ノーザンライツ

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青空の下で

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 あれから、一日二日と俺はシロのねぐらに居座って、今日で一週間が経とうとしていた。
 吹雪が収まって晴れた日には、二匹であてもなくぶらぶらとその辺りを歩いてはマーキングをしたり(俺が縄張りでマーキングする事に対して、シロは別段気にもとめていないようだった)、数少ない冬の恵みを求めて狩りをしたりもした。
 鮭を採れるほど器用な筈なのに、シロはウサギ狩りは苦手なようで、取り逃がしそうになったそれを俺が仕留めることがしばしばあった。
「ほら、食えよ」
 まだ僅かに化学的な痙攣を繰り返すそれを差し出す。
「いいから、遠慮すんなって!」
 おずおずと上目遣いに俺を見るシロを、急かすように促してやるとゆっくりと口を開く。
「ありがとう……いただきます」
 そう言って犬歯をウサギの獣毛に突き立てて、顎の力をもってめり込ませていく。一瞬、断末魔のような哀れな獲物の鳴き声がしたように聞こえたが、圧迫された身体から空気が漏れ出ただけに違いない。 シロはウサギの腹に食らいついたまま、前足でその小さな綿毛を押さえつけて、身体を仰け反らせながら顎を引いた。
 ミチミチッ
 そんな音を立てて身体が二つに引き裂かれ、しとどに溢れた血が食欲をそそる匂いをまき散らす。
「クロくんも食べよう?」
 そう言って千切れた半身を差し出したシロに俺は目を奪われていた。口の周りの純白の体毛を血で真っ赤に染めて、上目遣いに俺を見つめる金色の瞳。はにかんだ口元から覗く牙が燃えるような色をして、吐き出される血生臭い息が俺の心をざわつかせる。
「お、おう、そうだな」
 硬直して置物になっていた俺を、いぶかしげに小首を傾げて眺めていたシロが何か言葉を発しようとした頃合いになって、俺は気を取り直して肉に食らいついた。
「ふふ」
 気を紛らわせるように慌ててかき込む俺の様子を見て、可笑しそうにシロは笑って、それからゆっくりと命を取り込んでいく。

「はぁ……うまかった」
 最後の血の一滴まで残すまいと、べろりと口元を舐めてから俺は行きの上に横になった。
「おいしかったね」
 シロも俺と顔を合わせるようにして横になると、前足を舐めながら毛繕いをして目を細める。
 そんな些細な仕草ですら、俺はつぶさに観察すると、大きくため息を吐いた。
「はぁ……お前が雌だったらなぁ……」
 シロは何事かと目を丸める。
「えっ?それってどういう……」
 俺は舐め回すようにシロを見て、言葉を続ける。
「だってよう、お前、ちっこくてふわふわしてるし、なんか仕草も色っぽいし」
 頭の中で、こいつが雌だったらと考えると思わず口元が緩む。
「なんかいい匂いもするし、つがいになれたら、なんてなぁ?」
 雄同士の馬鹿話。そんなノリで俺はいやらしい目つきで笑いかける。
「…………」
 シロは黙ったまま、神妙な顔つきで何かを考えてから、へにゃりと耳を伏せるとそっぽを向いてしまった。
「お、おい」
 呼びかけても、不機嫌そうに大きく鼻息を吐くだけでこちらを見ようともしない。雌呼ばわりされたのがそんなに気に障ったのだろうか。
「なあ!悪かったって!言い過ぎた」
 それでもシロの機嫌は直りそうにない。苛立たしげに尻尾がぱたりと地面を叩く。いつもへらへらと温厚なのに、こんな事で怒るとは思っていなかった。
「シロ……おーい、シロさん」
 そう言ってシロに身を寄せて、顎をシロの首筋に乗せてから目上の相手に媚びるように口元を舐める。
「んむっ!?」
 暫く無視を決め込んでいたシロも、子供がするように甘えた声を出しながら口を舐め回してやるとと驚いたように目を開ける。
「ちょ、ちょっと!」
 そんな制止も聞かずに、昔、悪戯をした後に父親に許しを請うた時のようにして、きゅんきゅんと鼻を鳴らして謝罪を続けた。
「わかったからっ!もういいから!」
 とうとう根負けしたシロが白旗をあげた。
 まだ日も高いし、しばらく昼寝する余裕はあるだろう。暖かい雪の塊みたいなその身体に覆い被さると俺は目を閉じる。
 シロは困ったように小さく唸り声をあげてから、ちょっと離れてよと、俺に抗議した。
 そんなに尻尾振っておいて説得力ねぇぞ、と耳元で囁くと、もごもごと文句を言っていたが、やがて観念して目を閉じる。
 胸の中でゆっくりと上下するリズムに懐かしさを感じながら、俺も目を閉じた。
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