

「今、何時なの……?ここは、どこなの……?どうしてて僕は、ここにいるの?妹はどうしてるの……?いるかわからないけど友達は、元気にしてるの……?」

どうして?

どうして、こうなったの………?




鼻が、つんとした。
けど、涙は出なかった。

「なんで……どうして………」

お願いだから、泣かせてよ。

泣かないと、壊れちゃうよ………

素直に「助けて」って言わせてよ………






その時、


「……!」


目線の先に、お盆を回収してくる時に落として気付いていなかったのか、床に小さな果物ナイフが落ちていることに気付いた。







ーーー






朝、起きてからすぐに澪が閉じ込められている部屋へと向かった。
そして、いつも通りに、扉を開けようとする。
すると………


「え………」
「……っ………!」




扉を開けたその先に、果物ナイフを構えた澪の姿があった。

(なんで?どうして、鎖でちゃんと繋いでおいたのに……それに、ナイフなんて、どこから………)
……あっ




そういえば昨日、なくなってたっけ……果物ナイフ。
昨日はあの後一応晩御飯を作って持っていったけど、澪はずっと寝てたから、ちょっとだけ待ってすぐ持っていったんだった。
昨日の晩御飯に果物を切るためのナイフも置いておいたから、それか………
……まぁ、冷静になろう。





「そんなの俺に向けて、何する気?」
澪は震えた声で、しっかりナイフを突きつけた。
「………おまぇ、を…ころす…………ころして、やる……!!」



………あぁ、なんだ、正気に戻ったのか。





この現象は、最初の頃よくあった。
この時期は、急に俺に反抗するようになる。

まぁ、殴って脅すけど。

でも……今回は少しめんどくさい。
ナイフなんて、物騒なもの持ちやがって………
ま、いっか。

「死ね……!お前なんか、し……あ"っ!」

ガクン、としゃがみこむ。

「馬鹿、足まだ治ってないのに、よく立てたね。」
「うるさい!!お前、なんか………!!」
それでも諦めずにナイフを刺そうとする。




降り掛かってきたナイフをかわして、そのままナイフを持った方の手首を掴む。




「……っ!離せ!!」

「お仕置き、しなくちゃ。」
「……えっ………」




「ねぇ澪、ナイフって、刺さったらどれくらい痛いと思う?」




……





「うる、さい………!」
「何?答えられないの?」
「……っあ………」

俺が冷静になればなるほど、彼は俺に何をされたのか、思い出してくる。

そして、元に戻る。






「あ……ごめん、なさぃ………」

(いつもの、澪だ。)


本来なら、これでいいんだけ、ど………

俺にナイフを向けるなんて、やっぱり自分の立場が全然わかってないみたいだから………



少し、躾してあげようかな?







「謝罪なんて求めてないんだけど?ねぇ、痛いと思う?」

「……っ、嫌、ごめん、なさ…………」

また、謝るの?

「だから謝罪なんて求めてないって言ってんだよ!!!」






そう怒鳴ると、彼はビクッと震えて
「ごめんなさい…!許してください、本当に、反省してるから………」

………本当、なんで謝ることしか出来ないの?

むかつく……なぁ。




ドンッ

「……っ!」






あまりにその態度に腹が立ったので、壁を殴る。



「……ねぇ、澪。

俺、かなり怒ってるんだけど………」






お仕置きさせて、くれるよね?










ーーー







「俺、かなり怒ってるんだけど……」
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう……!!

高野さんを怒らせた、お仕置きされる、そんなの、やだ………



今度は何される?足の骨をまた折られる?気絶するまで殴られる?ねぇ、何されるの……?




怖くなって、つい逃げようとしてしまった。
しかし……

「あ"っ……!」




高野さんを横切ろうと走った途端、足が痛くてその場に倒れ込んでしまった。

「っ……!」
「逃げようとしたの?」




……!!






「あ、ちが……ちが、う………」
僕を見る高野さんの目が、怖くてたまらない。



……もう、無理だよ、何も思い出せない。

僕は諦めたかのように、目を閉じた。








「何、するんですか……?」
ベッドに無理矢理寝かされる。
「いやー、やっぱりナイフで刺された時の痛みが分かるようになれば、二度と俺にナイフを向けるなんてしないだろうなって………」





……やな、予感がする。

「せん、ぱ………」
「大丈夫、死にはしないから♪」




……!!

「嫌…!やだ、嫌だ、高野さん……!!やめてください………」
お仕置きの内容を察して、途端顔があおざめる。

まさか……

「大丈夫だよ、両手にナイフ、何回か刺すだけだから!」

……!!




「嫌だ……!」
「あーうるさいなぁ!!!黙って従ってればいいのに………」




高野さんが、怒鳴る。
高野さんが怒鳴ると、もう何も出来なくなる。
「……っ、ごめん、なさい。」

こんな時に限って、涙は溢れてくるから。
本当、なんなんだよ………


先輩が右の手のひらに、ナイフを向ける。
そして……





「っ、あ"ああ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」







ナイフを、貫通するような強さと速度で刺した。

ナイフは、手のひらと甲を貫通して、血が流れる。
それが想像以上に痛くて、叫んだ後も呼吸困難になってしまった。

でも、高野さんはどんどん刺していく。手が、血まみれになるまで。

やっと右手が終わる。すると、今度は左手にナイフを刺した。
「はぁ、ぐ、ぁ……!っ、や、だ………」
涙が、止まらない………



「これで、分かった?」
「はい……ごめんなさい。」







高野さんは、やっと満足してくれたみたいで、にこっと微笑んで、「じゃあまた後でね」と言って部屋を出ていった。








……僕が悪い、だから、当然の報いなんだ、よね。


高野さんは、何も悪くないんだよね……?




誰か、そうって言ってよ。




誰が悪いのか、誰が間違ってるのか、わかんなくなってきたよ………






血まみれの手を見つめながら、また気絶するかのように、眠りについた。









ーーー



「みーおさんっ!」
「………優馬さん。」
また、夢の中。





気がつけば僕は、夢の中で1人でうずくまっていた。
そこに優馬さんが来てくれた。


「どうしたんですか?暗い顔して。」
優馬さんがそうたずねてくる。
僕は素直に、
「手、ナイフで刺されちゃって……」
と、苦笑しながら話した。






すると、優馬さんが
「えっ………」
と、声を上げて驚いた顔をした。
……?





「どうしたんですか………?」
どうして、そんな目で見るんだろう。



「い、痛く、ないんですか……?」
そう、震えた声で、聞いてくる。
「……痛い、ですよ?でも、悪いのは僕なんです、だからこれは、仕方なくて………」
そう言う自分が何故か惨めに思えてきて、少し俯いた。
「澪さんが悪いって……何したんですか………そんな、手を刺されるなんて…………」




……
言うのに少し戸惑ったけど、言うことにした。







「急に暗い部屋の中に閉じ込められているのが辛くなって、そしたら床にナイフが落ちてて、つい、やっちゃったんです、彼を、殺そうとしちゃいました。」





本当に人として最悪なことをした、もう、あんなこと、しない……

優馬さんも、軽蔑しちゃったかな……

けど、優馬さんは………






「彼って、澪さんを誘拐してる奴ですか?」
「え……?」
「だったら、別に死のうとなんだろうとどうだっていいです。」





………え……?

「高野さんのこと、どうでもいいとか、言わないでください………」
「は?」



「高野さんは、僕なんかのこと、大切だって言ってくれるんです……いい人なんです、お願いだから悪く言わないで!!」



高野さんは躾が終わった後、僕がちゃんと起きていれば、「偉かったね」って、褒めてくれる。
僕だけが大切だって、言ってくれる………
誰にも愛されなかった僕のこと、彼なら、愛してくれる………!




「やめてよ……何も知らない他人のくせに!!」






言い終わった頃には、息が切れて、頭に血が上って顔が真っ赤になっていた。
ぜぇぜぇと息切れする僕を、優馬さんは冷たい目で見ていた。
そして、次に言い放った言葉は、今まで聞いたことのないくらい低い声で、心に突き刺さった。






「だったら……好きにすればいいじゃん。」








……………




その後にも、何か言われてた気がする。
でも、その時の僕は、頭が真っ白で何も聞こえなかった。




優馬さんは、何か言った後、しばらくして、まぁいいやという風に開き直った。
「まぁ……いいや、言い過ぎました、すいません。」
「あ……………」





「こっちこそ」と言いたかったのに、なにか喉につっかかってその言葉は出なかった。











ーーー




まともに出来てるのはここまでです。

だいぶ前に書いたので暖かい目で見てください…………







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