夜行列車

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夜行列車3

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「なあ、この後ちょっと出かけないか?」
 ラストオーダーの品も出し終えて洗い物ももう残りわずかというところでおずおずとヴォルから声がかかった。
「はーい! いくいくっ!! ケンイチも一緒に行こうぜ! な、な!?」
 僕が反応を返すよりも早く、グラスに残った焼酎を勿体ぶるように舐めていたヤナさんが嬉々としながら手を上げて、目を輝かせながら僕の顔を覗き込んだ。
「なっ、おまえじゃねえよっ!! もう閉店時間過ぎてんだから早く帰れよ!」
 手に持っていたフライパンをぶんぶんと振りながらヴォルが目くじらを立てた。ヤナさんの居る前でそういうこと言うから。帰ってからでもよかっただろうに、そこまで気が回らなかったんだろうか。
「なんだよお、友達に向かってその言い草はねえだろ! なんだ、もしかして二人でしっぽり野外プレイでもヤろうと……」
 全身の毛を逆立てて投擲体勢に入ったところでヤナさんが両手を上げて降参のポーズ。
「いいからさっさとそれ飲んで帰れよっ!」
「はあ……小さい頃は一緒に秘密基地作ったり遠吠えの練習だってした仲だってのに……恋人の前では俺なんかお邪魔虫だよなあ。」
 首を大きく振って残りの焼酎を飲み干して、わざとらしく落ち込んでみせる。僕はいま何を見せられているんだ。
「あの」
 皿を拭きながら声をかける。
「うっせえ! この前俺が誘ってもオンナのいる店にいくからつって断っただろ!」
 いや、僕の話をきいて……
「だってお前、水浴びしようとか言ってすぐ脱がせようとするじゃん。そんでオレのちんぽすげー見てくるし」
 ええ……なんか聞いちゃいけないことを聞いている気がする。
「あ、あんなの若い頃の話だろ……蒸し返すなよ……」
 燃え盛っていた怒りの炎が羞恥の熱へと変換されて萎んでいくヴォル。
「勃起したのもやたら見せつけてくるしよう。お前もしかしてあん時から」
 お酒も手伝ってますます饒舌になっていくヤナさんとは対照的に、ヴォルの勢いは削がれていき両耳をへたりと垂れさせ、唇を噛みながら目を潤ませていた。
「えーと、あの?」
 二人の世界からすっかり消え去っているようだが、ここにもう一人いることを忘れないでほしいな。
「あっ!? ち、ちがっ!! ケンイチ、これは昔の話で……」
 ヴォルはあたふたと手を振りながら必死に釈明してみせる。そんなに振り回したら食器棚にぶつかっちゃうぞ。
 まあ、こと若い頃に関しては僕だって似たような経験がある。箸が転んでもおかしい年頃という言葉があるように、性欲が溢れ出して止まらなくなって身近な相手に劣情を催したりした結果、後にして思えば目も覆いたくなるようなことをやってしまう。なんというか、つまり。
「若気の至りってやつでしょ、別になんとも思ってないよ」
 僕と出会う前だもの。誰に恋い焦がれて身を焼こようがヴォルの自由じゃないか。
「あー……悪かった、な。つい調子にのっちまった」
 頭を掻きながらヤナさんが申し訳なさそうに頭を下げた。
 これにて一件落着、ではあるものの。静かになった店内には気まずさが押し込められている。このまま解散したらきっと、何かシコリを残したままになってしまう。どうしたものだろうか。
「ねえヴォル、三人で出かけるってのはダメ?」
 二匹は互いに顔を見合わせてから、僕の顔をじっと見た。

「しっかしココ登るのも久しぶりだなー。あ! この木、どっちが高くションベン引っ掛けられるか勝負したよな!」
 山道を登る道すがら、ヤナさんの口から語られるこぼれ話から幼少の頃のヴォルを想像してみる。いまは堅物で生真面目な印象があるけれど、子供のころは意外とヤンチャだったんだな。
「チンタラしてると置いてくぞ!」
 へいへい。そう言って手のひらをひらひらと振った後、ヤナさんが僕の方を見て笑顔で手招きをする。なんだろうと顔を寄せると、細長いオオカミの口吻が僕にそっと耳打ちをする。
「あいつオレに負けたのが悔しくて、大きくすれば高くまで届くんだつって四六時中ちんぽ引っ張ってたらカーチャンに怒られ」
「おい……聞こえてるぞ」
 そりゃあオオカミの耳ならね。ヤナさん聞こえるのわかっててわざと言ったでしょ……。この二人、本当に仲がいいんだなと思わず吹き出してしまう。
 それから結構な時間、腕時計はあの日以来外して箪笥に仕舞ってしまったので正確にはわからないが、おそらく小一時間は夜中のハイキングを楽しんだだろうか。それまで鬱蒼とした木々に覆われていた山道が、ふいに大きく開けて月明かりに照らされた草原へと変容した。
「すごい……」
 これを写真で見たならば、少しは小洒落た感想だったり、もし推考する時間を貰えればとびきり詩的な表現だって発表できたに違いないだろう。だけど今、5億画素を超える解像度で絶え間なく入力され続けるこの光景を目の当たりにして、ようやく言葉として絞り出せたのがその三文字だった。
 満天の星に浮かぶ満月。月光に染められた金色の、ないしは銀色の海原。
「お前にも、見せたくてな」
 どこか得意げにヴォルが呟いた。僕だってこんな光景を目の当たりにしたらきっとヴォルと一緒に見たいと思うだろう。
「満月の日は特別キレイなんだよなあ」
 そう言って天を仰ぎ見たあと「いっちょやりますか」と背筋を伸ばすと、ヴォルも小さく頷いてから姿勢を正す。いったい何を。そう問い掛けようと口を開きかけた刹那、二人はすうと大きく息を吸い込んでから目を閉じる。まず最初にヤナさんが鼻先の照準を月に向かってロックして音の矢を放つと、一拍遅れてヴォルの声がその隣に絡みついた。
 今まで何度か遠くからオオカミ達の遠吠えを聞いたことはあったし、ドキュメンタリー番組の映像なんかで見たことはあったものの、目の前でいま執り行なわれている儀式にはなにか特別な荘厳さを感じる。こんなにも気持ちよさそうに。絶頂したときの甘くささやかな吐息を何百倍かに増幅させた二つの旋律が僕の胸を内側からかき回した。
 すっかりこの光景に見惚れているとヤナさんがうっとりと空の金色を眺めたままヴォルを肘で小突く。何度目かのそれで、しぶしぶながらヴォルが僕の肩を抱き寄せると僕の身体に遠吠えの振動が伝わって頭蓋骨を揺さぶった。何デシベルあるのか、音量にしては相当なもののはずなのに耳が痛いだとかいった不快さはとんと感じない。ヴォルが片目を開いてアイコンタクトする。いや、ダメだろう。こんな僕なんかがこの神秘の一部になるなんておこがましい。首を振って拒否してみせると、父親のような目で僕の頭を軽く撫でてから同じ背丈にしゃがみ込んでピタリと頬をくっ付ける。
「思い切り吸い込んでから、喉を窄めて吐き出せばいい」
 いや、ざっくりしすぎだろう。それにそもそも声帯や口吻といった身体の作り事態が全然違うのだから出せる訳が……
「じゃあいくぞ」
 反論する猶予は与えられなかった。ええいままよと見様見真似で声を出す。よくワオーンとかアオーンといった言葉で例えられるが、実際にはなんだろう、オとホの中間くらい?
 音だけは真似たつもりでも、きっとネイティブの彼等からすれば聞くに耐えない、意味もなさないノイズでしかないのだろうか。むず痒い恥ずかしさを覚えて「やっぱり見てるだけでいいや」と言いたくなったところで、ヴォルの遠吠えが僕の”ニセモノ”を後ろからそっと押した。晒し者にする訳でもなく、覆い隠してしまう訳でもなく、初めて乗った自転車を後ろから支えていてくれるような……
 遠吠えにはどんな意味があるのだろうか。嬉しい時、辛くていたたまれなくなった時、どうしようもなく声を上げて叫びたくなることがある。ただこれにはそれ以上の意味合いがあるように思えてならない。自分が、自分たちがいま確かに此処にいるんだという主張であり、共に生きていることへの感謝の調べであり、また過去へと残されたものへの弔いの墓標ですらあるのかもしれない。やがて三匹分の遠吠えのこだまに呼応して山の麓からも声があがり、いつしか大合唱となっていた。

「いやー、気持ちよかったなあ! 久々だからスッキリしたぜ」
 頭の後ろで手を組んで上機嫌に鼻を鳴らすオオカミ。ヴォルとて満更でもない様子だし、僕だってお祭りの日のようにどこか浮ついた気分になっていた。
 腰を下ろして空を見ると、満月が煌々と輝いているにもかかわらずそれに負けないくらいに星々も瞬いている。会社で働いていた時にはこんな夜空はパソコンの壁紙で見るくらいで、それですら合成かなにかだと思っていた。
「きれいだね」
「ああ、まったくだ」
 きっと何度見たってこの星空は飽きない美しさがあるのだろう。そして月光に照らされた艶やかな毛並みもまた僕の心を揺さぶる魅力をもっている。そっと手を伸ばして大きな手のひらと重ね合わせると、じんわりとした熱が伝わってくる。ともすれば汗ばんでしまいそうなくらいの熱量も、ヴォルから発せられたものだと思うとちっとも嫌な気持ちにはならなかった。
「なんだあ? イイ雰囲気になっちまったか?」
 隣にもう一人のオオカミがいたのを忘れるところだった。
「悪いかよっ!」
 グルグルと唸りながら僕を抱きしめて声の主を睨みつけるオオカミ。恥ずかしがり屋なのか大胆なのかどちらかにして欲しいところだ。鼻腔をくすぐるオオカミの匂いに酔いしれて、このままヴォルの胸元に顔を埋めたまま深呼吸したいところだけれど。それにしてもこの二匹はいつもからかい合って、もとい一方的にヴォルがからかわれている気がするけど相当仲が良いんだな。腐れ縁だと言っていたし、ここにくる途中にもいろいろと”恥ずかしい過去”を暴露されてはギャンギャンと言い返す掛け合いが何度あったことか。
「ねえヤナさん、ヴォルガ……ヴォルの小さい頃ってどんなだったんですか?」
 あ、童話で見た悪いオオカミの顔だ。一方のヴォルはというと信じられないといった表情で目を見開いている。
「なっ、なんでヤナに聞くんだよっ! おいお前絶対変なこと言うなよ!!」
 そんなに必死になられると逆効果で余計に聞きたくなるんだよな。それに前に彼の腕枕の中で昔のことを聞かせて欲しいとお願いしたときは、いいから早く寝ろと頭を優しく撫でられて……ああそうじゃない、そんなことを言いたいんじゃなくて。
「だってヴォルに聞いても教えてくれないじゃん」
 まあ何も、本人が隠している秘密を暴いてやりたいとか弱みを握ろうだとか、そういう気持ちは全く、いやほとんど無い。隠されているモノを覗きたくなるのは誰だって少なからず本能的に持ち合わせている好奇心だろう。だけど一番の理由はもっと単純で明快だ。
「ヴォルの……恋人のことをもっと知りたいというか」
 ああもう。ホント、尻尾があるって大変だよなあ。良くいえば純粋、悪くいえばチョロすぎる。ほら指差して笑われてるぞ。
 それでもこれは掛け値なしの僕の本心だ。
「だとよ。よかったでちゅねー? ヴォルガくん」
 キッと睨んで口を開きかけ、あぐあぐと何かを言いかけるものの観念した仏頂面。自分の知らないところであることないこと吹き込まれるよりはマシだと判断したのだろう。
「むかーしむかし、ヤナくんとヴォルガくんという二匹のオオカミがいました……」
 なんか始まったぞ。
「歳が近いのがヴォルガしか居なかったから、しょっちゅう連んでたよなぁ」
 月を見上げてそっと目を閉じて時間旅行に思いを馳せる。
 ヤナさんの口から語られる二人の過去について、二つの意味で意外だった。狼男、いや人狼というほうが正確かもしれないが、人里離れて暮らしている彼等の生活については疑問符だらけだった。何故、どうやってここに住んでいるのか、何故オオカミの姿をしているのか、人間との関わりはどうしてきたのか。今目の前に彼等が居ることが当たり前すぎて忘れかけそうになるが、これは宇宙人に遭遇したのと同じくらいに特異な現象のはずだ。
 だけれども、語られる彼等の少年時代や思春期は、僕だって「ああやったやった」と思い出しては懐かしんで笑い飛ばしてしまうような内容ばかりだった。山奥に自分たちの秘密基地を作っては足繁く通ったり、或いは大人たちには内緒で冒険に出たものの迷子になってしまい町中が騒ぎになって大捜索が行われた挙句こっぴどく叱られて尻を叩かれたこと。
 そしてもう一つの意外さは……
「んで迷子になって二人して腹空かせて泣いてたらよ、『ぼくがおおきくなったらおなかいっぱいたべられるおみせをつくるね』なーんて言って、ホントに作っちまうんだもんなぁ」
 いや、意外では無いな。ヴォルは一見無愛想に見えて優しいところがあるのを僕は知っている。初めて出会った時だって、腹を空かせた僕に……なるほどな、物事の因果というのは繋がっているのかもしれない。
「その時の約束を守ったんだ。すごいね、ヴォルは優しいんだね」
 花粉症にでもかかったかのように鼻を掻いて苦々しい顔。
「べ、別にコイツの為なんかじゃねえよ……たまたまだ、たまたま」
 誤魔化すの下手すぎるだろう。はい図星ですと言っているのも同然だ。プイッと顔を背けたオオカミを見つめる二人分の生暖かい視線。
「ねえヴォルってヤナさんのこと好きなの?」
「はっ!? はあっ!? な、なんで俺がこんなヤツ!」
 素っ頓狂な声を上げて立ち上がるオオカミ。ちょっと意地悪な言い方だっただろうか。それでも単なる友情という以上の何かが二人の間にある気がしてならなかった。
「だって、ヤナさんにちんちん見せたとか言ってたし……」
 言い終わるが早いか、まるでイリュージョン・マジックショーの早着替えのようにヴォルの身体が逆立った毛で膨らんだ。
「だっ、だからアレは、若い頃にバカやっただけで」
 そう。僕だって思春期真っ盛りの頃は今にして思えば冷や汗が止まらなくなるようなことを沢山やらかした思い出がある。だから別に、今更それを穿り返してヴォルやヤナさんを責めようなんてこれっぽっちも思っていない。
「ヴォル、ちんちん」
 ただただ月の光が眩しすぎたせいなのだろう。

「ほっ……本気か、よっ……」
 ズボンのベルトに手をかけたまま、何度目かの確認。いつもだったら冗談冗談と笑い飛ばしてみせるが、今ばかりはただ頷くだけ。
「ほらほら、勿体ぶったら余計恥ずかしいぞ。それとも焦らすプレイのが好みなのか?」
 犬歯を剥き出しにして睨みつけながらも、やめてしまおうという気は無いようだ。
「わーったよ! 脱げばいいんだろ!! 覚えてろよお前ら……」
 期待とほんの小さじ一杯の嘲笑めいた視線に耐えきれなくなったのか勢いに任せて下着を脱ぎ去り、ご丁寧に上着まで脱いで一糸纏わぬ姿となる。
 夜の光をしたためて白銀に光る毛並みは一級の美術品のようで、見慣れているはずなのに目が釘付けとなってしまう。幾分か冷やされた微風が、一段と白っぽい腹の産毛を撫でると大好きなヴォルの匂いが運ばれてきた。
「ケンイチの言うことならなんでも言いなりなのな?」
 羞恥に頬を染めて唇を噛むヴォル。嫌なら本気で拒否することもできるだろうに、こうして渋々といった様子ながらも付き合ってくれるということは満更でもないということだろう。
「わ、先っぽ出てきちゃったね」
 二人して自分の裸を見ているということを意識してしまったのか、鞘の中に隠れていたちんぽがチロリと赤い頭を見せる。
「ヴォルガくんはちゃんとちんちん出来て偉いねえ」
 その言葉に更に内容物が体積を増して、収まりきらなくなったちんぽが見る間に飛び出していく。下腹部から肉の槍が突き出て、まとわり付いた太い血管が鼓動と連動してちんぽを脈打たせている。
「見るな……よっ……」
 見られたい。見て欲しい。自分の恥ずかしいところを全部曝け出したいという欲望がヴォルの身体を支配して、はち切れんばかりにそそり立ったちんぽを誇示するように腰を突き出してみせる。
「ガキの頃よりも随分デッカくなってんな」
 十年ぶりに会った親戚の子に言うような台詞をいいながらも、ヤナさんの鼻息は荒くなっていた。ヴォルも、僕だってこの空気にあてられて、夜に飲み込まれておかしくなっている。
「ちんちん大きくなったところ、見てもらえてよかったね」
 歯を食いしばり、身悶えさせるとちんぽからトロリと先走りが垂れた。よっぽど嬉しいんだな。尻尾は小刻みに痙攣して如実に興奮を物語っている。
「しっかし、こうして見ると雄のでもエッロいなぁ……」
「んっ!? ば、バカ! あっ……」
 ヤナさんがヴォルの足下にしゃがみ込んでちんぽを仰ぎ見るようにねめつけて、鼻をひすひすと鳴らして匂いを嗅いでみせると、ちんぽに触れてもいないのにビュッと先走りが射精のように吹き出してヤナさんの鼻頭を濡らした。
「しょっぺえ味……」
 真っ黒な鼻を濡らしたそれを舌で舐めとって率直な感想を漏らす。その光景に僕は痛いくらいに勃起していた。
「ヤナさんにちんちんの匂いも味も覚えてもらえたね」
 興奮の渦巻く中、自分でも何を言っているのかわからぬまま反射的に口走っていた。ヴォルはまるでフェラされているかのように鼻を鳴らし甘えた嬌声を出しながら無自覚に腰をゆるく振っている。
「もっ……もういいだろ? そろそろ勘弁してくれ……」
 さすがに我慢の限界にきたのか白旗が上がる。そりゃあまあこんな生殺し状態では辛いだろう。僕だってもう頭がどうにかなってしまいそうだ。今すぐに抜いてしまいたいし、ヴォルのちんぽも慰めてあげたい。
「なあケンイチ……俺らも脱いで見せてやろうぜ」
 意識の外からとんでもない提案が飛んできた。
 二人の顔を交互に見比べると、期待と興奮でギラギラと光っている。
 まるで何かに意思を乗っ取られて遠隔操縦されているような心持ちで、震える手で服を脱いでいく。誰のものともつかぬ荒い鼻息。かくして、月下に三人の雄どもが全裸を露出するという異様な光景が出来上がったのだった。

「人間のは全然カタチがちげえんだな……」
 ごくりと息を飲む音。しげしげと物珍しげに僕のちんぽを眺める姿に、先ほどのヴォルがあれほど興奮していたのも納得する。これは恥かしすぎる。完全に勃起してあまつさえ先走りで亀頭がてらてらと光っている程だ。本来であれば、恋人や番意外には見せることのない欲情したちんぽを曝け出して見られている。
 かく言うヤナさんだって股座には腫れ上がった赤いちんぽが脈動をして、情欲に身を焦がしているのを如実に物語っている。こんなこと、考えちゃいけないんだろうけど……このまま腰を突き出せばヤナさんの口の中に僕のちんぽが入ってしまう。いつもご飯を美味しそうに食べて、ごちそうさまと笑顔を見せてくれる、時々ヴォルをからかっては店の中を笑いに包み込ませるこの口に……。熱に浮かされた今なら、そっと手を伸ばして誘導すればなんなくこのマズルはちんぽを飲み込んでくれるだろうか。
「け、ケンイチは俺のだぞっ!!」
 その声にハッとして、頭を振って邪な妄想を脳内から追い出す。なんてことを考えてしまったんだ。たとえ想像の中とはいえ、とんでもないことを考えてしまった自分を恥じる。
「っ……わ、わりい、俺のも見せるんだったな」
 危ない幻想に囚われていたのはヤナさんとて同じだったらしく、慌てて立ち上がるとヴォルの前で仁王立ちになってみせると、予め予定されていたかのように呼応してヴォルはちんぽの前に跪いた。
「ほら、じっくり見てくれよな」
 ちんぽの根元を掴み、ヴォルの鼻先へともっていき余すところなく見せつける。
 この感情を適切に表現する言葉は見つからなかった。嫉妬でもあり羨望でもあり、怒りや喜び、興奮も含まれている。ヴォルにとってヤナさんは、大切な親友でありそしてかつては恋焦がれた相手なのだろう。その時の炎の余熱はきっと今でも燻り続けているに違いないと直感的に感じていた。そしていま目の前にいる二つのオオカミという存在の、尊くその美しさに、そして僕と言う人間の介在する余地が無いことに胸が痛くなった。もしこの二人が結ばれたのならきっと周りの誰からも祝福されるだろうし、それが何より彼等にとっての最良の選択肢に思えてならないのだ。
「ヴォル」
 ヤナさんのちんぽをうっとりと見つめるヴォルの頭をそっと撫でると心地よさそうに目が細められた。
「ヤナさんの……慰めてあげなよ」
 金色の中に浮かぶ黒点が僕をじっと見つめる。何も遠慮することなんか、誰にことわる必要なんてない。二人の気持ちが一致しているなら。お互いにそれを望むのであれば。
「なあケンイチ」
 情欲の炎の宿っていた瞳に理性の輝きが戻っていく。
「オオカミってのはな……」
 立ち上がって手を広げると。
「番になった相手とは、死ぬまで一緒にいるんだぞ」
 お互いの額がくっ付くと、ヴォルの体温が僕の身体に染み込んでくる。
「とか言いつつさっきまで俺のちんぽガン見してたけどな」
 もう、このひとは。さっきまで考えていたことがバカらしくなって思わず笑ってしまうとつられてヤナさんも笑いだす。残されたヴォルは不満と呆れを顔にだしながら僕たちを睨みつけるのだった。

「ケンイチのは俺がするから……ヤナ、てめえは一人で抜いてろ!」
 へいへい、わかりましたよ。そう苦笑いで返すオオカミ。そうしてヴォルは僕のちんぽを目の前にしてひくひくと鼻を鳴らす。
「念願のちんちん食べられてうれしいねえ?」
「うっへぇぞ! んむっ……ちゅ……はふっ」
 野次に文句を垂れながらも性急にちんぽに食らいつく。さんざん焦らされたのだからもう我慢できないといった様子だ。
「はあっ……んっ……ぐぷぷっ…………れちゅっ、じゅぽっ」
 いつもよりも激しい口使いでちんぽを蹂躙される。なによりもいつもと違うのは隣でヤナさんに見られているということだ。
「くそ……エロすぎだろ…………」
 そう言いながらヤナさんが自身の怒張をしごきあげる。激しく艶かしい息遣いが夜の空に吸い込まれていく。
「ヴォルっ……きもちい…………ちんちんおいしい?」
 真夏の空気よりも暑くちんぽにまとわりつく長い舌が、ちんぽの皺の一本一本までに丁寧に唾液を塗り込んでいく。
「おいひい……ちゅぷ……ケンイチのちんちん……」
 従順な返事に頭を撫でてやると尻尾がパタリと揺れる。
「毎晩言ってるもんなあ? ご褒美にちんちん食べさせて~ってよ」
 声はだいぶん抑えているつもりだったけど丸聞こえだったのか……いつもなら顔も覆いたくなるぐらいに恥ずかしいそんな指摘も、今は興奮の推進剤でしかない。
「ぐぶぶっ! 好きなんだからっ……ぬぶっ、ぬっこ! しょうがねえだろっ!」
 そう苛立って喋られると、時々牙が亀頭をかすめて気持ちいいと同時に冷や汗が出そうになる。
 一抹の恐怖心と膨大な量の興奮と少しばかりの支配欲が作用して、両手をヴォルのマズルに添えて上から包み込むと、誤って口を閉じられないように中指を入れて半ば口をこじ開ける形にすると、オナホールで自慰をする時のように激しく前後にピストンをする。
 じゅりゅっ、ぬりゅっ! ぐっぽ……にゅっにゅちっ
「んぶっ! ……んごっ……ふ、んんう!」
 乱暴に口の中をちんぽで蹂躙され、息継ぎのペースを乱されて、口内でかき回された粘液がぐちゅぐちゅと破裂音を響かせる。
「あっ、ああっ……ヴォル、気持ちいいよっ!」
 ごぼっ、ちゅくっ、ちゅ……ちゅぐっ! ちゅっぽ
 ただちんぽを刺激して射精に導くためだけの道具のように扱われているにも関わらず、腰を打ち付けて口内の肉壁をちんぽでこじ開ける度に、苦しげな呼吸音の中に甘ったるい音階が混ざり、それに連動して股間の鬱血しかかった赤黒いちんぽからは先走りがぴゅっぴゅと吹き出すのだった。
「ああ、いくっ! ちんちんいっちゃうっ! ヴォルの口の中で出しちゃうね!」
 思い切り腰を突き出して、爪が食い込みそうな程に握り込んだ手でマズルを引き寄せて腹と密着させる。できるだけ、できるだけその喉奥までちんぽをねじ込んで、一滴も溢さずに注ぎ込めるように。陰嚢が縮み上がり、キンタマがぞわぞわとした上昇感に襲われる。大好きなこのオオカミに自分を全部食らいつくして欲しい。
 びゅっ! びゅーっ、びゅっ! びゅるっ……どくっ
「げっ……んっ、ごくっ…………ごぶっ、げほ……っく……ごく」
 びゅっ……びゅ…………びゅるっ
 毎日出しているというのに、どこにこんな量が溜まっていたんだと思うくらいに吐精する。勢いよく流し込まれる精液にむせ返りながらも吐き出すまいとヴォルは懸命に嚥下する。何度目の脈動だろうか、未だに硬さを保っているちんぽが震え、もはやただ脈打っているだけなのか射精が続いているのかも曖昧な状態だ。
 ぱたっ……ぱたたっ……
 射精の余韻に浸りながら夢見心地で息を整えていると、草むらに液体の落ちる音。ヤナさんの吐き出した精液が地面へと落ちる音だった。
「はあっ……なかなか激しくて、エロかったぜ……」
 ぜえぜえと肩を上下させながら感想を漏らす。見られていることも忘れて、いや見られているからこそ無我夢中になってしまっていたのが今更になって恥ずかしい。
「にしても……ケンイチくんさ」
 萎えかかったちんぽをゆるゆると手でしごいて、尿道に溜まった精液を押し出しながらヤナさんが僕に話かける。
「そろそろ離してあげたら?」
 口はちんぽで塞がれて、鼻は僕の腹に押し付けられて完全に呼吸する術を奪われたオオカミ。目はとろんとして焦点が合わず、ちんぽからは白濁した液体が勢いのないままダラリと垂れて小さな水溜りを作っていた。
「ごっ、ごめんヴォル! 大丈夫っ!?」
 慌ててちんぽを引き抜いて肩を揺すると思い出したかのように呼吸が始まる。なんてことをしてしまったんだ。ついつい調子に乗りすぎてしまった。
「…………ちゅー……」
 そう言って口元を僕の方に向けて、キスのおねだり。普段はこんなこと言わないのに。ヤナさんが見ているからといって、無論断る理由なんてどこにもない。
 謝罪と労いを込めて、ザーメンの匂いのする口元を食んで舌を差入れるとヴォルの顔がへにゃりと緩んだ。
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