上 下
92 / 111

悩みと解放

しおりを挟む
「はぁ……」

 自然と、口からため息が漏れた。

「どうしたの?」と言わんばかりに首を傾げ、優しく寄り添ってくれるダイヤウルフ。ダイヤの体毛が俺に突き刺さらないよう、そっと近寄ってくれる気遣いが心に染みる。

 この半年沢山の魔族の怪我を癒すと共に、心を癒すことまで覚えたようだ。本当にいい子で可愛い奴め。

 この子や他の狼達、エレナちゃんなどダンジョン都市の人たち、王都にいる王様一家、仕事で関わって良くしてくれた沢山の人やいつも配信を見てくれるファンのみんな。

 みんなに会えたのも、この魔界に来れたおかげだ。そう、全部魔界に来たおかげなんだ。何も悩むことなく、人族であることを隠し続け、この先もずっと魔界に居ればいい。

 人間界に戻ったとしても、上手くやっていける気はしない。果たして、俺の全てを否定し追放した者たちと馴れ合うことができるだろうか。

 魔界に居ても、人族であることがバレればまた全てを失うだろう。やはり、秘密を抱えて生き続ける他ないのだ。

 俺の理性はそう思っているし、それを望んでいる。余計なことを言う必要はない。皆が俺の秘密を知らなければ、誰も不幸になることなく、この一生を終えることができるだろう。

 魔界に来てすぐは、心からそう思っていた。しかし、今は違う。みんなと仲良くなればなるほど。好意を感じれば感じるほど、罪悪感によって心は悲鳴を上げた。

 俺に善意や好意を持って接してくれる全ての人を、俺は騙しているから。

 出身を聞かれたときの、サーっと血の気が引く感覚。笑い合うたびに、ギュッと心臓が閉まる感覚。これは、俺への天罰なのだろう。


 人族と魔族は仲良くなれない? そんなことはない。たかが種族の違いだ。出会い、親しくなれば種族なんて関係ない。そう思うのは、俺だけなのだろうか?

 みんなもきっとそう思ってくれるに違いない。そう楽観的に考えて、全てを打ち明けてしまえたらどれだけ楽なことか。

 そんな楽観的な俺だったなら、全てを失っても人間界でやり直すことができると本気で信じ込むことができるだろう。

 心配性な俺には到底不可能なことだ。こんなことになるなら、最初から隠さなければよかった。

 もっと早いタイミングで打ち明けていたら、情が生まれる前に打ち明けていたなら。否定され、失っても、またどこかでやり直せただろう。

 1人で悩みを抱えるのが、誰にも相談できないことが、こんなにも辛いことだとは、知らなかった。


『緊急事態発生! スタンピートが起こりました! 危険度は……SSランク! 直ちに避難してください!』

 沈黙の広がっていた空間に、突如として警報が鳴り響いた。そして、スタンピートを告げるアナウンスが轟く。

 危険度はSS……か。

 死んだなら、死んでしまったなら、全ての悩みも不安も、全て忘れて眠ることができるだろうか。



あとがき

ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

シリアスっぽい終わり方ですが、シリアス展開にはならないと考えておりますので次話もご安心してお読みください!





 


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...